GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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…予想以上に時間がかかった…なぜだ…
あ、どうもどうも。お久しぶりです。やっと出せるところまで書けました。
何が問題って渚視点が書きにくいから(ただの言い訳ですお待たせして本当に申し訳ございません)


依り代

 

依り代

 

グラスゴー支部に着いてからしばらく経った頃、私の端末へ無線が入った。ちなみにイザナミは睡眠中である。……最近寝てばっかりなのは気にしない。

 

「神楽です。」

「俺だ。今いいか?」

「あ、ソーマ?うん。大丈夫。」

 

スピーカーから聞こえたのは数日ぶりとなるソーマの声。私自身気付かぬ内に声が弾む。

 

「今グラスゴー支部にいるんだ。予定は大狂いだけど。そっちは?」

 

……まあ大狂いと言っても……本部の時みたいに着いた途端任務、なんてことにはなっていないんだから良しとしよう。小部屋も借りられてるし。

グラスゴー支部の神機使いは三人。アラガミの出現数こそ少ないものの、比較的強い個体が出現しやすい地域にあるこの支部を三人で保たせていると聞いた時は目を丸くした。今は三人とも任務に出ているそうだ。

 

「……最悪だ。」

「……ええと?それはつまり?」

 

彼が最悪とまで言うとなると……予定も何もない、ってことなのだろうか。

 

「出て早々にヘリが墜とされた。巡り巡って独立ハイヴの中だ。」

「独立ハイヴ?」

「ああ。極東支部から追い出された奴らが防壁まで組み上げて住んでるらしい。一応親父には知られてるみてえだが……」

「極秘事項にでもなってるの?」

「そうらしい。さすがに現状はコウタに知らせたが。」

 

追い出された人が寄り集まって住み始めることは珍しい話ではないと聞いたことはある。と言っても、今の状況で防壁も神機使いもなしの場所で生き抜くことはほぼ不可能だ。よって……それらは発見される前に壊滅する結果となる。

彼のいるハイヴはそうした集落の貴重な例と言ったところだろうか。しかも防壁まで持っているとなったら、貴重な例どころではない。

……博士が知ったら喜び勇んで乗り込んでいくんだろうなあ……

 

「……でもそこの防衛って……神機使いは派遣されてないよね?」

「ああ。派遣された覚えもねえ。」

 

……追い出された時点で神機使いには頼らない、って決めているのかもしれないなあ……そう、自分の過去を思い出しつつ思った。

……もしあの時神機使いが来るのが一秒でも早かったとしたら、もしかしたらみんな助かったんじゃないか……そんな風に考えたことがないなんて、口が裂けても言えないから。

 

「昼にアラガミが来てな。とりあえず対処はしたんだが……」

「うん。」

「……途中で妙に動きのいい人型の機械に乱入された。」

 

はっきり言って意味が分からない。アラガミと変な機械と、一体どこに関係があるのだろう。

 

「……まさかその機械がアラガミを倒したの?」

「ああ。」

「……ほんとに?」

「……実際に見ておいて何だが……俺もわけが分からねえ。分かってんのはそれが本部の研究の一環だってことだけだ。それの後に来たトラックに本部のロゴが入ってやがった。」

 

本部の研究……とすると、本部の中の誰かも彼がいる独立ハイヴの存在を知っているのだろう。下手したら本部そのものは知らないかもしれない。でなければそのハイヴでの運用は難しいだろう。

 

「とりあえずそいつに会ったら気を付けろ。お前は攻撃されるかもしれねえからな。」

「……えっと?」

「俺が攻撃された。」

「……アラガミにオートで攻撃してるのかな?」

「分からん。」

 

間髪入れずに聞こえたため息が彼の言葉をいっそう重くする。それなりに強い相手だったみたいだ。

と、話が一区切り付いたところで扉がノックされた。続いてリンドウさんの声がインターホン越しに響く。

 

「神楽。ここのが戻って来たっつーから挨拶行くぞ。」

「あ、分かりました。」

 

まあ……恒例行事、と言ったところだろう。他の支部へ行ったときの礼儀だ。

 

「ごねんね。ちょっと行ってくる。」

「ああ。お休み。」

「お休み。また今度ね。」

 

