GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
ブラッドが五話くらい進む→クレイドルが二話くらい進む。
…ちょっと狂っちゃったかな?
騒がしさ
旧市街地から山岳、一時海岸まで抜け、また内陸へ戻りつつ山岳地域の外れへ。そこからはヘリを降りて本格的な偵察任務となる。今は降下予定地点へ向かっているところだ。
「結局ここまでは何もありませんでしたね。」
「ああ。」
「……何かいそうですか?」
「いや……この辺りには何もいねえだろ。むしろあっちの奴の方が気配が強え。」
西側へ顎をしゃくる。……正直、あの元凶からぶっ潰してやりたくもあるが……今のままで戦えるとは思えないだけあって、討伐を考える度に舌打ちを続けている。
「ソーマさん。神楽さん達から連絡ってあったんですか?」
彼女はエリナ。エリックの妹であり、神楽が初めて助けたやつだ。……あまり戦場に立ってほしくない、とは言っていたが……あいつは人の生き方に口を出す質じゃねえ。
「ツバキからまとめてな。ロシア支部で待機するらしい。」
「待機ですか?」
「ロシア東部の奴が動き出すとまずいだろ?」
頷いたエリナを見て、やはりどこかエリックに似ているなと感じた。頷く仕草が瓜二つだ。
……いや。エリックの方が仰々しかったことは否めねえか。
「じゃあ動き出した場合は……」
「まずロシア支部にいるやつらが対応する。……つっても、まともに戦えるのは神楽と渚くらいだろうな。」
「私達は動かないんですか?」
「向こうから要請が来たらすぐ動くことにはなるが……こっちはこっちで激戦区だ。あまり人員を出すわけにもいかねえ。」
それどころか、おそらく俺は動けない。感応種が今のところ極東地域でしか確認されていないことを考えると、俺、神楽、渚の内の誰か一人はアナグラにいる必要があるからだ。
……討伐隊が全滅しかけた、となれば話は別だろうが。
「案ずるなエリナよ。」
……無駄な発現が開始された。それを感じたのは俺だけではないだろう。
エミール・フォン・シュトラスブルグ。エリックやエリナの家……つまり、フォーゲルヴァイデ家と対を成す名門一族の御曹司であり、エリックとは元クラスメートという旧知の仲……と、まあ肩書きだけは立派なもんだ。
問題はその性格……
「たとえどのようなアラガミが来ようとも……このエミール、命に代えて君を守って見せようではないか!」
「……いや別にどうでも良いから。」
エリックに輪をかけた仰々しさ……そこに、エリックの友人である、という訳の分からねえ自負……何をトチ狂ったのか、エリナを守るのは自分の役目、だのと騒いでいるわけだ。
が、エリナはすでに中型種を任せる程度なら差し障りないところまでは来ている。エミールも同レベルだ。……要は、守る守られるの関係ではない、ということになる。
それに加えてエリナは異常なほどプライドが高い一面を持つ。つまりは……
「何を言う!我が唯一のライバルであるエリックの妹……それだけで!僕には君を守る理由がある!」
「だからいらないってば!そもそも自分の心配したら!?昨日なんて私に助けられてたくせに!」
「なっ!あ、あれは卑劣なアラガミが!」
「卑劣って……突進に突進で応えるってどういう思考回路してるのよ!」
「それこそ騎士道!面と向かってこそ意味があるのだ!」
「相手は騎士じゃないでしょうが!」
……こういう時、まとめるのは部隊長だ。……普通なら、だが。
「だから喧嘩するなって……」
「コウタ隊長は黙ってて!」
「これは我々の問題!口出し無用!」
……まあ、威厳も何もねえわけだ。
「……俺って何だっけ?」
「隊長のはずだが?」
「コウタ。頑張ってください。」
「……」
つい先日も隊長という役目について相談をしてきていた。こいつはこいつなりに考えているんだろう。
……ただ単にエリナとエミールの二人が隊員としてはかなり扱い辛い性格であるだけだ。
「まもなく降下地点です。準備をお願いします。」
パイロットからの通達に二人も喧嘩を止めた。……何だかんだ言って、こいつらもしっかりと自分のやるべきことは理解している。普段は喧嘩ばかりだが……戦闘ではあまり心配する必要には迫られないのもそこから来ているのかもしれない。
「それとソーマさん。降下地点から南西2,5キロの位置に感応種と思われるアラガミと他二体の中型種の反応を確認しました。対応をお願いできますか?」
「ああ。回収はどうする?」
「討伐完了次第連絡を。」
「了解だ。」
極東支部からかなり離れているとは言え、感応種は現在の最優先討伐対象だ。無視はできない。
「大丈夫ですか?」
「昨日はあまり忙しくなかったからな。行けるさ。」
感応種を一手に引き受けている分、それら以外のアラガミは他のやつらがだいたい対応してくれている。ありがたい限りだ。……正直申し訳なくもあるが。
