GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
導
本部到着から半日。
「もうグラスゴーに行くって……予定も何もないですね……」
……予定が大狂いしていた。
最後に行くはずだったグラスゴー支部。その周辺でのハンニバル種出現回数が突然増加したそうだ。
「にしてもカリギュラか……厄介だな。」
「変種らしき反応も確認しているそうだ。準備は入念にな。」
「はい。」
極東支部での初観測後、各地でその存在が確認され始めたハンニバル種。その種類は現在までに確認されたもので二種類。
一種類目は今現在通常種と呼ばれている、体色が全体的に白い種類。左腕の籠手や背中の逆鱗と呼ばれる部位、右手に炎の槍を作り出すなど、特徴の多いアラガミだ。
二種類目は腕から大型のブレードを形成するものだ。背中にはブースターがあり、高速の滑空を行うことで知られている。こちらはカリギュラという名称が別途付けられた。体色は青。
初観測から間もない頃は、再生するコアを持っていたことから“不死のアラガミ”と呼ばれていたが……私と渚はごくごく普通に討伐することが出来ていた。博士曰く、オラクル細胞が人の細胞と交わったことで起こった進化でどうのこうの……まあとりあえずは、私達の神機から採取した偏食因子と幾度か回収されたハンニバルのコアとで、通常の神機も対応できるようになったわけだ。
……にしてもこの体……意外なところで役に立ったものだ。
《変種ねえ……》
【どうかしたの?】
《まさかそれ相手にあのどうしようもないレベルのが動いてるわけじゃないよね?》
【……考えたくないかも……】
……どちらにしろ、ヘリでの移動中にアラガミとはち合わせる可能性も考えた方が良さそうだ。アラガミがいきなり増加した時なんて、どこかがとんでもないことになるに決まっている。
【……ソーマの方、大丈夫かな?】
《大丈夫でしょ。落ち着いたら連絡したら?》
【うん。そうする。】
二十歳にもなっていちいち心配するのもどうかとは思うけど……
……なぜか胸騒ぎがしていた。これから何かが起こる、と。
*
「先に行ってくれ!神機も頼む!」
「はい!」
手を縛っていた縄を引きちぎり、周りの兵士を間髪入れずに昏倒させる。倒れていく兵士の隙間を縫ってアリサが走っていった。
「貴様!何をしている!」
中から出てきた那智が罵声を発するが、生憎こっちにはその程度で止まる気など毛頭ない。
「ここには神機使いはいねえんだろ?」
「だからと言って貴様らが動くところではない!」
「……住民を殺す気か?」
今どちらが得策かなんざ分かり切っているはずだ。そういう意味を込めて告げた。
……が……
「勝手に捨てておきながら今更何を言っている!」
恨み……周りなど見えず、その対象へ最大限の意趣返しをすることを生き甲斐にまでする。そんな感情だ。
……そしてそれに身を焼いている間は、何一つ先へは進めない。
「……あんたも逃げろ。ここまで来てもおかしくねえ。」
「なっ……!」
と、遅れて中から出てきた兵士が彼を説得にかかった。
「総統!ここは危険です!」
「……分かっている。」
憎しみを込めた目のまま去っていった那智。……自分を重ねていた理由が、若干分かったように思えていた。
*
その少し前。
「……これは何とも……」
天辺までアラガミ装甲に囲まれた中にどうにかして入る……そんな難題に直面していた。
一番初めに試したのは……そのまま入ること。外見上14歳頃のままだし行けるかなー……なんて思ったりしたんだけど……まさか通行許可証が必要だとは……いやまあ考えてなかった訳じゃなかったけど……外にいる見た目はごくごく普通の幼気な少女くらいは入れてくれたっていいじゃないか。……ペッタンコだけど……
「……はあ……」
二人と話していれば少しは気も紛れるんだろうけど……
思い出さないといけないことのようで……でも思い出すのが辛いことにも感じられて。考えているだけでもどかしい。
