GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
っていうかこのままじゃあコウタが空気に…
全ての外側で
午前十時。
「……うう……」
《あ、おはよ。》
【おはよ。じゃない!】
起き上がった。……起き上がったとも。頭の中で誰かがキャンプファイヤーをしながら踊っているかのような高熱と頭痛に見舞われつつ、目眩を起こして即座にベッドにぶっ倒れながら。
【……頭痛い……熱い……くらくらする……】
《おーい?大丈夫かー?》
【誰のせいだと思ってるの!?……いたた……】
《まあまあ落ち着いて。》
【……ちっ……そっちに起きてれば殴れたのに……】
《こわっ!》
まあ冗談にする気はあまりない冗談はさておき……
【……で、いったい何したの?これまでにないレベルの出力だったけど。】
別に地面を穿ったり衝撃波で廃墟群を吹き飛ばしたりしたことはある。でもそれは、どちらもソーマとの戦闘で彼と本気で刃を交わしていたときの話だ。その場に留まって、ではない。
《うーんと……つまるところはケイトのアラガミ化を止めた、ってことなんだけど……》
【そんなこと今まで出来たっけ?】
《神楽が右手でコアを回収するときにさ、ほとんどは怜のコアの方に吸収されるんだけど、ほんの少しだけ神楽の体と私の本体とにも融合されるんだ。神楽の体は私の本体と直結してるから、その分は統合できるかな。》
【なるほど。】
……あまり実感がわかないけど……まあこういうところに関しては当然イザナミの方がよく理解している。私のために表現をかみ砕いているとしても大方の意味は違わないだろう。
《そうすると、だんだん吸収した分が増えてくでしょ?この場合の吸収ってアラガミの捕喰と変わらないから、最終的に捕喰進化と同じルートをたどるわけ。二年間もあれば何かしらの進化には十分すぎる量が蓄積されると考えると、その先を理解するのも楽かな。》
【……あれ?それって渚とソーマも同じなんじゃない?】
《そりゃね。あの二人にも変化が出る頃じゃないかな。》
【ふむ……】
一応人として生きているだけあって、アラガミと同じ形での進化をしたっていうのが何だか新鮮に感じられた。自分がアラガミである事実を常に念頭に置いていても、そこまで同じになっているとは考えていなかったからだろうか。
《まああんまり深く考えなくっていいよ。そんなに頻繁に起こることでもないからね。》
【むう……】
頻繁に起こりはしないと言われても、私にとってはかなり重要だ。何せイザナミは実際に起こってからでないと伝えてくれないのだから。
……全く……そろそろ予め伝えておくってことを覚えてほしいものだ。
*
「……よし。」
迎えに来たヘリで海を渡り、ひとまず本部まで。その半径二十キロ圏内で、自分の能力の限界を知るためにも転移を繰り返してみた。
……結果は……かなりいい。が、同時に使い勝手はあまりよくない。
回数そのものの限界はかなり高い位置にあるようだ。何度か転移してみたが……特に疲労が溜まったとか、時間がかかるようになった、ということはなかった。約三十キロの限界距離にも変化はない。初めの転移の疲れは何だったのか、と不思議になるくらいだ。
ただし、一度転移すると、最低でも五分間は次の転移が出来なかった。肉体的な問題ではなかったようだし……たぶん転移が何らかの環境的な変化を誘発してしまうのだろう。
つまるところ、この能力を使用しての短期決戦が求められるときにはさほど役に立たない、ということだ。単発ならいいんだけど。
「いただきます。」
……そして今は食事中である。ヘリが飛ぶまでにはまだまだ時間があるのだ。
「……」
もそもそとパンをかじりつつスープを飲んで……そんな時でも、考えるのは母さんのことばかりだった。
母さんがなんでアラガミになったのか。なんで今になって私の前に姿を現したのか。考えれば考えるほど分からないことだらけだ。
……自分がアラガミになった経緯も思い出せないままに考えることではない、ということなんだろうか……
家族のことでも、自分のことでも。何か一つでも思い出せたら、私は何かを知ることが出来るんだろうか……
「……はあ……」
自分で自分に問うたとしても、答えられるのは自分だけ。でもその答えを持っていない私は、ただただため息をつくほかなかった。
後に流れるのは奇妙な静寂。パンをかじる音だけがつまらなそうに木霊して、寂しいのにどこか心地よくて。
気が付けばまた泣きそうで……私が私として生きてきた二年間。その間ろくに流していなかった涙を、この数日間でどれだけ絞り出したんだろう。
「……どこにいるの……?母さん……」
……もう一度……ううん。まだ何度でも、母さんに会いたい……
*
「へえ……えっと……私の右手みたいな感じ?」
「だいたいそれで合ってるはずだ。」
ソーマの左手に現れたという高出力の砲塔。彼が博士に聞いたところ、アラガミの部分が遂げた進化の一つだろう、と返答されたとのこと。私がアラガミ化を止められるようになったのも同じだそうだ。
渚は渚で転移が出来るようになったとか何とか……いよいよ生き物の域から外れてきてしまったらしい……
「で渚がこっちに向かっていると。」
「ああ。最短距離でな。」
主要な支部を何カ所か回った私達とは違い、彼女は直で本部まで飛んでいる。明日か明後日にはここに着くだろう。
「こっちで接触したアラガミを追いたいんだとさ。……たぶんお前達が今探している奴と同じ個体だ。」
「同じ?」
「……渚の母親がアラガミ化した結果である可能性が高い。観測された偏食場もそっちで観測されたものと酷似しているからな。」
……イザナミが言っていた、私を危険視しての対象アラガミの行動。ソーマ達の方を確認できたことでひとまずの目的を果たしたのだろうか?