「先に降りる。ハッチを開けてくれ。」
「はい。お願いします。」
なるべく早めに終わらせるとしよう。今日の目的は偵察だ。
*
防衛戦から二日。ロシア支部は負傷した外部居住区民で溢れかえっていた。
「……やっぱり少しは流れちゃったみたいだね……」
「あの数だったし……でもまあ、怪我って言ってもほとんどが軽傷だし。誰も亡くならなかっただけでも良かったんじゃない?」
昨日までは一人で一部屋を使わせてもらえていた私達も、部屋を空けるために相部屋を申し出た。リンドウさんは男性だから一人。一つの部屋に入れるのは二人までだから、ツバキさんも一人。相部屋は私と渚だ。
……ちなみにこれはここのオペレーターからの進言でもある。支部内にアラガミがいるような気がする、というのはどこでも言われることらしい。アナグラのように対策が採られていなければ尚更だろう。
昨日からアラガミを食い止めていたアリスはと言えば、ロシア支部東十数キロまで後退している。その五キロ先には神機使いによる防衛戦が張られているのだが、彼らが接近すると途端に支部から百キロは離れたところまで転移してしまうため……絶賛放置中だ。
《かなり潰したと思ったんだけどなあ……》
【でも私達が対応したのってほとんど禁忌種だから……通常種はかなり通しちゃってたんじゃない?】
《そんなもんかなあ……》
ちょっとばかり不満げなイザナミに答えつつ、二人分のコーヒーを淹れていく。
「砂糖とかミルクとかっている?」
「ミルクだけ。少しで良いよ。」
例のアラガミへの警戒が続いたこの二日……結局、何事もなく過ぎた。……進展も、だ。
唯一進んだことは当該アラガミの呼称の決定……全く同じ偏食場を持つアリスにちなんで、と言うことらしいのだが……
「……ジャヴァウォック……ねえ……」
「言いにくくて仕方ないんだけど。」
……ロシア東部から全く動かない、なんていうアラガミに対して、本部どころかフェンリルという組織そのものが対応を決めかねている。明け方に偵察機が飛んでカメラで記録したときも攻撃はしてこなかったそうだ。純粋に距離があっただけかもしれないけど。
最大望遠で撮られた写真から察するに、細身の獣……あえて言うなら狐に近い外見の超大型アラガミらしい。細かい部分が全く分からないのはまあ仕方ないだろう。
《その内バンダースナッチとか出てきたりして。》
【洒落になってないよ……】
何のためにそこに留まっているのかだけでも分かれば楽なんだけどなあ……なんて思いつつ、渚にコーヒーを渡す。
「ありがと。……うん。やっぱりおいしい。」
「当然。」
……ただのアラガミではない。それ以外何一つ分かっていないって言うのは……けっこう不安なものだ。
「……」
「どうしたの?」
「ん?いや……その……」
どこか不自然な様子の渚。両手でカップを持ったまま少し考え込むかのようだった。
「……どうしてもさ。アリスとかジャヴァウォックとかのこと考えると、家族云々まで気にしちゃうんだ。最近はいろいろ思い出してきてるし。」
「……」
「でもそうやって思い出したことの中に家族のことって何もなくてさ。人として生まれた以上、絶対に親がいるはずでしょ?だけどそれが曖昧になってるから……」
その先は何も言われなくても何となく分かった。……同時に、彼女の中の不安が人が綺麗に取り払える類のものではないことも。
「……私が言えたことじゃないかもしれないんだけど……」
「?」
「悩んで悩んで悩み抜いて、そしたら割り切っちゃおうよ。もしかしたらいつかひょんなことで思い出すかもしれないんだし。」
「……また荒療治を……」
ため息を付いた渚。彼女には少し無責任な発言を繰り返すことになるけど……
「それはそうだけど……でも成るように成るって。」
「成せば成る、とも言うけど?」
「それは自分が出来ることなら、でしょ?」
「……」
「やることやり切ったんだから。後は流れてみよう?」
……彼女にこう言える根拠……それはただ単に、私が自分の体について受け入れるまでの過程で行ったのがそれだった、ということだけだ。正直彼女に当てはまるか、と聞かれたら、否と答えるほかない。
でも、残念ながら私はそれ以外の方法を知らない。……実際、それしか出来ないから家族のことをあまり深くは考えないようにしているのだ。
《……》
【……イザナミ……なんか……その……】
《沈黙が耳に痛い、と。》
【……はい。】
……本当は彼女自身が思い出すことが一番いいんだけど……こればっかりは私には……
「……がと……」
「え?何?」
はっきり聞こえなかったけど、口が動いたのだけは見えた。……まあ、罵倒されても仕方ないだろうなあ……
「ううん。何でもない。」
「そう?」
