GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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ところで2プレイヤーの皆さん。ここまでで明らかに吹っ飛ばしているエピソードがあったのって気付いてますか?
…実は飛ばす結果になるのを考えもせず、この話に組み込むプロットを練っていました(汗)


β06.来訪者

 

 来訪者

 

「本日付けで第四部隊隊長となる真壁ハルオミだ。ま、うちは二人しかいないってことだしな。仲良くやっていこうじゃないか。」

「第四部隊の台場カノンです。よろしくお願いします。……と言うか……いきなり隊長なんですか?」

 

エントランスの二階から聞こえる話し声。カノンと、一昨日アナグラに到着したハルオミとか言う神機使いの二人だ。

 

「そこは俺も驚いたんだが……ま、一応神機使いとしては長いからなあ。」

「おお、なるほど。」

「ここしばらくあちこち動いてるから、けっこう顔は広いんだぞ?」

「へええ……」

 

ジャヴァウォックの消滅以後、この辺りの感応種の数が減少した。レーダーの記録によれば北西方面、つまりはジャヴァウォックがいた方角へ移動したようだが……何かしら関係があるのだろう。

建造中のサテライト拠点も危ぶまれてはいたが、結局どこも大きな被害を受けることなく済んだらしい。防衛に走り回っていたアリサも、すでに疲れは取れているようだ。

 

「ハルオミさんってここに異動申請したんですよね?」

「らしいな。物好きだとしか思わねえが。」

 

……神楽から聞いた話が事実なら、あいつが物好きだからというのは理由にならない。とはいえそれを簡単に他のやつに明かして良いかと聞かれれば、やはり否だ。

 

「それでも助かります。ここの人不足は深刻ですから。」

「まあな……」

 

一日に討伐すべきアラガミが減ったわけではないが、強力なアラガミはかなり減ったように思う。減ったと言うよりは感応種に引かれて周辺地域から去った、と表現するのが正しいか。

その分否応なしに増えた小型種や中型種は、エリナにとって格好の戦闘訓練相手らしい。連日コウタやエリックの監督の元で任務に出ている。

あいつらがいない時は俺も手伝うことがあるのだが……正直新人教練は苦手だ。神楽の時は事情が事情だけにまだやる気にもなれ、かつ手が掛からないだけあって問題はなかった。今思えば、初めからとんでもない奴だったんだな。

 

「エミールのやつはどうしてる?」

「フライアが山岳地帯でアラガミの群に当たって立ち往生してるそうで……まだ戻って来そうにないですね。」

 

本部方面からこっちに向かっている……となれば、ちょうど異動していたアラガミにぶつかるわけか。少しまずいな。

 

「そうか……ヒバリ。感応種とフライアの接触はありそうか?」

「あ、はい。ちょっと待ってくださいね。」

 

壁に設置されたディスプレイに広域レーダーの観測情報が映し出された。こことフライアとの距離はまだかなりあるようだ。

そのフライア周辺の山岳地帯をいくつかに分けるようにアラガミが進行しており、軽く確認しただけでも戦闘を避けられるルートは存在しないように思える。

 

「……やっぱり多いですね。」

「感応種の位置を重ねます。」

 

アナグラから半径30キロ圏内には全く反応なし。30キロから50キロの間に一体。他はフライア方面へ移動中。もしくはその周辺や向こう側だ。数にして10体程度といったところか。

 

「一度も遭遇せずに、とはいかないかもしれませんね……」

 

フライアの戦力……ブラッド隊がどれほどのものかは分からないが、いつでも出られるようにしておく方が良さそうだな。

 

   *

 

その日の夜。特に緊急の任務もなく、かといってやることもない。

そういう時は軽く飲むのが通例となっていた。

 

「あ、ソーマさん。いらっしゃい。」

 

彼女はムツミ。ここの清掃員の孫らしい。増設されたラウンジで料理を作る役を担ってくれており、おかげで神楽が欧州にいる今も旨い飯が食える。

どちらの方が上手いかと聞かれれば……さすがに神楽の方だろう。和洋折衷何でも作る上、俺が隠し味で何を好むかまで完璧に把握されていてはかなわない。何より作ってきた回数が違う。

……たまにやらかしてはくれるが……

 

「一杯もらえるか?余ってるやつで……」

 

グラスを取りそこまで言い掛けたところで、横から何かを注がれた。赤ワインのようだが……

 

