GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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ここ何話か少し長いですかね…
まあ、今回で終わりなので…
あ、エピローグがあったか。


第一部隊、ラストミッション

第一部隊、ラストミッション

 

「コウタ君。アリサ君。ちょっといいかな?」

 

第一ハイヴ跡から約二十キロ。ヒバリさんの話では、ここから約十キロでリンドウさん達の戦闘区域付近には着けるらしい。

そんな場所にたどり着いたジープに、榊博士が通信を入れてきた。

 

「博士?何かあったんですか?」

 

運転中のコウタに代わって答えると、今度はツバキさんの言葉がスピーカーから発せられる。

 

「オルタナティヴとの予想戦闘地点から今どのくらいだ?」

「だいたい十キロです。動いている可能性はありますけど……」

 

三人との通信は途絶したまま。戦闘中に別の地点に動いた可能性は十二分にあるし、場合によってはもっとひどいことになっているかもしれない。

 

「そうか。……なら話は早いな。」

「?」

 

意図を掴みにくい言葉から、ツバキさんの話は始まった。

 

   *

 

「……リンドウ。サクヤ。あとどのくらいいける?」

「正直……限界に近いな。」

「私も……」

 

膝が笑い始めている。……年は取りたくないもんだ。

スタングレネードを休憩に使うほど、全員が疲弊していた。ついさっき博士から届いた通信では、アリサ達はこっちに来ないことになっちまったらしい。

 

「アリサ達、うまくやってくれると良いわね。」

「じゃなかったらここで終わりだ。……さて。再開だな。」

 

話している間にオルタナティヴが目を覚ました。貴重な攻撃のチャンスを使えなかったのは心苦しいんだが……それすら仕方ないと思うほどに体は言うことを聞かない。後衛のサクヤすらぼろぼろだ。

 

「チッ!」

 

こちらに気付くと同時に放たれたレーザーを受け止める。その間に渚が近付き、ほとんど体ごと突きを繰り出すも横に動かれて外れた。

 

「サクヤ!」

「ええ!」

 

避けた後の硬直を狙ってこちらからもレーザーが多数放たれる。それにホーミングがついていると見るや、斜め前に出るようにして避けつつ俺へと攻撃対象を設定した。

両手から輪を外し、それぞれ別々に動かして光弾を乱射。避けるので精一杯になった俺を本体が狙ってくる。拳が振り下ろされ、オラクルの刃が眼前を掠め、脇腹をスパイクの如き足が通り抜け、直径にメートルを超えそうなレーザーが神機ごと俺を吹き飛ばす。それら全て、まともに当たれば一撃で戦闘不能に追い込まれることが明白だった。

 

「くそっ!」

「下がって!そのままじゃまずい!」

 

……下がりたいのは山々だ。このまま生きていられるとも思えないし、思う気もない。どこかで俺が負けるだろう。だが……

 

『そう。あいつを、神楽のところへ行かせないこと。』

 

俺の後ろにあるはずの神楽達の戦闘区域まで、あと三キロ。徐々に押された結果だ。

 

「これ以上下がれねえだろ!」

 

鍔迫り合いになったところから、オルタナティヴを弾き飛ばす。追い打ちに薙払いをかけ、ほんの数メートルではあるが押し戻し、一瞬の硬直を与えた。

 

「ぶちかませ!」

 

その背をサクヤの銃撃が襲う。多段ヒット用に作られた弾丸が止めどなく装甲を穿ち、オルタナティヴをそこから動かさない。

 

「グレネード!いくよ!」

 

閃光と爆音に感覚を奪われたのか、レーザーに押される形で倒れ伏した。投げ出された両腕が一秒足らずの間に渚によって斬り飛ばされ、本体を守っていた輪も二つとも俺の神機が喰らう。

 

「リロードするわ!」

 

そこまででサクヤの方の弾丸が切れた。銃撃が止み、俺達も攻撃に区切りをつけ……休む。

 

「くっ……」

「だから無茶するなって!サクヤ!あいつは私が見張る!」

「お願い!」

 

やつからの連撃の間に脇腹をやられたらしい。レーザーによるものなのか、その傷からの出血はなかった。……代わりにすさまじい熱がそこを苦しめ続ける。

 

「っつつ……」

「我慢しなさい!」

 

コールドスプレーを噴射され、焼け付くような痛みが追加されるが……まあ、後で楽なんだから良いだろう。

 

「来るよ!」

 

渚が叫んだ。すでにオルタナティヴはダウンから復帰し、こちらを見据えている。両腕を失って尚、その姿が発する威圧感が精神的にもこちらを押してくるほどだ。……っつーかキレてないか?

