GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
何と言いますかその…投稿が遅れましたこと心よりお詫び申し上げます。
八月下旬から謎の忙しさに見舞われ、毎日十五分ほどで書いていた小説も…現状二日おき程度でしか書けていないというですね…
…本当に申し訳(ry
と、まあそんなわけで、第八話、始めたいと思います。
誰の口にも戸は立てられず
「……そろそろかしら……」
「何がだ?」
鼓とナナが入隊してから数日。二人とも五回の実戦を経験し、小型ならば何一つ支障なく相手に出来るようになっていた。今日はロミオの監督の元、シミュレーションで中型種との戦闘訓練だ。
ロシアでは新種の出現に伴ったアラガミの襲撃があったそうだが、フライアには特に影響がない。順調に極東支部へ向かっている。
「このアラガミが実体を保持できなくなる瞬間。……あくまで予測でしかないけれど、もうそろそろ消滅するはずよ?」
「なぜその予測が?」
聞いてもくすくすと楽しげに笑うばかりの博士に少々の疑問を抱きつつ、その理由を俺が知る必要の無いものとして結論づけた。知るべきことは隠さないだろう。
ジャヴァウォックと名付けられた件のアラガミ。極東支部のある部隊が追跡している、アリスというアラガミにちなんでその呼称が決定したそうだが……アリスに関してのデータは極東支部外には秘匿とされており、俺が閲覧不可能な場所にある。
「……そういえば……確か今日はギルバートが来る予定……何か問題はありそう?」
「心配はいらないだろう。人の過去についてどうこう言う奴らでもない。」
……むしろ自分の過去の方を恐れる者もいる。孤児とあっては尚更だ。
「そう。……前も言ったけれど、お願いね?」
「ああ。」
噂通りか……あるいはその真逆か。どちらにしても、気を使わなければまずいか。
*
訓練も終わり、ロビーに戻りがてらナナさんとロミオさんとにいろいろとアドバイスをもらったり、逆に提案してみたりしていた。
「もうちょっと隙を見た方がよくないか?」
「でもショートだとダメージが入りにくくって……どうしても攻撃しなきゃって思っちゃうんです。」
「中型種は一発一発が小型の比じゃないからさ。むしろ動き回って攪乱する、ってのも手だぜ?」
「キョロキョロしてるときなら私も入りやすいよー。」
「そういうものですか……」
二人の神機は一発一発が強いタイプ。その分攻撃速度は遅めで、攻勢に出るにはそれなりの隙が必要なのだとか。
「ナナももっと回避を考えた方が良いぞ?ガードが速いわけじゃないんだし。」
「うーん……なんかタイミングが分かんなくって……」
「あ、回避のタイミングなら教えられそうです。」
「ほんと!?教えて教えて!」
対して、私の神機はダメージを与えるには手数が必要となる。その代わり、小さな隙でもちょこちょこ飛び込んで攻撃する、というヒットアンドアウェイの戦法が可能だ。
ジュリウスさんはその中間に位置するタイプの刀身を使っている。ある程度の隙があれば攻撃が可能で、一発一発もやはりある程度のダメージになるが、ガードで張り付いての連撃、回避を主体に攪乱、などの若干特殊な戦い方は行いにくいらしい。
「あれ?誰だ?」
ロビーに入ると同時にロミオさんが疑問符付きの声を上げた。軽く指さした方向には、確かに知らない人が立っている。
「腕輪してますね。黒いの。」
「んじゃあ新入りかな?」
「えっ?もしかして……後輩!?」
「いやいや。まだ分かんないって。」
フランさんと話す、長身長髪の人。その立ち姿は実際堂々としていて、何だか歴戦の神機使い、みたいな感じだった。
「……ここにいる神機使いは何人だ?」
「ギルさんを含め五人です。後ろに三名いらっしゃいますが。」
会話が聞こえる範囲に来た辺りでフランさんが私達を手で示した。一拍遅れて振り返ったその人の顔には若干の傷があって、本当にベテランのような雰囲気を醸し出している。……もしかしてそうなのだろうか。
「ああ、悪い。気付かなくてな。」
苦笑しつつ、穏やかに言った。優しい人のようだ。
……そう思ったんだけど……
「いいって。……っつーか、新入りだよな?どっから来たんだ?」
ロミオさんのごくごく普通の質問に対して返ってきたのは、握りしめられた拳だった。
*
「……」
人がいるときはたいてい何かしらの会話が行われているロビー。が、今は違うようだ。
「状況を説明してもらおうか。」
立ち尽くす鼓とナナ。平静を保つようにしつつも驚いているのを隠せていないフラン。尻餅をついたような格好のロミオ。拳を戻していくギルバート。……何があったかは想像が付く。
「あんたが隊長か?」
何かにいらつきを……と言うより、怒りを感じている様子のギルバートが口を開いた。それがロミオ自身に向けられているようには思えないが。
「こいつがムカついたから殴った。懲罰房でも除隊でも勝手にしてくれ。」
階段へ向かいつつ言い放った彼に対し、俺を含めて誰一人言葉をかけられなかった。
「……ロミオ。何があった?」
「前にいたとこ聞いたんだよ。そしたらいきなり殴ってきて……」
「でもさあ……ロミオ先輩も適当に聞き過ぎじゃない?嫌なことあったかもしれないよ?」
二人の発言を聞き、俺自身にも非があったことに気付く。
ギルバートは元々グラスゴー支部の神機使い……その頃の事件で、彼は上官殺しと言うレッテルを貼られている。初対面の相手に元の所属を聞かれたとして、快く答えられるはずがない。
誤解を招かない程度には伝えておくべきだったな……
「……」
「鼓?大丈夫か?」
硬直したままの鼓。……そういえば、マグノリア・コンパスでも喧嘩を見たときはこうして固まっていた。俺かラケル博士が声をかけない限りそのままだったはずだ。
「は、はい。何とか……」
なるべく早くロミオとギルバートの間柄を改善する必要がある。……と言っても、生憎それは俺が最も苦手とするものだ。ナナもこういうことに向くとは思えない。ロミオは得意だろうが……
「ちっくしょー……あいつから謝ってこなかったらぜってー口聞かねえぞ。」
「ロミオ先輩。それ駄々っ子みたいだよ?」
「知るか!」
……果たして彼がこの関係改善に適任か否か。考えずとも、答えは出ている。
残るは……
*
「……あの……ギルバート……さん?」
ロミオさんとギルバートさんの仲直りの仲介。ジュリウスさんから任せられた以上何とかしないととは思うんだけど……
「ギルでいい。……悪かったな。」
「あ、いえ……私は別に……」
むしろそれをロミオさんに言ってあげてください。……なんて、はっきり言えるといいんだけど……
「それで?俺への処罰でも伝えに来たんだろ?」
本当は優しくて穏やかな人なんだろう。純粋に自分の過去に触れられたくない、とか……ただそれだけ。さっきジュリウスさんに聞いたようなことがあったなら尚更だ。
「……ロミオさんとの仲直りが処罰だそうです。」
一瞬間をおいた後、小さく吹き出した。
「なるほどな。面白い隊長だ。」
ジュリウスさんに聞いた、上官殺しの噂の話。……本当にこの人がそんなことをしたのだろうか?
