GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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そういえばサブタイトルの区分である「α」「β」って、皆さんとしてはどうですか?
半分は自分が分かりやすくするためのものですので、正直邪魔、もっと別ので良いんじゃないか、等ありましたら、遠慮なく仰ってください。


β04.絶対的に足りなかったもの

 

絶対的に足りなかったもの

 

ジャヴァウォックの影響からか、この辺りのアラガミはめっきり減った。……その減ったアラガミを防衛線にいる神機使いとアリスがだいたい片付けているんだから尚更だ。

訓練場は新人達が占領中。欧州各地の神機使いが集まったとは言え、どこの支部も主戦力は保持しておきたいところ。増援に来た人達の中には新人がちらほら……とは言え、当然ベテラン神機使いも派遣されている。彼らは新人にとっていい訓練教官であり、こぞって訓練場を使って自身の鍛錬に励むわけだ。

……だからこそ、と言うか……何らかの施設を使用した訓練をしようと思い、かつ教官以外を希望した場合、ある一つに限定される。

 

「……もうちょっと近くからやった方がいいかな?」

「そうしたら?久しぶりなんでしょ?」

 

ふさぎ込んでいた渚を、気晴らしに、と言って射撃訓練に引っ張り出した。……出たら出たで何だかんだ元気に振る舞うのを見て少し申し訳なくもなるのだが。

 

「集弾率83%……渚は?」

「92%だけど……そっちより近いし。同じくらいじゃない?」

 

ロシア支部の射撃訓練場は、実銃と神機共用で全長70メートル。欧州防衛の要というだけあって、他の支部よりも訓練設備は整っている。

……それ以上にアラガミが少ないこともあるのだが……極東支部なら討伐しても討伐しても湧き出てくるアラガミが訓練道具だし。

 

《基礎訓練が終わったら即実戦だったっけ。……正直冷や冷やした覚えしかないんだけど……》

【う……】

 

私は実銃、渚は新作のバレットの試し撃ち。神機から銃が失われた私にとってはあまり縁のないところだけど、とりあえず表示される数値とその見た目で何だかすごいことだけは分かった。……彼女にはバレット作りの才能でもあるのだろうか?

 

「っていうか何で実銃なんて……使うときなんてある?」

「……一応ね……あまり使うときが来てほしいとは思わないけど。」

「?」

 

……三年前。捕らえられた大車を見て一瞬だけ殺意が芽生え、同時に人に対して神機を使いたくないという自らの想いに気が付いた。でも、あの時の敵はアラガミではなく人……最悪の事態に最悪の手段をとれなくては、また同じことが起こったときに何も出来ずに終わってしまうかもしれない。

 

《いざとなったら?》

【……任せるよ。私だけで出来る気はしないし。】

《……了解。》

 

神機を使いたくなかった理由は、何度考えてもこれがお父さんの研究が出した一つの結論であり形だったから。……なら、ただの武器なら……なんて根拠のないところへ行き着いて、一昨年から実銃での射撃訓練を始めた。

 

「……そろそろご飯食べない?いい時間だし。」

 

やっている身でこんなことを言うのも何だけど、この訓練は無意味に終わってほしい。人相手はもう嫌だ。

 

「引っ張り出したんだから当然おごりだよね?」

「……はい。」

 

まあ最近は何も壊していない……じゃなくて、支払先がないし。一人分くらいは余裕だろう。

 

「何食べるの?」

「うーん……ボルシチとか?」

「分かった。」

 

それ以前に今日の目的は渚を元気づけることだ。一食くらい、おごってあげるものだろう。

 

   *

 

「……全く動かないな。姉上、どう思う?」

「何かを待っているか、何かをしているか……どちらにしろ警戒しておくに越したことはない。」

 

防衛線は定時交代制。個人個人に時間が割り当てられているため、そこにいる神機使いの所属は様々だ。

ただし最前線でのオペレーション経験がある人材が少ないせいで、姉上の担当時間は他より長い。当然ながら俺がそれに被ることもあるわけだ。

 

「そろそろ動いても良さそうなんだがなあ……何も喰ってないんだろ?」

「……捕喰の必要があるかどうかを疑うほどにな。」

 

悪態をつくかのように言い放った姉上。俺もさらに何か聞くでもなく、ジャヴァウォックの映像監視を続けた。

その場に留まって動かないアラガミ……コクーンメイデンのような足のない類を抜けば、人類が初めて遭遇するタイプか。できればこのまま消えて……

 