軽く笑顔を浮かべつつコーヒーを飲み干した渚は、そのままカップを置いてこう告げた。
「母さんに会ってきても良いかな?」
……いつもなら驚いたところだろうけど、今は何だか納得できた。
「……追い付ける?」
「追い付いてみせるよ。」
「分かった。二人には伝えておくね。」
……決意のこもった目……彼女なりの結論が出たのだろうか。
「けじめ付けてくる。」
「……行ってらっしゃい。」
極めて自然に、これから食事にでも行くような口調で言い切っていた。
*
支部を出るのとほぼ同時に転移した。距離にして十数キロ。ちょっとした断崖が連なる地帯だ。
《……》
そして、三メートル。私に背を向けて立つ、母さんとの距離だ。
「……久しぶり。」
《……ええ。》
一年前と何一つ変わっていない。違うのは、全身がアラガミの返り血で染まっていることだけだ。
「どのくらい戦ってたの?」
《あなた達よりは短いわ。》
「そっか。」
けじめを付ける、と言って出てきたは良いものの……その後を全く考えていなかったことに気付く。会話が捗らないのが良い証拠だ。
《あなたは?》
「え?」
《何かしようとして来たんでしょ?》
「……うん。そうなんだけど……」
……何かしよう……そう。本当に“何か”しよう。それだけ考えていた。“先”なんて何一つ見えないし、“何か”が何なのかも全く分からないけど。
「……先輩に言われたんだよ。家族のことを思い出せなくって悩むくらいならいっそ割り切っちゃえって。でも私はそんなに器用じゃないし、自分をコントロールできる方でもないし……」
《……それで私に昔のことを聞いてみようって?》
「そうじゃない。」
過去のことは意地でも思い出すつもりだ。だから悩むし、考え込む。……でも何一つ思い出せていない今、それが間違いかもしれないって考え始めた自分もいる……
だからこそ、神楽にかけてみたいって思った……って言うより、かける他ないのだ。それが成るように成るっていう曖昧な可能性であったとしても。
「けど、せめて母さんが教えても良いって考えている範囲のことは教えてほしい……って……今現在のことでも良いからって……そう思って……」
《……》
尻すぼみになった言葉。ほとんど表情の変化がない母さんの顔からは、その感情が窺えない。
「……やっぱり……だめかな?」
……予想はしていたことだ。母さんは私への干渉を極力避けて来ている。今話せているのも、ある意味奇跡に近い。
《……聞きたいことは何?》
「えっ?」
《今のあなたに教えて良いことはたくさんある。でも、それらを全て知ったとしても、あなたにはどうしようもないことばかり……だから一つだけ、あなたの知りたいことを教えるわ。》
たった一つだけ。でも、私の知りたいことを教えてくれる。そう言われた途端に、聞きたかったはずの全てを聞けなくなっていた。
何で私はアラガミになったのか。それ以前に母さんがそうなったのはどうしてなのか。家族はどんな人達だったのか。今生きているのか。
……私は本当に、母さんの子なのか。
「……」
まとまらない思考を必死でたぐって、そのせいで余計に絡まらせて。一つだけ知りたいことを知ることが出来るのに、その知りたいことを見つけられない。
《……まとまってからでいい。あなたからは逃げないから。》
「っ……」
……悔しかった。
別に悔しいなんて思う理由はないはずだ。ただ単に考えがまとまらなくなっただけであって、何かが出来ないことが確定したわけじゃない。たった今、逃げないと、まとまってからで良いと言われてもいる。
……でも、その悔しいと思う理由がないことそのものが悔しかった。
《またね。》
目の前からいなくなった母さんを目で追おうとして、でも追えないことに気が付いて……
「あああああああ!」
断崖の岩を殴りながら、意味もなく叫んでいた。
さて。ここまでで本日の投稿は終了となりますが…ここでちょっとした告知をば。
…えー…この小説が連載中だというのに申し訳ないとも思うのですが…
オリジナル小説、始めます(汗)
あ、今回汗ばっかりだ。
というのも、実はその小説、すでに半年以上プロットを練っていたものでして。あまり放置していると変な方向に曲がっちゃいそうだったんです。
ちょうど初投稿から一年が経過するかしないかでもありますし、ここは一発書いてみよう!と…
思い立ったが吉日なのか善は急げなのか、いやむしろ厄日になるのか回り道したほうがいいのかは分かりませんが、決意した次第です。
まあそんなわけで、興味のある方はご覧ください。
タイトル
カプリッツォ-神々の宴-
URL
http://novel.syosetu.org/32067/1.html
あ、一応戦闘物です。恋愛ストーリーとかだと無駄にのろけちゃいそうなので。
それでは、長くなりましたが本日はここでお別れとさせていただきます。