GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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お久しぶり…でありながら、本日は一話のみ投稿です。
GE2編16話より「Chapter 2. 宣告」へ入るため、こうなりました。
…そして今回もブラッド、極東合同回…どころか、久しぶりにあの二人が…っていうかほとんど本編に影響がないのに1000文字持ってってる人達って…


自己暗示

 

 自己暗示

 

大規模作戦から一夜空け、フライアは進行ペースを取り戻した。こちらの損害は数値上ゼロ。むしろ今現在はプラスだ。

……鼓が起きないことを除けば、だが。

 

「ここにいたか。」

「ああ、シックザール博士。俺に何か?」

「ソーマでいい。ここでの立場はお前が上だろ。」

 

夜明けとほぼ同時に病室前へやってきた彼女の救出者。ラケル博士が言うには……俺に鼓の救出は出来なかった、だそうだ。

 

「そいつの様子を見に来たんだが……どうだ?」

「まだ面会不能だ。体に異常はないそうだが……何とも言えない。」

「……そいつがどうなっていたかは知っているのか?」

「ラケル博士からデータは見させてもらった。オラクルを操っていた、と……本当か?」

「事実だ。……安心しろ。俺以外は見ていない。エミールは気絶してたみてえだからな。」

 

あり得ないことに対して何の躊躇もなく回答した。極東支部には三人アラガミがいる……どこでも噂になっていたことだが、その張本人にとって、鼓がやったことは異常性こそあれ、あり得ないことではないのだろう。

 

「……こいつの出生は?」

「データには残っていなかった。……ブラッドの神機使いは皆、元々マグノリア・コンパスと呼ばれる孤児院にいたんだが、そのせいか出自がはっきりしない隊員もいる。ラケル博士はある程度知っているようだが、俺から聞いたこともなければ、博士から伝えてきたこともない。」

 

彼女の秘密主義は時に行き過ぎにもなる。実際、それがまずいことになったことはないが。

 

「ソーマ。……鼓を何だと考えている?」

「……アラガミと人間との間の存在だ。神機使いとは全く別のくくりのな。」

「……少なくとも純粋な人ではない、と?」

「だろうな。」

 

腕輪のない神機使い……俄には信じ難いが、彼もアラガミとの間にいるわけだ。それだけに何かを感じると言うことなのだろうか。

 

「……明日にはユノに本部からの迎えが来る。あいつがここを発ったら、俺も極東支部に帰るつもりだが……構わないか?」

「ああ。支援、感謝する。」

 

異常性という面においてはさほど差がないのかもしれないが、彼が歩んできた人生は非情なまでに厳しいものだったと聞いている。その彼から見て、鼓はどう映っているのか。鼓を何だと考えているか、という以外に尋ねたいものではある。だが……その答えに一種の嫌悪を覚えそうな自分がいることも確かだ。今は聞かない方が良いのだろう。

 

「山脈を越えた辺りから、またアラガミのレベルが上がるはずだ。気を付けろよ。」

「了解した。」

 

病室を出るソーマの背を見送りつつ、そんなよく分からない感情に支配されていた。

 

   *

 

「よう。ラケル。」

 

こいつが庭園にいるとは……珍しいこともあるな。

 

「結意には会えた?」

「まだ起きてねえよ。どっかの誰かさんと違って、寝てるときに呼びかけられるほどリンクは張ってねえしな。」

 

俺とあいつは確かに一番初めから同じ体にいたが……それでもリンクは薄い。

 

「神楽・シックザールのこと?」

「そ。あいつ、コアをコアとして取り込んでんだよ。その分精神的なリンクが尋常じゃない。これまで一度しか暴走らしい暴走をしてねえのもそのおかげだろうな。」

 

一度会話出来ればそれなりにはなるだろう……まあ、どこまでいけるかは未知数なわけだが。

 

「ラケル。局長がお呼びよ。」

「ええ。すぐ行くわ。お姉様。」

 

レアに呼ばれ、去り際にこちらへと視線を送ったラケル。その目だけでも、人ならざるものを感じさせる。……相変わらず化け物としか言いようがない。

 

   *

 

ここにいる間は、と割り当てられた部屋。生活感がまるでない部屋というのも久しぶりだ。

その一角にあるクローゼットに荷物を置いた頃、神楽から連絡が入った。

 

「俺だ。どうかしたか?」

「ううん。ちょっと話したくなっちゃって。」

 

