GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
…にしてもジュリウス視点って…すごく書きにくいです…
過ぎた日々の中に
「ジュリウスさん!」
訓練場から出たところに、ここで一番会いたかった人がいた。
「久しぶりだな。……それにしても、驚いた。お前がここに来るとは正直考えもしていなかったからな。」
「私だってここに来るなんて考えませんでしたよ。」
お義母さん以外に話し相手がいないことを寂しいと感じられるようになった頃、ジュリウスさんに会わせてもらった。……確かあの時、ジュリウスさんはまず私がラケル博士のことをお義母さんって呼んでいるのに驚いていたっけ。
お父さんもお姉ちゃんもアラガミに殺されて離れ離れになって……あれから特に何でもない毎日に特に何でもなく過ぎていかれていた私が、お義母さんの次に本当の家族だって思った人。
「あ、もしかしてさっきの訓練、上で見てたんですか?」
手に持った資料のようなものに気付いて聞いてみる。すーっといたずらっ子みたいに手を伸ばしていくと、ジュリウスさんは苦笑しながらそれを隠した。
「こっちはもう一人のデータだ。お前のはラケル博士が調べている。」
「もう一人?」
「ああ。お前の同期になる。」
同期がいると聞いて、ちょっと残念な気持ちと安心感とを同時に感じる。自分のペースで自分なりにやりたい、って思う反面、一緒にがんばる人がいて、その人と切磋琢磨できるかもしれないことを嬉しく思って……なんか、いいなって。
そんな風に感じていたら、ジュリウスさんが私の頭を撫でた。
「さっきの訓練。見事だった。」
「え?……ほんとですか?」
「別に嘘を言う必要はないだろう。実際、あそこまでやれるとは思っていなかった。」
……自分でもばからしくなるほど、満面の笑みを浮かべている自分に気付く。自分に正直……と言えば聞こえはいいだろうけど、ただの子供の方が近いかな?
「よかったー……すっごく不安だったんですよ。」
「不安?」
どこか不思議そうに聞き返したジュリウスさん。そんな彼に……変わってないな、ってちょっと安心しながら続けた。
「だって、ジュリウスさんもここにいるって聞いてたし……みっともないとこなんて見せたくなかったですから。」
意地、と言って差し支えないだろう。ずっと兄のように思っていた人を、どこかで見返してみたい。そんなただの意地だ。
「……やっぱり……おかしいですか?」
さっきから真顔で聞いていたジュリウスさんを見て、ふと不安になる。……新人がいきなりこんなこと言っていいんだろうか?
でもその不安が杞憂であることを、彼自身がすぐに示してくれた。
「いい心がけだ。俺はそう思う。」
私の短い髪をとかすように撫でながら続けていく。
「新人の頃は皆、不安や一種の焦燥にかられる。……俺もそうだ。」
「ジュリウスさんも?」
「……俺の場合、俺を拾ってくれたラケル博士に恩返しがしたいと。それだけ考えていた。そのために焦りながらな。」
私の頭から手を離し、壁によりかかって私の同期の子のデータを見始めたジュリウスさん。仕事をしている彼を見るのは初めてだからか、少し緊張している自分がいた。
「ただある時、そういう生き方が間違いだと気付いたんだ。……そう気付くとどうも以前の自分がバカらしく思えたんだが……それからは自分として戦ってきた。」
……こういうのを精神論って言うんだろうか?今の私には分からない。けどすごく重要な気がする話。
そこまで言い切り、時計を見てから再度口を開いた。
「……鼓、続きは後にしよう。予定がある。」
「あ、ごめんなさい。引き留めちゃいましたか?」
私のために話していてくれたのが分かるだけに少し申し訳なく思う。それでいて、そんな私へ微笑みかけてから続けてくれるのが、ちょこっとだけ嬉しい。
……でも、やっぱり名前では呼んでもらえない……
「気にするな。……お前の同期だが、今はロビーにいるはずだ。軽く挨拶でも済ませておくといい。」
「はい。」
ジュリウスさんに名字で呼ばれる度……嫌われているような気がして辛いのだ。
*
「……ナナさん。訓練直後の大量の飲食はあまりおすすめできませんが?」
「むご?」
訓練が終わった後、何だかものすごくお腹がへった。部屋の清掃の間おでんパンを外に出しておいたのを大正解だったと思いつつ十個目を口に運んでいく。金髪のオペレーターさんに声をかけられたのはそんなとき。
「あいほうふあいほうふ!(大丈夫大丈夫!)もご……あはひっへはへへも(あたしって食べても)もぎゅ……全然太らないんだよー。」
「食べ終わってから話しては?」
「まあまあ。それ……んぐ。おいひいへふぉ?(おいしいでしょ?)」
「……」
さっき渡したおでんパンを不思議そうに見ながらも若干笑顔を浮かべつつ食べてくれている……えっと……フランさんだっけ?
「これがおいしいことは同意します。」
くすっと笑いながら次の一口に取りかかるフランさんを見つつ、私も十一個目に手を伸ばす。……このパンはどうしてこうも食べる手を止めさせないのだろう?
