ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第三十六話 止まらぬ歩み

ミネルバのMSドックではラー・カイラムとミネルバ所属のMSの修理を進めていた。ラー・カイラムの整備士も駆り出され、大量の整備士がせわしなく動いていくなかヴィーノやヨウランは愚痴をこぼす。

 

「何で俺達こいつら修理してるんだ?」

 

「全くだぜ。折角の休暇だと思ったのに」

 

ミネルバのクルーの多くは休みを貰えていたが整備士達は機体の修理が完了するまで休むことが出来ないらしい。ジブラルタルといっても多くの連合軍などが協力を申し出たせいで、補給や修理は手が回り切っていないのだ。

とはいえ、そんなことを言われても納得がいくはずもなく、愚痴を零し続ける。

 

「お前ら、文句を言うのは構わんが作業を進めろよ。終わらせなかったら休憩なしだからな」

 

「「ゲッ!?」」

 

メカニックリーダーのエイブスにそう注意されて彼らは手を進める。

 

「それにしてもさ、シンはルナマリアと食事だぜ?絶対誘われてるよ、アイツ」

 

「しかもシンの奴、最近連合のあの可愛い娘とも一緒なんだろ?羨ましいな―――」

 

口を動かしながら手を動かすという作業はある意味整備士には必須だと言わんばかりに作業を遅らせることなく下世話な話を続ける。

 

「そう言えばアスランもラクス・クラインとの食事に行ったって話らしいぞ」

 

「マジで?畜生ゥ、いいなぁパイロットてやっぱモテるんだな……」

 

「つまらないこと言ってないで作業を進めたらどうだ?」

 

後ろから突然現れて二人に声を掛けてきたマーレに驚く二人。マーレは相変わらず不機嫌そうな様子だった。

 

「マ、マーレさん……」

 

「別に話をするなとは言わねえが、暇なら俺のゲルググの整備も頼んどいてやろうか」

 

「そ、それは勘弁してくださいよ!?」

 

「はあ、真面目にやってろよ」

 

そう言ってミネルバの自室に向かって歩いていくマーレ。姿が見えなくなったところで二人は息をつく。

 

「相変わらず不機嫌な時は怖いな―――」

 

「でも、何でミネルバに態々戻ってきたんだ?基地内に部屋を用意されてるだろ?」

 

「さあ?」

 

ともかく、これ以上怒られたくはないと思った二人は作業に戻っていった。

 

「それにしても今更ながらにミネルバからラー・カイラムの転属ね……」

 

マーレは一人そう口に出しながら、大した事でもないかと思いミネルバの部屋に置いてある荷物を纏める。元々大して荷物はないから手間はかからない。それを基地内で与えられた個室に持って行ってからラー・カイラムに運ぶ予定だ。

 

「ゲルググが運ばれちまった以上はあっちに行くっきゃ無いわけだけどな」

 

ミネルバから離れることに未練など微塵もない。そもそもラー・カイラムはミネルバと航行を共にする予定なのだから問題もあるまい。それに元々マーレの所属はミネルバではなくクラウの部下である以上、彼がラー・カイラムに移動するなら指示がない限りはそれについて行くのが道理だ。勿論、意見を申し入れることは出来るが柄でもない。

 

「だがまあ、悪くはなかったな……」

 

ミネルバでいた日々を思い返す。何だかんだ言ってそれなりに充実した日々だったことは確かだろう。そう思いつつ、纏めた荷物を抱えて部屋の明かりを消した。

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。二年前の日常が壊れはじめた頃の夢だ。ヘリオポリスに居た僕は戦争なんてどこか遠い存在だと感じていた。ヘリオポリスの母体であるオーブのすぐ近くで戦闘があったと言われても、ヘリオポリスが中立であることに変わりはないと思っていた。

アスランと再会したのはそのヘリオポリスでのことだった。流されるままに友達を守るために連合軍に協力して、守ろうとしたものの多くを守れなくて、それでも武器を取って、少しでも多くを守ろうとして敵を討って行って……

 

『おまえの手だってすでに何人もの命を奪っているんだぞ!!』

 

分かっている――――――つもりではいた。でも、それはあまりに自分勝手な気持ちでしかなかったのだ。ストライクとイージスで戦っていたあの日のように、結局は一方的な理解でしかなかった――――――

 

「ん……」

 

医務室で傷を負ったキラは目を覚ました。どうやって生き残ったのかが今一思い出せない。

 

「キラ!目を覚ましたのか!」

 

医務室のドアが開き、カガリが入って来る。

 

「カガリ、僕は――――――」

 

言葉を続けようとするが、何を話せばいいのか分からない。アークエンジェルの事、フリーダムの事、それとも―――アスランの事?

