GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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前回投稿から…一月くらいですね。お待たせいたしました。
GE2編へ突入することもあって、ここまでの話の確認やプロットの構築等々どたばたした結果がこれです。
…つ、疲れましたです…いやほんと…

GOD EATER the another story. Chapter 1. 黙示録 始まります。


Chapter 1. 黙示録
α01.始まりの詩


始まりの詩

 

気が付くと、お父さんは私を冷たい目で見ていた。

 

「お前が生まれたからあいつは逝ったんだ。」

 

ああ……この話、何度目だっけ。

 

「そんな話やめてっていつも言ってるでしょ!」

 

そう……この話が出る度に、お姉ちゃんは私を庇っていた。

 

「うるさい!あいつのことをろくに覚えてもいないくせに良くそんなことが言えるな!」

「それとこれとどういう関係があるわけ!?自分の娘は生まれながらの人殺しですってそんなに自慢したい!?」

 

もういいよ。どうせ私が悪いんだから。

 

「黙れ!」

 

ほら……またお父さん怒っちゃった……大丈夫だよ。私、もう我慢できるもん。もう九歳なんだよ?

 

「……失せろ。」

「……は?」

「さっさと俺の前から失せろ!」

 

……普通の人は、こう言われてどう思うのかな……私は何も……本当に何も思わない。

 

「バカじゃないの!?どうしてそんなこと……」

「いいよ。気にしないで。」

「っ!」

 

出て行って、どうやって暮らそうかな……

 

「そうか。嬉しいよ。さあ早く消え失せてくれ。」

「うん。」

「ちょっ……本気!?」

「うん。本気だよ?」

 

嫌だなあ……なんでこんな世界に生まれたんだろう……

ねえ……二人もそう思うでしょ?

……生まれ変わるの、どこがいい?

 

《さあな。ま、目の前からいなくなればいいんだってさ。どうする?》

【……いなくなろうよ。逆にさ。】

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「……なるほど。つまりあなたが……」

「なあに?」

 

……何があったかをぼんやりと覚えている。でもそれが、私にとっての何なのか……少しずつ忘れていっているようだ。

とりあえず私の前には車椅子に乗った女の人がいる。それは本当のことみたい。

 

「いいえ。あなた……お父さんか、お母さんは?」

「……んー……なんかみんなどっか行っちゃった。」

「……そう。」

 

さらさらした金色のきれいな髪の毛。触ったら、すごく気持ちよさそう。

……でも……目を細くして、唇の角っこをちょこっとだけ上に上げるその表情を、私は知らない。憂いや悲しみや、苦しみや。他のどんな表情も知っているのに、その純粋でどこか温かな表情がどういう意味なのかを私は全く知らない。

 

「……可哀想に……」

「ううん。私嬉しいよ?」

「どうして?」

 

こうして、私の腕ごと背中まで包む仕草の意味を、私は知らない。その手が私を撫でる感触も、ただの感触でしかない。

 

「お父さん、嬉しいって言ってた。私にそんなこと一度も言ってなかったもん。だから私、嬉しい。」

「……じゃあ、どうして泣いているの?」

 

ぽろぽろと目から出てくるしょっぱい水を指で掬う女の人。でも、その細くてきれいな指についたその水を見る私は……その水をやはり知らない。

 

「……それ、なあに?」

「これは涙。人が、悲しいと思ったときに流すもの。」

「……悲しい?」

 

ふうん……じゃあ今私は悲しいのか。

 

「……今日から、私と家族になりましょうか。」

「?」

 

家族。言葉しか、知らない言葉。

 

「私はラケル。今日からは、私がお母さん。」

「らける……?らける……おかあさん?」

「そうよ。お母さんの家には、あなたの他にもいろんな子がいるの。きっとお友達もたくさん出来るでしょう。」

 

友達……って、何だろう?

 

「あなたのお名前、教えてくれる?」

「……鼓。鼓結意(つづみ ゆい)。」

「結意ちゃん、ね。すてきな名前だわ。」

 

……まあ、どうだっていいや。

……あれ?私、なんでこんなところにいるんだっけ?

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   *

 

ごく小さな機械音が響く中、寝ぼけた頭が天井を天井と認めるのに五分。スヌーズのかかった目覚まし時計の二度目のアラームを消そうと右手を動かし、同時に手首に突き刺すような痛みを感じるのにまた数秒。

 

「……いったぁ……」

 

ふかふかのベッドの上で転がった、たった今目覚めたばかりの鏡の中の少女。

肩までの黒髪(寝癖あり)、薄く開いた碧眼(寝ぼけ眼)、悲しくなるほどスレンダーな体型(私の年じゃ普通?)、整っている方ではあろう顔立ち(自信なし)。そして右手首の大きな固まり(重い)。

その固まりを押さえながら、横になって悶えていた。

 

「こんなに痛いなんて聞いてないよ……」

 

フェンリル極何とか技術かんとか局通称ブラッド。お義母さん曰く、次世代の神機使いを担う重要な存在だそうなんだけれども……なんだか自分でもよくわからないままにその候補生になっちゃったのだ。実感のない中、右手首の黒い固まりだけがその何よりの証拠って言うか……

 

「これより、山岳地帯へ入ります。職員は揺れに備えてください。」

 

注意を引きつけるようなチャイムに続いて流れた放送。それを聞き流しつつ、顔を洗おうとぼんやり洗面所へ向かおうとし……見当違いの場所へ進んでいたところで揺れに襲われて壁にぶつかった。ものの見事に額を打ち付けてぼんやりしていた脳味噌が一気に……文字通り叩き起こされたような気がする。

 

「……うー……」

 

