GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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…これまで「この回は長かった」だの「なんか書くのにすごく時間使いました」だの言ってきましたが…記録更新です。
…この回だけで二週間近くかかるとはまったく思っていませんでした。


帰ろう!

帰ろう!

 

……何度目の鍔迫り合いになるのか。通信を終えてから五分。迷いのある彼の攻撃。弾いて彼を切る私。その繰り返しだった。

 

「そこ!」

 

今もまた、一瞬彼の神機が揺れた。条件反射のように刃をいなして斜め下から腕を切る。

当然ただ切らせるような相手ではなく、その切っ先は腕の皮膚を切り裂くにとどまってしまうけど……

 

「……ごめん。もうちょっとだから。」

 

何十ヶ所もの浅い切り傷からの出血はすでに彼を苦しめるに十分な量になったことだろう。ふらふらと力なく立つ姿を見て……何となくだけど、悪いことしてるなあ、と思っている。

傷が回復しても体力が回復したわけではない私も、翼とブースターを出し続けたせいでとんでもなく疲れた。解除したら立っていられるかどうか分からない。

と、一瞬だけぐらついた彼がこちらへ突っ込んできた。横向きに構えた神機は、間違いなく私の胴体を両断できる速度を持っている。

 

「っ!」

 

彼の神機よりも長い刀身を両手で振り下ろし、火花を散らせながらまた押し合いに入る。……さっきから神機が打ち当たる度に足下の土が跳ね飛んでいるんだけど……気にしたら負けだろう。

しばらく押し合いになって、唐突に彼が左手を神機から離した。その手からはあのクローが皮膚を突き破りつつ姿を現す。

 

「くっ……!」

 

私も右手から生えた神機の持ち手と刃を一度切り離す。左手のみで大型の刃を支えつつ、彼の繰り出したクローを右手に残っているナイフで受け止める。両端にブレードがある、というのもなかなか便利なものだ。

……そのナイフとクローが当たるだけで衝撃波が発生するのだから、この辺りはもうすごい事になっているだろう。

 

「みんな……みんな待ってるから……」

 

両手を大きく開き、彼の神機と左手とを一度に弾く。左手首を少し回してブレード部分を右手と触れさせ、切り離していた部分も含めて神機を右手に戻す。……これはいよいよアラガミになったな、なんて考えちゃうけど。

 

「だから……帰ろう!」

 

ブースターの出力を上げ……彼の胸に右手を合わせた。

 

   *

 

感応現象特有の目眩のような状態が過ぎ去り、ただただ白く光る空間のみが広がる場所のみが目に入った。

彼の姿を求めて辺りを見回す。彼がいると思っていたのだが……ここで何かしないといけないのだろうか?

と、一番初めに見たはずの方向から何かの気配がした。首が折れるのではないかというほどの速度でそちらを見る。

……いつの間にか、そこに誰かの影が見えた。……さっき戦っていた彼と同じ輪郭。

 

「ソーマ!」

 

声が届くはずもない距離。……というより、ここで声というものが意味を持つのかも分からない。

でも、彼がこちらを向いたことだけは事実だった。

そしてその声も。

 

「……ったく。無茶しやがって……」

「っ……!」

 

タッと、一歩だけ駆け出した。たったそれだけ。疲れもしないほど小さな小さな動きなのに、彼との距離が一歩分縮まる。

次の一歩。また次の……一歩一歩踏み出す度に、彼との思い出が頭に浮かんでは更に強く頭に刻み込まれていく。

……最後の一歩は、彼に抱きつく一歩だった。

 

「ばか……ばかっ……一人で遠く行って……寂しかったんだよ!?」

 

悲しいのか嬉しいのかも分からないグシャグシャの感情の赴くままに彼の胸を叩いた。ぽすぽすと……何となく気が抜けるような音を立てながら。

いったい何日ぶりなのだろう。……彼は変わっていない。

 

「悪い。……ありがとう。」

 

ぶんぶんと彼の胸の上で泣きじゃくりながら頭を横に振る。彼に抱きしめられている今、謝罪も感謝も聞きたくなかった。

 

「もうどこにもいかない?絶対、そばにいてくれる?」

 

ただ、ここにいてほしかった。

 

「……もちろんだ。」

 

……彼は私を泣きやませない方法でも研究しているのだろうか。どうにも涙が止まる気配がないのが何だか悔しくて、手を彼の背中に回して強く抱きしめる。

 

