GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
…けっこう無理な終わらせ方したような気もしますが…エピローグです。
エピローグ
「博士。頼まれてた資料、持ってきたよ。」
「お、ありがとう。何か飲むかい?」
あれから二ヵ月が過ぎた。
「……まさかまた変なもの作ったわけ?」
「いやいや。今度は絶対おいしいと思うよ?」
……ここまでが吹っ飛びすぎていたのだろうか。非常にゆっくりと流れたようにすら感じるその二月の間に、実にいろいろなことがあった。
「……あの初恋ジュースとか言う悲劇的な失敗作がありながら信用するとでも?」
「……渚君。騙されたと思ってどうだい?」
まずリンドウとサクヤの結婚。まあ、あの二人が未だに結婚していなかったこと自体が奇跡に思えるけどね。
「前回そう言ってコウタを騙したのはどこの誰だか思い出してみようか。」
「……だ、誰だったかな……」
それと、名目上の支部長交代人事。……これが本当に名目上で……
肩書きとしては、ペイラー・榊支部長と、ヨハネス・フォン・シックザール博士。だがこの二人……変えるのが面倒だ、とか言って……極東支部内ではペイラー・榊博士と、ヨハネス・フォン・シックザール支部長で通してしまっている。この支部の二大エースもそう呼んでいる以上誰も何も言わないのが、これまたその状況をすごい勢いで浸透させてしまい……目の前の博士ときたら、その内本部から正式な事例を出させてしまいたいね、だの何だのと言う始末。……フェンリルという集団の中で、こいつほど面倒な人間が何人いるだろう。
「……じゃあ、その自信満々の新作Xを自分で試してみてくれない?い……」
「た、試したとも!」
大車は本部の査問会から軍法会議行き。その後、拘置所で自ら命を絶ったという。
そして、ヨハネスが共犯だと供述した、彼の弟であるガーランド。極東からの脱出は確認されているものの、そこから先の目撃証言がない。今のところは逃亡中という扱いだけど、近い内に死亡と認定されるだろう。
「今ここで。最後まで言わせてよ。」
「……」
複合コアに関しては、現存するレポートなどを元にリッカが研究を引き継ぐことになった。神楽も諸手を上げて賛成していたし、何も問題はないはずだ。リッカなら、きっとあの研究を成功させられる。
「さあ。」
「い、いや……」
そうそう。ソーマの暴走に使われたものがかなり面白いものだったことも分かった。私も驚いたけど、神楽のコアだったのだ。
どれだけ調べてみても、一つだけその現状がヨハネスのレポートに書かれていなかった青いコア。神楽曰く、それは彼女のDNAを使用したものであるとのこと。
……問題は、二人が帰ってきたときの検査で、ソーマの偏食場波形に神楽の持つ偏食場と若干ではあるが類似する点があることが見つかったことだ。それ以前の検査ではそんなものは全くなかったらしく、ソーマ自身が何か球体のようなものを埋め込まれた記憶はある、と言っていることから、博士が神楽のコアが使用されたのではないかと仮定。後日、私がアラガミの部分を見比べてみたところ……神楽の体の中にある球体と同じ形状かつ同じ反応のものがあることが分かった。
それが分かってから、ヨハネスも参加して再検査。結果……詳しいことは何も分からずに終わっただけだった。現在の科学力の悲劇とでも言っておこう。
……まあ、二人は私達が知る以前から薄々感づいていたようだけど。
「おいしいんでしょ?」
「……害はないさ。」
神楽の腕やソーマの神機は、もう今の状態が普通であるかのように受け入れられている。神楽に至っては非戦闘時なら人の腕に戻せるほどなのだから恐ろしい。
それに、二人が戦闘時になるとその戦闘能力が跳ね上がっていることも明らかになった。ソーマは全般的な運動性能、神楽は主に速度と感覚器官の感度がそれぞれ向上するらしい。