 

「しゃあねえ。もう一踏ん張りだ!……と信じようか。」

「……また不吉な言い方ねえ。」

「そう言うなよ。」

 

……だが、サクヤの不吉な予感は的中した。

戦闘開始から、三時間が経過したのだ。

 

「きゃあ!」

 

……サクヤが、悲鳴を上げた。

 

   *

 

その頃。予測戦闘地点から南へ一キロほど進んだ地点。そこでジープを止めていた。

 

「……全部機械?」

 

ツバキさんと博士が代わる代わる作戦を説明すること……すでにかなりの長時間。博士の口からは、ちょっと意外なことが発せられた。

 

「ありとあらゆる場合を考えてみたんだけど……どうやっても、オラクル細胞で何かの反応を消すことは出来ないと思うんだ。はっきり言ってオラクル細胞自体が反応の固まりみたいなものだし、そもそもオラクル細胞は人の作った技術でもなければそう簡単には会得できないはずだ。光学迷彩なんて使えるとは思えないんだよ。」

「……?」

 

ややこしい話が出てきて少し混乱する私とコウタ。それを悟ったのか、博士は少し噛み砕いて説明し出した。

 

「オラクル細胞が、捕喰したものの性質を取り込むことで進化するのは知っているだろう?そしてその過程がかなり長いことも。」

「はい。」

「当然、複合的な能力が生じることはある。オラクル細胞以外のものを一度も取り込まなければ、独自の進化を遂げる傾向にあることも知られているわけだ。だから一概には言えないんだけど……僕の仮説では、現在オルタナティヴが使っている光学迷彩は、オラクル細胞を動力とするだけのただの機械さ。」

 

……御託はともかくとして、一応あの光学迷彩がアラガミの能力ではない、ってことは理解できた。でもそれがどう……

 

「そこまでを踏まえて、お前達に頼んだことの意味だ。」

「……機械を操っている人間がいるって事ですか?」

 

ツバキさんからの命令で向かっているのは、戦闘が開始される直前から微弱ながら電波が発せられている地点だ。アラガミが電波に酷似したものを発することは珍しくないから、普段なら無視されるレベルだという。

だが、戦闘開始直前から、というのが気にかかったらしい。それを博士に伝えたところ、目を爛々と輝かせてあれこれ考え始めたのだとか。その結果、今に至るそうだ。

 

「博士の推測だ。実際にその通りだとは限らん。」

「それでも、試す価値はあるんすよね?」

 

やってやる、と言わんばかりの表情でコウタが問いかけた。答えるツバキさんの声も、心なしか楽しげに思える。

 

「もちろんだ。」

 

ジープの窓からは、丘の上にある大量の機材が見えていた。

 

   *

 

戦闘開始から、三時間一分。

 

「く……そ……」

 

サクヤに続いてリンドウまで倒れていた。二人とも、起きあがろうとする度に震えながら地に伏すの繰り返しだ。

かく言う私も、音だけじゃ限界がありすぎる。

 

「くぅ……」

 

攻撃手段なんて足しか残っていないというのに、まるで三カ所から同時にやられているかのような感覚すら覚える速さ。ラグがあったとは言え、視覚を頼りに出来ていたときと比べると桁違いの辛さを持って襲ってきている。

 

「この!」

 

風を切る音を頼りに神機を構え、確かな手応えを感じる。間違いなく足を止めた。

……そう思ったのも束の間。オルタナティヴを抑えるために止まった私の背を、もう一本の足が蹴り飛ばす。

 

「かっ……」

 

足と足との間で板挟みになり、そのまま持ち上げられる。一周して頭から叩きつけるつもりだろうか?

