GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
っていうか神楽と渚回ですね。メインがそうですし…
いくつかの苦悩
「……全く……」
「ほんとどうしようもないね……」
……飲んだくれ、二名。
「……ほっとこう。」
「OK。」
この一年間、渚が遭遇したというアラガミ……呼称「アリス」を捜索しつつ欧州地域を転々としている。反応そのものはこの辺りで確認され続けているし、別の地域にいるとは考えにくいのだ。
《なんであの二人はオフの日なら毎日飲めるわけ?》
【……まあ二日酔いで出ることはないし……】
……そのアリスが渚の母親であるかどうかに関しては、今はまだ何も分かっていない。
「昨日どこで観測されてたんだっけ?」
「えっと……ロシア西部からギリシャ北西部にかけてを移動。その後転移した模様……だって。」
「……つかまんないなあ……」
部屋を出て会話を続ける。……どこか寂しそうな彼女。アリスとの接触が出来ていないことに一番焦りを感じているのは渚だろう。
「……最近さ。まだ思い出してない部分の夢とかよく見るんだよ。」
ぽつりと呟くように言いつつこのロシア支部の屋上に出て行った。どこにだって何にもないけど、星空だけは変わらずそこにある。
「一番思い出したいことはなかなか見られないんだけどね。断片的に分かってきたんだよ。昔のこと。」
「……」
どこか悔しそうに小石を蹴飛ばし、そのすぐ後にため息をついた。このところずっとこんな調子だ。
「……そのせいでなんか怖くってさ。一番思い出したいことが思い出せないのって、そもそもその思い出したいことがなかったからじゃないかって考え出しちゃったから。」
これまで強がっていたのか、それとも強がるしかなかったのか。今の彼女はどこか違和感を感じさせながらも、またどこかではしっくりくるように思えて……それが昔の自分を感じさせていて、ちょっとだけ辛かった。
「……あ、ごめん。こんな話して……」
「ううん。大丈夫。」
経験上、彼女が抱えている思いはため込まない方がいい類のものだ。愚痴みたいになっても吐き出した方が楽になる。
《自分で言う?》
【……面目次第もございません。】
……なんかすごく耳に痛いツッコミが聞こえた気がするけど……
「……明日オフだよね?」
「え?そうだけど……」
まあ、気にしても仕方がないだろう。
「ショッピングでも行こうよ。ちょっとならおごれるから。」
「……うん。」
少し自嘲するような笑みが浮かんだ。こういう言い方はちょっとひどいかもしれないけど、ずっと渚らしいとすら感じる。
「……神楽。」
「ん?」
「……ありがと。」
……一瞬だけ、彼女が妹であるかのように思えた。
*
「討伐対象アラガミの殲滅を確認。お疲れさまでした。」
無線からの言葉が安堵と疲労を同時に呼び起こした。……これでなんとか、明日は出撃せずに済むだろう。
「……頼むヒバリ。飯用意しといてくれ……」
「はいはい。そろそろ交代だから、作って待ってるね。」
「サンクス……」
タツミとのミッション……だが、もともとそうだったわけではない。
「あんまこういうこと言うのも良くないとは思うんだけどよ……やっぱあいつらと戦えるってのは羨ましいな。」
「フン。なんなら喰われてみたらどうだ?」
「……さすがに遠慮しとく……」
ネモス・ディアナでの一件以降、感応種と呼ばれるアラガミが爆発的に増加した。そいつらと戦えるのは今のアナグラには俺しかいない。
その感応種が出現した場合、俺は自分の任務を放り出してでもそっちに向かう必要がある。……その一例が今日だ。
中型種二体……それも完全に分断できている状態だったため、タツミが一人で出撃。が、討伐対象の殲滅後に感応種が出現し、結果別地域で任務に当たっていた俺が向かうことになった。……ったく……いちいち仕事増やしやがって……