余談だが、神楽が右腕を神機に変えている間……彼女の目はなぜか金色になっているとか。背中からは常に小さなブースター炎のようなものが発せられているとの報告。本気を出すと髪の毛の色まで変化してしまう……まあ、見事にアラガミだ。人のことを言えたものでもないが。
「おいしいんだよね?」
「……食べても問題はないね。」
その二人の偏食場が衝突した余波なのか、今の第一ハイヴ跡にはアラガミが全く近寄らない範囲がある。直径にして約一キロという非常に狭い範囲ではあるが、その中にはオラクル細胞が一つたりとも存在しないらしい。オラクル細胞を持ち込むことも持ち出すことも出来るというのに……アラガミは絶対に近寄らないのだとか。
中心地から神楽の偏食場と同じ波形が計測されていることから、間違いなく彼女の行動によるものであることは断定済み。……が、その現象における原因や原理は何一つ分かっていない。
博士の仮定では、弱肉強食の行き着く先だろうとのことだ。つまりは神楽が最強のアラガミであることに起因していると言いたいらしい。
……今、人という種に存在する唯一の安息の地だ。
「……さっきおいしいって言ってたよね?」
「いやあ……アラガミにとってはおいしいかなあ……と……」
コウタやアリサは相変わらず。気が合うのか合わないのか……どうにもよく分からないけど、少なくともあの二人はすごくいいコンビだと思う。凸凹コンビだけどね。
そんな二人も、最近は互いを大切な人として見ることが多くなったような気がする。それぞれを見る目がすごく優しいと言うか、なんだか楽しげって言うか。神楽とソーマほどではないにしろ、二人でいる時間はとても多いようだ。
……リンドウとサクヤは……まあ、夫婦だから。
「……わかった。私も試すから一緒に試してみよう。」
「や、やめてくれ!僕が悪かった!」
あとは……タツミとヒバリかな。何でも、最近ヒバリのシフト交代が多いのだとか。その全ての日程がタツミの休暇と重なっているらしい。その分はちゃんと他のシフトで仕事してるからいい、と……大多数の人は言うわけだが……中には彼氏との交際を羨ましがって嫉妬の目線を送るものも。おかげでタツミとご飯に行き辛い、ってぼやいていた。
「毒を喰らわば……何だっけ?」
「皿も何もないから毒も食べたくないよ!」
私は私で博士の手伝いと神機使いとをのんびりとやっている。かなり問題のある人だ、とは言っても、それなりに実績を上げている優秀な科学者であり、かつアラガミ研究の第一人者である博士の側で動く方が……まあ、私としても若干の安心感を得る一つの材料となるわけだ。
……便利に使われている感はどうやっても拭えないけど。
「……ど、く?」
「うっ……」
……そんな中で私が一番驚いているのは……神楽とソーマが生きていることだ。
「おかしいなあ。おいしくって人に害のないものを作成者自身が毒って呼ぶなんて……」
「い、いやそれはその……」
リンドウ達を本気で止めていたのは、神楽がソーマと差し違える“先”を見たから。そこに彼らはいなかった。その状況を守るのが、私のすることだって思っていた。
……でも二人は、どういうルートを辿ったのか知らないけどこの“今”を生きている。……どこまでもとんでもない二人だ。予測なんて到底出来ないところで神話を編み続けていたらしい。
「……おや?どこに行くのかなペイラー?」
「ちょっと用事を思いだしてね。すぐ戻るよ。」
……まあ、そんなことがあるから彼らは楽しいのだけれど。
「……待とうか狐。」
「行ってきます!」
……何となく、人間だった頃を思い出させる。過去を悔いるなんて、私としては無駄なこと……したくはないけど。
ひとまず私のすることは……このど阿呆をとっつかまえる事だ。
*
「おわあ……いっぱいだあ……」
教会跡地。いつもいつもご苦労様です、って言いたいくらい、ここにはよくアラガミが集まるわけで。
