ありふれた転生者の異世界巡り   作:折れたサンティの槍

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12/8 活動報告に、今後のこの小説の事に関して、結構重要な事を書きましたので、読んで下さい。





ほぼほぼオリジナルの話なので、結構不安。

それから、天之河くんのハートブレイクに期待していて下さった読者様方、残念ながらハートブレイクとまでは行きませんでした。
されたのは檜山くんでした。

グロ注意かも。


最弱とイジメ2 『制裁』

side ハジメ

 

 

コツ…コツ…コツ…

 

両儀さんの、ゆっくりと歩み寄ってくる靴音が、通路に響く。

 

両儀さんの姿を見た斎藤、近藤、中野は、若干引きつりながらもまたいつもの様なヘラヘラした笑みを浮かべ始めていた。

檜山に至っては、完全に余裕を取り戻している。

檜山たちが余裕を取り戻せたのは、彼女が僕と同じ最底辺にいる両儀さんだったから……自分たちよりも圧倒的に弱い存在だとわかったからだろう。

歩み寄ってきた両儀さんに向けて、檜山が話しかけた。

 

「あ〜、両儀さん!いや誤解しないで欲しいんですけど、俺たち南雲の"特訓"に付き合ってやってただけなんですよぉ〜」

 

どうやら『両儀さん以外には誰も見えないから、先程の"アレ"は何かの気のせいだろう』と思う様にしたらしい。

だけど僕には。

"アレ"は紛れも無く彼女の……両儀さんのものだとしか思えなかった。

 

「そっ、そーそー!珍しく一人でいたもんだからさ!」

「今日は一人で特訓すんのかなーって思って、せっかくだから!」

「でも南雲くん、すーぐバテちゃってさぁー!」

 

いかにも『(やま)しい事何もありませんよ』とでも言うかの様な檜山のその言い訳に、同調する三人。

そんな、すぐにでもバレそうな言い訳を聞かされた両儀さんは、

 

 

 

 

 

 

「あら、そうだったのね……私がいない間に、構っていてくれて、ありがとう」

 

感謝の言葉を述べながら微笑んだ。

 

その言葉と微笑みを、間近で受けた斎藤は「い、いやぁ〜それ程でも〜」などと良いながらニヤニヤしていた。

檜山は同じ様にニヤニヤしながらも、両儀さんを完全に見下していた。

 

 

 

 

 

 

 

「そう、私の友だちに、沢山構ってくれたのだもの___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___"お返し"、沢山してあげなくちゃぁね?」

 

 

 

 

 

そう言った両儀さんは、

 

 

 

右手に持っていた短剣を、

 

 

 

素早く、静かに、

 

 

 

斎藤の鳩尾(みぞおち)に突き立てた。

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

何が起こっているのか分からない、という表情を浮かべている斎藤。

他の三人も、動揺からか完全に硬直している。

 

やがて両儀さんは短剣を、突き刺したまま動かして斎藤の左脇腹を切り裂きながら抜き取った。

 

「イッ……ギャアアアアアアアアアアッ!?!?」

 

ようやく痛みを認識できたらしい斎藤が、叫び声を上げながら膝をついた。

既に興味を失った斎藤を放置した両儀さんが、血の滴る短剣を握りながら、更にこちらに歩いてくる。

 

 

 

 

 

「まずは一人」

 

 

 

 

 

その声で、逸早く硬直が解けた中野が、両儀さんにアーティファクトの杖を向けた。

 

「こっ……、こんのクソ女ァァァァァ!!ここに焼撃を___」

「それは止めさせて貰うわね」

 

魔法を放とうとした中野へと、身を屈めながら一気に近付いた両儀さんは、確かに言葉の通りに魔法の発動を止めてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……中野の口角を切り裂く事で(・・・・・・・・・・・・)

 

「ア"ッ……オ"オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォ!!??」

 

「とりあえず、二人目」

「てめぇっ、死ねやァァァァッ!」

 

口元を両手で覆いながら悶える中野を退かした両儀さんに向けて、近藤が鞘から抜いた剣で横一文字(よこいちもんじ)の薙ぎ払いを繰り出した。

両儀さんはそれをしゃがみ込む事で躱し、逆手(さかて)に持ち替えた短剣を近藤の右太腿(ふともも)に突き刺した。

 

「ガァァァァッ!!痛いィィィィィィィィッ!!」

 

トドメとばかりに近藤の足を払った両儀さんは、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 

 

「これで後は……あなたで最後ね?」

 

着物に大量の血を付着させ、口元を薄く笑わせながら、両儀さんはそう言った。

最後の一人……檜山は、仲間たちの死屍累々とも言うべき姿を見て……そして『次はお前が"こうなる"番だ』と見せ付けられて、完全に恐慌状態に陥っている。

 

「ヒッ、ヒィィッ!ごめんなさい!俺が悪かったからっ!もう南雲に手を出したりしませんからっ!痛いのは嫌だァァァァァッ!!」

 

そう叫びながら土下座する檜山の顔は、涙と鼻水でベトベトに汚れている。

檜山のその声を無視し、短剣を構えながら距離を詰めようとした両儀さんの動きは、

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているんだ、四季!」

 

と叫びながら、間に入った天之河くんの剣……バスタードソードによって、短剣が遠くへ弾き飛ばされた事で止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの一瞬だけ(・・・・・・・)

 

「邪魔よ?」

 

即座にターゲットを切り替えた両儀さんは、天之河くんの顎に掌底を打ち込んだ。

 

「うごッッッ……!」

 