「……大丈夫か?」
「神機の重さを実感できるぜ……」
石垣に凭れて座り込んだタツミ。神機もかなり傷付いている。……待たせちまったか……
「っつーよりお前もそうとうひどいぞ?ちゃんと寝てるか?」
「……今日ぐらいはしっかり寝られると願いたいな……」
感応種が増加してからは深夜の出撃も珍しくはなくなった。……まあ、おとといから休みなく来てやがるのを考えれば……今日の夜くらいは休めるだろう。
「再来週からお前もサテライト拠点に行くんだったか?」
「おう。ブレ公は来週からだ。」
ネモス・ディアナの建設方法の調査、並びにこれまでのアラガミの行動パターン調査を経て、アナグラ周辺に次々にハイヴが建設されている。
サテライト拠点と呼ばれるそのハイヴには第二、第三部隊員が一人ずつ配備される予定であり、それぞれが自身の持ち場を防衛する形にするらしい。
「カノンはこっちに残るけどな。アナグラにも一人ぐらい残ってる方が俺も楽だ。」
「そうか。……しっかりやれよ。じゃねえと俺が疲れる。」
「はははっ!ま、なんとかやってみるさ。」
……言うまでもなく、アナグラの戦力は激減する。補充は一人来るらしいが、新人二人を抱えたままではあまり変わらないだろう。
「俺がα地点、ブレ公がη地点……んでエリックがθ地点か。けっこうばらけるなあ……」
「仕方ねえだろ。かなり散らばってんだ。」
「そりゃあなあ……もうちょい近くってもいいと思うんだが……」
「共倒れ希望か?」
「……さすがにそれはまずいか。」
アラガミがあまり通らない場所……当然ながら、アラガミ天下の中ではその範囲は極度に狭く、かつ離れることになる。
「リンドウさん達は?」
「まだまだかかりそうだな。昨日神楽から連絡はあったんだが……」
「マジか……」
……できるだけ早く戻ってきてほしいものだ。そう考えずにはいられない。
*
翌日。
「……ふむ。」
「どう?」
「あ、待って。今開ける。」
欧州での作戦中、一番驚いたのはそこの住民達の服装だった。
比較的アラガミも人もが少ないためか飼育されている家畜の数が多く、その中でも羊の頭数は群を抜いており……
……何が余るって衣服用の糸と生地が余るのだ。まあ、自然と服は安価に、かつ呉服屋も少々豪華になり……
「……どう……かな?」
ショッピングはそこで締めということにもなりやすいわけだ。
「似合う似合う!」
「……神楽がはしゃいでどうするの……」
アリサがファッションにうるさかったのも頷けるなあ、と思いつつ、試着室の鏡に映った自分を見る。
淡い緑色の七分袖のシャツに、薄茶色のカーディガン。踝の上までの、水色のレース付きのグリーンのスカート。それに踵が低めの焦げ茶色のヒールと……落ち着いた色合いが好きなだけに、こういう服が似合うことを少し嬉しいと感じていた。
……神楽のコーディネートに感謝だ。
「そちらでご購入なさいますか?」
まあどこにでも商売上手な人はいるらしい。
「どうする?」
「……これがいい。」
……別に似合うからどう、とかはあまり考えていない。そりゃまあ似合わないものを着る気はないけど、これがいい、って思ったのは実際のところそれが理由ではなかった。
「じゃあこれで。」
「かしこまりました。」
誰かに選んでもらったもの、という事実が、それを欲しいと思わせていたのだ。
「23000fcになります。」
店員が告げた金額を聞いて若干の申し訳なさを感じたが、それについて何か言おうとする前に微笑んだ神楽と目が合った。
……今、彼女の目に私はどう映っているんだろう……
「妹さんですか?」
支払いを済ませた神楽へ店員が問いかけた。……まあ見た目からそう判断したのだろう。
特に気にせず、その店員へ違うと言おうとしたときだった。
