GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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本日最後の投稿です。
…かなり文字数が多くなっちゃったんですが…ご容赦ください。


思いと想い

 

思いと想い

 

《……疲れた……》

【けっこういっぱいいたね……】

 

初めにいたアラガミはすぐに倒せたものの……

 

「すまん。ちょっとばかり対応しきれなくてな……」

「仕方ないですよ……何体いましたっけ……」

「分からん。何十体かいなかったか?」

 

変な偏食場が発生したと思ったら、突然リンドウさんの方へアラガミが集まり始めたのだ。他の二カ所に変化がなかったため、とにかく急いでリンドウさんに合流。アラガミ自体はそれほど強くなかったおかげで疲れる程度で済んだ。……いやまあ済んだというか……済ませた。

 

「向こうはどうだ?」

「調べますか?」

「頼む。ちょいといやな予感もするからなあ……」

 

……リンドウさんも何か変な感じは受けているらしい。いくら偏食場によるものであったにしても、ある地点に向かってアラガミが集まるなんてそうそう起こることではない。

 

【イザナミ。お願いできる?】

《はいはい。》

 

しかも集まったのはリンドウさんの担当場所だ。アラガミの本能なら私になるだろうし……それ以前にケイトさんとギルのところや、ハルさんのところへ行かなかったのも気になる。

 

《……!神楽!》

【えっ?】

 

慌てた口調のイザナミ。その声のすぐ後に、オープンチャンネルに通信が入った。

 

「ハル!聞こえる!?お願い!こっちに合流して!」

 

緊迫したケイトさんの声。その向こうにある咆哮が更に不安をかき立てる。

 

《カリギュラの変種っぽいのがいる!飛ぶよ!》

【えっ!?ちょ、ちょっ!】

 

久しぶりにイザナミが私のコントロールを取った。……それだけの緊急事態……ということなんだろう。

……彼女がここまでやるのは、誰かが生命の危険にあるときだけだ。

 

   *

 

縦長の六角形状の真っ黒な五十センチ弱の筒。開いた側と逆側に二十センチほどの排気筒のようなものが三本一組で九本。

少しだけ残っている自我が自らの左腕をそう表現した。たった今直径二メートル近いレーザーをロボットに向けて放った砲塔だ。

 

「……失せろ……」

 

火球を放ったシユウ。それに対して再度砲塔が火を噴いた。……火球をいとも容易く飲み込みつつ、その深紅の全身を炭にする。

……視界が……赤い……

 

「……?」

 

だが次の攻撃はなかった。記憶が正しければ、六体に囲まれていたはず……俺が倒したのは二体だけだ。

 

《……》

 

どこからか声が聞こえた。自分の内から響くようで、かつ外から耳を介して聞いたかのような音響を持ったそれが鮮明になるにつれ、自身の視界すらも色を取り戻していく。

 

《……呑まれないで……その力はいけない……》

 

……左腕は変わっていない。自我を取り戻した以外は何も変化がないようだが……

 

《……あなたは……なすべきことをしないと……》

 

気が付けば、ほんの数メートルを隔てた空中にアラガミがいた。赤い人型の、表情すら持っている個体。

 

「お前……」

《……渚を……よろしくお願いします……》

 

言い残し、唐突に消え失せた。

 

「……」

 

どうやら他にアラガミはいない……となれば、行政府に向かうのが得策だ。

蹴った地面を凹ませつつ走り出した。

 

   *

 

「この……バカ野郎!技術屋のくせにスタングレネードの一つも持ってねえのか!」

 

上へ逃げていったアラガミ。それを確認するや否や、親父はそう言い放った。

 

「……模範的な道具の使いかを実演してくださってどうも……私にはかまわなくて結構。余計なことをせずに早くシェルターに……」

 

立ち上がろうとした瞬間、力の入らない腰が崩れ落ちた。

 

「腰抜かしてる奴に言われてもな。」

「っ……」

 

……心では、ただただ面目ないと思っている。親子としての感情を失ったわけでも人としての情を投げ捨てたわけでもないのだ。

それでも……

 

「ほれ。とっとと立て。男だろ……」

 

俺は、どこかで過去に執着して意固地になっていた。

 

「……あんたは昔っからそうだ……」

「あん?」

 

