GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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推敲しているときに気付きましたが、GE2編ではこれまでと比べてその場での説明を薄く書いているみたいですね…
違和感を感じることもあるかとは思いますが、最終話までには全て回収していきますので、今はこのまま読んで頂けるとありがたいです。


α04.血の声に従って

 

血の声に従って

 

「えっと……失礼します。」

 

初陣は無事終了。部屋まで帰り着き、やっとのんびりできるかなあ、とか思っていたのだが……

お義母さんが呼んでる、と放送で告げられた。それも大至急……

 

「いらっしゃい。元気だった?」

「うん。」

 

いつもの車椅子ではなく、研究室のソファーに腰掛けているお義母さん。数冊の本や何かの紙の束なども横に置いてある。マグノリア・コンパスの研究室にも入ったことがないだけあって何だか新鮮だ。

 

「車椅子は?」

「車輪が取れたの。修理してもらっているわ。」

「そっかあ……あ、座っていい?」

「ええ。」

 

ミルクティーを受け取りつつお義母さんの横に座る。一年……いや、一年半ぶりかもしれない。お義母さんのくれるミルクティーの甘さも、自然と懐かしさを呼び起こした。

 

「ふふっ……前に会ったときは膝に乗せていられたのに。大きくなったのね。」

「そうかな?」

「ええ。もう私と背も変わらないもの。」

 

頭を撫でる手につられるようにすり寄り、懐かしい感覚に身を任せる。初めて撫でてもらったときは……少しだけ怖かったっけ。

 

「ジュリウスから聞いたわ。すごく頑張ったって。」

「うーん……」

「どうかしたの?」

 

今日の任務中のことははっきり覚えてる。けど、それが本当に自分でやっていたことなのか、と聞かれると……正直分からない。いつもならあんなこと……

 

「うー……」

「……それでね。ジュリウスからこうも聞いたの。いつもの結意じゃないみたいだったって。」

 

……ジュリウスさんも気付いていたのだろうか?でもまあ、それならそれで話は早いかもしれない。

 

「何か……自分でやってるのに自分じゃないみたいな感じだった。」

「……そう……」

 

手元の本の中から一冊を手にとってパラパラと開いていくお義母さん。しばらくすると、目当てのページが見つかったのかめくる手を止めた。

 

「……神機使いの初陣では、初めての戦場という環境や神機との接続による軽いフィードバックによって精神昂揚状態となる場合がある。数回の実戦を積むことで解消される模様だが、希に錯乱することもあるため注意が必要である。……たぶんこのせいね。」

 

読み上げを済ませて本を閉じると、笑顔で私を引き寄せた。……のを良いことに、膝枕をねだってみる。……いやまあもう枕にしちゃってるんだけど……

 

「少し怖かったんでしょう?」

「う……」

 

……実際、自分が自分じゃないような感覚は怖かった。それが感覚に収まらず、もし現実に私が私じゃなくなっていたら……なんて考えちゃったわけだし……

 

「大丈夫。ここには私もジュリウスもいるもの。怖がることなんてないわ。」

「……うん。」

 

体をお義母さんの方に向かって転がし、手をお腹に回して抱きついた。……不安は……なかなかはがれてくれない。

 

「もう……子供みたい。」

「まだ子供だもん。」

 

十二歳だったらまだ許され……ると願う。

 

「……怖かったわね。でも大丈夫。あなたのことは、絶対に守るわ。」

「うん。」

 

……安心したからなのか、どっと眠気が押し寄せてきた。

 

「眠いの?」

「うん……」

 

背中がゆったりとしたリズムで優しく叩かれ、よりいっそう眠気が増していく。……このまま寝ちゃっていい……のかな?

 

「初めての実戦で疲れたのね。ゆっくり休んだ方が良いわ。」

「……ここでいい……?」

「ええ。」

 

マグノリア・コンパスではなかなかできなかったお義母さんの独り占め。それができることにちょっとばかりの優越感を抱きつつ、睡魔に身を任せていった。

 

   *

 

……眠った。薬は効いたらしい。

 

「……さてと。アブソル。今日のはあなたの仕業ね?」

 

返事は……ないか。今は表層まで出る気はない、ということだろう。

 

「とりあえず二人もはぐらかすけれど、あまり目立ったことをすると感づかれるわ。特にジュリウスに。気を付けなさい。」

 

そろそろお姉さまが車椅子を持ってくる頃……結意が起きたら、庭園に行かせてジュリウスを呼ばないと。

 

   *

 

「鼓がいない中でどうかとも思うが先に紹介しておこう。ロミオだ。」

 