「……?」
視界の端に何かが映った。どうやら何かが飛んでいるようだが……
「……まさかあのシユウ?」
勘弁してほしいんだけど。なんて考えている場合でもない。シユウ二体の周りにはザイゴートも多数……となると、ここで抑え切るのは厳しいだろう。地上にまでアラガミが来たりなんかしたら……
「よし。」
この際だから混乱に乗じて中に入ろう。アラガミは中に入ってからでも倒せるし、何よりソーマ達もいるんだ。ひとまず数を減らしておけば問題はあるまい。
「……ちょっと憂さ晴らしに付き合ってもらうから。」
*
……ザイゴートが三体。オウガテイルが三体。ヴァジュラが二体。それから外壁の上にあのシユウの変種が一体……その後ろの外壁が壊れているのを見る限り、さっきの爆発音はそこの破壊時のものだろう。
「悪い!待たせた!」
「遅いです!」
戦闘開始から二分程経ってのソーマの到着。まあ……遅れたは遅れたけど、彼がいるだけでずいぶん違うんだから別にいいかな。
「ヴァジュラは俺が抑える!周りのを何とかしてくれ!」
「はい!」
……言い切る頃には実践しているのを半ば恐ろしく思いつつ、狙いを小型のみに絞る。
近くにいたオウガテイルの首を斬り落とし、返す刀で上のザイゴートを両断。後ろに下がりつつ横を通り抜けた二体のオウガテイルを神機を一周させるようにして斬り伏せ、銃に切り替えてから残りのザイゴートを片付ける。
……それにしても……なんでこれだけのアラガミが来てるのに外からまた入ってくる様子がないんだろう……
「……後はあいつか。」
ソーマもソーマでヴァジュラを始末していた。その目はすでに外壁の上のシユウへと向けられている。
「ここを頼む。どうせまだいるだろ。」
「はい。」
シユウの背に波打つ触手。異常なほどの存在感を持つそれを、なぜか触れてはいけないもののように思っていた。
*
「……ふむ。」
屍がざっと12体……少し離れたところにはシユウの変種がさらに数体、と。
「大丈夫かな?あいつが本気出したら……」
外壁の穴からも見えるシユウの変種。通常種どころか、おそらくはセクメトよりも面倒な相手だ。特にアリサにとっては……たぶんだけど、戦えない相手になる。
「……あ、そういえばあそこから入れるかな?」
……まあその心配以上に、私にとってはここの中に入れるかが問題なわけだけど。
*
外壁の方へ走っていくソーマ。それに気付いたシユウがついに動いた。
「っ!?」
「何だ!?」
……奇声と呼べるほどの咆哮。耳をつんざくその声が響いた直後、神機を持ち上げられなくなった。
「……?」
通常、接続状態にある神機からの重量は実際のそれよりも遙かに軽いものになる。接続が切れていることは、即ちそれ本来の重量を持ってそこに存在し、神機使いと言えどもろくに振ることすら叶わないことを意味するのだ。
……私の神機の現状が、それだった。
「えっ……?」
いつも自分の腕に答えてくれていた相棒が、今は行動の邪魔者として腕にぶら下がっていた。……意味が分からない。なぜ、どうして、と……ただただ短い疑問文だけが頭の中を駆けめぐる。
「おい!さっさと避けろ!」
ソーマの声で我に返る。上げた目に映るのは、ごくごく普通に神機を扱っているソーマと、私に狙いを定めて滑空してきているシユウ。……距離、五メートル。
「あ……」
非常にゆっくりと流れていく時間の中、とにかく次の行動を考えた。神機を持って避ける?間に合わない。神機を捨てて避ける?間に合わない。神機を無理矢理動かす?出来るとは思えない。スタングレネードでも投げる?……いや。そんなものはヘリが墜ちたときに全部オシャカになっている。
……この際だから拳でも振り抜いてみようか。そんなことを本気で考えたときだった。
「伏せて!」
……シユウが吹き飛び、頭の上すれすれを細い何かが通り抜ける。続いて小さな足音が聞こえた。
「……ふう……無事?」
手を差し出している渚。……その体が返り血に染まっているのは……もしかして外で戦っていたからなのだろうか?