「……ん?」

 

突然ジャヴァウォックが動き出した。……と言うより、身悶えし始めた。

 

「戦闘準備は?」

「全員整っているはずだ。」

 

戦闘の心配をしつつ画面をのぞき込み……数秒後に口を開けたまま固まった。

 

   *

 

ロシア支部にはこれで三回目の訪問……それら全てでボルシチを食べている。何せ本場とあって味が多様というか多すぎるというか。食堂のメニューの中で圧倒的な存在感を放つそれを選ばずにはいられないほどだ。

……その日に仕入れられた材料によっては作ることが出来ないものも出てくるそうだが。

 

「神楽って前何選んだんだっけ?」

「前は……あ、これこれ。このシュリンプのやつ。」

 

……こういうのをガールズトーク、とでも言うのだろうか。正直、アラガミである自分がこうして誰かと笑っていられることが当たり前になっている今の現状が……すごく怖い。

 

「今度アリサにお勧めとか聞いてみよっか。」

「変わったやつ薦めてくるんじゃない?」

 

ふとした拍子にこうした小さな楽しさを全て失うかもしれない。そうなったら、きっと私は人として暮らせなくなる。

人を喰らった可能性があるという事実は、どんなときでもこういった思考を産出していた。

 

「ロシア支部内の全神機使いへ通達。ジャヴァウォックの消滅が確認されました。技術部隊は遠征準備をしてください。」

 

それを半強制的に止めたアナウンス。そこかしこでざわめきや小さな歓声が起こる。……私達も同様だ。

 

「良かったあ……また大戦闘になるかと思ってたよ……」

「もう寝込みたくないって?」

「当然!」

 

……まあ、彼女にとってはそこが一番重要なんだろう。能力使用がそのまま負荷になる、というのも難儀なもののはずだ。

 

「あ、そういえばアリスは?まだいる?」

 

神楽に言われて初めて、アリスがジャヴァウォックを見張っていたことを思い出した。結局何も聞けずに帰ってきたけど……今も待っていてくれているのだろうか。

 

「ちょっと待って。」

 

東へ向けて若干広範囲に。小さな反応も逃さないようにゆっくりと。……いつの間にか、この索敵も上手くなったな……

 

「……?」

 

母さんを見つける前に何か別の偏食場に当たった。どうもかなり広範囲に散っているもののようだ。

……何だろう?懐かしい……

 

『俺に会え!まだもう一人いるはずだ!』

 

突然頭に呼び起こされた声。まだ思い出していなかった部分だろう。……でも……

 

『でもあなたは!?』

『奴を抑える!』

『無茶言わないで!』

『あいつらが残ってるのとどっちが無茶だ!さっさと行きやがれ!』

 

これはいつで、話しているのって……いったい誰?

 

『……これが最後じゃねえんだ。』

『……冗談……じゃないよね。』

『ああ。』

 

徐々に脳裏に浮かび始めたその時の光景。……ここって……エイジスへの通路?いつの?

 

『てめえから離れっとさすがに長くは保たねえ。なるべく早く逃がしてくれよ。』

『……これでお別れ?』

『俺とは……たぶんな。』

 

ぼやけた通路と、はっきり見える少年。まるで二カ所を同時に見ているかのようだ。

 

『いいか?俺のことはしばらく忘れろ。その方が都合がいいはずだ。』

『……』

『……頼んだぞ。』

 

一瞬目の前が真っ白になり、気が付くとそこには誰もいなくなっていた。さっきまで靄がかかっていた周りの景色も鮮明……いや、はっき見えるようになった、と言うべきだろう。それがいったい何を示すものなのかは分からないけど……

 

「……渚?」

 

怪訝そうな神楽の声に我に返り、いつの間にか捉えていた母さんの反応を確認する。……そこまで速くはない速度で、もといた地点から北西へ移動しているようだ。人が住んでいる地域が全くない場所を選んでいるのだろう。

 

「あ、ごめんごめん。……アリスは北西に移動中。しばらくしたら別の支部から連絡が来ると思う。」

「ふうん……北西に外部コロニーとかってあったっけ?」

「ない。それにコロニーに当たっても何もしないでしょ。」

「それもそうだね。」

 

……でもさっきの……いったい何だったんだろう?




そろそろアリス視点が書きたくなってきた…でもそうするとネタバレが…

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