結意ちゃんが呼び出しを受けた直後、隊長が部屋を訪ねてきた。用件はフライアの神機使いの紹介、とのことで……

 

「えっと、ナナだっけ?噂で聞いてるよ。特にこいつから。」

「隊長から?」

「俺は新人が入ったことを伝えただけだ。」

 

おちゃらけた雰囲気だけど、何とはなしに自信を感じさせるような人だ。やっぱり戦っているとそうなってくるんだろうか。

 

「ロミオ・レオーニ。フライアでは二番目の神機使いで、神機はバスターを使ってるよ。……ひとまずこんなもんかな?」

「問題ない。付け加えるなら、俺は神機使いになってから一年。こいつはそろそろ八ヶ月になる。」

 

けっこうにぎやかで明るい性格のようだ。隊長とは若干対照的だけど……何だかこの二人仲良いなあ……

 

「あれ?隊長と、ロミオ先輩と、結意ちゃんと、私……だけですか?」

「ああ。そもそも俺たちブラッドに投与される偏食因子は通常の神機使いのものとは全くの別物だ。それだけに適合者が限られている。今のところは四人だけだが……ロミオ?」

 

隊長が怪訝そうに声をかけた。何かと思って見てみれば……

 

「先輩……いいね……何かいい響き!」

「……あのー……先輩?」

 

……なぜか妙なテンションになった先輩……あ、もしかして先輩って言わない方が良いのかな?

 

「よし!先輩に聞きたいことがあったら遠慮なく聞いて良いぞ!」

 

そういえばここの神機使いは四人……内二人が私と結意ちゃん、ってことは、ロミオ先輩にとっては初めての後輩なのかあ……通りで。

 

「じゃあ質問!血の力って何ですか?」

「うっ……い、いい質問だね。えっと……血の力って言うのは……」

 

……あれ?

 

「いや。その辺はジュリウスの方が詳しいから!」

「……」

「……」

 

まさか最初の自信は……虚栄心?

 

「……先の戦闘でも教えたが、血の力はブラッドのみに備わっている特殊な力のことだ。経験を積み、個々が成長することによって覚醒するとされている。」

 

真面目な表情ではあるけど、特に威圧感があるわけではない。

……ロミオ先輩には悪いけど、こういう人の方が先輩って感じがする。

 

「それに際し最も重要と思われているのが、精神面での成長だ。」

「精神面?」

「ああ。ブラッドアーツが血の力の発現だという話はしたな?」

「えっと……あ、はい。」

「ブラッドアーツはその他に意志の力の発現だ、と言われることもある。自身の成すべきことを成し、自らを高めようとする意志。例え自分を危険に晒すとしても、誰かのために動こうとする意志。……どれが正解でも、どれが間違いでもない。」

 

振り返って庭園の奥へと歩いていく隊長。木漏れ日を再現した庭園の光の中に立つ姿は、どこか威厳を漂わせている。

 

「……今のところ、血の力についてのはっきりとした定義はあってないようなものだ。あるのは方法論と自分のみ……その方法論すらも合っているかどうかは怪しい。」

 

……要するに何も分からない……?

 

「それだけに自分を信じることが重要になる……これは俺の持論だがな。」

 

話に一区切りつき、若干の沈黙が流れ始めた。……考えれば考えるほど、私なんかに隊長が言うようなことを出来るのか、と不安になってくる。

それに気付いたのだろうか?さっきまでの真面目な表情の中に少しばかりの笑みを浮かべつつ、私とロミオ先輩とにこう告げた。

 

「心配するな。お前達なら、いつか必ず血の力を手に出来るさ。」

 

……それがいつなのかが分かれば楽なんだけどなあ……なんて、贅沢なことを考えてしまう。

結意ちゃんが来たのはそんな頃だった。

 

「あ、ジュリウスさん!お義母さんが来て欲しいって!」

 

エレベーターを出ると同時に小走りでこちらへ向かいつつ、なんとなく可愛いと思ってしまうような声で隊長を呼んだ。……こう言っていいのか分からないけど、なんだか子犬のような仕草に思えて仕方がない。

 

「分かった。……ああ、ロミオ。彼女がもう一人の新人だ。自己紹介を済ませておいてくれ。」

「ほー……あの子がジュリウスの想い人か。」

「……違うと言ったはずだ。」

「冗談冗談!」

 

……結意ちゃんがたどり着く前に交わされた会話。にしてもこの二人ってけっこう仲良いんだなあ……羨ましい。

 

「話が終わったら解散で構わない。ナナも疲れたはずだ。今日はゆっくり休め。」

「はーい。」

 

