GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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本日ラストの投稿。伏線回どころか、謎回です。


α06.対話

 

対話

 

日付が変わってから二時間強。研究室へ一本の連絡があった。

 

「ラケル博士。ジャヴァウォックの消滅が確認されました。」

 

……予想よりも少し長く保った……少し見積もりを誤ったかしら?

 

「分かったわ。遅くまでありがとう。ゆっくり休んで。」

「はい。失礼します。」

 

素直な子だ。詮索もしないし、必要なことさえ教えればどの仕事も完璧にこなしてくれる。

 

「フラン……だったかしら。よくやってくれるじゃない。」

「ええ。お姉さまも何か頼んでみる?」

 

お姉さまがやっている研究では助手は必要ないかもしれないけれど……役に立たないということはないはず。むしろ次々に仕事を任せたくなるだろう。

……その方が都合もいい。

 

「今は大丈夫よ。それに、あまり人に教えたいと思う研究でもないし。」

 

神機兵の有人制御。ネモス・ディアナでは神機使いを襲ってしまったそれも、数日前の実験では搭乗者の意識がかなりはっきりしており、かなり正確な挙動も出来ていたそうだ。神機兵そのものの性能が向上したこともあるかもしれない。

 

「ブラッドの調子は?」

「さあ……でも、予想よりはずっと良い方。すこぶる、まではいかないけれど。」

 

概ね予想通り……とは言え、彼らは手綱を握るにはなかなか強すぎる。注意していなければ計画は総崩れになりかねない。

 

「……そろそろ戻るわね。あなたも早く寝なさい。」

「ええ。おやすみなさい、お姉さま。」

 

……この調子なら少し計画を早められるかもしれない。その場合のプランでも練ろうかしら?

 

   *

 

「下がれ!」

「はいっ!」

 

後ろに下がってからコンマ数秒。コンゴウが自身の周囲に衝撃波を発生させた。

 

「畳みかけるぞ!」

「は、はいっ!」

 

ギルさんに頼み込み、実戦での回避や攻撃のタイミングを教わっている。

私は元々攻撃重視で、ロミオさんやジュリウスさんから回避をもっとしっかり行うように、と言われていた。つまるところ攻撃回数は多かったわけだ。

今はギルさんの号令で回避をやっている。当然、回避の回数は増え、若干の余裕を持った動きになっているはずだ。

……一定時間当たりの攻撃回数の自己ベストを更新しながら、だが。

 

「敵オラクル反応消失。コアの回収を。」

 

無線から聞こえたフランさんの声。その発言が終わる前に、ギルさんはコアを回収し終えていた。

 

「お疲れ。どうだ?」

 

動いた回数は変わらないはずなのに息の上がり方が全然違う。やっぱり実戦経験の差って大きいのかな……

 

「つ、疲れました……」

「まだ回避に無駄があるんだろ。その辺りは慣れるしかないさ。」

「そういうものですか……」

「そういうもんだ。」

 

まだ一桁の実戦回数。先は長そうだ。

 

「また何かあったら言ってくれ。」

「はい。」

 

極東支部にはかなり近付いている。まだ実感はないけど、ジュリウスさんの話では徐々にアラガミが強くなっているらしい。

……私も早く一人前にならないと……

 

   *

 

「……つまるところ、任務でアラガミを深追いし過ぎ、回収が難しい場所まで来てしまった。急いで極東支部へ連絡したところ、フライアが近いことを通達され、挨拶も兼ねて行ってこいと命令が下った、と。そういう理解で間違いないか?」

 

突然フライアに訪れた極東支部からの神機使い。話を聞く限りではただ無茶をしただけのようにも思えるが、本人としては違うと主張したいらしい。

 

「ブラッド隊長。それは間違いというもの。アラガミは闇の眷属……騎士である僕には!それらを滅する義務があるのです!……とは言え、この不肖の身一つのために遠隔地まで回収に来ていただくことは我が騎士道に反する……よって手が必要であるところへ赴くという騎士の勤めを果たすべきと考え、泣く泣くアナグラへの帰投を断り、アラガミと戦いつつ我らが極東支部へと向かうフライアへ一時的な異動を願い出たのです!」

 

エミール・フォン・シュトラスブルグ。フェンリルを支える大財閥の一つであるシュトラスブルグ家の御曹司……最近頭角を表してきた極東支部の期待の新人の片割れだという話も聞く。実際大型種を相手に、ぎりぎりではありながらも単身勝利を収めていた。