上で響いている戦闘音。今自分たちのために戦っている神機使いがいることを……これほどまでに嬉しく、かつ疎ましいと思ったことがあっただろうか……

 

「ゴッドイーターに立場を奪われても……母さんがアラガミに喰われても……フェンリルのせいで居場所を奪われても!」

 

いつだかに親父が言った言葉を思い出す。

……いつまでやられたらやり返すつもりでいやがる。その言葉は、俺を更に意固地にさせていった。迷いを抱きたくはなかった。

 

「何一つ守ることも出来ずに!」

 

自分が正しいと信じたかった。フェンリルが間違っていると思いたかった。

次第にそれはただの固定観念へと生まれ変わり、少しでも違うと思う度、不死鳥のごとく俺を支配していた。

 

「全部諦めたあんたが!今更俺に何を言うんだ!ええ!?」

 

……もしそうやって、自分の想いのみに呑まれなかったら……

 

「……ま、そうだな……」

 

今、俺はどうしていられたんだろう……

 

「あいつも……喰われた連中も……俺はなあんも……」

 

親父はどうしていただろう……

 

「でもよお那智……おめえは俺とは頭の出来がちげえだろうが……」

 

……親父は今……

 

「……その頭でよ……もっといろんなやつを守ってやれよ……」

 

……左半身を……失っていなかっただろうか……

 

「……ほれ……さっさと逃げろ……神さんの声が聞こえんだろ……?」

 

壁を打ち破って入ってくるアラガミを、すでに親父は見ていない……大量に入ってきたアラガミを一撃で引き裂いた深紅の人型アラガミが見えていないんだ……

 

「この……」

 

座り込んだのは、銃のすぐ横だった。

 

「化け物が!」

 

   *

 

「あのアラガミっ!」

 

ソーマの元へ向かおうとしていた私の視界に映り込んだ赤い人型アラガミ。唐突に消え失せ、その姿は忽然と消えた。

 

「まさか!」

 

勘以外の何物でもないけど、あのアラガミは行政府の中に飛んだ。それが意味するところが、また見えない。

 

「だめ!そっちは……っ!」

 

彼女は人を喰わないだろう。でもそこは問題じゃなかった。

 

「行かないで!」

 

……涙を流した。……後ろにあのアラガミの気配を感じながら。

……一瞬瞑った目を開いたとき、私は那智と八雲を視界に捉えていた。

 

   *

 

アラガミが底をつき始めた。一時は窓の外に延々と連なっているかのように見えたアラガミの群も、残るは三体。

……ついさっき部屋に設置されていた電話機から聞こえた那智さんと八雲さんの会話。それが余りに緊迫していただけに、今の静寂が恐ろしい。

 

「くっ……!」

 

三体しかいないとは言っても、狭い空間でサリエル種に囲まれているのはかなり辛い。一回の攻撃を避ける度にまた別の個体が仕掛けてくる中で接近するのは無理があるだろう。

しかもさっきザイゴートが上がってきた穴の下に八雲さん達がいることを考えると……動ける範囲はかなり限られる。

 

「アリサ!そこを動くな!」

 

いきなり聞こえた肉声に驚き、一瞬体が固まった。それと全く同時に三体のサリエル種が焼き尽くされ、灰すら残さず消え失せる。

 

「無事か?」

 

声の主はソーマ。……だが……

 

「その左腕……どうしたんですか?」

 

まるで大口径のランチャーであるかのような左腕を元の人の腕へと戻す、なんて……どうにも変な状況であるとしか言いようがない。

 

「知らん。」

 

……即答ですか……

 

「他はもういねえのか?」

「あ、いえ……下に那智さんと八雲さんが……」

 

二人がいることを伝えようとしたとき、それとは全く別の声が遮った。

 

「化け物が!」

 

……続いたのは一発の銃声。そして……

 

「うっ……く……」

 

……耳慣れた、一人の少女の苦悶だった。

 

   *

 

……撃たれた。それを自覚するのに少しだけかかり、気付くと同時に激痛に襲われる。

 

「うっ……く……」

 

右脇腹の焼け付くような痛み。だけどそれ以上に、私は自分の後ろの彼女がまずいことを悟っていられた。

 

「待って!だめ!」

《あいつはあなたを傷つけた。だから許さない。》

 

