GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
うん。久しぶりの二人組みかもしれない(笑)
降りしきる雨の中で
リンドウさんから連絡が入ったとき、アナグラではほとんどの神機使いが赤い雨のせいで暇を持て余していた。
「じゃあとりあえずみんな無事、なんですよね?」
「おう。それに関しちゃ問題ない。」
隣にいるソーマが小さく息を吐いた。右腕が人間型に戻らなくなっているとはいえ、神楽が無事だったことに安心したのかな。
「そっちはどうだ?」
「最近は赤い雨のせいで何も出来ねえ日が多い。アラガミも少ねえのが救いだが。」
「その様子なら、特にやばいことにはなってないか。」
「一応、な。隊長職にぶっ潰されそうな奴くらいはいるさ。」
「……俺?」
「他に誰がいる?」
失礼な、と言いたいところだけど、反論出来ないのも事実……リンドウさん、神楽と続いてきた第一部隊長の肩書きは、想像以上に重たい。
……出来ないことまで無理してやってるわけじゃない。けど、出来るようになることを要求されるものも、それなりにあった。
「なるほどなあ……コウタ君。先々代隊長に聞きたいことはあるかね?」
「……まずはサボり方を。」
「そいつは俺も聞きてえな。」
「……いや……あれはサボっていたってわけじゃ……」
端から見ればただのサボり魔。特務とかを鑑みてもそれなりにサボり癖のある人。……まともに第一部隊長に雑務系統の仕事が回るようになった理由は、神楽がそういう仕事もそこそこ得意かつ好んでやる方だったから、だ。それ以前は……リンドウさんに任せても、といった感じで、雑務は他の隊長か、ヒバリさん達が引き受けていた。
……神楽の欠点で思いつくのは、ほとんど自分一人でやっちゃうこと位なんだよなあ……もっと周りを頼れって、何度か言った覚えもあるんだけど……たぶん今回もそうだったんだろうな。
「おいコウタ。こいつから習えるのは榊のおっさんのいなし方だけだ。俺もあれだけは尊敬できる。」
「おお……」
「……お前ら俺をいじめて楽しいか?」
「良い娯楽だ。」
「まあそれなりに。」
とは言え、この人はこの人でやっぱりすごい。
まだ討伐方法も確立されていなかった頃にウロヴォロスを一人で討伐してコアを持ち帰ったり、本部からの命でアーク計画を探り出したり、新人の指導教官としてその初陣に出撃したときの全員生還率が全神機使い中トップだったり……まあ最後に関しては神楽が追い越しちゃったけど、今でもリンドウさんは、あちこちの支部から賞賛される人らしい。
「あー……まあコウタ君。三つだけ覚えておきたまえ。」
「はい?」
「死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。運が良ければ……」
「不意をついてぶっ殺せ。あ、これじゃ四つか?」
「覚えてたか。」
「そりゃあまあ……」
この冗談じみた言い方のおかげで、初陣の時は少しだけ緊張が解れた。でもそれを今聞かせて……つまりはどういうことなんだろう?
「隊長なんざ簡単だ。自分にやることはいつまでも同じで、そこに味方がやばかったら逃げさせる、ってのがちょいとばかり顔を覗かせる。そんだけだ。で、そいつが回復するまでの何十秒かを持ちこたえて、やばけりゃやっぱり、逃げて隠れて不意をついてぶっ殺す。今のお前なら、難しい話じゃないはずだぞ。」
……なるほど。やっぱりこの人は上手いな。
「初めて心の底からリンドウさんを尊敬出来ましたよ……」
「……初めてかよ……」
「妥当だろ。」
*
「じゃあ、そちらは問題ありませんね?」
「シェルターも完成してるしな。何とかなるさ。心配してくれてありがとよ。」
「いえ。それでは、失礼します。」
サテライト拠点に影響はなし……今のところ、赤い雨に降られているのはここだけらしい。
「皆さん、大丈夫でしたか?」
「何とか。向こうは降っていないみたいです。」
赤い雨が降っていようと何だろうと、ヒバリさんはモニターと睨めっこだ。こうして見てくれているからこそ、のんびり出来る時間も作ることが出来る。今ののんびりは、あまり好きではないけれど。
「あまり根を詰めすぎないで下さいね。心配なのは分かりますけど、アリサさんが倒れたら元も子もないですから。」
「そう……ですね。すみません。」
クレイドルとして、神機使いとして、私がやると決めたから、やらなければいけないこと。ずっとそう考えながら頑張ってきている。……最近はどうしても、手が回り辛くなってきちゃった、かな?