「すみません……助かりました。」
「神機は?」
言われて初めて、まともに動かせるようになっていることに気付く。……あのシユウが原因だった、ということなのだろうけど……
「ソーマ!まだ来るよ!」
「……チッ……」
あのシユウが吠えた直後も普通に動いていたソーマ。全く影響を受けず、私を助けてくれた渚。
……私だけ、動けなかった。
「アリサはひとまず下がって。あいつらは私達でやるから。」
穴から飛び込んできた三体のシユウ。全部変種だ。
その中の一体がさっきと全く同じ咆哮を発し、神機が動かせなくなった。
「ソーマ!二体お願い!」
「ああ!」
どうしようもなく……もどかしい。
「……私だけ……役立たずじゃないですか……!」
……柄をどれほど強く握りしめても、神機は動かない。いつも自分の手足のように思っていた切っ先は、その剣閃を見せることはない。
気が付けば……シユウは二体にまで減っていた。
「っ!」
突然外壁の下部分が打ち破られる。またアラガミが来たのか、と思いきや、入ってきたのはロボットのような人型の機械。手には板のようなものを持っている。持ち手があるのを考えると、おそらくは何らかの武器なのだろう。
「……何……」
そのロボットが残っている二体のシユウの内のソーマが相手をしている方へ飛びかかる。一足で二メートル。それもロボットとは思えないなめらかさで、だ。
そのままの速度で武器らしき板を振り抜き、シユウの翼を叩き折る。
「……味方か?」
逃げるシユウを追いつめ、板を突き刺すようにして頭を叩き割った。知能があるのかと思うほどに素早く、かつ無駄のない動き……熟練の神機使いでもここまで鮮やかにはなかなかいかないだろう。
ソーマもその間に渚と合流し、最後のシユウを潰していた。
「大丈夫か?」
「……はい……」
……ものの一分足らず。私が動けないでいる間に、アラガミは全部倒された。
「ソーマ!まだ終わってない!」
「あ?」
渚の声に反応して振り向いたソーマ。その彼が吹き飛ばされ、先にあった民家の壁を破壊しつつ中へ入る。
「ぐっ……」
彼の代わりに目の前に現れたロボット。横薙に振られたのであろう板は私の頭すれすれで止まっていた。
「……やってくれたな……」
ソーマが動いたのを見るや彼の方へと歩き出す。
……その背中に付いた丸い発光体の中で、フェンリルのマークが朧気に映っていた。
「……フン……」
今度はソーマから動いた。ついさっき自分が通った穴を潜り抜け、片手で神機を振るう。
ロボットの方もそれに反応し、鈍い音を立てつつ鍔迫り合いへ。が、すぐにソーマが押し負ける。
一瞬だけ離れ、今度は下段から胴を狙って振り上げる。再度阻まれるが、鍔迫り合いには持ち込まずに剣戟の応酬が開始された。
上段からの振り下ろしを弾き、剣の腹で頭を狙う。その刃の付け根を抑えつつ横から薙払うように大きく仕掛け、その切っ先も石突きで地面へ落とされた。
どちらがどちらとも分からない刀のやり取り。それが三十合は続いた頃だった。
「……止まった?」
二人とも刀を振り上げたまま、一瞬だけ硬直した。すぐにソーマだけは特に何でもないように動き始め、間違いなく悪役であるとすら思うほどの笑みを浮かべる。
「ハッ……燃料切れか。」
……どうやら最初の不意打ちがかなり頭に来ているらしい。やっと叩き壊せるとばかりに、両手で思いっきり薙払う体制へ入ったところからも明らかだ。
が……
「ソーマ。待って。」
「あ?」
その彼を渚が止める。彼女の言葉から一呼吸おいて、先ほどロボットが空けた穴から一台のトラックが見え始めた。
……フェンリル本部のロゴ入りだ。
「……戻ろう。あれは味方じゃない。」
かなり不吉な発言に、私もソーマも従う他なかった。
…いつもより少しキリが悪いかもしれませんが…この後まで書いてると七話投稿とか普通にありそうなんで勘弁してください…
にしてもアプデ…来ませんね…昨日は何箇所かのスレが埋まったみたいですけど…
…製作陣ちゃんと生きてるかな?
きたらその日中にサバイバル99をクリアしようかと思っているんですが…
ま、まあとりあえず、次回もよろしくお願いします。