GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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本日二話目。ちなみに今日は合計四話投稿です。
…UA数の表示を各話のべ人数にして欲しいと思っているのは私だけではないはず。


取捨選択

 

取捨選択

 

《……あれ?なんか楽しそうなことになってない?》

 

……支部恒例?の歓迎会の最中、イザナミが目を覚ました。

 

【あ、おはよ。ちょうど歓迎会やってもらってるところだよ。】

《なるほど。》

 

開始から一時間。アラガミの掃討も完了し、明日までは確実にのんびり出来るとのことで、この支部の部隊長のケイトさんの部屋で歓迎会……というか、すでに飲み会である。

……テーブルの上にはすでに三本の空き瓶。それでも飲む勢いが衰えない約三名。……ある意味アラガミよりも恐ろしい……

 

「ごめんね……ハルって飲み始めると止まらなくって。」

「いえ……そんなこと言ったらあの二人だって止まらないどころじゃないので……」

 

……酔っぱらいのおっさんになったリンドウさんと、完全に悪酔いモードに入ったツバキさん。そしてどうやら似たような状況にある、ケイトさんの婚約者のハルオミさん。

……結論から言えば……止めに入った瞬間にこっちが生命の危険にさらされる。その光景を見つつ会話していれば、まあ当然ながら頭を抱えたくなるわけだ。

 

「そもそもケイトさんが五本もビールなんて持ってくるから……」

「まあまあ。こういう時くらいしか思いっきり飲める時なんてないんだから。ギルも飲んだら?」

「……遠慮しときます。」

 

今現在正気を保っているのは三名と一名。私とケイトさんとギルバート。それにイザナミだ。

私とケイトさんは少し飲んでほろ酔い気分になった後、グラス一杯をチビチビ飲みつつほのぼの談話中。ギルは元々あまり飲まないらしい。……飲むときはかなりの酒豪だそうだが……

 

《……にしてもあの三人よく飲むね……》

【飲み始めると止まらないから……】

 

いったいどこから持ってきたのか……卓袱台を囲んでぐびぐび飲みながら談義するリンドウさん達。止まる気配など欠片もない。

 

「そういえば極東ってどんな感じ?ハルの出身地だって言うんだけどぜんぜん教えてくれなくって。」

「あまりこの辺と変わらないです。アラガミは多いけど……」

「へえ。……なんか激戦区だからもっとカツカツしてるかと思ってた。」

「まあ……それなりには。でも最近は本部からの援助も増えたから多少は何とかなってます。」

 

……あくまでも、多少は、だけど。たぶんどこもそんなものだ。

 

「そっか……何にしても心強いよ。そんな場所から部隊長が来てくれてるんだし。」

「あはは……」

 

……かなり期待されているようだ。……大したことは出来ないんだけどなあ……

 

《……頑張れ。》

【丸投げしないでよお……】

 

   *

 

「……ああ。分かってるさ。」

「そうかい?なら良いんだけど……」

 

サツキが森の方へ行ってから20分強……そろそろ帰ってくるだろうか。

 

「そろそろ切るぞ。他に何かあるか?」

「いや。とりあえず、何かあったらかけてくれたまえ。なるべく出られるようにしておくよ。」

「ああ。」

 

……次の段階……か。

 

「あれ?誰かにかけてたの?」

 

無線機を置き、思考を巡らせようかと思ったところで渚に声をかけられた。後ろにアリサがいるとなると……気晴らしに外に出たのだろうか。サツキともう一人別のやつがいるのが謎だが。

 

「いや……暇してただけだ。」

「ふうん。」

 

信じるでも疑うでもなく俺の横に立つ渚。アリサも俯きつつ立ち止まる。

 

「んじゃあユノ。こっちこっち。」

「うん。」

 

サツキのトラックの中に入り何かを始めた二人。……知り合いだろうか。

 

「FCSジャックしてあの子の歌を流すんだって。」

「歌?」

 

わざわざフェンリルのチャンネルをジャックして歌を流す……正直何がしたいのか分からねえが……

 

「面白そうだよね。」

「……まあな。」

 

なぜか悪くないとすら感じた。こういう時に何を、だのと言うやつはいるだろうが……逆にこういう時だから、それをやろうとしているのかもしれない。二人を見ているとそう思える。

 

「……ところでそいつ。どうしたんだ?」

 

どこか楽しそうに話しているサツキ達とは対照的なアリサ。自分の話になっていることすら気付いていないらしい。

 

「昼の戦闘で何も出来なかった自分に悲観中。」

「……」

「元気づけようと思って外に連れ出したはいいんだけど……」

 

渚が呆れ気味にため息をついた。……まあ悲観してもおかしくはねえだろうが……はっきり言ってそのままでいられても困る。

 

「……ったく……」

 

ラックの上に置いておいた無線機を手に取り、ある端末へかける。……コウタのものだ。

 

「はいはい。コウタっす。」

「!」

 

彼の声が聞こえた瞬間に顔を上げたアリサ。その反応をもう少し見てみたい気もするが……そういう時でもない。

 

「言いたいことがあるんなら言っとけ。」

「あ……」

 

無線機をアリサに押しつけ、渚を半ば強引に引っ張っていく。……一人にしてやった方が楽だろう。

 

「……また荒療治だね……」

「他に方法が?」

「最善策だと思うよ?」

 

いつも通りの何かを見透かしているような笑みで答え、その表情をすぐに消した。残ったのはどこか悲しそうな顔のみ。

 

「……」

「どうかしたか?」

「ん?……ちょっとね。」

 

空を仰ぐようにしつつため息をついた。二年前から更に人間らしくなった渚だが……こうして憂う彼女を見たのは初めてかもしれない。

 