後ろ髪を引かれつつ、通信終了のボタンを押した。

 

   *

 

サツキのトラックの外で二人の無線を聞くでもなく聞きつつ……どう考えても意識がどこかに飛んでいるアリサに声をかけた。

 

「……アリサ……」

「……」

「ねえアリサ。」

「ふえっ!?」

 

……やっと反応したか……

 

「……あ、渚……」

「……大丈夫?ずっと元気ないけど。」

 

まあ大方、さっき戦えなかったのが不甲斐ないとか……そんなところだろう。彼女はそういう人だ。

 

「……大丈夫です。」

「どこが……端から見ても完全に沈んでる。」

「……」

 

そうやって自分への責任をしっかり考えられること……それはすごく良いことだ。自分を卑下できる人はそういないから。

でも彼女はそれを考え過ぎている。何をどう頑張っても、出来ないことは出来ないことだ。それは出来る人に任せればいい。

……出来ないことをやろうとしても、失敗しか生まない。

 

「……ちょっと外に出ない?この辺ぐるっと回る感じで。」

「……はい……」

 

了承はしたものの動きが重い。……そんなに思い詰めてもどうしようもないのに……

 

「林の中にでも入って涼もうよ。」

 

手を取って少しだけ引っ張るように林の中に入る。ハイヴの中だというのにこれほどの植物があるっていうのは……ちょっと羨ましい。

 

「……二人とも……戦えてましたよね……」

「え?」

 

ぼそっと呟いたアリサ。はっきり聞こえなかったわけではないけど、何となく聞き返した。

 

「昼のアラガミ……あのシユウの変種、私何も出来ませんでした。」

「仕方ないよ。あいつは神機を止めてた。」

「でも二人は戦えてたじゃないですか……私だけ役立たずで……」

 

……これはまた重傷だ。どうしたものか……

 

「ソーマだって神機で戦ってるのに……」

「そりゃまあ全く同じオラクル細胞だからね。さすがに動きは悪くなってたけど。」

 

二年前に彼が侵喰した自身の神機。私同様、自らのオラクル細胞と全く同じもので構成されたそれすらもあのアラガミの影響を受けていた。

……もし彼が本気で戦えていたなら、あのロボットが乱入する前に片が付いていただろう。別にあの時“先”を見たわけじゃないけど、そのくらいは容易に察することが出来る。

 

「……二人が羨ましいです……」

 

……彼女としてはなんとはなしの発言だろう。単純に自分だけ戦えなかったことが情けないとか、任せっ切りには出来ないとか。そんな考えの基の発言だとは思う。けど……

 

「私としては、戦えない方が羨ましいけど?」

「えっ?」

「だってほら。」

 

右手を見せる。……腕輪がない、なのに神機を繰る手。それを見た途端にアリサの表情が変わった。

 

「……すみません……」

「いや私は別に良いんだけど……ソーマと神楽の前じゃ言わない方がいいよ。」

「はい……」

 

……まずい。余計に沈ませたかな?

 

「……どうする?そろそろ……?」

 

戻るかと聞こうとしたところで誰かの歌が聞こえた。八雲の家とは逆の方だ。

 

「……行ってみようか。」

「はい。」

 

林の少し奥まった辺り。……というかここまで大きいなら森と言う方が正しいかもしれないが……とりあえず少し奥の方へ進むと、若干開けた場所があった。

……近付いていく内に聞き取れたのはレクイエムの独唱。静かで澄みきった……なのに凛と響く、そんな声。

 

「……」

「……」

 

すぐ近くまで行き着いた。歌っていたのは、温和しそうで、でも芯は強そうな少女……薄手のワンピースに身を包み、長い髪を揺らしながら……先のアラガミの襲撃で亡くなった人々の仮墓地の前で歌っていた。

私もアリサも何も言わずに聞き入る。……どこかもの悲しいながらもまたどこかでは勇気づけてくれるかのような歌声を、邪魔したくはなかった。

……のだが……

 

「あ……」

「……」

 

アリサが枝を踏んづけた。パキッ、と小気味良い音が木々の間に反響していく。

 

「っ!」

 

振り向いた少女。年はアリサと同じくらいだろうか。

端整な顔立ちとすらりと長く延びた四肢……よし。容姿の観察は止めよう。悲しくなる。

 