そういえば前まで住んでいた部屋と違うんだ。それに気付いて、今度はしっかりと起きた頭で洗面所を探す。

私の神機使いとして最初の朝は、こうして始まった。

 

   *

 

「ダミーの討伐完了。次のステップに移ります。」

「はい!お願いします!」

 

殺風景な訓練場を駆け回りつつダミーアラガミを潰す新人候補生。ブラッドの制服に包まれたその姿を、ラケル博士と共に観察していた。

 

「……良く動くな。」

「彼女の適合係数はあなたに匹敵しているわ。このくらいできても、おかしくはないでしょう。」

 

鼓結意。以前からよく知っている少女だ。

ラケル博士に聞いたところによれば、五年前にハイヴ外の壊滅した集落のはずれでさまよっていた彼女を保護、そのまま博士が運営する自動養護施設「マグノリア・コンパス」に引き取られ……

 

「はああっ!」

「ターゲットη、討伐を確認しました。」

 

昨日神機使いとしてここに来た、という次第らしい。このフライアにおける三人目の神機使いだ。……移動要塞と言いつつも、実質的には小さな戦力でしかない。

 

「そうそう。ここに来るのが決まったときにあなたの話もしたのですが……」

「俺がこっちに来てからのことか?」

「もちろん。」

 

……そして、俺と鼓は面識がある。と言うより、ラケル博士の話では俺が一番話していたのは鼓であるし、鼓が一番話していたのもまたしかりなのだと言う。彼女の過去について若干ながら知っているのはそのためだと言える。

 

「あの子、ジュリウスもフライアにいるって言った途端に嬉しそうに笑ったわ。」

「……嬉しそうに?」

「ええ。」

 

あいつに好かれるようなことをした覚えなど微塵もない。そもそも人に好かれる行動がどのようなものかも分かっていない者が、無意識の内にその行動を取れるか、と聞かれたら……迷わず否と答えるだろう。

 

「それにしても……ご覧なさい。ジュリウス。」

 

名前を呼ばれ、少し深い思考に陶酔していた頭を揺り戻す。ラケル博士が指さしていたのは、彼女の前にあるコンソールの一画面。先ほどターゲットを討伐した瞬間の映像だった。

そこにオラクル細胞の動きのデータを合わせているらしく、鼓が振るショートブレードに沿って赤く塗りつぶされているかのようだった。

 

「密度が濃いな。初の使用でここまでいったか。」

「それだけではありませんよ?」

 

画面の一部分を拡大し、オラクルでの色の変化をさらに強くする。……彼女から半径1メートル強の範囲に、ごく小さなオラクル反応が点在していた。

 

「……まさか……」

「ええ。おそらく。」

 

満足げに頷く彼女と、若干ながらそれと対照的な俺の考えとが一致した。

 

「結意……もう血の力に目覚め始めているのね。」

「ばかな。俺ですらどれだけかかったか……」

「……彼女は萌芽を待つ種の水であり、土であるもの。そして、それ以前に女王たる種子。素質はありすぎるほどあるということね。」

 

謎めいた言葉を言い、また訓練場へ向き直る。

 

「そういえばジュリウス。あなたなぜ結意のことは名前で呼ばないの?」

 

かなり話がずれたと気付きつつも、博士との会話が無益になった試しがないために何とも思わず答えていた。

 

「鼓が名字から自己紹介をしたから……だろう。」

「……それだけ?」

「自分の名前が好きなら、おそらく名前から。名字が好きならその逆。俺がそうだからな。勝手にそう考えている。」

 

……問題はほとんどの場合は名前から名乗られていることだ。そのせいで、鼓だけが浮き出ているかのようになっているらしい。

 

「……ふふっ……」

 

どことなく儚げな笑みをこぼした博士。楽しげな声のまま、その先を言った。

 

「あなたが自分を基準にするなんて珍しいわ。」

「人に聞くより自分で考えた方が早そうだっただけだ。」

「……そう。」

 

……ただし、彼女に関してはその限りではないらしい。

一度だけ、彼女の名前について彼女から聞いたことがある。亡くなった母が、命の他に自分に残していってくれたものなんです、と。だからこの名前が大好きなんですよ、とまで言っていたのだが……生憎その頃には彼女を名字で呼ぶのが定着してしまい、名前で呼び直すに至らなかったのが現実だ。

 

「訓練終了。次はもう少し厳しくても大丈夫そうですね。」

「勘弁してください……」

 

訓練場から皮肉ともとれそうなアナウンスと、疲れ果てた鼓の声とが響く。それに続き、博士が俺へ声をかけた。

 

「彼女に会いに行ったら?積もる話もあるでしょう。」

「そうだな。……お疲れさま。ラケル博士。」

「ええ。行ってらっしゃい。」

 

先ほどと同じ儚げな笑みを浮かべた彼女に見送られ、部屋を出た。

……最後に会ってからどのくらい経ったのか。積もる話も、どこまで積もるか分かったものじゃないな。




初手からいろいろ書くのもどうかとは思ったんですが、それなりのペースで進めていかないとどうなるかわかったものではないので…
そういえば、今回のタイトルの頭に「α01.」とあるのにお気づきでしょうか?
GE2編では「α」をブラッド、「β」をクレイドルや極東支部側の物語として区分し、最低でも彼らが合流するまではこの形で進行する予定です。
一話に双方の話が盛り込まれる場合は、

   *
  α

であるとか、または何かしら分かりやすい方法で記載し、回の中で区分するかと。その話のサブタイには、「α」も「β」も付けずにおこうと思っております。

さて。本日は残り二話です。引き続きお楽しみください。

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