GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
…いやもう…アーサソールの設定改変がこの辺りで猛威を…
今出来ること
八雲の家からしばらく歩いた場所。昨日例のアラガミが穴をぶち空けた辺りだ。
「……本当にやるつもりかな?」
「さあな。」
話は昨日の夜へ遡る。
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「……は?」
「……行政府に乗り込む?」
異常なほど楽しげに告げたアリサへ二人して聞き返した。……それすらも楽しいと言いそうな勢いで首を縦に振られたが……
「私達の仕事はこういうところに住んでる人をちゃんとしたハイヴに住まわせていられるようにそのハイヴ建設地を探す仕事なんですよ?だったらまずは協力してもらわなきゃだめじゃないですか。」
早口でまくし立てるアリサ。……興奮しすぎだ、と言いたい。まあ間違っちゃいねえのは認めるにしても、いったいそれがどうねじ曲がって行政府に行くことに繋がるのか……
「問題は那智さんです。あの人がNOって言ってる間はたぶんここはこのままですから。」
「……逆にあいつが動けば他も動く……そう言いたいのか?」
「はい。」
……虫が良すぎるとまではいかないかもしれない。昼間の兵士の様子を見る限り、あの那智の野郎はここでの絶大な権力者だ。
「でもこっちから呼んだところで来るとは思えませんから。だから向こうに出向くんです。」
……止められない。俺も渚も、それをすぐに悟った。
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「……で、本当に来るんだろうな?」
「来るよ。あの変種はまだいるから。」
来なかったらどうするんだと聞きたい気持ちもあるが、俺の知る限りこいつの予見が外れたことはない。素直に聞いておく方が無難だろう。
「……ソーマ。」
「あ?」
「昨日は……ありがとう。」
「……気にするな。」
……自身がアラガミであることへの不安。それを一番感じているのは……もしかしたらこいつなのかもしれないな……
「……来るよ。」
彼女の言葉から一拍遅れ、外壁の外からアラガミの雄叫びが轟いた。
*
グラスゴー支部から西へ七キロ。
《けっこう多いね。》
【うん。】
アラガミの出現地点は四カ所。私とリンドウさんで一カ所ずつ受け持っている。あとの二カ所はケイトさん達だ。
「リンドウさん。どんな感じですか?」
「こっちは少な目だな。終わったらグラスゴーのやつらの方に行くつもりだ。」
無線の向こうから届くのんびりとした声。少な目となると……小型を含めて五、六体だろうか。どうやら私は一番多い場所を担当しているようだ。
「了解です。」
……大型が三体と小型が十二……十三かな?あまり時間をかけるのも不安だし……
【イザナミ。久しぶりにとばすよ。】
《ん。準備は?》
【一応お願い。】
《OK。じゃ、行こうか。》
……カリギュラの変種。なぜかそれが気になっていた。
*
入ってきたのは五体のシユウ変種。それにザイゴートやサリエルなどの飛行系アラガミが多数……シユウを全て抑えた場合、ここで何とか出来る数はたかが知れている。
「アリサ!かなりそっちに行くぞ!」
「はい!」
無線機からもすでにアラガミの咆哮が聞こえている。すぐに戦闘が開始されるだろう。
「シユウはお願い!いくらかは上の抑えないと!」
「分かってる!」
飛んでいるアラガミを撃ち落としつつ徐々に行政府へ向かって動く渚。それを追おうとしたシユウを神機の腹で吹き飛ばす。
「……」
咆哮で若干神機が重くなった。……問題は昨日のロボット……戦闘が長引けばあれに乱入されるだろう。
「チッ……」
飛びかかってきたシユウの頭部を神機の先で潰しつつ地面に叩きつけ、刃に引っかかったそれで火球の発射態勢に入っていた二体を弾く。外壁まで飛んだそれらへ追撃を加えようとするも、残りの二体が放った火球に阻まれた。
「っ!」
……戦闘が起こす轟音の中、エンジン音が微かに耳に届く。昨日よりも早い……となると、もう一度ここへアラガミが来るのをほぼ見越していたのだろうか。何にしてもこれ以上時間をかけるのはまずそうだ。
残り四体……せめてあと二体は減らす必要があるな……
*
「下がって!ここで食い止めます!」
会議室の窓から見える群。ザイゴートを斥候に据えたサリエル種だ。
「アリサ!かなりそっちに行くぞ!」
「はい!」
無線から響いたソーマの声に答えつつアラガミの数を数える。下から渚が撃ち落としてくれてはいるけど……ざっと十体はここまで来るだろう。
「当たれっ!」
窓ガラスを蹴破って一番近くにいるザイゴートから撃ち抜く。少しでも数を減らさないと……室内で何体ものアラガミに囲まれたくはない。
……それでも、減らせたのは三体程度。
「くっ!」
真下から壁が抜かれたような音が響いた。鳴き声しか聞こえないが、間違いなくサリエルはいる。床下からレーザーが発射されるのはかなり危険だ。
……が、そっちに気を取られてばかりもいられない。
会議室の壁の向こう……そこからも同じようにザイゴートの鳴き声が聞こえ始めていた。行政府の裏から入られていたということなのだろう。
「……またずいぶんと引き連れてこられたみたいですね……」
床を撃ち抜き、下の階へ飛び込んだ。直後に発せられたサリエルのレーザーを横に飛んで避けつつ、低い天井に阻まれた頭部を蜂の巣にする。
そのサリエルが空けたと思しき穴から次々にアラガミが入ってきている……ここが防衛線だ。
……昨日コウタに言われた。自分に出来ることをやればいいって。自分に出来ないことはきっと誰かが出来るから。
