ありふれた転生者の異世界巡り   作:折れたサンティの槍

8 / 16
とりあえずこんな感じで投稿。

《ありふれた〜》の魔法がどんなものか知りたい人は、原作にGOだ!


最弱とイジメ 『成長遅き二人』

side ハジメ

 

 

僕と両儀さんが自分たちの弱さと役立たず具合を突きつけられ、しかしクラスメイトたちを見返した(?)日から2週間がたった。

 

現在僕は、訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしている。

調べ物と言っても、“北大陸魔物大図鑑”という何の捻りもないタイトルの大きな図鑑を眺めていただけなのだけど。

 

何故こんな本を読んでいるのか。

それは、この2週間の訓練で、成長するどころか役立たずぶりがより明らかになっただけだったからだ。

その為、力がない分知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているのである。

 

そんなわけで僕は、しばらく図鑑を眺めていたのだが……「はぁ~……」と溜息を吐いて机の上に図鑑を放り投げてしまった。

ドスンッ!という、予想以上に大きく重い音が響き、偶然通りかかった司書さんが、物凄い形相で僕を睨んできた。

 

ヒェッ…とその睨みに恐怖しつつ、急いで謝罪した。

『次はねぇぞ、コラッ!』という無言の睨みを頂いて何とか見逃してもらえた。

何をやってるんだ僕は……。

 

おもむろにステータスプレートを取り出し、頬杖をつきながら眺める。

 

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成、言語理解

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

 

これが、2週間みっちり訓練した僕の成果である。

……いや、刻み過ぎでしょコレは。

 

おまけに僕には魔法の適性が全く無く、細かい説明は省いてしまうけど、RPGでは定番の様な〔火球〕を一発放つのに直径2メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

そんなわけで近接戦闘はステータス的に無理、魔法は適性がなくて無理、頼みの天職・技能の【錬成】は鉱物の形を変えたりくっつけたり、加工できるだけで戦闘には役に立たない。

錬成に役立つアーティファクトもないと言われ、錬成の魔法陣を刻んだ手袋をもらっただけ。

 

一応、頑張って落とし穴(?)とか、出っ張り(?)を地面に作ることは出来るようになったし、その規模も少しずつ大きくなってはいるけど……。

対象には直接手を触れなければ効果を発揮しない術である以上、"敵の眼前でしゃがみ込み地面に手を突く"という自殺行為をしなければならず、結局のところ戦闘では役立たずであることに変わりはない。

 

故に、仕方なく知識を溜め込んでいるのだけど……何とも先行きが見えない。

 

いっそ人間族はクラスメイトたちに任せて、旅にでも出てしまおうか。

図書館の窓から見える青空をボーッと眺めながら、そんな事を思っていると、横からハンカチが差し出された。

『これで涙拭けよ』って事ですかね?

そんな風に優しくされたら本当に涙出ちゃうのでやめてくれませんかね?

 

そんな事を考えながら、ハンカチの持ち主のいる方を向いてみれば、そこにいたのは何と両儀さんである……彼女が隣にいた事を、僕が忘れていただけである。

 

「ハンカチ、要るかしら?」

「……何で、そう思ったんですかね?」

「少しだけど、泣きそうな顔をしていたもの」

「さいですか……まぁ、大丈夫ですよ、ちょっとここ数日間を思い出していただけですから」

「あぁ……そういえば私たち、魔法の適性が全く無いんだったわね」

「しかも貧弱ステータスに加えて、武器の扱いも上手く出来ないから、全然戦えないんだよねー……」

「せめて刀が有れば良かったのだけどね……」

 

彼女は、魔力を使って(・・・・・・)編まれたハンカチを僕の目の前に落としてから、ぐでーっと机に突っ伏した。

両儀さんは何しても可愛らしいですね。

 

「弱小どうし一緒に頑張りましょう?」と言ったあの日以来、両儀さんは僕との友好関係をクラスメイトたちにあっさり話し、それを良いことに訓練の間や今みたいな休憩時間にも僕と一緒にいる事が増えた。

……多分、役立たずとして僕がイジメられない様にいてくれてるんだろうけど、やっぱり男子たちからの視線がヤバイです。

両儀さんなら別に良いけど。

 

両儀さんの事だけど、この国の宝物庫にはやはりと言うか何と言うか、刀は存在せず、結局両儀さんは刃渡りが大体18センチメートルぐらいの短剣を選んでいた……まだ上手くは扱えないらしいけど。

技能に関しては、最初こそハンカチ1枚すらも作れなかったけど、ひたすらに鍛練し続けた今では、1日にバスタオル1枚ぐらいなら作れる様になったのだとか。

 

そんな事を考えていたら訓練の時間が迫っていることに気がついて、慌てて両儀さんを連れて図書館を出た。

王宮までの道のりは短く目と鼻の先ではあるが、その道程にも王都の喧騒が聞こえてくる。露店の店主の呼び込みや遊ぶ子供の声、はしゃぎ過ぎた子供を叱る声、実に日常的で平和な光景だ。

 

やっぱり、戦争なさそうだからって帰してくれないかなぁ……。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

訓練施設に到着すると既に何人もの生徒たちがやって来ていて、談笑したり自主練したりしていた。

どうやら案外早く着いたみたいだ。

両儀さんは短剣を部屋に置いてきてしまったらしく、取ってくるからと別れた。

話し相手もいないし、自主練でもしながら待とうかな、と支給された西洋風の細身の剣を取り出した。

 