……あの時のどこか包み込むような優しさは形を潜め、ただただ憎悪だけが渦巻いている。このままじゃ……きっと彼女は那智を殺してしまう。

 

「私は大丈夫だから!人を殺しちゃだめ!」

《……嘘は言わなくて良い。痛いなら痛いって言って良いの。》

 

どこかで聞いた言葉だった。もう何年も前……きっとアラガミになる前に。

だからこそ彼女を止めたい。それが偽りのない本心だ。

 

「止まって!お願い!」

 

尚も進もうとする彼女を抱き止める。……動いただけで気絶しそうな痛みが脇腹から脳天まで突き上げ、短く呻いてしまいながら。

 

《……ほら。痛がってる……》

「大丈夫だよ!大丈夫だから……」

 

目が熱くなっていく。自分の言葉を聞いてもらえないのが悲しいんじゃない。痛いから泣いているわけでもない。ただただ彼女を人殺しにしたくなかった。

 

「……私達は……まだいないんだよ……」

 

……何が言いたいのか分からないまま、口をついて出ようとする言葉をそのまま発するしかない。痛みと妙な疲労のせいで、すでに頭が動いてくれないから。

だけど、一つだけ言いたいことが頭に浮かんでいた。

 

「だからお願い……」

《でも……》

 

……それが意味するところなんて、分かりはしないけど。

 

「母さん!」

 

……そう最後に叫んだところで、私は彼女に抱きしめられていた。あの時と同じ優しさに包まれながら。

 

《……分かった……またね……》

「っ!」

 

フッ、と……また唐突に、かつ忽然とどこかへ消えた。支えを失った私を誰かが支えてくれ、そのままそれへと体を預ける。

 

「大丈夫か?」

「……うん……」

 

銃弾なんて本当は掠っただけのようで、床に溜まった血の量だってすごく少なくて。たったこれだけの血が、彼女をあんなに激昂させていたのかと思うとどうしようもなく悲しくなって。

 

「あの……何がどうして……」

「分からない……でも……」

 

止めようのない涙。その意味を知りつつ、ただただ悲しいとだけ……

 

「……分からないことが……悲しい……」

 

   *

 

《見えた!》

【うん!】

 

飛び始めてから三分。倒れているケイトさんと、体色が赤いカリギュラ、それを引き付けつつケイトさんから離れるギルが見えた。

 

【どっちに行くの!?】

《ケイトの方!》

 

ずっと切羽詰まった口調のイザナミ。……ここまで飛んでいる速度も間違いなく最高速を維持している。

 

「神楽!ギルからも緊急通信が入った!どっちに行くつもりだ!?」

 

ジープのエンジン音にかき消されそうなリンドウさんの声が、同じく風圧に負けそうな通信機のスピーカーから流れた。ギルからの緊急通信となると……おそらくはあの赤いカリギュラとの戦闘だろう。

気配からして、ギルだけだと撃退も厳しそうだ。

 

「ケイトさんの方に行きます!今どこにいますか!?」

「さっきの地点から西に三キロの地点だ!」

「そこから北西に四キロ進んでください!だいたいその辺りにギルがいます!」

「了解だ!」

 

通信が切れた音をかろうじで聞き取り、意識をケイトさんの方へ戻す。地表は目前だ。

 

《降りるよ!》

【分かってる!】

 

着地と同時に翼とブースターが消滅する。イザナミも息を切らしているし、これ以上の飛行はあまり保たないだろう。

 

「ケイトさん!」

 

右腕の腕輪から黒いオラクル細胞が木の根のように二の腕を覆っていた。偏食場を確かめるまでもなく、アラガミ化が始まっている。もう間もなく本格的な侵喰が開始されるだろう。

 

「……ごめん……ドジ踏んじゃった……」

「しゃべらないでください!救護班は!?」

「ギルが呼んでくれたって……でも間に合わない……よね。」

 

……あまり考えたくはないが……救護班が着くまでの時間と侵喰が一定以上まで進む時間とは比べるまでもない。

 

「……私を殺して。」

「そんなこと言わないでください!」

「……みんなを殺したくないんだ……好きな人だっているんだから……」

 

弱々しくなっていく声とは裏腹に、彼女の言葉に宿っていく強い意志。

……好きな人を殺したくない。私が一番よく知っている感情の一つだ。

 