 

「……とりあえず、神機の整備はすでに始めている。部屋もこちらで用意はするが、さすがに突然の来訪だったからな。もう少し待ってもらうことにはなる。それで構わないか?」

「待つのも騎士の仕事の内……何時間でも待って見せましょう!」

 

……問題は一々仰々しいことか。

 

「あ、ジュリウスさん……と……?」

 

背後からの声に振り返ると、そこには鼓とギルの姿があった。

 

「む?隊長殿。彼らは?」

「ブラッドの隊員だ。鼓、ギル。こちらはエミール。極東支部の神機使いだ。」

 

恭しい、と言えば聞こえが良い御辞儀をしたエミール。……が、彼自身の仰々しさと相まってむしろやりすぎの感を抱かせる。

対して、ギルは笑みを浮かべつつ挨拶を返すのみ。鼓も軽く頭を下げただけだ。郷に入れば郷に従え、とは……先人達というものは良い言葉を考えるな。

 

「最近はアラガミも強くなってきてるからな。よろしく頼む。」

「無論!君達もここのアラガミに苦戦しているかもしれないが、この僕が来た以上は心配いらないと思ってくれたまえ。」

「は、はあ……?」

 

……困惑するのも無理はない……というより、こういうタイプは全くと言っていいほどいないのだ。戸惑わない方が異常だろう。

 

「我々の勝利は!約束されている!」

 

ある意味、社会勉強だな。

 

   *

 

「……?」

 

夕暮れ時。晴れていればシェルターが開かれる庭園には先客がいた。

……夕日に照らされる木陰で眠る鼓だ。……今日は確かギルとコンゴウの討伐にいったはず……それほど疲れたのだろうか?

……まあそれはおいておくとして……まずいな。

今は雲もほとんどない綺麗な夕暮れ時。つまり、シェルターが開いているのだ。ここのガラスは若干薄く、夜になると肌寒くなることもある。

神機使いと言えど元はただの人間。こんな場所で一夜を明かそうものなら当然風邪をひくことになる。

 

「鼓。」

「……」

 

肩を揺すっても起きる気配がない。……とりあえず毛布でも持ってくるか。

 

「やあ。誰かさん。」

 

突然後ろから聞こえた言葉。……エレベーターは一度も開いていないはず……待機していた職員か?

そう思って振り返ったのだが、目に入ったのは全く見覚えのない少年。鼓と歳はそう変わらないように思えるが、それだけにここにいるわけがない。

 

「ああ、申し子か。こっちでの初対面があんたってのも面白いな。」

「……名乗れ。」

 

見覚えがない相手、あるいは博士などから紹介されていない相手。俺の中では、それをまず敵と判断するようになっている。……戦闘訓練の果ての結果だが、この性格が幸いしたことは多い。

 

「おいおい落ち着けよ。せっかちだと嫌われるぜ?」

「生憎そういうことを気にする質でもない。名乗れ。」

「ふうん……昔とはずいぶん変わったんだなあ。」

「何?」

 

昔……と言うことは、どこかで顔を合わせていたというのか?

 

「他人に怯え倒して過ごしていた頃くらいしか知らないんだよなー。俺がマグノリアに着いた辺りのさ。」

「……会ったことがあるとでも言いたいのか?」

「いや?一応初対面だけど?」

 

ケラケラと笑いながら、他に何をするでもなく俺の様子を窺う少年。……それに徐々に苛立ちを覚え始めていた。

 

「ふざけるのもいい加減にしろ。」

「俺は全くふざけてないんだけどなあ……実際顔を合わせたのは初めてだし、俺は昔のあんたを知ってるし。ま、仲良くしようぜー。申し子君?」

「……黙れ……」

「おお怖。」

 

危険を感じるような相手ではないのは確かだが、どうもおかしい。ここにいることだけではなく、眼前の少年に対して自分が抱く苛立ちが戦闘中に感じる一種の昂揚に似ている。

 

「……つっても……」

 

それを不審に思っていたから……いや。その程度の理由ではなしに、一瞬で距離を詰められた。

 

「!」

「あんたと喧嘩してもねえ……弱いみたいだし……」

 

……俺が話していたはずの少年が消え、代わりに右腕を引きつつ目の前に出現したのだ。

 

