GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

7 / 150
えー、前回の読者様からコメントをいただいたので一話もろとも形式を変えてみました。
……サブタイは結構適当ですが……


二日目

二日目

 

目が覚める。周りに広がるのは昨日と同じ部屋。それが今を現実として捉えさせる。……どうやら泣きつかれて寝てしまったようだ。頬に付いている涙の跡を感じつつ推測する。

ベッドの横に置いた家族の写真。……思うところは、たくさんある。

 

「おはよう……」

 

空を見上げているとき以外で人になれるたった一つの時間。……五年前の写真と向き合う時間。

それがすぎてから顔を洗う。昨日シャワーすら浴びていなかったから、この日の洗顔は浴室でのものとなった。

淡い水色のネグリジェを脱ぎ、浴室に入って頭からシャワーを浴びる。髪を洗うといつも思い出す。七年前まで短くしていた髪。

 

『お姉ちゃん、髪の毛伸ばしたりしないの?』

 

弟に聞かれて、母にも聞いてみた。

 

『私ってさ、髪伸ばしたら似合うかな?』

 

元々髪を伸ばしていた母は、その言葉にこう答えてくれた。

 

『きっと似合うわ。私の娘だもん。』

 

暖かだった日々。それを思い出すと、今でも感情を抑えられなくなることがある。……昨日のように。

 

   *

 

浴室から出る。腕輪は着替えで邪魔になると誰もが言うらしいが、私の場合は肩が紐のみになっている長めのネグリジェと、服と言えるのかどうかも怪しいような強襲兵服。そこまで邪魔になるはずもない。

身支度を整え終わり、ターミナルを起動させる。メールが一通届いていた。

 

「リンドウさんから?」

 

差出人の表示は雨宮リンドウ。件名はお疲れさん、だ。

 

《昨日はお疲れさんだったな。姉上、つまりはお前の教官からは相当腕がいいって聞いてたんだけどな。正直言ってあそこまで動けるなんてのは全く予想してなかった。んでまあとりあえずそれはおいておいてだ、今日の予定なんだが、今日はサクヤと行ってくれ。うちの遠距離型だ。連携は近距離の奴より面倒だが、援護があるってのは意外と戦いやすいからな。ま、勉強だと思って行ってこい。》

 

「近距離型との連携……」

 

それを昨日教えてもらえなかった気がするのだが……もう気にするつもりもない。あの人があまり頼りにならないのは昨日よくわかったから。

でもサクヤさんか。どんな人なんだろう?第一部隊員は何かと癖のある人が多いって教官に聞いたけど……せめてリンドウさんよりはマシであってほしい。

 

   *

 

「あ、もしかして新しい人?知ってるかもしれないけど、橘サクヤよ。よろしくね。」

 

エントランスに出ると同時にかけられる優しげな口調の言葉。そちらを見て気が付く。

 

「はい。神崎神楽です……」

 

私に話しかけたのは…何というか、すさまじい服装のお姉さんって人だったことに。

 

「ん?どうかしたの?」

「いえ……」

 

そう?、なんて言っているサクヤさん。自分の服装についてなにも考えていないのか?この同じ女の私でも目のやり場に困る服装について?

不自然な目の逸らし方にならないようにヒバリさんに声をかける。

 

「あの、今日の目標って?」

 

苦笑しつつ資料をめくっていくヒバリさん。多分話を振られた理由をわかっている。

 

「対象はコクーンメイデンです。遠距離での攻撃を得意とするアラガミですから、密集している場所に無闇に入っていくのは危険ですね。集中砲火を浴びせられた事例が……それはそれは大量に。」

 

昨日の時点で結構仲が良くなった。……だがそれすらも、所詮は仮初めだと見ている自分がいる。

 

「さ、とにかく行きましょう。」

 

サクヤさんの号令。

 

「はい。」

 

二度目の実戦。それに、特に何も感じることはなかった。

 

   *

 