「これでいいなら奢るぞ。」

「……普通は新入りが奢られる側じゃねえのか?」

「まあまあ。これからお世話になる先輩に向けての敬意だと思ってくれよ。」

 

自身のグラスを向けてきたハルオミ。面白いやつだと思いつつそれに答える。

 

「乾杯。」

「ああ。」

 

酸味が少ない……そこそこ上物のようだ。

 

「良い酒だな。ここに置いてたのか?」

「俺の第二の故郷の酒さ。ちょいと取り寄せといた。」

「なるほどな。」

 

そういえばリンドウもたまにやっていたと思いつつ、ボトルのラベルを確認する。グラスゴー支部製……か。

 

「……神楽から話は聞いてる。まだ追ってるのか?」

「神楽って……去年グラスゴーに来た?」

「ああ。」

 

俺のことは特に話していないのか。実際必要ないことを言うやつでもないからな……

 

「ソーマ・シックザール。あいつの夫だ。」

「ほう……」

 

驚いた顔をしてはいるが、どこか妙に納得したようでもある。似たもの同士とはよく言われるが……

 

「ま、俺もばからしいとは思うんだけどなあ……何か仕返ししたいと言うか……敵討ちじゃないけど討ちたいと言うか……」

「ケイト……だったか。」

「……この一年寝っぱなしだ。回復の兆しもまだ見られていないらしい。」

 

静かに言ってはいるが、どこか憤りすら感じさせる表情だ。神楽の話ではこいつはケイトとやらがやられた場所にはいられなかったらしいが……そのせいかもしれないな。

 

「ところでよ。赤いカリギュラってこの辺りで見かけてるか?」

 

若干無理をするように話題を切り替え、ワインをさらに一口飲んだハルオミ。にしても赤いカリギュラか……

 

「俺は見てねえが……少し前に話は届いたな。他でごたついてた分放っておかれたはずだが。」

「ならこの辺にはいるんだな?」

「別の地域に移っていなければの話だが……それに関しては間違いないはずだ。」

 

それからしばらく話した後……

 

「どうした?」

「フライアに感応種が接近中です。会敵には時間がありますが、他にやってもらいたいこともあるので……」

「分かった。すぐ行く。」

 

端末へかかってきたヒバリからの通信。予想はしていたが……早かったな。

 

「任務か?」

「ああ。悪いな。」

 

席を立った俺へハルオミが次いで言葉をかける。

 

「また飲もうや。」

 

向けられた拳に答えつつ、1人のダチを思い出した。

 

「リンドウと気が合っただろ。」

「……よく分かったな。」

「見れば分かる。」

 

   *

 

「ごめんね。本当は直接向かう予定だったんだけど……」

 

ヒバリから頼まれたのは、まずフライアへの支援遠征。そして……

 

「気にするな。俺も俺で向こうに用があるからな。」

 

芦原ユノの護衛だった。

北米支部から異動する過程でアラガミをなるべく避けながら飛んでいたところ、そのままフライアへ向かうには若干燃料に不安が出てきたらしい。

そこで極東支部を経由することになり、ついでに護衛の神機使いを付けてもらえれば……という話になったそうだ。

……俺を護衛に付けさせたのが榊だ、という話だが……要するに、感応種を減らしてくれると助かるんだよ、だの、サンプルが欲しいなあ、だのということだろう。ったく……

 

「北米支部で、神機使いが足りないから護衛が付けられない、って言われてたの。こっちでも厳しいかなって思ってたよ。」

「一週間前ならこっちもそうだっただろうな……」

「そうなの?」

「ああ。」

 

初めはアリサに行かせようとも考えていたらしいが、あいつは感応種と戦えない。判断はそこから来ているのだろう。

 

「ユノ。そろそろ準備でき……護衛ってあなたですか。」

「不満か?」

 

ヘリの方から歩いてきたサツキ。……ムカつく態度もそのままに、と言ったところか。

 

「いーえ。人くれるんならどなたでもー。」

「サツキ!すみません……サツキって昔から全然変わってなくて……」

「……だろうな。」

 

まあ、ムカつくが悪いやつじゃねえ。

 

「せいぜいしっかり守って下さいよー。」

「もう……よろしくね。ソーマさん。」

「ソーマでいい。」

 

……ハルオミとリンドウも似ていたが……神楽とこいつもどっか似てやがるな……

 

   *

 

フェンリル本部到着から数時間。

 

「くしゅっ!」

 

……ソーマ……もしかして私の噂話でもしてるのかな?