《……むしろこっちにも用があるのかもよ?》
【私に?】
《そこまでは……もしかしたらこの地域の何かかもしれないし。》
今日私が起きてから一度も寝ていないイザナミ。彼女曰く、進化が終わったからかコアが安定し始めたらしい。
「……それから渚から伝言だ。」
「ん?」
「そのアラガミを見つけても、絶対に攻撃するな、だとさ。」
「……?」
攻撃するな……?
「俺もそのアラガミには会ったんだが、どうも人としての記憶やら人格やらを完璧に残しているような節がある。実際、そいつが人に攻撃しようとしたのは一回だけだ。……おそらくだが、あのアラガミに攻撃する必要はねえ。」
明らかな矛盾。彼の場合、人に攻撃しようとした時点でこちらが討伐する必要のある相手だと考える。……それは私も同じだ。
でもその彼が、一回とは言っても人に攻撃を仕掛けたアラガミに攻撃するなと言っている。
「でも襲おうとはしたんだよね?」
「……そのアラガミを撃とうとした奴がいてな。結局それを庇った渚が撃たれたたんだが……それに逆上して、だ。」
「……むう……」
彼がアラガミと呼ぶのは、見た目までアラガミである個体だ。完全にアラガミ化し、人としての体組織を持たなくなって尚そうした行動を取る……有り得るだろうか?
【……どう?】
《有り得なくはないと信じたいけど……実際見てみないと何とも言えないかな。》
【そっかあ……】
イザナミとしても疑問符の付く部分があるようだ。ひとまず自分の目で確かめる以外ないのかもしれない。
「……とりあえず私も私で確かめてからにしていい?」
「ああ。分かってる。」
……人を襲わないアラガミ。別にいないとは思わない。と言うより、そもそもいないとしたら私は何なのか、という話に発展するのだ。いないはずがない。
それでも、人として生きている今そういうアラガミがいることを想像するのは……さすがに容易ではない。自分と同じだと考えるにも、そのアラガミを見たことがないせいで実感がわかないわけで。
「……すまん。そろそろいいか?まだ検査が残ってんだ。」
「あ、うん。ごめんね。長々話しちゃって。」
……かく言う私も、来週には一度アナグラに戻って検査だ。渚も、こっちで活動するための手続きが終わり次第同様の処置を執られるとのこと。また一日かかるのかな……
《……むー……検査面倒なんだけど……》
【まあまあ……】
確かに面倒だけど……この体の宿命だと考えるしかないだろう。
「じゃあ、またね。何かあったら連絡する。」
「ああ。」
短い答えの後でプツリと切れた通信。途端に睡魔に襲われる。
【……まだ昼なのに……】
《疲れてるんだよ。寝といた方が良いって。》
【だから誰のせいだと……眠……】
《……寝ときなってば……》
……私はこれからどこに向かうんだろう……人の外側にいながらにして、人の内で生きる……そんな自分へと、毎日問いかけ続けていた。
これでコミック版の章は完結となります。
…え?伏線がいっぱい見えるんだが、ですって?
そうしないはずがないじゃないですかー(笑)
いやもう…友人からも「お前どんだけ書く気だ?」とか聞かれる始末ですからね。
…正直言って自分でもどこまで行くかが分からないという…
とりあえず、本日の本編投稿はここで終了となります。この後に人物紹介、小説内設定の二つを投稿いたしますので、よろしければお読みください。