「……どうせ面白くない。」

 

唐突に感じた腹部への違和感。それが痛みだと気付いた頃には、視界がブラックアウトしていた。

 

   *

 

「ずいぶんと楽しんできたのね。」

 

……おいおい……去年辺りから外見変わってねえぞ?やっぱこいつバケモンだな。

 

「楽しんで……ねえ……正直申し子君は弱くってさあ。」

「面白くなかった?」

「話し相手にはいいんじゃね?」

 

かれこれ十七年前になるのか。こいつに初めて会ったのは……

 

「んで?あいつをここまで連れてきたってことは、そろそろ始めんだろ?」

「そうね。……でももう少しいろいろと整ってからでないと……失敗はしたくないもの。」

 

……いや。初めて会ったのはこいつじゃない。

 

「なあおい。ラケルはどうした?」

「……ここでは……いいえ。今はどこに行っても私がラケル・クラウディウス。……そういえばあなたに会ったのは彼女の方だったわね。」

「なるほど。じゃあお前、あん時の裏っ側か。」

「ええ。そうなるわ。」

 

昔は本体に干渉する程度だったってのに……今じゃあ支配権掌握かよ。

 

「ところでアブソル。あなた、本体はどうしたの?」

「だいたいこっちに飛ばせたさ。だからここまで出て来れてんだ。」

「……あなたのおかげでどこもかしこも大慌てよ?」

「仕方ねえだろ?まさかこうなるなんて思ってなかったんだしよ。」

 

正直俺から離れた場所で覚醒するとは思っていなかったが……それはそれ。ちょいとばかりただ遊んでいられる時間が出来たと考えればいい。俺もこっちまで問題なく来れたことだし。

 

「……コアは?お父様はあの場所でコアの焦げ炭を見つけたって言っていたのだけれど。」

「ハッ!分裂させた本人がよく言うぜ。……まあ……そのおかげでここにいられるんだが……」

「他に二人いたはずよ?」

「お前も知ってんだろ?一人目はあん時に死んじまったし、次の一人も例のやつで“前”に飛ばされてる。……お前に会ったのもそいつだろ。」

 

……もしも飛ばされた日がほんの少しでも遅かったとしたら、俺は今こうしてこいつに手を貸しているはずもないんだよな。どういう因果だか。

 

「……ラケル。あいつに話しかけられるのはいつになる。」

「何とも言えない、というのが正直なところ……ただ、最低でも次の覚醒までは無理だと思っていいでしょう。」

「……」

 

……時間がない。このままだと、あのどっかの何かに俺が俺として出会えなくなる。

 

「……俺が会った奴は分かったのか?」

「いいえ。……極東支部で会ったことは間違いないの?」

「っつーよりその周辺のはずだ。……まさか極秘事項にでもなってる、とか言わねえよな?」

「外で閲覧可能に設定されているデータがあまり多くないの。現在調査中、と言ってはいるけれど、実際には明かすことが出来ないデータだからだ、という見方が一般的……向こうに着いてからでないと、いろいろ苦しそうね。」

 

さっさとしねえと次のサイクルが始まっちまうだろう。今度は自然発生的に……

 

「……人を喰わねえ終末捕喰……本当に出来るんだよな?」

「可能性はさすがに低いけれど、理論上は可能。後は特異点次第と言ったところよ。」

 

人に助けられた過去と、自身が特異点の一つである現実。それらは重なり合い、結果としてある想いを生んだ。

……一度起こってしまえば、終末捕喰はその後絶対に発生しない。だったら……

他の何を犠牲にしてでも、人を生かすための終末捕喰を起こしてやる。




この回は正直このタイミングにするかどうかをかなり悩みました。ジュリウスとの会話の件まではいいんですが、ラケルとのそれはかなり先のほうにつながるもので…
…さて。少々この場をお借りし、皆さんへお詫びをしようかと思います。
実は、八月下旬からかなり忙しくなったことで、現在も小説を書く時間がかなり少なくなっています。
執筆を止めることは絶対にしませんが、これまでも亀だった更新がさらに亀になることが予想されます。
なるべく早く出したいとは思いますが、何分文才のないもので…編集を数回通しておかないと、はっきりいって日本語として成り立たないレベルとなってしまうのです。
楽しみに待ってくださっている皆様には申し訳ない限りなのですが、ご理解の程、よろしくお願いいたします。

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