「……」

 

無言で神機を出した。それを見たケイトさんの表情がほころぶ。

……でもその神機を、イザナミが強制的に仕舞った。

 

《神楽!助けるよ!》

【えっ?】

《負荷かかったらごめん!》

 

これまでにない重量の翼とブースターが展開された。右腕も神機こそ出てはいないものの、いつもの量とは比べものにならない量の翅鎧に覆われる。

風になびいた髪の色すら白と金へと移り変わり、体の感覚が明らかに変化していた……人のそれではなく、アラガミの感覚だ。

 

《いくよ!》

 

ブースターが点火される。いつもの二連式ではなく、二つのブースターに三つか四つずつ口があるようだ。それら全てからすさまじい勢いで青い光の粉と共にバーナー炎が発せられていく。まるで空間を全て埋め尽くそうかというかのように。

それに呼応して翼も動き出した。羽ばたくのではなく、羽を放出する機関として。これまでで最大のサイズを誇る翼が、二対になって球状に羽を配するように放っていく。

双方の勢いに押されるようにして足下の地面も崩れた。ケイトさんの体を放たれた羽が支えつつ、私を中心に半径三メートルほどの範囲にある地面が吹き飛び、消滅する。

 

【えっ!?い、イザナミっ!?】

《話しかけないで!》

 

徐々に私の体が重くなっていく。……さっきの飛行だけでイザナミの方での負荷吸収がいっぱいになっていたのだろう。彼女の声も、心なしか苦しげだ。

それとは反対にブースターの出力は上がっていく。いつの間にか衝撃波すら発生し、周辺にあったはずの廃墟群を吹き飛ばしていた。……周りに人がいなくて良かったとここまで思ったのは初めてだ。

 

【せめて説明!】

《後でするから!》

 

……私の方の負荷が限界に達しかけたとき、とうとうケイトさん自身にも変化が起こった。

右腕を喰らっていた腕輪からのオラクルが消滅。それどころか、侵喰されていた部分も治っていった。

 

【……っ……イザナミ……もう……】

 

……それを確認できたとき、とうとう私も意識を失った。




ここ最近のGE仲間談義。
…1.4さっさと来いよこん畜生めえ!
全てこれに集約できますね…良いのか悪いのか…
配信予定は今月末。詳しい情報は追って知らせるそうですが@GEブログ、そんなこと構わずみんなで騒いでます。

で、ですね…
何でいきなりこんな話をし出したかって言ったら…
…なんだか読者参加のマルチがやりたくなりまして。パスワード機能とかあったら楽だよねー、とか…時間とか決めて呼びかけたら集まるかなー、とか。
まあそんなことをのんびり考えているわけです。
というわけで、皆様へ質問です。
読者参加型マルチプレイをやるなら参加したい、あるいは私を呼びたい、という方はいらっしゃいますでしょうか?
返答はこの小説の感想欄、これまでの活動報告への感想欄、私のアカウントへのメッセージのいずれかからお願いいたします。
また、パスワード機能が実装されていた場合はメッセージ機能を用いてのパスワード配布を行いたいと思っていますので、参加希望の方はなるべくアカウントを作っておいてください。

ちなみに、私の実力による、という方へ説明を。気にしない方は次の空行まで読み飛ばして頂いて結構です。
使用剣種はショート。銃は基本非使用ですが、使って欲しい、というときはスピン中のウロヴォの背骨も撃ち抜く狙撃精度で乱射いたします(笑)
同時戦闘可能数は大型のみで四対から五体。小型に囲まれつつ、という状況ですと三体程度です。二体までならどちらも全結合崩壊で討伐可能ですので、素材狙いの方もご安心ください。
総合的なところは…ハンニバル神速種との戦闘で、ソロ一回目でノーアイテム、ソロ五回目にはパーフェクトSSS+でのクリアを、どちらも銃非使用で、という辺りでご理解いただけますでしょうか。
…まあ自分で言うのも何ですが、全国的に見てもかなり上位に入るかと思います。タイムアタックには不向き(武器の種別上)ですけど…

まあ…長くなってしまいましたが、とりあえずそんな感じでお願いします。
さらに詳しいところに関しては1.4配信後、今回と同じような形で告知する予定です。
それでは、次回もよろしくお願いいたします。

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