 

「風邪でもひいた?」

「ううん。たぶんソーマ。」

「……なるほど。」

 

本部手前での戦闘で疲れたのか、イザナミは起きている気配がない。戦闘になりそうなら起こしてと言ってはいたけど……起こしたときにちゃんと起きるのかな?

 

「そういえばアリスがいつもより近くにいるって話だけど……」

「一昨日神楽に会ったでしょ?たぶんそれで神楽への警戒を解いたんだと思う。」

「そうなの?」

「……自分がアラガミから見るとどう見えるかって気にしたことないでしょ。」

「うん。」

 

というか自分では分からないわけで……イザナミも前に似たようなことを言ってたっけ。

 

「すごく簡単に言うなら、神楽の偏食場はジャヴァウォックよりも強いんだよ。それが悪寒だとか殺気を伴わないだけでさ。」

「ふむ。」

「普通のアラガミならそういう殺気を感じ取って逃げるわけだから、この間のジャヴァウォックの偏食場でほぼ間違いなく逃げ出す。でも神楽の偏食場からはそういうのをあまり感じないから逃げ出さない。」

「……ふむ……」

 

ちょっと分からなくなってきた……

 

「でもアリスみたいに一定以上の知能がある場合、偏食場の強さも考慮する。たとえ害がなさそうであっても自分より何倍も強い相手だと分かれば……知能があるなら逃げ出すと思わない?」

「……ふむう……」

「……実感が沸かない、と。」

「うん。」

「そこだけ元気だね……」

 

リンドウさん、今頃ビール二本目とか開けてるだろうなあ……とか関係ないことを考え始めた頭を必死でこちらに引き戻す。……でもよく分からない……

 

「なら……実践してみようか。」

「実践?」

「神楽のには及ばないけどね。」

 

椅子から立ち上がり、神機を出現させた渚。

 

「……いくよ……」

 

彼女がそう告げた直後、彼女から感じられる偏食場のレベルが格段に増加した。何となく包み込むようだけど、その境目がはっきりしている感じのパルスだ。その強さは尋常ではないが。

 

「どう?嫌だって思う?」

「嫌な感じは全然しないけど……」

「じゃあこっちは?」

 

偏食場に強い殺気が混ざった。……何と言うか……この場から即刻離れたいような感じだ。

 

「……なるほど……」

「分かった?」

「よく分かった。」

 

神機をしまい、椅子に座り直した渚。強い偏食場も収まったようだ。

 

「例えるなら、初めのが神楽。その次がジャヴァウォックってところかな。二回目のは言わずもがなだけど……初めのやつ、私からのだって知らなかったら近付いてる?」

 

嫌な感じだ、とは全く感じなかったけど、偏食場自体はとても強い。アラガミの強さが偏食場の強さにある程度比例するわけだから……

 

「……進んで近付こうとは思わないかなあ……」

「でしょ?アリスもそれと同じ。戦わなくても良い強い相手となんて、まずは会わないに越したことはないんだしさ。」

 

そういえば……あの時赤いカリギュラも逃げてったっけ。たしかケイトさんを助けようとして能力を最高値で使ってたから……普段の何倍かの偏食場は出してたんだろうなあ。

 

「っていうか、アリスは結局どうするわけ?追っても何もないと思うけど?」

「あ、うん。ツバキさんと話し合ったんだけど、もうしばらく動向を確認したらいったん極東支部に戻ることになりそう。アリスのサンプルも取れたからね。」

「アリスの?いつ?」

「ジャヴァウォックがいた辺りに一緒に落ちてた。……まあ調べるまでは分からなかったんだけど……」

 

アラガミを抑えている間にどこかを破壊されたのだろう。小さな欠片が複数個落ちていた。

私達の任務は“アリスのサンプル回収、もしくは討伐”が主だったところ。その目的は果たせたことになる。

イレギュラーはアリスが元々人であった可能性が高かったこと、そしてジャヴァウォックの出現だ。

 

「他にもいくつか考えてるから、まとまったらまたみんなで話し合いかな。」

「ふうん。」

 

……何だか、渚がすごく明るくなったような気がする。今の彼女の目には、私はどう映っているんだろう……




…ユノのフライア訪問…原作ではもっと前だったんですよね…ソーマを送り込みたいがためにこのタイミングまでずらしてます(笑)

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