だから、アラガミに向かって淡々と言い放った。
「ここから先は通しませんよ?」
*
シユウ残り三体。一体は瀕死だと考えれば実質的には残り二体だ。
……そのタイミングで例のロボットが乱入してきた。数にして三体。昨日とは違い、今回は刀を持っている。
「クソッ!」
シユウが片付いた後でこいつらも相手にする必要がある。初めはそう思った。
……そのロボットの狙いは……どうやら俺らしい。
昨日の時点で一体だけを相手にしてほぼ互角……シユウの変種の影響がある点は昨日と変わっていない。それが三体いるとなると、下手をすれば負ける。
「ソーマ!そっちは!」
「少し黙っててくれ!」
襟元へ返事をする間に二回切られかけた。上段から振り下ろされた刀を避け、それが穿った不安定な地面の上で火球を止めつつ神機を支柱にして薙払いから逃れ、最後にはシユウに突進されて吹き飛ばされる。
家屋をぶち抜いて反対側の路地でやっと体勢を立て直した直後、ロボットが石突きを下にして降ってきた。転がって避ければ今度は火球に追われ、最後の一発に当たってまた何メートルかを飛ばされてしまう。
『たぶんだけど、君や神楽君、それに渚君は、そろそろ次の段階にシフトすると思うんだ。』
……昨日、二人が森の中にいたときの榊との通信が頭に蘇る。
『どういうことだ?』
『神楽君はアラガミになってから七年目。能力の発現からは二年だ。君は生まれつきだから二十一年目。発現は神楽君とさほど変わらないね。』
……次の段階だか何だか知らねえが……この完全に不利な状況だとそのシフトを期待しちまうな。
『アラガミの進化はとても早い。これは捕喰によって食べたものの性質を取り込むからだ。』
『そんな新人にするような話を聞かせるためにわざわざ繋がせたんじゃねえだろうな?』
『もちろん。まあ焦らないでくれたまえよ。』
『……』
『さっきも言った通り、アラガミには食べたものの性質を取り込む能力がある。どうやらこれは、君達も同じようでね。』
何でも良い。こいつらをぶっ潰すしかねえんだ。
『神機での捕喰の際に、微量ながら君達も捕喰をしているんだよ。神機と体の細胞が同じだからだろうね。つまり、君達は戦闘の度に進化しているわけさ。ただそれがあまりに微量であるため、発現は少し時間を必要とする。』
『それが新しい段階か?』
『そう。ただここで少し問題があって……』
『何だ?』
『神楽君の場合は、彼女が話していた……えっと、彼女のコアに形成された人格……まあなかなか信じ難い話ではあるわけだけど、その人格があるおかげでコアの暴走や過剰な進化は起こらないみたいなんだ。そうじゃなかったらこれまでの段階で自我を失っていただろうからね。渚君の場合も一度生命活動が停止してからオラクル細胞で再構築されたようだから、進化による負荷はあっても暴走まではないだろう。……ただ君はそうもいかないかもしれない。』
頭で分かってはいても、体は危険信号を発し続けていた。……同時に体の奥底から何かが吹き上がってくる。
『……くれぐれも、気を付けてくれ。今の君を止められるのは神楽君しかいないだろうからね。』
……頼んだぞ。
*
「……これ以上は無理かな……」
飛んでいたアラガミは全て施設内に入った。それもほぼ最上階だ。今から一人で上がっていくより、ソーマの方を何とかするが得策だろう。アリサは負けないし。
周りに落ちているアラガミの死骸を見回しつつ通信機を手に取った。かなりすごい音が響いているけど……大丈夫かな?
「ソーマ!そっちは!」
「少し黙っててくれ!」
……やばいらしい。
「急がないと……」
何でか分からないけどソーマだけ“先”が見えない。……こんなことは初めてだ。
瓦礫まみれの地面を蹴って突き進みつつアリサにも通信を試みる。
「大丈夫!?」
「こっちは何とか!……っ!」
「アリサ!?」
鈍い音の後、通信が途絶した。……通信機が壊されたのだろうか……そうであってほしい。
「……くっ……」
足を速める。……今私がやらなきゃいけないのは……
*
「ユノっ!返事をしろ!」
フェンリルでもなく、極東支部でもなく、独立部隊「クレイドル」として援助する。
……ふざけたことを……
「フェンリルの能無しどもが……」
実験の一環として神機兵を配備するだと?有事に限って結局何もしない!所詮フェンリルなどそんなものだ!
……ただただそんな考えのまま、ユノの部屋へ内線をかける自分がばからしい。
……本当は……神機使いに頼っていればこうはならなかったと分かっている……
「那智ぃ!」
「!」
耳慣れた声。……いつから疎ましいと思うようになったのかも分からない父の声が、自分を思考の渦から引き戻した。
「何やってやがる!さっさと出ろ!ユノも外だ!」
ユノが外にいる。父以外の人間から言われたら、俺はどうした?
……出た、だろうな。
「っ!私はここの総統だ!なぜ出なければならない!このネモス・ディアナはもう終わる!俺にはここにいる義務がある!」
矛盾やエゴや愚かしさにまみれた自分。それを外から見ていたら、俺はどうしただろう……あざ笑った?賞賛した?
「バカ野郎!」
……罵るんだろうか……
「何のためにあいつらが戦ってくれてんのか考えやがれ!だいたいてめえは昔っから頭ばっか堅え……」
俺を諭す親父。その姿を遮って、風船のようなアラガミが上から降りてきた。
「くっくそお!」
必死でデスクの上にあるはずの銃を探し……
……手で弾き落としていた。
「那智!」
……閃光と爆音。
目と耳が戻ったとき、親父は壁まで吹き飛んでいた。
次回も変わらず戦闘です。…にしても…
…意外と那智視点が書きやすい…渚視点が難しいだけに他の人の視点が楽です(笑)