 

「傷は浅い訳じゃないんだ。今は休んでおけ」

 

「うん、ごめんね。フリーダム―――落とされちゃった」

 

「今はそんなこと良いから安静にしてろ。医師も運が良かったって言ってたんだから」

 

そう言われて、体が重いことに気が付く。それと同時に意識もぼんやりとしだす。キラはそのまま眠るように意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「しかし、これからどうする気だね?キラ君が討たれた以上、こちらに戦力があるとは言い難いぞ」

 

最も性能が高く一騎当千型のフリーダムが落とされてしまった以上、アークエンジェルが取れる手段は多くない。数機のムラサメとアストレイ。ストライクルージュ、スカイグラスパー。キラが出撃できないことも含めてまともに動くことは出来ないだろう。

 

「難しいわね……アークエンジェル自身もあまり自由に動けるっていうわけじゃないのだし」

 

ラー・カイラム、ミネルバとの戦いでアークエンジェルにも損傷は出ていた。まともに戦闘が出来るかと言われれば難しい。スカンジナビア王国で補給を受けてはいたが、スカンジナビア王国としても表立って支援するわけにはいかないので限度がある。

 

「やはり、宇宙でアレを受け取るしかないかね?」

 

「でも、ラクスさんが狙われてることを考慮すると、そう簡単に出すわけにはいかないと思うんだけど?」

 

エターナル一隻ではザフトや連合に襲われて、助かるかと言われれば難しい。その為にデブリや小惑星に偽装しているのだ。機体をアークエンジェルに送るために移動すれば確実にとまでは言わなくとも高い確率で見つかるだろう。

 

「如何するべきかね……」

 

「どちらにしてもいつでも動かせる準備をしておくべきだ。私達に出来ることは少ないのかもしれない。だが、だからといって何もせずに立ち止まる訳にはいかない」

 

そう言いつつ艦橋に入って来るカガリ。マリューとバルトフェルドはカガリの意見を聞く為、そちらに顔を向ける。

 

「ロゴスを討つ―――議長のその言葉は確かに正しく聞こえる。だが、だからこそ己の目で見て判断するべきだ。それが本当に正しいのかを。賛同するにせよ、反発するにしても私たちは守るべき力が必要だ」

 

「一体どうしようというんだい?」

 

結局、具体的には如何する気なのかという疑問をバルトフェルドは口にする。カガリが言ったことはあくまでも目標であってこれからの予定ではない。

 

「まずは補給が必要だ。キラの機体もこの艦に関しても。エターナルにも機体を運んでもらう」

 

「それで?ただ無策に運ばせるってわけじゃないだろ?」

 

カガリはそれに対して頷いて答えて見せる。

 

「彼らに連絡を取ってみよう。彼らなら私たちの呼びかけに答えてくれるはずだ」

 

「彼ら―――?」

 

「ジャンク屋ギルドと傭兵のサーペントテールだ」

 

 

 

 

 

 

ヘブンズベースでの決戦の準備が進められる。既にミネルバには新型機が搭載され、ロゴスとの戦いの為にパイロットも皆、用意を整えていた。

 

「ショーン、怪我はもう大丈夫なのか?」

 

「ああ、大丈夫です。心配かけたみたいで」

 

アスランがショーンの怪我を心配して尋ねる。既にショーンも怪我を治し、新たに配備されたゲルググJG型と呼ばれる高機動機を配備されていた。ゲルググの中でもリゲルグに次いで最新鋭の機体であり、その性能は空間戦闘における機動は出力を大幅に引き上げB型よりも高い機動力を持つマーレのゲルググすらも上回る。

尤も、マーレは自身の要求にあった改造を施されているため、機動力が上回っているからといって一概に上だとは言えないのだが。

 

「しかし、ヘブンズベースの攻略か……上手くいくといいんだがな」

 

アスランが不安を吐露する。ヘブンズベースに残っている連合兵はロゴスの私兵とザフトに寝返る気のない軍人だ。逆に言えば、そういった面では彼らの士気は高く、油断できる相手ではない。

 

「ステラ―――待っていてくれ。俺が必ず君を守るから」

 

「分かった……ステラはシンを守れないけど、シンの帰りを待ってる」

 

シンとステラは共に顔を見合わせながら約束しあう。ルナマリアはその様子を見て不機嫌そうにするが、当然ながらシンとステラはそれに気づかない。

 

「レジェンドの武装で幾つか使えない兵装があるのか?」

 

「正確には使えますけど、元々レジェンドのドラグーンシステムは宇宙での運用を想定しているので角度自体は自由に変えれるんですが、長距離に引き離すのが難しいもので……」

 

レイはレジェンドの最終調整をとり行いながら技術スタッフと共に機体データの再確認を行う。

 