感応種は依然として驚異であり、未だその対策はただの対処療法……あれらと戦えるのがソーマだけ、というのはやはり大きい。
「たまには気晴らしでもどうですか?ちょうどエリナさんが訓練に入っていますし、その指導とか。」
「なるほど……」
……休んだらどうか、とは言わない。まるで私が、休むのは嫌だ、と答えてくると知っていたかのように。さすがはヒバリさんだ。
「やってみます。訓練場ですよね?」
「はい。まだまだ冷や冷やさせてくれる子ですし、ビシバシやっちゃってくださいね。」
「あはは……」
にこやかではあるけど……本心から言っているのだろう。目が笑っていない。
……何年もこの仕事をやっていると、必然的に同僚の死には直面する。私もそうだ。かなり前のことなのに……未だにその頃のことは、鮮明に思い出せる。……二度と見たくない。
「久しぶりに厳しくいこうかなあ……」
……そういえば、三年前の原隊復帰直後に神楽さんについてもらったときも、けっこう厳しかったっけ。口調も表情も言い方も何一つ強い部分はないのに、要求されるものはとても高くて……でもそれが出来るようになると、まるで自分のことのように喜んで、褒めてくれた。
私にも出来るだろうか?彼女とは背負うものの大きさが違いすぎる、私にも。
*
「はああっ!」
最初の頃と比べると上達した。それは確かなこと……でもまだ、課題は多いかな。
「あれ?アリサじゃん。」
訓練場の上の方にある様々な計器類が置かれたこの部屋。訓練の監督にも使われるわけで……そのために来たのだろう。後ろからの声に振り返ると、端末を手にしたコウタが立っていた。
「ちょっと暇つぶしと休憩でもしようかなと。」
「なるほど。」
休憩、というのがおかしかったのか、軽く苦笑された。何となく釈然としないなあ……
「そのついでにエリナの指導?」
「そんなところです。」
スピアの扱いはそれなりに上手い。けど、盾も銃もほとんど使わないというのは……いただけないかな。
「助かるよ。俺、銃しか分かんないからさ。」
「私だってスピアはあまり分かりませんよ。……盾の扱いには、いろいろ言いたいことがありますけど。」
「だよな。」
そういえば、こうしてコウタと二人で話すのは久しぶりだ。いつもサテライト拠点のこととかその日の仕事のこととか……今も仕事のことと言えば仕事のことだけど、普段の静かに張りつめた雰囲気がないからか、少し違ったものに感じる。
「……なんだか、こうして話すの、久しぶりですね。」
「え?二人で話すことってけっこうなかったっけ?」
「全部堅苦しい話題ばっかりだったじゃないですか。」
「あー……確かに。」
言われるまで気付かないのは……どっちだろう?気にするほどのことでもなかったのか、気にする余裕もなかったのか。
……今の彼の場合、後者かな。私も、ついさっきまでそんなことは微塵も考えていなかったわけだし。
「……忙しくなっちゃいましたね。」
「俺はまだいいって。エミールは未だに正面からの突撃しかしないし、エリナは攻撃を重視しすぎだけど、何だかんだ言って俺の負担は少ないんだからさ。」
「それ、少ないって言いませんよ?」
「アリサと比べれば、ってこと。」
……言い返せないのが少し悔しい。
「ちゃんと休めよな。」
「……少しは休んでます。」
「ちゃんと。」
「……」
昔はただのお調子者だったのに……いつの間にこんなしっかり者っぽくなってたんですか。そう聞きたいくらい、彼が頼もしく見える。
「……今のは盾で防ぐべきですね。」
……それが何だか悔しいから、無理矢理話題を変えた。
「マジで?」
「あそこで回避すると、他のアラガミから食らいやすいですから。ガードして受け流した方が次に対応できます。」
「へえ……さすが。」
「新人時代に何度もやらかしましたから。」
「はははっ!なるほど。」
そんなにおかしかっただろうか?……まあ、いいか。
「俺も銃のこと、ちゃんと教えないとなー。」
「ふふっ。頑張ってくださいね。隊長さん。」
「重たいなあ……まあ、旧型は旧型なりに頑張るよ。」
「ぶっ!?」
……三年前の黒歴史を掘り返された。そんな……というか、まさにその気分だ。
「な、何でそんなの覚えてるんですか!」
「ん?いや……俺って神楽と同期じゃん。なのにあいつだけものすごく強かったんだよ。アリサからあれ聞くまではずっと、追い付け追い越せって頑張ってたんだけど……当然、勝てなくって。ま、それを割り切らせてくれた、って言うか、自分なりに頑張る、ってことを教えてくれた、って言うか……」
「御託はいいです!忘れてください!今すぐ!」
「わ、分かった分かった!分かったから襟離してくれ!く、首がっ!」
そんなこんなやっていると、スピーカーからエリナの怒号が響いた。
……マイクのスイッチが入りっぱなしだ……
「マイクつけっぱなしで何騒いでるんですか!そんな口喧嘩アラガミも食いません!」
……この日、私とコウタは夜遅くまで彼女の訓練に付き合わされることとなった。……仕事の方が楽だったなあ……
*
《……そう。そんなことが……》
「そのイザナミって子が言うには、ね。信じていいとは思うけど……まだよく分かんない。」
コアに人格が宿るのかどうか。自称神楽のコアのイザナミを定義するためには、まずそれを考える必要がある。
私個人の見解ではYesだ。母さんや私のような例もあるし、100%宿らない、ということはないだろう。……彼女が本当にそうであるかは別として、だけど。
少なくともあのイザナミは人じゃない。だとして何か。問題はそこにある。……神楽に聞けば済む話ではあるけど……聞いていいか定かでもないし……
「母さんは……母さんだよね。私も私だし。」
《ええ。》
「……うー……」
変な会話だ……自分で言うのも何だけど。
と、いうわけで…本日の投稿を終了します。
…三月下旬のアップデート宣言からの予告なしで30日に配信とは…運営もやるなあ…