 

「はな……せっ!」

 

ぎりぎり足と体との間に入り込んでいた神機を振り上げ、少しだけ出来た隙間から身を捩って抜け出す。その直後、私が落ちたかもしれない場所に亀裂が走った。……抜け出せなかったらと思うとぞっとする。

体勢を立て直しつつ着地し、耳を澄ませ……自分の鳩尾の辺りで風を切る音を感じ取る。

 

「っ!」

 

声にならない叫びを上げつつ、瓦礫まで吹き飛ぶ。息をしたいというのに……咳と共に喉の奥から出てくる血のせいで上手く呼吸が出来ない。

……うずくまった私の背を、すさまじい衝撃が襲った。

 

「あう!」

 

何メートルか転がった。すでに体が言うことを聞いてくれない。

震えながらさっき私がいた場所を見ると……

 

「……さすが……だね……二人とも……」

 

徐々に光学迷彩が解けていっていた。オルタナティヴが色を持って姿を現し、一種の神々しさを漂わせつつ諦めを抱かせる。

 

「……ごめん……神楽……」

 

……ここから言って、届くだろうか?……届くといいなあ……

 

   *

 

「急ぐぞ!」

「はい!」

 

……ジープの荷台に、少々私の過去に関する怨み混じりに関節をきめつつ縛り上げた大車が乗っている。ロシアの借りを極東で返したからって問題はないだろう。もがもがとうるさいけど……とにかくこれで一段落だ。

リンドウさん達の戦闘区域までの距離は一キロ強。あと何十秒かすればたどり着く。

のだが……

 

「くそっ!あれ渚か!?」

「たぶん!」

 

渚の前に仁王立ちするオルタナティヴ。その姿はもう見えていた。……その腕の辺りから、オラクルの槍が形成されるところまではっきりと、だ。

 

「間に合わ……っ!」

「えっ!?」

 

突如として、オルタナティヴが吹き飛んだ。続いて、宙を舞ったその巨体が地面へ叩きつけられる。

……倒れたそれの両側を囲むように、土煙が上がった。

 

   *

 

「間に合ったあ!速いねえソーマ。」

「お前には言われたくねえな。直前で前に出たのはどいつだ?」

「気にしない気にしない!」

 

手を繋いでのんびり歩き、ひとまずヘリの着陸地点へ向かっていたわけだが……仲間がぼろぼろにやられていて黙っている気は毛頭ないのだ。

にしても、飛んできた私はともかくとして私に足でついてきたソーマは一体どういう……

 

「……かぐ……ら……?」

「ごめん。遅れちゃった。」

 

あの時一回だけ見た少女。……なるほど。やっぱりシオだ。アラガミとしての気配に関してはほとんど差が見られない。

……彼女がいなければ、今の私はここにはいない。

 

「アリサ!」

「はい!」

 

ジープの急停止音と共に回復弾が三発放たれ、倒れている三人へ一発ずつ届いた。

……二人がいなかったら、たぶんリンドウさん達を助けられなかっただろう。

 

「……よくもやってくれたな……」

「リンドウ。援護するわ。」

 

明らかにキレている二人が危ない笑みを浮かべつつオルタナティヴを睨みつけている。

……彼らがいなかったとしたら、ソーマとの戦いにオルタナティヴが乱入していたかもしれない。

 

「……さてと。」

 

そのオルタナティヴはといえば、たった今起き上がったところだ。私達を見て再度臨戦態勢を整え始めている。

 

「……神楽……」

 

そんな中、一人誰とも雰囲気の違う少女がいた。不安げな表情と、信じられないと言った感じの声色。

 

「えへへ。ただいま。」

「まだだろ。」

「……むう……」

 

……彼がいなかったら。もし彼と出会わなかったら。私は今、アラガミと人のどちらであったろう?人の皮を被ったアラガミか、アラガミの皮を被った人か。いずれにしろ、こんな風に誰かと話すことは出来なかったに違いない。

 

「フェンリル極東支部第一戦闘部隊!」

 

誰かが欠けていたら、誰もここにはいないだろう。

 

「突撃!」

 

……この神話の、終幕だ。




正直神楽とソーマをここで出してよかったのか今でも迷っているんですが…まあ、タイトルもタイトルなので。
では、最終回です。

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