……少し声が震えている。

 

「ったく。何かあったんだろ。」

「……うん……ちょっとだけ。」

 

三年間。今考えてみると短い期間にも思えるが、その間だけで彼女がどういうときにどんな行動をするか、だいたい知ることが出来た。

……本当にそれを隠したいとき、神楽は何一つ普段と変わらない。その反動からか……その隠したいことに関係のない相手には若干頼りがちになる。相手が俺や渚なら、疲れて寝るまで泣いていることもあるが……他の男の前でそうはならないのは安心だ。

 

「こんな事言うのって変かもしれないんだけど、私とソーマと渚ってほとんどアラガミでしょ?神機使いが戦っている相手もアラガミでしょ?アリスもアラガミでしょ?……結局、アラガミって何なのかなあ、って考えてたら……なんか悩んじゃって。」

「……まあ、確かにな。」

「自分がアラガミだ、っていうのは受け入れたつもりだったんだけど……アラガミって何なのか、で悩むなんて思ってなかったから。……ちょっとだけでも良いからソーマと話したくなっちゃって……えっと……」

 

少し照れているような声。……何を今更、という気もするほどに、いろいろなところで悩むやつだ。

 

「あまり気に病むな。何が原因で発生したのかも分かってねえのに、それが何なのかなんざ、はっきりするはずがねえだろ?」

「それはそうだけど……ソーマは気にならないの?」

「さすがに気にはなってるさ。産まれたときからな。」

「そう……だよね。」

 

俺の場合、産まれたときからアラガミだっただけに、神楽よりも割り切って考えることが多いらしい。……どうせ割り切れてはいないだろうが。

 

「ソーマはいつ自分がアラガミだって実感したの?」

「物心付いた頃だ。……他の奴らとは違う、くらいだったが。」

 

そういえばこういう会話をするのは初めてか、と、少しばかり新鮮な感覚を覚えた。互いに避けがちになる話題だったからか、自分たちとアラガミとの関係について話すことは少なく、そちらに話が向きそうになると何とはなしに別のことを話したり……共に過ごしておきながら、意外と遠慮することは多いのかもしれない。

 

「お前は?」

「……ソーマに初めて会ったとき……かな。」

「……」

「まだまだ慣れてなかった戦場で、私と同じ雰囲気の人に出会って、その人が人じゃないって感じて、じゃあ私もなんだなあ、って。そんな感じ。」

 

声は暗いながらも震えてはいないようだ。ある程度言い尽くしたらしい。

 

「……ごめんね。いきなりこんな話して。」

「気にするな。愚痴ぐらいいつでも聞いてやる。」

 

……あの神機使いのことくらいは伝える方がいいかもしれないな。

 

「ジャヴァウォックに変化はあるか?」

「え?別に何ともないけど……そっちで何かあったの?」

「昨日、ユノの護衛中にフライアから救援要請があってな。その地点で神機使いが一人暴走していやがった。」

「……暴走って……それじゃあその人って、半分アラガミだったりするの?フライアは動いてるんだよね?」

「可能性は高い。」

 

純粋な偏食因子の暴走であることも考えられる。が、フライアが健在であった以上、それは起こりにくいと判断するのが妥当な線だろう。

 

「そいつの偏食場がジャヴァウォックと似ていてな。誤差の範囲内っつっても問題ない程度だが……あれのはかなり特徴的だ。あまりそうだとも思えねえ。」

「うーん……こっちは変化なしだよ?私達も次の作戦の準備とかしてるし。」

「そうか。ならいいんだが。」

 

次の作戦……たしか、新型アラガミの追跡だったか。ジャヴァウォックが出現した直後から確認され出したとか言う話だったはずだ。

 

「ふわ……」

「寝不足か?」

「あ、ううん。ちょっと今日忙しくて……」

 

こっちは明朝。となると、向こうは深夜か。寝付けなくなりでもして、こうして連絡を入れてきたのかもしれない。

 

「ったく……無茶はするなよ。」

「分かってるよお……」

 

頼まれたら断らない性格……それが裏目に出る例の一つだな。

 

   *

 

……そろそろか。

 

「……あれ?」

 

ベッドから起き上がり、一番最初に目に入るであろう位置。そこに立ってこう告げた。

 

「一応始めまして。宿主さん。」

 

あれだけの力を使ったとなれば、こいつも俺を認識できるようになったはずだ。ラケルの言う覚醒も済んだわけだしな。

そう思っていたのだが……

 

「えっと……あれ?なんで寝てるんだっけ……まだ作戦……」

「……おいおい。無視するんじゃ……」

「小型と戦って、その後で白いアラガミが来て……あ、そうだ。新型の……あれ?それで……どうしたんだっけ?ジュリウスさんが助けてくれた……のかな?」

 

……覚えていない、と言うことは予想していた。おそらくはその説明から始めることになるだろうとも考えていた。だが……まさかまだ俺を認識できていないのか?俺の力を丸ごと使ったってのに?