今日なんて朝から三体の大型種が捕捉されてるっていう……ちなみにここに来るまでに追加四体。
「双眼鏡覗いてたって減るわけじゃねえだろ。とっとと準備済ませとけ。」
「むう……」
今日はソーマと二人で任務だ。ゲートを潜る時……お前らが行ったらすぐ終わるだろ、って目線を向けられるのが……うーん……どう反応していいやら……
「どう攻める?」
「……普通に考えて、挟み撃ちだろうな。」
「一体ずつに出来ないかな?」
「そもそも必要ねえだろ。気配からしてただの雑魚だ。」
「……まあそれはそうだけど……」
分散させようと思った頃には終わっているだろうし、どうやってもかかる時間は同じだ。最近は接触禁忌種が複数とかでなければ何も問題ない。とは言っても……当然、油断は禁物、だけどね。
でも今日は……それが分かっていて尚早く済ませてしまいたい理由があった。
「……今日は早く終わらせたいじゃん。」
「まあ……な。」
……その理由は、一つだけ。
アナグラに帰ったら、ソーマにはタキシード、私にはウェディングドレスが待っている。桐生さんお手製だ。ちなみに素材と代金は自分持ち。
会場は……第一ハイヴ跡。先月建てられた、慰霊碑の前。
……家族に伝えたい。そう言ったら、彼が支部長と博士にいつの間にか掛け合ってくれたんだって。
「早く終わらせてえなら尚更とっとと行かねえとだめだと思うが?」
「だよねえ……」
っていうか今日は非番のはずだったのに……どうしてこう私の非番は潰されることが多いのだろう?
「……そろそろ始めるか。」
……なんて不満も、彼のいたずらっぽい笑みにかき消されてしまうわけだけど。
「……うん!」
ソーマが白い神機を握り、私は手から神機が生える。……初めは戸惑ったけどもう慣れたものだ。桐生さんに織ってもらった新しい戦闘服の方も、今の私のこの謎な能力に合わせてもらえている。
「……ふふっ……」
……いろんな事が、いろんな風に過ぎた。悲しくも、楽しくて……寂しくも、柔らかで。どれも今ではいい思い出だ。
「どうかしたか?」
「ん?ううん。何でもない。」
今はこの幸せを噛みしめよう。神話を紡ぎ、世界を生きよう。非情で残酷なこの世界を、何度でも歩んでいこう。
それは、復習の代わりに家族へ誓った新しい道標。道のない道に立つ、一柱。
人でもなく、アラガミでもなく……私を生きよう。
《あーあ。またカッコつけちゃって。》
【その言い方はないでしょ。ほら、行くよ!】
《はいはい。》
……これは、私が紡いだ、私だけの物語。
いつか誰かに語り継ぐ、たった一つの小さな神話。
いやあ…終わりました。
思えば…初の感想に歓喜したり初の評価に飛び上がったり…
大型投稿したり全修正かけたり…
…あれ?なんかけっこう面倒なことしかしてないような…
…いやもう本当に申し訳ありませんでした。
やっぱり最終回に向けて完全にプロットを練ってから作らないとだめですよねえ…
まあ何にしても、ここまで書いてこられたのは読者様あってこそのものと思っております。拙い文章と謎な作者にここまでお付き合い頂いてくださったこと、心よりお礼申し上げます。
さて。先日の投稿でも述べさせて頂いたのですが、現在複数の投票を実施中です。
1:コミック「the second break」のストーリーの有無。
2:GE2本編中に描く予定である、クレイドルの活動への意見。
3:まだまだ続いている、小ネタ系の有無。
今のところはこのくらいですね。1,2は次の火曜日(18日)まで。3は特に期限はありません。感想欄や、メッセージ機能での投票をお願いいたします。
というわけでもう一度。
ここまで読んでくださった読者様方。本当にありがとうございました。
引き続き、「GOD EATER The another story.」をよろしくお願いいたします。
…はあ…早くアップデート来ないかなあ…