GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
夏も本番。暑い日が続いておりますが、皆様はどのようにお過ごしでしょうか。
…え?私ですか?
…家から出ようともしないに決まってるじゃないですかあ(汗)
用のあるとき以外出ないです。はい。
まあ、とりあえず話を戻しましょう。
今回は結意の初陣と、クレイドルの方でのある事件が一区切り付くまで。計四話の投稿となります。お楽しみください。
戦場
廃墟、と言うものに、あまりいい感情を抱いたことはない。
崩れかけのドーム、風化しそうな本が並ぶ巨大な棚、瓦礫に埋め尽くされた広場。……動きにくくはない。見通しだっていい。遮蔽物もある。アラガミとの戦闘にはきっとすごくいい地形なんだとは思う。
でもそこが廃墟であるという事実が、何か嫌な感情を引き出してきていた。
「来たか。」
昔は植物園と図書館だったという建物が並ぶ都市跡。最近アラガミの通り道になっていることが分かったんだそうだけど……
「ブラッド候補生二名、到着しましたー!」
元気のいいナナさんに続いてトコトコと歩きつつ周りを見て……そんな時間が終わりを告げた。
「……準備は良いな。これより実地訓練を開始する。目標は六体。いずれも小型種だ。内二体は遠距離攻撃を行う。注意しろ。」
何でもないことのように告げ、行くぞ、と言わんばかりに背を向けたジュリウスさん。私としてはジュリウスさんに続くのがいいかな、って感じだったんだけど……
「あのう……これって実戦……ですよね?」
「ああ。そうでなければ実地訓練の意味がない。」
……実戦。そう聞いた瞬間、微妙に恐怖が背中を駆け抜けた。
「気にするな。お前達は死なせん。」
でもジュリウスさんは笑顔でそう言い切って……遠いなあ、って、ちょっとだけ寂しくなる。
「……はい。」
ぎりぎり笑顔で返事を返すことが出来た私に少しだけ微笑んでくれていた。……この人はいったい何度この場所に立ったんだろう……
「!」
そのジュリウスさんの後ろから一体のアラガミが現れた。訓練でも見た、オウガテイルというアラガミだったはず……いや。今はそれはどうだっていいんだ。
明らかに私たちを喰らいに来たオウガテイルを見て、まずナナさんがしゃがみ込んだ。それに反応したのか、狙いが完全にナナさんに定められる。
私も動けなかった。はっきりとした死の予感が全身を硬直させている。
……なのに……なんで私はナナさんを守るように覆い被さることが出来ているんだろう?
「無事か?」
アラガミのうなり声の中で聞こえた、落ち着いた問いかけ。恐る恐る顔を上げれば、オウガテイルの顎の付け根に左腕を挟み込んだジュリウスさんが目に入る。
「さて……」
右手に持った神機を剣形態へと切り替え、左腕を引き抜くと同時に斜めに切って吹き飛ばす。その一連の動きに無駄はなく、一日二日では到底追い付けそうもない距離を感じさせた。
「……ここは戦場だ。少しの油断が命取りになる。」
大き過ぎる背中を向けたジュリウスさん。ずっと見ていたはずのその姿が、記憶にある何もかもと違っていた。
「作戦開始だ。」
*
「ラケル博士。観測機器の設置が完了しました。」
「ありがとう。……」
「何か問題は?」
「いいえ。大丈夫よ。ジュリウス達のサポート、お願いね。」
「はい。」
突然の指示だというのに……本当にすばらしいオペレーター……これならいつでも結意の観測が出来そう。
「……相変わらずすごい数値……血の力の覚醒もすぐかしら?」
ナナのレベルは新人の標準より二周りほど高いくらい。それだけでもかなりの素質だというのに、そのさらに二割り増しのところに結意はいる。ジュリウスと比べても戦闘経験を鑑みれば遜色ない……むしろ上だろうか?
ブレードに展開されているオラクルの密度は変わらないものの、時折発生する地面からのオラクル量は訓練の時よりも若干多くなっている。
……この調子なら……私の計画は一つか二つステップを飛び越せそうだ。
「いつっ……」
少しだけ頭痛に見舞われた。……徐々に強くなるそれのせいで考え事が出来なくなる。
「まだ残って……残りカスのくせに……」
……仕方がない。またちょっとばかり黙らせに行くとしよう。
*
「一体もらった!」
開始早々、一体のアラガミの頭が飛ばされた。やったのは鼓だ。
「わー……結意ちゃんすごい!」
……訓練の時もそうだったが、どうも戦闘になると積極的に前に出ようとする癖があるようだ。癖と言うより性格だろうか?まあその辺りは特に問題ではないが……
「ナナ。左端からだ。」
「あ、了解!」
ほんの数十秒で二体を沈黙させている……ということは、あまりもたもたしているとナナが実戦を経験できなくなるわけだ。
アラガミに向かって少々の警戒を持ちつつ走っていくナナ。……彼女の戦闘が始まるまでにもう一体潰されそうだな。
「……鼓。あまり無茶はするな。」
通信機に向かって声をかける。が、返ってきたのは予想を遙かに超える言葉。
「大丈夫ですよ……すっごく楽しい……」
……初陣……のはずだが……こんなことを言える新人がいるのか?