「ところでお前……」

「え?」

 

私を安心させるような優しい声色から、どこか疑問のあるような声色へと変わった。左手を私の髪へ持っていき、その一房を優しく手に取る。

 

「髪……染めたのか?目の色も変わってるが……」

「……?」

 

何を言っているのだろう、と思いつつ彼の持つ私の髪を見る。

……すぐに意味を理解した。ついでに指で涙を拭き取る。

 

「……えっと……」

 

白髪と、左右一房ずつの金髪。……間違いようがないほどにイザナミの髪色だ。目に関しては鏡で見てみないと分からないけど。

 

「うん。あとで説明するね。」

 

正直自分でもよく分からないけど、たぶんコアとの同化が進んだだの何だの……き、きっとそういう……いう……えっと……うん。ちゃんと説明できる自信ないなあ。しかも手のことも説明しなきゃいけないんだっけ。聞いてこない辺り、戦っていた間のことはいくらか分かっているみたいだけど。

そんな風にちゃんと周りが見えてきて、やっと彼の変化にも気が付いた。

 

「ソーマも神機真っ白だよ?服も。」

 

言われて初めて気が付いたのかちょっと焦ったように全身を確認していく。……そういえばソーマが焦っているのって初めて見たかも。

 

「……いったい何なんだ……ったく……」

「私に聞かれても……」

 

それを聞きたいのは私も同じだ。……なんて、言ったってどうしようもないだろう。

 

「よっし!……帰ろっか。」

「ああ。」

 

   *

 

目を開き、状況を確認する。背に生やしていた翼もブースターもなくなり、追い風になびいた髪が黒に戻っているのが視界を少しだけ埋めるのを感じつつ、ぼんやりと周りを見回した。……不思議なほど、私の翼に似た蒼に染まる空。

……手には、バカみたいにしっくりくる彼の手のひらの感触。

 

「……髪戻ってる……」

「目もな。……アナグラに着いたら、二人揃って榊のおもちゃか……」

「うひゃあ……あっ……」

 

かくっと膝から力が抜ける。倒れ込む前に彼に支えられ、ぼんやりと彼を見つめる。……どうやら疲れすぎたようだ。

 

「大丈夫か?」

「うん……ソーマこそ大丈夫なの?」

「……俺も正直疲れたさ。」

 

平たい瓦礫を背に出来る位置に私を座らせ、すぐ横に腰掛けるソーマ。大きく息を吐き、私を見て苦笑する。

 

「え?な、何?」

「……帰ったらまず顔洗えよ?」

「……そっちこそ……」

 

そりゃあまあ……今はすっきり晴れてるって言ってもさっきは土砂降りだったわけで……泥だらけになるなんて仕方ないではないか。……なんて文句も言えないくらいに疲れちゃってるわけだけど。

 

「……親父は?」

「私今日まで寝てたんだけど……」

「それもそうか……」

 

また苦笑を浮かべ、頬を膨らませた私を見て必死にこらえようとし……吹き出しての繰り返しが三回ほど。

 

「……ひどくない?」

「いや……何つーかな……」

 

苦笑から、私が大好きな優しい笑みへ。少しだけ自分の顔が赤くなったのを感じつつ彼の次の言葉を聞いた。

 

「久々にお前と話せたからな。……何つーか……嬉しいんだ。」

「あ……」

 

外に響いてるんじゃないかと思うほど大きく打つ心臓が、恥ずかしさをさらに強くする。

 

「……ありがとう。」

 

すっ、と、疲れた目では追えないような早さで唇が重ねられた。突然のことに驚いて、遅れて暖かな感触が唇を支配する。ちょっとだけ力が籠もりすぎな彼の腕に引き寄せられ、ぼろぼろになった服から露出する肌を彼のコートが撫でる。絡められた舌が意識を飛ばしてくる。……そんな、今感じている彼全てが愛おしい。

 

「……そろそろ、帰るか。もう時間はあるんだ。」

「うん。」

 

先に立ち上がって、私へ手を伸ばすソーマ。その手を取って立ち上がり、立ち眩みを抑えつつ彼を見つめる。

 

「……どうかしたか?」

「えへへ。何でもない!」

 

帰ったらみんなに勢いよくただいまって言わないと。上から響き始めたヘリの音を耳にしつつ考えていたのは、そんな他愛もないことだった。




リンドウ達の方へ話を戻し、本編終了となります。

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