「……?」
顔面蒼白で、少し震えながら立ち尽くしている神楽。息も少しだけ荒くなっている。
……まあひとまず、ここから出られるようにした方が良いだろう。どうも話すことすら出来そうにない。
「あ、いえ。仕事上の先輩なんです。」
「そうでしたか。大変失礼いたしました。またのご来店をお待ちしております。」
気付かれないように神楽の手を引きつつ店を出る。少し行ったところの広場にベンチがあったはずだ。
……問題はそこまで歩けるかどうか……
「……大丈夫?」
「……」
……彼女の様子を見て、何も考えずに彼女ごと転移した。
*
「はい。コーヒー。飲める?」
「……うん……」
とりあえず自室へ転移し、彼女をソファーに座らせてから十数分後。ようやく少し落ち着き始めた彼女へコーヒーを渡し、私もミルクを入れたコーヒーを飲もうとしていた。
「……ごめんね。私が誘ったのに……」
「気にしなくていいって。もともと私のせいだったんだから。」
私の言葉に少しは安心したのか、やっと少しだけ笑みを取り戻してコーヒーに口を付けた神楽。疲れた笑みではあるけど、全く笑っていないのよりはずっとましだ。
「……さっき店員さんに、渚が妹なのか、って聞かれたときにね……ちょっと怜のこと思い出しちゃったんだ。普段は思い出さないように気を付けてるんだけど……」
「そっか……」
微妙に嗚咽が混ざりそうな声色で語る神楽にかける言葉が見つからない。……情けない、としか感じられなかった。
「……一つお願いしてもいい?」
「ん?」
だからこそ、私に出来ることなら何とかやってあげないと、とすぐに思えた。……それが良いのか悪いのかは分からないけど。
「少しだけ……妹だって思って……いい?」
くしゃくしゃになりそうな彼女を見て、一年前のソーマの発言を思い出した。
『……真夜中に魘されて飛び起きることがあってな。だいたいはあいつがアラガミになった日のことを夢に見たときらしい。』
週に一回は出撃が遅い……それは、どうやら今も同じらしい。一昨日も少し起きるのが遅かった。
「いいよ。ずっとでも。」
私を抱きしめた神楽の、少し力が入り過ぎな腕がむしろ心地良い。体系的にも若干息がし辛くなるはずなんだけど……
「……私も、姉さんだって思うから。」
泣きじゃくり方がひどくなった彼女を見つつ、本当に姉妹だったらどれほど楽だったかと思わず考えていた。……想像しただけで、それを強く望み出そうとする自分すらそこにいる。
……私の家族……たぶん、母さん以外はもう生きてはいないだろう。母さんも生きていると言っていいかどうか……
それだけに家族を欲していたことに気が付いた。誰もいないことを不安と思ったのはいつからだったか……
「……あ。」
「……?」
完璧にシリアスになっていた私の頭に、神楽を元気にする笑い話が唐突に思い浮かんだ。
「この状況って……ソーマは……義兄さん?」
「……あ……」
……ここから数分。私の部屋で二人分の笑い声が響き続けたのだった。
リアルで知り合いの読者様方からの意見。
「神楽がチート。」
「主人公強すぎだろ。」
「え?こいつ完璧過ぎね?」
…そんなにすごい人とは書いているつもりがなかったのですが…
私の中では、メンタル面が強い人ランキングぶっちぎりの一位が渚(主に立ち直りの早さ。でも正直イザナミの方がすごいかも…)。ワーストが神楽なんですよね…意見の相違ってものなんでしょうか?
…そろそろあの番外編でも出すか…
では、本日の投稿はこれで終了とさせて頂きます。次回もよろしくお願いいたします。
追記
番外編に関しましては、読者様からのリクエストがあった場合それを最優先として書いていく方針です。
こんなのを書いて欲しい、などの要望がございましたら、ご遠慮なくお申し付けください。