「とは言っても……そろそろ食べ終わる方がよろしいかと。腹痛で戦えない、なんて緊急時には通用しませんよ?」
「いやーお腹減っちゃって……」
頭を掻きつつもぐもぐと食べている私を見てフランさんは呆れ顔。なんか間が保ちにくいなあ……と考え始めた頃に、ロビーのエレベーターが少し大げさな到着音を上げた。
「……えっと……」
出て来たのは私より少しだけ年下らしき女の子。きょろきょろと何かを探しつつこちらへ歩いてくる。
「どうかしましたか?」
「えっ?あ、その……同期の人がこっちにいるって……」
フランさんから声をかけられると同時にほんの少しだけ身を強ばらせた。人に慣れていないのかもしれない。
ブラッドの制服と帽子に身を包み、フランさんの前でたじたじになる少女。歳は……十二か十三歳頃かな?全体的に痩せ形で、周りを落ち着かせるような雰囲気を持ちつつ少し活発な印象も与えてくる不思議な子だ。
肩の上で切り揃えた黒髪に、深い青の瞳。鼻の線はくっきりとしていて、口は小さめ、と。どこかあどけなさの残る顔立ちでありながら、その華奢な右手には私が昨日もらったばかりの黒い腕輪と同じものがまとわりついている。
……特に見た目に変なところはないけど、違和感とは表現しにくい違和感が自然と感じられた。
「結意さんの同期……」
ゆい……日本語の名前だし、ハーフだったりするのかな?
「……ナナさんですね。そちらでパンを食べ続けている方です。」
「ん?もぐ……」
名前を呼ばれ、ひとまず観察を中断する。私の方を見た彼女とは自然と目が合った。
「あ、えっと、鼓。鼓結意です。よろしくお願いします。」
「うん。香月ナナ。同じくブラッドの新入りです。よろしくね。」
こちらの返しを聞いてすぐに肩からの力が抜けていた。……人に慣れていない、というわけではないのだろうか?
「お近付きの印に……はい。おでんパン!」
私なりの挨拶だ。初対面の人には、持ち合わせがあったらおでんパンを渡すようにしている。受け取り方でその人の人柄もだいたい分かってくるし、けっこう気に入っている挨拶だ。
……まあ、ほとんどの人はまず見た目で迷うんだけど……
「おでんパン?」
「うん。お母さん直伝ナナ特製!」
縦に割ったパンの間に串でまとめたおでんを丸ごと挟む、という大胆な発想。お母さんがこれを思い付いた経緯を是非とも知りたかったけれど……
「……いただきます。」
どことなく覚悟を決めた様子で小さくかじった。と同時に、その表情が驚きに染まる。
「おいしい……」
「でしょー?」
そこからはぱくぱくとテンポよく食べていき……全部食べた頃には満足げな表情でおでんの串を捨てに行っていた。
……食べる姿がリスみたいだ、とは言わない方が良いのかな?
「まだあるよ?」
「あ、いえ……さすがにお腹いっぱいですし……」
苦笑しつつも礼儀正しく断った彼女をいつの間にか気に入っていた。なんだかいい友達になれそうだ。
「ナナさん。そろそろ次の訓練の時間ですが。」
「あ、ほんとだ。」
立ち上がると少し寂しそうに、もう行っちゃうの?、と言いたげな目線を向けてきた。……なんだか抱きしめたくなる衝動を必死で抑えつつ、とりあえず安心させられるような声をかける。
「また後でねー!」
ぱっと明るくなったのを面白いと思いつつ、エレベーターへと乗り込んだ。
*
「ふーん。じゃあ知り合いなんだ。」
「そういうことになる。」
こいつの昔話を聞けるなんて……明日雪でも降りそうだ。
「ロミオ。」
「ん?」
ジュリウスは元々自分のことを積極的に話そうとする方じゃない。一応マグノリア・コンパスにいた頃だって噂ぐらいは聞いてたけど、人の噂はあてにならないものだと今は思う。その時に聞いたのとジュリウス本人との差はかなり激しいわけだし。
「俺は神機使いとしては二年目でしかない。しかもあいつらにとってはお前も先輩だ。」
「お、おう……」
「……いろいろあるとは思うが、よろしく頼む。」
差し出された手を取り、その重さを何となく実感する。若干震えたその手からジュリウスの緊張が伝わってくる分余計に、だ。
「りょーかい。頑張ろうぜ。」
「ああ。」
初めて見る緊張した彼の様子に、何か悪戯心が沸き起こってきた。っていうか……まさかこいつ……
「もしかしてジュリウス……その結意って子が好きだったりすんの?」
一瞬の硬直と何となく感じられた彼の焦燥。これはきたか、と思いつつ彼の返答を待った。……のだが……
「……分からない。」
「おいおい……」
「ただ……出来ることなら鼓を守ってやりたい。それだけは思う。」
「……それって……」
好きってのと同じじゃないの?と言いたくなったが、きっと彼にとっては本当にそこまでなのだろう。……こいつがどっかずれてるのは初対面の時から感づいている。
「どうかしたか?」
「……いんや。何でもねえよ。」
……っていうか任務前がこれって良いのか?
「アラガミが接近中。まもなく戦闘エリアに侵入します。よろしいですか?」
無線機からフランさんが告げた言葉。二人して苦笑しつつ気を引き締める。
「来たか。始めるぞ。」
「おう。」
返ったら挨拶の一つでもしとかないと。そう頭の片隅で考えつつ、ジュリウスに続いていた。
ロミオってゲーム内だとけっこう強いんですよね(他のブラッド隊員と比べ。主に戦闘不能率)もうちょっと立ててあげても良かったのに。
にしても、確認していて思いましたがやっぱりハイペースですね。もう少し落としても大丈夫かな?