「こちら側からの要求通告が始まったみたいだぜ」

 

ハイネがそう言うと、アスラン達が要求される言葉に耳を傾ける。

 

『我ら、ザフト及び地球連合軍はヘブンズベースに対し、以下を要求する―――一,《ロゴス》構成メンバーの即時引き渡し、二,全軍の武装解除及び基地施設の放棄――――――』

 

「ま、当然と言っちゃなんだが、要求の受け入れはありえないだろうな」

 

「宣戦布告のようなものだからな様式美ってわけじゃないが、必要な手順ではあるんだろ」

 

アスランとハイネが要求通告に対して話し合う。アスランのセイバーもハイネのデスティニーも本人でも調整済みの為、後は戦闘開始を待つのみだ。

作戦はラー・カイラムを旗艦とし、ミネルバを副指令艦として戦闘を行う予定だ。その為、デュランダル議長はラー・カイラムに乗艦している。艦長のグラスゴーは全権をデュランダル議長に委ねており、基本的に自身の艦であるラー・カイラムの対応にのみ当たる気のようだ。

 

「マーレ、調子はどうだ?」

 

クラウが自身の機体であるリゲルグの最終チェックを終え、マーレの方にまで尋ねに行く。

 

「問題ねえな。装備自体は変わってないからな……精々弾薬がいつもより多めに詰め込まれてるぐらいだ。いつでもやれるだろうよ」

 

ラー・カイラムのMS部隊も発進準備が整いつつある。マーレのチューンされているゲルググC型、ルドルフのギャン、アレックのガルバルディα、三機のゲルググG型、そしてクラウ自身の機体であるリゲルグ。どの機体も飛行可能であり、それぞれに専用のチューンが施されている。

マーレ機はいつも通りのビームバズーカを左肩に、ビームライフルを腰に掛けさせ、さらにビームバズーカの予備ENパックを腰に装着して持っている。ヒート・ランスも右腕に握っており、いつでも使用可能な状態だ。

ギャンもルドルフの要求通り、頭部の修理は金色になっている。何の頭を使ったかはクラウの頭が痛くなりそうな話をすることになるので割愛させてもらう。

そうして各々が戦闘の準備を整えていた時、突然ロゴスが何の回答もなしに攻撃を仕掛けてきた。

 

「敵軍、攻撃開始!?」

 

「前方の友軍艦隊、被弾しています!MS・MA隊接近!!」

 

グラスゴーはそのあまりにも堂々とした不意打ちに驚愕する。

 

「馬鹿な!?何の回答もないままに攻撃を仕掛けてくるだと?戦争にも超えてはならんルールというものがあるだろうに!」

 

「ジブリールめ、これが答えか……止むを得ん。我らも直ちに戦闘を開始する!!」

 

コンディションレッドが発令され、MS隊の出撃準備が開始される。不意打ちによる攻撃で戦況の勢いはロゴス側が握っていた。未だ発進に戸惑うザフト、連合の部隊は次々と落とされていき、ロゴスのMA隊を中心に攻撃が進んでいく。しかし、数の上で圧倒しているザフト、連合の部隊は体勢を立て直しながら部隊を進軍させる。

 

「デコイの降下部隊を発進させろ!」

 

「ハッ、降下部隊発進用意!」

 

宇宙に待機していた降下部隊に連絡を取り(といってもNジャマーのせいでまともな通信は取れない為、予め用意していた暗号文を送るのだが)、デコイ降下部隊が発進する。デコイと付いているように、この降下部隊は敵の対空砲を降下部隊へと引きつけるための囮だ。

パイロットは愚か、機体も囮のジャンク品のようなものしか乗っておらず、ただの空箱と言ってもいい。ロゴスは見事にそれにかかり、切札であるニーベルングを早々に使用する。

 

「あんなものまであるとはな……しかし、デコイに引っ掛かったのは幸いだ。本命の降下部隊は降ろすなと伝えろ!」

 

デュランダルは戦況を確認しながら、部隊を動かしていく。ミネルバとラー・カイラムのMS部隊が出撃するれば戦況はこちらの優位になるはずだと、そう思っているとロゴスはもう一つの切札を切ってきた。

 

「あれは……!?」

 

「ベルリンの……ッ!」

 

戦いは続いていく。

 




別枠物語の主人公勢登場フラグ?彼らは基本的に何でもありになってしまうので登場時間は少ないと思います。個人的にC.E.の外伝主人公で一番好きなのはジェスです。Xの劣化キラ(笑)やイライジャ(え、彼は主人公じゃないって?小説版は幾つか主人公やってたじゃん)も好きですが良い意味で一般人に近い彼は個人的に一番惹かれるものがあります。

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