「アリサがさっき言ってたんだ。あのアラガミと戦えるのが羨ましいって。」

 

あれと戦える……つまりはアラガミであることを羨ましいと言っているのと同義だ。他から見れば羨ましい部分もあるだろうが、当人としてはそう思われるのを快くは思えない。

 

「……これまであまり気にしてなかったんだけどさ。何かそう考えると、ソーマと神楽って強いなあって思ったんだ。」

「強い?」

「……どんどん昔のことを思い出してきてるんだよ。……アラガミになった時のことも。」

 

自嘲するかのような笑みを浮かべ、木に背を預けて俯きつつ語る。あまりそうは見えないが少し言いにくいのだろう。

 

「……そのアラガミになったきっかけがさ、すごく悲しいことだった、ってことは思い出せた。何があったかなんてまだ思い出せてないのに……」

「……」

「そしたら何か怖くなってさ。何があったか分からないのに悲しかったことだけ分かっちゃったからかな……」

 

いつものような淡々とした口調ではありつつも、どこかで泣き出しそうな声で言葉を紡いでいく。ここまで感情を露わにしたのは間違いなく初めてだ。

 

「……でも二人は自分の生い立ちも全部知っててしっかり過ごしてるでしょ?アリサじゃないけど……やっぱり羨ましいよ……私はそんなに強くなれないもん……」

 

……彼女の大人びた様子は全て無理をしてのものだったのかもしれない。今目の前にいるのは、見た目相応の少女だ。

 

「……神楽が週に一回は出撃が遅くなってるってのは知ってるか?」

「?」

「……だいたいは週に一回……多いときは毎日……まあ頻度はいい。」

 

……だが彼女が言ったのは彼女だけが思っていることではない。

 

「……真夜中に魘されて飛び起きることがあってな。だいたいはあいつがアラガミになった日のことを夢に見たときらしい。」

「えっ……」

 

そうなったときはしばらく怯えて泣き続ける。俺がいないときだと尚更だと言っていた。

……はっきり言ってあいつは自身の過去を克服していない……俺が言えた義理でもねえが。

 

「あいつはまだ少しだけ七年前にいる。……俺も同じだ。」

 

奇妙な静寂に包まれる。どちらも言葉を発することなく、またどちらも何かを言おうとするかのように。

 

「ソーマ!渚!」

 

……まあ、ある意味で良いタイミングだ。

 

「何だ。」

「どうしたの?」

 

同時に聞いた俺達に、なぜかとてつもなく楽しげにこう聞いた。

 

「そろそろ羽目を外しませんか?」

 

……その満面の笑みを見て、嫌な予感を感じたのは俺だけではないと信じたい。

 

   *

 

「くしゅっ!」

 

……ソーマが噂してるかな?

宴会……もとい歓迎会も終わり、とりあえずは割り当てられた部屋でコーヒーを淹れた。……豆を持ってくるのは結構大変だったけど……

 

【イザナミ、起きてる?】

《……一応……》

 

結局歓迎会が終わる頃にまた寝始めたイザナミ。それからは寝たり起きたりを十数分おきに繰り返している。

 

【……最近寝過ぎじゃない?】

《眠いんだよ……》

【にしたって……】

 

……一月ほど前までは一日中起きていることも珍しくなかったのだが……どうかしたのだろうか?

 

【そういえば、例のアラガミの反応っぽいのって感じてる?】

《今のところ全然。ほんとにこの辺にいる?ほぼ既存種だよ?》

【ほぼ?】

《一体だけ何か違うんだよ。カリギュラにかなり似てるけど。》

 

コーヒーを飲みつつそのカリギュラに似た反応を探ってみる。……まあ私がやって捉えられるかはかなり微妙だけど。

 

【……分かんないや。】

《かなり遠いから。私も時折察知するくらい。》

【そっかあ……】

 

私達が追っているアラガミ……追跡理由は、その反応が私やソーマ、更に渚と似ていることだ。博士の推測では人がアラガミ化した結果である可能性がある、とのこと。それでいて既存のアラガミと似た部分は全くないため、特異種であることは間違いない。

 

《……でもそれ以前に……》

【ん?】

 

イザナミが話題を変えた。……こういう変え方をするときはだいたいとんでもないことを言うときだ。

 

《神楽が極東から離れたことの方が問題かも。》

【私?】

《アラガミにとって極東一の驚異は何だと思う?》

【えっと……】

《……自分だって気付こうよ……》

 

……あまり自覚はないんだけど……そうなんだろうか。

 

《で、今追跡中のアラガミは神楽とソーマと渚の反応と似たようなものがある。向こうからしてもこれは同じ。ここまで良い?》

【……うん……】

《その自分と似ているのを見つけて近付きたいと思った。でもなんか危ないのがいる。あ、これ神楽ね。仕方ないから他のところをぶらついてたら危ないのがこっちに来た。よし逃げるついでにいつだかの似てるやつでも見に行こう。私がそこにいたら、こう考えるかな。》

 

……えっと……?

 

【ソーマのところに行ったって?】

《かもしれない。》

 

……不吉だなあ……なんて若干的外れなことを思ったときだった。

 

「支部周辺にアラガミが出現。出撃可能の神機使いはエントランスに集合してください。」

 

急を告げるアナウンス。……いくら掃討したって言っても、来るときは来るのがアラガミだった。

 

【……もうちょっと起きててよ?】

《うー……》

 

不満げなイザナミだがこればっかりは仕方ない。コーヒーを飲み干し、エントランスに向かった。




そういえば最近友人からこう言われてます。
「お前サブタイとか台詞とか懲り過ぎ。」
…は、はい…
と言いつつ今回のサブタイはあまり考えずに付けていると言う…

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