Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~   作:ミリオンゴッド

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第一章
火種


~side 一夏~

 

 俺が誘拐された事件から、早いものでもう一年以上が経過していた。本来千冬姉が日本に帰ってくるまでという約束だったが、その後も結局クロウは俺の家に住みついている。

 

 今ではすっかり日本に馴染んで、たまに寂しそうな雰囲気を纏っていることもあるけど基本的に毎日楽しそうだ。

 

 だらしない所はあるものの陽気で面倒見もいいため、近所の子供たちに好かれ一緒になってカードゲームなんかをして遊んでいることが多い。

 

 俺の友達とも仲良くなり、弾のヤツはクロウの事を兄貴と呼ぶようになった。鈴ともすぐに打ち解けたけど、何かといつもクロウに弄られていたな。

 

 そういえば鈴が引っ越す直前、クロウに何か言われて顔を真っ赤にしながらすごい形相でこっちを睨んできたっけな。あれは何だったんだろう?……まあいいか。

 

 そんな感じで子供たちや俺の友達とも仲が良く、加えて俺の知らない交友関係も広いみたいで毎日遊んで暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう、毎日遊んで暮らしている。所謂ニートである。

 

 

「お、一夏。おはよーさん♪」

 

「クロウ……もう昼だぞ」

 

 俺が買い物から帰ってくると、寝癖頭でクロウが部屋から出てきた。先程まで寝ていたためか、微妙に顔がむくんでいてだらしない感じだ。大方友人たちと遅くまで飲んでいたのだろう。

 

「いやー昨日は忙しくてよ、思わずこんなに寝ちまったぜ」

 

「毎日寝てるだろ!!朝起きるのなんてパチスロとか競馬に行くときくらいじゃないか!!」

 

「そりゃ心外だぜ。俺だって少しでも家計の足しにしようと頑張ってるっつーのによ」

 

「知ってるんだぞ、知り合い各方面に借金塗れなの。千冬姉も呆れてるからな」

 

「い、いやぁ……そ、それより一夏、勉強は良いのかよ?試験たしか明日だろ」

 

「別に、今更足掻いても点数は変わらないからな」

 

 そう、俺は明日藍越学園の入試を控えている。この日のために必死に勉強し、かなり成績も上がったため特に焦りは感じていない。余裕で合格圏内だと思う。

 

 何だかんだ言いながらも気付けばクロウが家事をやってくれているため、かなり勉強とバイトだけに集中できたことも成績が上がった要因だろう。それについては感謝している。

 

「ハァ……もう少ししっかりしてくれよ。今はまだいいけど、いつか千冬姉に追い出されるぞ」

 

「ゲッ、そりゃヤベェな……食いっぱぐれは勘弁だぜ。ま、とにかく俺のことはほっといて、自分の事に集中したほうがいいぜ?いくら模試が良くっても、本番どうなるかわっかんねーしよ」

 

「大丈夫だって、絶対受かる自信はあるぜ」

 

「どーだかなぁ」

 

「ムッ……じゃあ、俺がどんなミスするって思うんだよ?」

 

「そーだなァ……余裕ぶっこいて名前を書き忘れる。回答欄がずれる。直前に腹を壊すってとこか?後は、そうだな……」

 

クロウは少し考えた後、言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試験会場を間違える、とかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺のIS学園への入学が決定的となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

「それじゃあ時間なので、来てない子もいるみたいだけどSHR(ショートホームルーム)はじめますよー」

 

(これは……想像以上にきつい……)

 

 今日は入学式、新たな門出だ。みんなそれぞれに希望を持って、次の人生へと進む第一歩。素晴らしい日だ……ある一点を除けば。

 

 辺りを見渡せば女、女女、女女女。俺以外クラスメイトは全員女だ。別に女子に苦手意識があるわけじゃないし女子の友人だっているがこれに関しては話が別だ。何事にも限度ってものがある。

 

 俺があの日、試験会場間違ってISを動かさなきゃこんなことには……まさかクロウの言ったことが現実になるとは思わなかった。

 

「私は副担任の山田真耶です。一年間よろしくお願いしますね」

 

「…………」

 

 山田先生の挨拶に誰も反応せず、先生も狼狽えている。不憫すぎるので反応したいとも思うのだが、緊張してそんな余裕は無い。

 

 しかしあの山田先生の子供っぽい見た目や、上から読んでも下から読んでもやまだまやな名前とか、あの小動物的な雰囲気とか、クロウが居たらいいおもちゃにされそうだ。

 

 さっき言ってたが山田先生は副担任のようだ。担任の先生はどんな人なんだろうか。

 

 山田先生から視線を外し辺りを見渡す。六年ぶりに再会した幼馴染の篠ノ之箒と一瞬目が合うが、すぐに目を逸らされてしまう。

 

(それが久しぶりに会った幼馴染に対する態度かよ、酷すぎないか?)

 

「……くん。織斑一夏くんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

 どうやら自己紹介で自分の番が来たようだ。恐ろしく低姿勢で自己紹介するように促す山田先生を宥め、立ちあがる。ヤバい、一気に緊張が込み上げてきた。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします!!…………以上です!!!!」

 

 後ろからがたがたと崩れ落ちる音が聞こえる。

 

(仕方ないだろ!!この状況でそんな気の利いたこと言えるか!!)

 

 内心悪態をついていると、パァンと激しい音と共に頭に衝撃が走る。目の前には呆れた顔でこちらを見る千冬姉の顔があった。

 

「自己紹介もまともに出来んのか」

 

「ち、千冬姉!? なんで「織斑先生と呼べ!!」痛ッッ……!!」

 

 もう一度出席簿で殴られた。さっきより強かった。

 

(っていうか、千冬姉が担任なんて、聞いてないぞ!!)

 

「織斑先生。会議終わったんですか?」

 

「ああ山田先生、すまんな押し付けてしまって。ある生徒のせいで会議が長引いたが、何とか終わったよ。その元凶の生徒は時間も守れない馬鹿者でな、仕方ないから引きずってきた」

 

 山田先生と会話を終えると、千冬姉は教壇に立ちこちらに向き直る。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 直後、女子生徒から黄色い歓声が上がり、教室は喧騒に包まれ千冬姉が頭を抱える。

 

「全くどうしてこうも馬鹿ばかりが入学してくるんだ……狙ってやってるのか?まあいい、それよりお前達、私なんかよりも余程お前達が好みそうな客寄せパンダを連れてきているのだが……気にならんか?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて言い放った千冬姉の言葉にクラス中の人間が疑問符を浮かべる。

 

 客寄せパンダ?俺のことか?正直今の俺が置かれている状況は客寄せパンダに他ならない。

 

 いや千冬姉は「連れてきている」といった。となるとあの一番後ろの席の空席のヤツか?でもそれなら客寄せパンダって……?

 

「さて、後が閊えているんだ。さっさと入って自己紹介しろ」

 

 

 

「あいよ」

 

 

 

 千冬姉の呼びかけに答え扉を開けて入ってきたのは、男。

 

 

 

「──クロウ・アームブラストです」

 

 

 

 銀髪赤目でピアスをつけた見慣れた男。違うとすれば、トレードマークのバンダナが普段の黒から白に変わっており、なぜか制服を着ているところだ。

 

 

 

「今日から《二人目》としてIS学園に入学させてもらいます」

 

 

 

 目の前の見慣れた男が、耳を疑うような言葉を紡ぐ。

 

 

 

「てなワケで、よろしく頼むわ♪」

 

 

 

 問題だらけの俺の学園生活。また新たな問題の火種が一つ投下された。


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