「風が強いのよねえここ。この服だとばたばたしちゃって。」

「じゃあもっと動きやすいのにすればいいじゃないですか。」

「そうなんだけどねー。気に入ってるのよねえ。」

「はあ……」

 

戦闘エリアである旧都心部。何でも嘆きの平原とか呼ばれているらしい。全く、いいネーミングセンスの持ち主がいたものだ。

……どこからかアラガミの叫びが響く。

 

「早速ブリーフィングを始めるわよ。」

「はい。」

 

リンドウさんと同じように真剣な表情へと移る。

 

「今回の任務では遠距離型の神機使いとの連携を学んでもらうわ。絶対条件は、その神機使いの射線を考えて動くことと、同時にその射程から出ないことよ。」

 

聞きながら頭に叩き込む。

 

「わかった?」

「はい」

 

そう答えると、サクヤさんは少し顔をほころばせた。

 

「素直でよろしい!頼りにしてるわ」

 

言い切るとまた前を向き直り、

 

「さあ、始めるわよ。」

 

と言って飛び降りた。私もそれに続く。

先ほど声の聞こえた東側へと進む。程なくして目標を発見……いや、発見された。

 

「っ……」

 

反射的に横へ飛び退く。さっきまでいた場所にはレーザーによる焦げ跡が付いた。

 

「援護するわ!行って!」

 

サクヤさんからの声。聞き終わるか終わらないかで駆け出す。その横をサクヤさんのレーザーが通り抜け、コクーンメイデンの頭へと吸い込まれていった。同時に発せられるくぐもった叫び。

 

「……黙れ。」

 

また自覚なしに物騒なことを呟く。横薙に振った刀身はアラガミの中心を捉えた。またも降り懸かる返り血。その瞬間だけがしばらく続いたかのような感覚がしてから、切断された上半分がずり落ちる。

 

「見事ねえ。ここまですごい新人は初めて見たかな?」

 

コアを回収し終わった私にサクヤさんが呟く。

 

「……そんなことないです……」

 

なぜだろう……また、一人になりたくなっていた。

 

   *

 

残りの目標も順調に片づけて帰還した私たちを待っていたのは、どう見てもシャワー浴びてきましたって感じのリンドウさん。

 

「よう。無事帰ってきたな。」

「もちろん。それよりこの子すごかったのよー。二発目が届く前に倒しちゃうんだもん。びっくりしたわ。」

 

そう言って私の肩に手を回す。ほめてもらえるのは良いのだが、この二人……なんか妙に仲が良いような……

 

「ほう。こりゃあ新型の面目躍如だな。」

「いえ、そんなこと……」

 

謙遜するが、二人とも何かのスイッチが入ったようで。……その後の言葉は、私を完全にパニックにさせた。

 

「でも、気を付けてね。神機使いはすごい人ほど早死にするっていうくらいだから。」

 

早死にって……死ぬ?それのみに支配された頭の中で再生されていくあの日の出来事。立っていることすら辛い。

 

「じゃあ俺はまだまだってことだな。」

「あなたの場合はその重役出勤癖を何とかしないとだめよ。」

 

記憶の中へと沈んでいく。出ようともがくほどに絡みつく、底なし沼のようなあの日の記憶に……

 

「うーん。そこに持ってかれると辛いなあ。って、おーい?どうかしたか?」

 

誰かが呼んでいる……

 

「え?ねえ、顔色悪いわよ?」

 

だれかのこえがする……

 

「ーーーーーーー!」

 

みみなりが……する……

 

『逃げろ!早く!』

 

……おとが……する……

 

『っ!神楽……ガッ……!』

 

……おとう……さん……




この第二話を最初に読んだときの友人からの感想はこうでした。

「お前一話と同じでダークなのばっか書くよな。」

……好き好んでこうしているわけではないのです。そう、あと二、三話ですね。たしか主人公を明るくしたはず……ってネタバレかな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。