 

「んと……ナースコールってあったっけ?」

 

俺が知っているこの時点からの“先”では、全て結意が俺に気付いている。……成功したのか?それとも失敗したのか?

……どちらにしろ、こいつと話せねえのはデメリットだ。

そんな俺の思考とは何の関係もなく結意がスティック状の機械のボタンを押してから数分後、看護婦が一人やってきた。体の具合やら何やらを訊ねるだけ……となると、あいつら以外には暴走は伝えられていないのか。

 

「……くそっ……」

 

……練り直しだ。

 

   *

 

「おや?どうかしたのかい?」

「私が考え事をしているのがおかしい、と?」

 

久しぶりに屋上に出てみれば、それより久しく見ていなかった、友人の物思いに耽る顔を拝むことが出来た。そういえばこういう会話も、いつ以来になるかな?

 

「おかしくはないさ。でも、珍しいことではある。……やはり、ラケル博士が気になるのかな?」

「当然だろう?彼女はある意味ではソーマを超える症例だ。知らないわけではあるまい。」

「もちろん知っているとも。とはいえ、僕はその場に立ち会ったわけじゃないからね。マーナガルム計画外におけるP73偏食因子投与者の、最初で最後の生き残り、としか知らないよ。」

「私が考え事をするには、それだけで十分だとは思わないかね?」

「……そうだね。」

 

直接投与されたわけでもないのに命を落としたアイーシャと、その天文学的な確率の中を生き延びたラケル博士。複雑なところなんだろう。

……でも、彼が悩んでいるのはそこだけじゃないはずだ。

 

「ところでヨハン。ソーマにどう説明するかは決まったのかい?」

「ペイラー。私はどうやら、君がなかなか親友を作ることが出来なかった理由をもっと早く教えた方がよかったようだな。」

「うん。それはぜひ知りたかったね。」

 

図星、だったかな。

 

「悩むのは良いけど……彼も君も、もう取り繕った会話は求めていない。これが僕の見解だ。」

「……」

「また、図星かな?」

「……君が狐と呼ばれる理由も教えてほしいのかね?」

「いい愛称だと自負しているよ。」

 

昔はこういう話なんてしていなかったことが不思議なほど、滑らかに皮肉とすかしとが飛び交っている。……人の適応力も、捨てたものじゃないね。

 

「あ、そうそう。この間リンドウ君とツバキ君から上物の赤ワインが送られてきたんだ。たまには二人で飲まないかい?」

「頂こう。」




はい。支部長と博士です。いったい何話ぶりの登場になるんでしょうか…私としては書き易い人ランキングで五本の指に入りそうな二人なんですが…
ところで、GE2RB発売まで一ヶ月となりましたが…
…ぶっちゃけると、皆さんは何が楽しみですか?
私は断然神融種でして…何せブラッドレイジはやりにくかったしヴァリアントサイズはショート使いとしては使う予定がほぼないですし、NPC育成はたぶん適当にやっちゃいますし、スキルインストールも何種類にやるかなあ程度ですし。
ストーリーの方にはもちろん興味ありではありますが、正直狐さん(キュウビ)の神融種(ムクロキュウビ)が一番楽しみ…特別なショートをください(・・)/~
そういえば、神融種はPVとかを合わせると全て判明しましたね。

ショート:ムクロキュウビ  (キュウビ)
ロング :名称不明     (世界を拓く者)
バスター:名称不明     (ヤクシャ・ラージャ)
ハンマー:ラセツコンゴウ  (コンゴウ)
スピア :カリギュラ・ゼノ (カリギュラ)
サイズ :マグナガウェイン (クロムガウェイン)

とのことで…
…クロム君がちゃんと強くなってるといいなあ…
それでは、また次回お会いしましょう。

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