ありふれた転生者の異世界巡り   作:折れたサンティの槍

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オリ主の出番がねぇ!
というかハジメ視点が書きやすすぎてオリ主視点すらねぇ!
次回はオリ主視点で書いてみようかな……。


トラップ2 『炎に向かう蛾のように』

side ハジメ

 

 

錬成を使ってどうにかモンスターを倒した後、ふと前方を見ると白崎さんと目が合った。

彼女は僕と視線が合った事を認めると、穏やかに微笑んだ。

 

 

 

昨夜、彼女は「話したい事があるから」と、僕の部屋に尋ねてきた。

そして彼女の話を聞いた。

 

僕が……「"南雲ハジメが何処か遠くに行ってしまうのではないか"という不安や、嫌な予感がするから町に残っていて欲しい」……と。

それに僕は答えた。

「ベテランの騎士団員さんたちも、チートだらけのクラスメイトたちもいるし大丈夫だろうけど、それでも不安であるのなら治癒師の力で守って欲しい」と。

彼女はそれを了承してくれた。

 

それからもいろいろな話をした。

自分の恥ずかしい記憶を話に出されたり、実は僕は両儀さんとか白崎さんみたいな、イケメン(女子)に胸を高鳴らせるヒロインなのでは……などとおかしな事を考えたり。

 

……僕も年頃の男子だから、女子に自分を良く言われたらある程度の好意は持つ様になるからね!

 

 

 

……話を元に戻そう。

 

数秒だけ目を合わせていたけど、昨夜の事を思い出して、何となく気恥ずかしくなったので、僕から目を逸らした。

あの話での『守る』という言葉の通りに見守られているみたいでなぁ……悪くは思わないんだけど……。

 

そんな風に思っていると、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばした。

ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線。

今までも教室などで感じていた様な視線だけど、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

その視線は今日の朝から度々感じていたものだ。

そして視線の主を探そうと視線を巡らせると、途端に霧散する。

朝からそれを何度も繰り返しており、いい加減うんざりしてきた。

 

何なのかな……僕、何か気に触る様な事したかな?

むしろ無能なりに頑張っている方だと思うんだけど……もしかしてそれが原因かな?

「調子乗ってんじゃねぇぞ!」的な?

はぁ…………。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

それからも僕たちの二十層探索は続いた。

 

探索の最中に現れた《ロックマウント》の気持ち悪い形相に女子たちが悲鳴を上げて青ざめたり。

それを"死の恐怖を感じたせいだ"と勘違いしたらしい天之河くんが、怒りに任せて大技をぶっ放したり。

「もう大丈夫だ!」と言わんばかりのイケメンスマイル振り返った天之河くんに、メルド団長が拳骨を食らわせたりしていた。

……全部、つい先程の出来事なんだけどね。

 

ちなみに両儀さんは、この岩ゴリラには予想通りノーリアクションでした。

寧ろ「アマノガワくんのアレのせいで崩落したりしないかしら……」と言いながら僕の腕をガッチリと掴み、いつでも一緒に逃走できる様に身構えていた。

やっぱり僕はヒロインなんじゃないかなって……。

 

「この馬鹿者が!気持ちはわかるがな、ソレはこんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうするんだ!」

「うっ……す、すみません……」

メルド団長のお叱りに、バツが悪そうに謝罪する天之河くんを、白崎さんたちが苦笑しながら慰める。

 

ふと白崎さんが、天之河くんの大技によって崩れた壁の方に視線を向け、指差した。

 

「……あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

その言葉に、僕を含めた全員が白崎さんの指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する、水晶の様な鉱物が花咲くように壁から生えていた。

白崎さんを含めた女子たちは、その美しい姿にうっとりとした表情になっている。

両儀さんも、うっとり、という程では無かったけど、

 

「へぇ……、綺麗な石ね」

 

と感嘆の声を漏らしていた。

 

「ほぉ、珍しい。あれは《グランツ鉱石》だな。大きさも中々だ。」

 

メルド団長が笑みを浮かべながら、その鉱物の名を言った。

グランツ鉱石とは言わば宝石の原石みたいなものらしく、特に何か効能があるわけではないけど、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれる……らしい。

求婚の際に送る宝石として、良く選ばれるのだとか。

 

「素敵……」

 

メルド団長の簡単な説明を聞いた白崎さんの、更にうっとりとした声が聞こえた。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言いながら檜山が動き出し、グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

メルド団長が慌てて声をかける。

 

「おい!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし檜山は聞こえないふりをして登り続けている。

 

メルド団長は、檜山を止めようと追いかけ始める。

だけどその動きは、フェアスコープで鉱石の辺りを確認していた騎士団員さんの叫び声で止まってしまった。

 

「団長ッ!トラップです!」

「ッ!?」

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がった。

鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだろうか。

 

「撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に僕たちは急いで部屋の外に向かったけど……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

僕は周りの空気が変わったのを感じた後、地面に叩きつけられた。

尻の痛みに呻き声を上げながら、周囲を見渡す。

クラスメイトのほとんどは僕と同じように、尻餅をついていたり膝をついていたりしたけど、メルド団長や騎士団員さんたち、天之河くんたちなど一部のクラスメイトは既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやらあの魔法陣は、範囲内のものを転移させるものだったらしい。

現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから、神代の魔法は規格外だ。

 

転移させられた場所は、巨大な石橋の上だった。

だいたい100メートルぐらいはありそうだ。

天井も高く20メートルはあるかもしれない。

橋の下には川などはなく、代わりに全く何も見えない闇が広がっていた。

橋の横幅は10メートルくらいはありそうだけど、手すりなどは無く、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだろう。

 

僕たちはその巨大な橋の中間にいた。

橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

「お前たち!すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け!急げ!」

 

雷の如く轟いたメルド団長の号令に、わたわたと動き出す僕たち。

 

しかし撤退は出来なかった。

上層への階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。

更に、奥への通路側にも魔法陣は出現し、そこからは一体の巨大な魔物が現れた。

 

現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の、呻く様な呟きが聞こえた。

 

「まさか……《ベヒモス》……なのか……」




【炎に向かう蛾のように】……蛾(が)には『螺旋を描きながら激突するまで明かりに向かっていく』という特性があります。
蛾が街灯などに激突しまくっている姿を見た事がある人は、少なく無いと思います。
この『蛾が明かりに向かっていく』現象、実は"燃えている炎"に対しても起こってしまいます。
その為、近くに炎があると同じ様に近づいていき、自分から炎に突っ込んで燃えてしまいます。

『鉱石という"明かり"に誘われ、無防備に向かってしまった檜山という"蛾"は……』
みたいなイメージから付けたサブタイトル。

まぁ上記の知識は、数年前に読んだ本のものなのでうろ覚えで、所々間違えているかもしれませんが。

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