いつか必ず。さっき言われた言葉が、若干の責任感を伴って響き続けていた。

 

   *

 

「失礼する。……鼓とナナのデータか?」

 

研究室のディスプレイに映し出されていたのは、先の戦闘時の映像とそれぞれの時点での数値。さらに二人と俺の初陣時と現在との比較用と思われるグラフだった。

 

「ええ。さすが、神に選ばれし子供達……すばらしいわ。」

「……確かにすごいな。俺の初陣以上じゃないのか?」

「いくつかはそう……と言っても、総合的にはやはりあなたが上ね。」

 

総合的には上。それは、鼓に対してはかなり大きな意味を持つ言葉だった。

持久力、瞬発力、耐久力、攻撃力、判断力とに大きく分けられたデータ。内、前四つが俺の初陣時を越えている。現在のものすら、瞬発力と攻撃力に関しては彼女が上だ。

……問題は判断力。

映像でも彼女が自らアラガミの中心へ飛び込む様子が捉えられており、かつ敵の攻撃に対する回避行動も危なっかしい面が目立つ。攻撃は最大の防御とは言うが……アラガミとの戦闘では、防御こそが防御だ。攻撃はその合間に行うべきものでしかない。

 

「ナナは瞬発力と判断力が標準レベル。持久力と耐久力が秀でているけれど……ハンマーを使っているのを考えると、もう少し攻撃力が欲しいところかしらね。」

「まだ力のかけ方を掴んでいないんだろう。ハンマー使いがほかにいると良かったんだが……」

「きっと自分で見つけられるわ。彼女としてもその方がいいでしょう。」

 

満足げともとれる笑みを浮かべつつさらに詳細なデータを開いていく。次々に映し出されるそれらの中、とりわけ目を引いたのはオラクルの凝集率についてのデータだった。

 

「訓練との比較……なのか?」

 

鼓の数値が訓練から初陣までで倍に膨れ上がっていた。……異常な速度、と言わざるを得ないだろう。

 

「実戦の時の様子と関係が?」

「あれは純粋に極度の緊張を受けた影響と考えるのが妥当……でもこっちは……計器の異常かもしれないわね。」

 

そうでもなければあり得ない。実戦に出ることで成長する神機使いは少なくないと言うが、ここまでとなると成長の域を外れている。

 

「一応チェックさせておきましょうか。」

 

タッチパネルが操作され、整備班へ報告される。……相変わらずこの機械の操作方法は分からないな……いったいどうやって動かしているのか……

 

「さてと。あなたへの話はこっちよ。」

 

これまで映し出されていたデータが全て閉じられ、全く別のものが開かれる。パーソナルデータのようだが……

 

「これは?」

「今適合試験準備に入っている神機使い。元はグラスゴー支部で動いていたそうよ?」

「……すでにベテラン……ということか?」

「そうらしいわ。……第二世代型からの転向、という話だもの。」

 

第二世代型とブラッドの第三世代型との間に神機の差はほとんどない。血の力とブラッドアーツが特別、というだけであり、それらを使わなければただの新型と変わらないからだ。

そう考えれば……かなりいい人材と言えるだろう。

 

「……ただ……」

「?」

「新型の出現時に、負傷した上官を放置してその場から逃走したという神機使い……その上官は別支部の神機使いによって救出されたものの、現在は植物状態……この話、聞いたことはない?」

「……フラッギング・ギル……」

 

かなり前のことであるだけあって、すでに信憑性には欠けることのみが噂として流れている。ひとまず確からしいのは、今現在各地で確認されている背に神機が突き刺さった赤いカリギュラに襲われたこと。そして、負傷した上官はラケル博士の言う通り植物状態のままであること。

 

「本名は……ギルバート・マクレインだったか?」

「ええ……」

 

実際に彼が逃走したのかどうか。上官を放置したのか、それともアラガミを引き離そうとしただけなのか。その辺りに関しては、人によって言うことがまちまちだ。上官から少し離れた場所で単身戦闘を続けていた、という話もある。

 

「入隊予定は来週……少し気を使ってあげて。ここには人付き合いに慣れていない子が多いから……」

 

その筆頭に言うか、とは思いつつ……来たら少し話でもしておこうかと思考を巡らせる。むしろロミオに頼むのも良さそうだ。

 

「ああ。何とか努力はしていく。」

「ありがとう。……他に何かある?」

「いや、問題ない。」

 

自分の苦手なことでも一定水準以上を常に要求される……隊長、というのも面倒な仕事だな……




ちょっと時間軸がずれそう…
あ、次回からはクレイドル編です。

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