GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
……サブタイは結構適当ですが……
二日目
目が覚める。周りに広がるのは昨日と同じ部屋。それが今を現実として捉えさせる。……どうやら泣きつかれて寝てしまったようだ。頬に付いている涙の跡を感じつつ推測する。
ベッドの横に置いた家族の写真。……思うところは、たくさんある。
「おはよう……」
空を見上げているとき以外で人になれるたった一つの時間。……五年前の写真と向き合う時間。
それがすぎてから顔を洗う。昨日シャワーすら浴びていなかったから、この日の洗顔は浴室でのものとなった。
淡い水色のネグリジェを脱ぎ、浴室に入って頭からシャワーを浴びる。髪を洗うといつも思い出す。七年前まで短くしていた髪。
『お姉ちゃん、髪の毛伸ばしたりしないの?』
弟に聞かれて、母にも聞いてみた。
『私ってさ、髪伸ばしたら似合うかな?』
元々髪を伸ばしていた母は、その言葉にこう答えてくれた。
『きっと似合うわ。私の娘だもん。』
暖かだった日々。それを思い出すと、今でも感情を抑えられなくなることがある。……昨日のように。
*
浴室から出る。腕輪は着替えで邪魔になると誰もが言うらしいが、私の場合は肩が紐のみになっている長めのネグリジェと、服と言えるのかどうかも怪しいような強襲兵服。そこまで邪魔になるはずもない。
身支度を整え終わり、ターミナルを起動させる。メールが一通届いていた。
「リンドウさんから?」
差出人の表示は雨宮リンドウ。件名はお疲れさん、だ。
《昨日はお疲れさんだったな。姉上、つまりはお前の教官からは相当腕がいいって聞いてたんだけどな。正直言ってあそこまで動けるなんてのは全く予想してなかった。んでまあとりあえずそれはおいておいてだ、今日の予定なんだが、今日はサクヤと行ってくれ。うちの遠距離型だ。連携は近距離の奴より面倒だが、援護があるってのは意外と戦いやすいからな。ま、勉強だと思って行ってこい。》
「近距離型との連携……」
それを昨日教えてもらえなかった気がするのだが……もう気にするつもりもない。あの人があまり頼りにならないのは昨日よくわかったから。
でもサクヤさんか。どんな人なんだろう?第一部隊員は何かと癖のある人が多いって教官に聞いたけど……せめてリンドウさんよりはマシであってほしい。
*
「あ、もしかして新しい人?知ってるかもしれないけど、橘サクヤよ。よろしくね。」
エントランスに出ると同時にかけられる優しげな口調の言葉。そちらを見て気が付く。
「はい。神崎神楽です……」
私に話しかけたのは…何というか、すさまじい服装のお姉さんって人だったことに。
「ん?どうかしたの?」
「いえ……」
そう?、なんて言っているサクヤさん。自分の服装についてなにも考えていないのか?この同じ女の私でも目のやり場に困る服装について?
不自然な目の逸らし方にならないようにヒバリさんに声をかける。
「あの、今日の目標って?」
苦笑しつつ資料をめくっていくヒバリさん。多分話を振られた理由をわかっている。
「対象はコクーンメイデンです。遠距離での攻撃を得意とするアラガミですから、密集している場所に無闇に入っていくのは危険ですね。集中砲火を浴びせられた事例が……それはそれは大量に。」
昨日の時点で結構仲が良くなった。……だがそれすらも、所詮は仮初めだと見ている自分がいる。
「さ、とにかく行きましょう。」
サクヤさんの号令。
「はい。」
二度目の実戦。それに、特に何も感じることはなかった。
*
「風が強いのよねえここ。この服だとばたばたしちゃって。」
「じゃあもっと動きやすいのにすればいいじゃないですか。」
「そうなんだけどねー。気に入ってるのよねえ。」
「はあ……」
戦闘エリアである旧都心部。何でも嘆きの平原とか呼ばれているらしい。全く、いいネーミングセンスの持ち主がいたものだ。
……どこからかアラガミの叫びが響く。
「早速ブリーフィングを始めるわよ。」
「はい。」
リンドウさんと同じように真剣な表情へと移る。
「今回の任務では遠距離型の神機使いとの連携を学んでもらうわ。絶対条件は、その神機使いの射線を考えて動くことと、同時にその射程から出ないことよ。」
聞きながら頭に叩き込む。
「わかった?」
「はい」
そう答えると、サクヤさんは少し顔をほころばせた。
「素直でよろしい!頼りにしてるわ」
言い切るとまた前を向き直り、
「さあ、始めるわよ。」
と言って飛び降りた。私もそれに続く。
先ほど声の聞こえた東側へと進む。程なくして目標を発見……いや、発見された。
「っ……」
反射的に横へ飛び退く。さっきまでいた場所にはレーザーによる焦げ跡が付いた。
「援護するわ!行って!」
サクヤさんからの声。聞き終わるか終わらないかで駆け出す。その横をサクヤさんのレーザーが通り抜け、コクーンメイデンの頭へと吸い込まれていった。同時に発せられるくぐもった叫び。
「……黙れ。」
また自覚なしに物騒なことを呟く。横薙に振った刀身はアラガミの中心を捉えた。またも降り懸かる返り血。その瞬間だけがしばらく続いたかのような感覚がしてから、切断された上半分がずり落ちる。
「見事ねえ。ここまですごい新人は初めて見たかな?」
コアを回収し終わった私にサクヤさんが呟く。
「……そんなことないです……」
なぜだろう……また、一人になりたくなっていた。
*
残りの目標も順調に片づけて帰還した私たちを待っていたのは、どう見てもシャワー浴びてきましたって感じのリンドウさん。
「よう。無事帰ってきたな。」
「もちろん。それよりこの子すごかったのよー。二発目が届く前に倒しちゃうんだもん。びっくりしたわ。」
そう言って私の肩に手を回す。ほめてもらえるのは良いのだが、この二人……なんか妙に仲が良いような……
「ほう。こりゃあ新型の面目躍如だな。」
「いえ、そんなこと……」
謙遜するが、二人とも何かのスイッチが入ったようで。……その後の言葉は、私を完全にパニックにさせた。
「でも、気を付けてね。神機使いはすごい人ほど早死にするっていうくらいだから。」
早死にって……死ぬ?それのみに支配された頭の中で再生されていくあの日の出来事。立っていることすら辛い。
「じゃあ俺はまだまだってことだな。」
「あなたの場合はその重役出勤癖を何とかしないとだめよ。」
記憶の中へと沈んでいく。出ようともがくほどに絡みつく、底なし沼のようなあの日の記憶に……
「うーん。そこに持ってかれると辛いなあ。って、おーい?どうかしたか?」
誰かが呼んでいる……
「え?ねえ、顔色悪いわよ?」
だれかのこえがする……
「ーーーーーーー!」
みみなりが……する……
『逃げろ!早く!』
……おとが……する……
『っ!神楽……ガッ……!』
……おとう……さん……
この第二話を最初に読んだときの友人からの感想はこうでした。
「お前一話と同じでダークなのばっか書くよな。」
……好き好んでこうしているわけではないのです。そう、あと二、三話ですね。たしか主人公を明るくしたはず……ってネタバレかな?