まさか武器の無い状態から攻勢に出られるとは思わなかった天之河くんは、ソレをまともに受けていた。

ステータスの差故に大したダメージにはならないだろうけど、それでもかなりの衝撃を頭部に受けてしまった天之河くんは怯み、思わず剣を手離してしまう。

 

怯んだ天之河くんの横を抜けながらバスタードソードを回収した両儀さんは、それを両手持ちして即座に構える。

そして、土下座の状態から上半身だけを上げていた檜山の右腕の二の腕を、剣の(つば)辺りまで深く刺し貫いた。

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

そうして、人気の無い通路に、あっという間に惨状を作り上げた両儀さんは、ようやく止まった。

 

「こんな……酷い……」

 

天之河くんと一緒に来ていたらしい白崎さんが、両手で顔を覆った。

 

「……香織、彼らの怪我を治してあげて」

「そう、だね……わかった」

 

八重樫さんにそう言われた【治癒師】の白崎さんはそう言って、恐怖で気絶していた斎藤たちに、小走りで近付いていった。

 

「それで……どうしてこんな、惨たらしい事をしたのか……説明してくれるんだろうな?」

 

そう言った坂上くんに睨み付けられながら、両儀さんは平然と、微笑みながら答えた。

檜山に突き刺した剣は、抜かれる事無く放置されている。

 

「惨たらしいだなんて。私はただ、彼らに"お返し"してあげただけなのよ?」

「お返し、だと?」

「ええそうよ?この人たちが、南雲くんの"特訓"に付き合ってくれたの。だから付き合ってくれた分(・・・・・・・・・)、"お返し"してあげたのよ?」

 

その言葉に、天之河くんが食いついた。

 

「お返し!?何処が!?こんなのの何処がお返しだって言うんだ!?」

「全部よ?彼らが南雲くんにしてくれた事を真似してみたの」

「だとしても、これはやり過ぎだ!

聞けば南雲は、訓練のない時は図書館で読書に(ふけ)っていたそうじゃないか!

それを知った檜山たちは、そういう南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、それを本気で言っているのなら、その眼球(節穴)抉り出すわよ?」

 

両儀さんは一瞬で天之河くんに近付き、天之河くんの眼に手刀の先端を添えながら、そう言った。

痛みを与えられる恐怖からか、天之河くんが息を呑む。

 

5秒程そうしていた両儀さんは、やがて天之河くんから離れ、落ちていた短剣を拾い、血を払ってから鞘に仕舞った。

 

斎藤、近藤、中野の治療を終えたらしい白崎さんが治癒魔法を使って、怪我を治してくれる。

 

「ありがとう白崎さん、助かったよ」

「……本当に、大丈夫……?痛い所無い……?」

 

僕の身体の所々を触りながら、心配してくれる。

 

「檜山くんたちにされたの……?またこんな事にならない様に、私が……」

「ホントに大丈夫だよ、気にしないで!もうこれでこいつらも懲りただろうし。それよりも白崎さんは檜山を治してあげてよ」

「……うん、わかった……」

 

渋々とだけど身を引いてくれた白崎さんを視界から外し、両儀さんに向き直った。

 

「両儀さんも、助けてくれてありがとう」

 

両儀さんは僕の声に、びくりと体を跳ねさせると、両手を胸の前で組みながら、おずおずと話しかけてきた。

 

「南雲くん、ごめんなさい……あなたを一人で残してしまった私の所為ね……。

嫌なものを見せてしまったわよね……?

だけど、南雲くんが嬲られているのを見ていたら、自分を抑えられなくなって……」

「いや!大丈夫だよ!両儀さんが途中で助けてくれたからさ!」

 

顔を(うつむ)かせながら、そう謝ってきた彼女に、僕は慌ててそう返す。

 

「両儀さんが来てくれなかったら、もっと酷い目にあっていたかもしれないしさ」

「それでも……」

「両儀さん、」

 

血に濡れた彼女の手を、両手で握って、俯いている彼女の目を合わせながら。

 

「助けてくれて……ありがとう」

「___」

 

 

 

 

 

泣き出す寸前の子供の様な表情だった彼女は、

 

 

 

 

 

 

 

 

「___……どういたしまして」

 

 

 

 

 

そう言って、花が開いたかの様に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その笑顔を見て(ああ、やっぱりこの人には勝てないなぁ)なんて思いながら、段々と顔が熱くなっていくのを感じていた。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

あの後両儀さんは、厳重注意を受けたものの、特に咎められる事は無かった。

なんでも、八重樫さんと坂上くんが目覚めさせた檜山四人組に、何をしていたのかをSETTOKU(説得)の末に聞き出して、『元はと言えば四人組が悪く、彼女は少しばかりやり過ぎではあったが、後遺症は作らなかったから』という事になったからなのだとか。

僕、元の世界に帰れたらバイト代使って、二人にご飯奢るんだ……。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

そんな風に、なんやかんや有りつつ。

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだけど、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。

何事かと注目する僕たちに、メルド団長は野太い声で告げた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く!

必要なものはこちらで用意してあるが、今までの、王都外での魔物との実戦訓練とは大きく違うと思ってくれ!

まぁ要するに、気合入れろってことだ!

今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えると、さっさと行ってしまった。

ざわざわと喧騒に包まれる生徒たちの後ろの方で、僕はゆっくりと天を仰いだ。

 

 

 

 

 

……本当に、前途多難だなぁ……。




とりあえずこんな感じで。

原作だと、この時点ではまだマイナスイメージの強い坂上くんですが、筆者は嫌いではありません。

次話は大迷宮からスタートです。
《月下の語らい》は、あった事にはしますが書きません。

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