疑問というか、疑念というか。そういったものを感じつつ、ギルさんが手を差し出してきたのを確認する。
「ギルバート・マクレイン。元第二世代型神機使いだ。槍はそれなりに使う。」
「えっと、鼓結意です。……その……新人です。」
自己紹介、と言えるのかは分からないけど、自分を端的に説明すると今はこうなりそうだ。
……でもスピアかあ……ちょこっとくらいは立ち回りとか教えてもらえるかな?
*
しばらく誰もいなくなっていたロビーにナナさんが戻ってきた。任務は終わっているのに何を……と思いきや、彼女が足を進めたのは私がいる場所。
「ねえねえ。あのギルって人って、昔何があったの?」
「先ほどジュリウス隊長より説明がありましたが。」
「ほとんど噂のことだけだったからさあ……フランちゃんなら何か知ってるかなあ、って思って。」
……なるほど。結意さんは知るはずもなく、ロミオさんには聞けない。ジュリウス隊長ならば知っているだろうけど、さっき説明してもらっただけに気が進まない。本人などもっての外……結局私に回ってきた、ってところだろう。
「私も詳しいところは知りませんが、一年前に出現した新種のアラガミとの戦闘が原因だったそうです。」
「新種?」
「カリギュラの変種だそうですが……ご存じですか?」
「ちょっと待って。」
小走りにターミナルへ向かい、いくつかの画面を経てから戻ってきた。右上に青いアラガミの姿……カリギュラの項目を見てきたらしい。
「よろしいですか?」
「うん。」
……若干の機密事項を含むだけあって話すのに気を使う。が、ナナさんの階級では閲覧できないのも事実だ。機密に抵触しない程度に教えないと。
「その変種との戦闘の際、ギルバートさんの上官が負傷。同時に腕輪を破壊され、侵喰が始まったそうです。」
「その人が今植物状態にある人?」
「はい。状況を不利とみた彼はその場からアラガミを引き離し、戦闘を続行。上官の方は近くにいた別の神機使いによって救出され、何とか一命を取り留めたものの現在は植物状態にあります。」
上官の名前、近くにいたという神機使い、そのどちらも明らかにされていない。……と言うより、私の権限では見ることが出来ないレベルの機密として設定されている。
「その人ってもう……?」
「回復の見込みは高いそうですが、すでに一年が経過していることもあって、彼の上官殺しの汚名を流布させる一因にもなっているようですね。その方の延命治療を続けているのも、婚約者の方たっての願いがあるからだ、と。治療費も神機使いに対する保証期間を過ぎたため、その婚約者の方が全額負担しているとのことです。……まあ、これはグラスゴーの知り合いからの情報ですので……鵜呑みには出来ませんね。」
ギルバートさんの判断は正しい。移動中に救護、回収要請も出している上、ヘリが降りても何一つ問題がないところまで引き離して戦闘を続け、その場から移動しないように努めていた。……全くもって非の打ち所のない行動だ。近くに神機使いがいたのなら、最悪の事態にも対処できる。
「端的に言ってしまえば、彼の行動には何一つ問題がなかった……神機使いとしてはですが。」
「?」
「彼が報告書にまとめた中に、負傷した上官を狙ったのを確認し、すでにダメージが蓄積されていた右腕を攻撃した、とあったそうです。また、救出されたとはいえ上官がアラガミ化しかけたことは事実であったため、彼に対し査問会が開かれました。……その際には、一度だけ上官を囮にしてしまった、とはっきり告げたそうです。」
……それがどのような状況でそうなったのか。そもそも彼は上官を助けようもなかったのか。その辺りが分からない以上、結論を出すのは早計だと言わざるを得ない。
それでも噂は一人歩きするものだ。一度流れてしまった以上は……
「そっかあ……ありがとね!」
また小走りで去っていったナナさんを見送りつつ予定進路を確認した。
……激戦区極東。ひとまずの目的地への進路だ。
フラン視点は始めてかな?なかなか正確の掴みにくい人がGE2には多くて…二次創作泣かせですね…
本日は残り二話の予定です。