しかし、唐突に後ろから衝撃を受けて、僕はたたらを踏んだ。

何とか転倒は免れたものの抜き身の剣を目の前にして冷や汗が噴き出る。

顔をしかめながら背後を振り返った僕は、最近忘れていた面子に心底うんざりした。

 

そこにいたのは、檜山率いる小悪党四人組(僕命名)である。

いつもは両儀さんがボディガードになっていたから絡んで来れなかったのだろうが、今は一人でいるからと絡んできたのだろう。

 

「よぉ南雲、"一人で"何してんだ?お前が剣持っても意味ないだろ?マジ無能なんだしよぉ」

「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさぁ!ギャハハ!」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ!ヒヒヒ」

「なぁ、檜山。いつもみたく両儀さんもいないし、俺らで稽古つけてやんね?」

 

ニヤニヤゲラゲラ、一体何がそんなに面白いのかね。

 

「あぁ?おいおい中野、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?代わりに稽古ぐらいならつけてやっても良いかもなぁ~」

「おー、いーじゃーん!俺ら超優しーじゃん!無能のために時間使ってやるとかさ~!南雲ぉ~感謝しろよ〜?」

 

そんな事を言いながら、檜山たちは馴れ馴れしく肩を組み、僕を人目の無い場所まで連行していく。

それにクラスメイトたちは気がついたみたいだけど、みんな見て見ぬふりをしていた。

 

「いや、僕は両儀さんを待ってるから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 

 一応、やんわりと断ってみる。

 

「はぁ?最近調子に乗ってるお前のために、俺らがわざわざ鍛えてやろうって言ってるのに何言ってんだ?

マジ有り得ないんだけど。

お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

そう言って、脇腹を殴ってきた。

「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら思わず呻く。

訓練とはいえ武器や魔法といった"力"を扱ってきたからか、暴力に躊躇いが無くなっている。

思春期男子がいきなり大きな"力"を得れば溺れるのは仕方ない事とはいえ、その矛先を向けられては堪ったものじゃない。

かと言って反抗できるほどの力もない。

だから歯を食いしばって耐える事しか出来ない。

 

やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない通路に来ると、檜山は僕を突き飛ばした。

 

「ほらさっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

檜山、中野、斎藤、近藤の四人に囲まれた。

悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がると、

 

「ぐぁ!?」

 

その直後、背後から背中を強打された。

近藤が剣の鞘で殴ったのだろう。

前のめりに倒れた僕に、

 

「ほら、何寝てんだよ、焦げるぞ~?ここに焼撃を望む、〔火球〕」

 

中野が火属性魔法〔火球〕を放ってくる。

倒れた直後であることと、背中の痛みで直ぐに起き上がることが出来なかった僕は、ゴロゴロと必死に転がり、何とかそれを避ける。

だがそれを見計らったように、今度は斎藤が魔法を放ってきた。

 

「ここに風撃を望む、〔風球〕」

 

風の塊が立ち上がりかけた僕の腹部に直撃し、仰向けに吹き飛ばされた。

「オエッ…」と胃液を吐きながら(うずくま)る。

 

魔法自体は一小節の呪文の下級魔法だ。

それでも大人に本気で殴られるくらいの威力はある。

それは彼等の適性の高さと、魔法陣が刻まれた媒介が国から支給されたアーティファクトであることが原因だ。

 

「ちょっマジ弱すぎ!南雲さぁ~マジやる気あんの?」

 

そう言った檜山が、蹲る僕の腹に蹴りを入れてきた。

僕は込み上げてくる嘔吐感を抑えるので精一杯だ。

 

その後も暫く、稽古という名のリンチが続いた。

痛みに耐えながら、何故僕はこんなにも弱いのかと、悔しさに奥歯を噛み締める。

 

本来ならば、敵わないまでも反撃ぐらいはするべきなのかもしれない。

でも僕は、小さい頃から人と争うとか、本気で誰かに敵意や悪意を向けるという事は苦手だった。

誰かと喧嘩しそうになった時は、何時も自分が折れていた。

何故なら、自分が我慢すれば話はそこで終わりだからだ。

自分が折れて、耐えて、解決するなら喧嘩するよりずっといいと、そう思ってしまうのだ。

 

言い訳の様に頭の中でそんな考えを連ねながら、そろそろ痛みが耐え難くなってきた頃、

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ、濃密な威圧がこの通路を満たした。

 

「「「「ヒィッ……!」」」」

 

その威圧を受けた四人組は、短い悲鳴を上げながら、僕への暴力を一斉に止めた。

ようやく解放された僕は、暴力による吐き気や痛みに震える身体をどうにか持ち上げ、その威圧の発生源……通路の入り口へと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、短剣を持ちながら、無表情でこちらにゆっくりと歩いてくる両儀さんの姿があった。

 

 

 

「ねぇ、あなたたち……私の友だちに、一体何をしていたの?」




次回予告
・果たして筆者は、読者が愉悦出来る話を書けるのか!?

・これから先の話に香織さんの台詞がいくつかあるかも!
……ハーレムからは外されたけど!(この小説のタグにて)

・感想欄にて、筆者に原作最重要キャラ認定された【天職:恋のキューピッド】な檜山くんの運命やいかに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。