そうして少しばかり面食らっている間にも、彼女はアラガミを切り刻んでいた。横一文字に切断した直後、刀を返して縦にさらに切り分け……四つに分かれ撥ね飛んだのを見るや、弧を描くように神機を振ってまた切り裂く。
……明らかに楽しんでいる。それも、おそらくは死と隣り合わせであることを完璧に理解しておきながら。
「……」
後で軽く話しておく方がいいかもしれないな……
「ジュリウス隊長。新手が接近中です。」
「数は?」
「三体のオウガテイルと思われます。」
二人の動きで最後の一体も虫の息になっている。三体程度ならどうとでもなるだろう。
「対応しよう。位置情報を頼む。」
「了解。」
会話の間にナナがドレッドパイクを宙に跳ね上げていた。最初の訓練では振り回されるだけだったハンマーもだいたい使いこなせているようだ。
……問題は鼓か……
「まだ生きてる!やった!」
歓喜の声と共に出窓を足場にして壁面を駆け上がり、間合いに入ると同時に切り上げて落下を止めつつ対象を若干上へ引き上げ、双方空中に留まるような形のまま熟練の神機使いに匹敵する速度で八つ裂きにする。最後の切り下ろしでまた自分だけが若干上へと飛び上がり、その場で銃に切り替えてすでに絶命しているドレッドパイクへと狙撃弾を撃ち込んだ。
……いつもの彼女ではない……と言えば聞こえは良いが、ほぼ錯乱状態と言って差し支えないだろう。
「位置情報の送信、完了しました。三十秒以内に接触します。」
「……ああ。」
ちょうどいいタイミング……ではある。とはいえ、これ以上二人を戦わせるのは少々不安だ。
「新手が来る。お前達は下がっていろ。」
二人の方へ歩きつつ声をかける。周囲を警戒しながらナナは下がり、俺が若干前に出る形まで行った。……が、鼓は……
「何で?」
普段の大人しい性格は欠片もなく、そこには殺戮を楽しむだけの異常者がいるだけだった。
「命令だ。下がれ。」
「……チッ……」
……鼓を知っている人間が今の彼女を見たとしたら……おそらくはかなりの混乱を感じるだろう。いつもは大人しく、特段目立つわけでもない少女の発言ではない。
「アラガミ、戦闘エリアに侵入します。」
廃ビルの上から飛び降りてきた三体のオウガテイルを確認しつつ、次の言葉を考えた。鼓に何らかの影響を与えることなく、伝えたいことのみを簡潔に伝える方法……
「……ブラッドのみに備わっているとされる血の力……その発現であるブラッドアーツ。お前達の当面の目標は、経験を積み、生き残り、血の力を覚醒させることだ。」
自分の血の力を発動させる。仲間を解放状態へ導く……今のところ、世界中にたった一つしか発見されていない血の力になるわけか……
「力が……漲る……」
「……?」
……どうやら、血の力がどういうものかを教えるのにもちょうど良いらしい。
「今から俺のブラッドアーツを見せる。少し離れていろ。」
効果範囲から二人とも外れたのを確認し、神機を居合いの形に構える。三体とも若干の距離を取ってはいるが……問題はなさそうだ。
「はあっ!」
神機を振り抜きつつオウガテイルの間を跳び抜けた。それぞれに当たった部分からさらに斬撃が加えられていく。
二人は……ナナに関してはかなり驚いているようだが……鼓がどうなのかが全くわからない。無表情を貫き通している。
……何にしても言わなければいけないことを言い切るのが先決か……
「人々を守り、他の神機使いの模範となるべくしてブラッド隊は設立された。それは期待の現れであり、今なお続くこの時代への希望の象徴だ。だからこそ、俺達に失敗は許されない。」
一年前、同じことをラケル博士から言われた。あの頃はまだ分からなかったが、今はこの言葉がどれほどのことを表しているかが良く分かる。
「……信頼に足る力を見せてくれ。」
わざと鼓に若干顔を向けつつ、ただただ淡々と言い切った。
…結意が危ない?いえいえ。今回限り(予定)の仕様です。