「あっ……ご、ごめんなさい。驚かせるつもりじゃ……」

 

アリサが謝罪するも、明らかに警戒したままの少女。あまり人に慣れていないのだろうか。

 

「……聞き入ってたら枝踏んづけたのがいるだけだから。気にしないで。」

「……すみません……」

 

うなだれるアリサを見て少しは気を緩めたようだ。いくぶんか表情が和らぎ、歌っていたときに見せていた落ち着きを取り戻している。

 

「さっき歌ってたのって……鎮魂歌?」

 

当たり障りのない質問をしてみる。……まあ聴いたことのある歌だったし、それがレクイエムだっていうのも知ってはいるけど。

 

「うん……このくらいしか出来ないから……」

「……そっか。」

 

……きっとこれまでもずっと歌ってきたんだろう。おそらくはこれからも。

 

「……神機使いの方……?」

 

言い当てられたのに少し驚く。私を見て分かるはずがないし、アリサの方も右手首まで袖を下ろして……

 

「……アリサ。袖。」

 

……いなかった。

 

「えっ?」

「いやだから袖。隠せてないって。」

「……あ……」

 

急いで手首まですっぽりと覆うがもう遅い。少女の方もやっぱり、と言いたげな顔をしている。

 

「気にしなくていいよ。戦ってくれたって聞いてるから。」

 

言われた途端にアリサの表情が曇る。……向こうは気付いていないようだ。ひとまず遮る方がいいだろう。

 

「……さてと。まあとりあえず、こっちがアリサ。私は渚ね。」

「あ、うん。えっと……ユノです。芦原ユノ。」

 

……芦原?

 

「もしかしてあの那智って人の親戚?」

 

今度はユノの表情が曇る番だった。あまり聞かれたいことではないのかもしれない。

 

「……親戚って言うか……娘なの。だからいつもあの塔から出してもらえなくって。」

 

彼女が指さしたのは中央部に聳える行政府舎。屋根を支えるように立つそこから出してもらえないと言うことは……

 

「……抜け出してきた?」

「そんな感じ。」

 

はにかみながら言うことじゃないと思うんだけど……彼女としては外にいること自体が楽しいのかもしれない。

そのはにかんだ表情のまま、今度は彼女が質問してきた。

 

「そういえばフェンリルのマークが入った車両って見てない?それかサツキって人。」

 

よく知った名前を聞いて面食らい……当人の声を足下から聞き取った。

 

「……チッ……やっぱり安物マイクじゃ音悪いわね……」

 

妙にごつい録音機に繋いだヘッドホンで何かを聞きつつぼそぼそ呟いている……そんなサツキの姿がそこにあった。手にマイクを持っているのが謎だが。

 

「……何やってんの?」

「ん?あー……いやちょっとばかりさっきの歌を録音したんですけどね。どうにも音の拾いが悪くって。」

 

茂みの中からもぞもぞ抜け出しつつ答えるサツキ。その姿を見てユノが笑う。

 

「いくら流したいからってそんなところで……」

「流す?」

 

アリサが聞いた。……少しは楽になってきているんだろうか?

 

「ユノの歌をFCS(フェンリルのメディアチャンネル。この時代唯一の公式放送機関でもある。)の回線をジャックして流すんですよ。本人からは断られてましたけど。」

「じゃあさっきのって……」

「盗撮です。」

 

……ダメだ。この人は頭のネジが変な方向に曲がっているらしい。

ユノもユノでサツキを見かねたのか、ため息をついてから言い放った。

 

「許可取ってくれなきゃダメって言ったでしょ。……もともとそのために来たのに……」

 

……拗ねた。っていうか抜け出したのってそのため?

 

「ごめんごめん。……じゃあさっそくお願いできる?」

「……もう……」

 

謝りながら歩いていくサツキと、まだ少し拗ねながらついて行くユノ。……その二人を見ながらアリサが呟いた。

 

「……私って……だめですね……」

 

……かける言葉を知っていたら。本気でそう思っていた。




原作無視?何のことでございましょう。
コミックを既にお読みの方は気付いているかと思いますが、この小説のほうでは原作の裏側をメインに書いています。
…私の勝手な想像百パーセントなのは気にしないでくださいお願いします…

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