GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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…今更ながら…戦闘回とか言いながら戦闘少ない気が…
…むう…


黒の裏側

黒の裏側

 

「あははっ!ほらほらあ!」

 

カノンが暴走する極東支部外部居住区から南南西へ約五キロの地点。大型だけで十を越えるその群と戦っている。

……そのアラガミの向こう側に、時折見えるバイザーを付けた人影。

 

「……あいつか……」

 

アーサソールがアラガミを操る、か。噂は聞いたことあったっつっても、実際に見ると不気味だな。

 

「タツミ!一体流れた!」

「任せろ!あ、ブレ公!クアトリガから頼む!」

「了解!」

 

三人で三本の防衛戦を張る無茶ぶり。だが、アーサソールの動きの基本が極東支部へアラガミを動かすことが主体となっている事を考えれば、一番前にいる奴を潰すのが早い。

っていっても大型は俺らを狙うようにしてやがるみたいなんだよなあ……

 

「うおりゃあ!」

 

今も小型が前二人を抜けてきたわけで、だ。あの二人が二人して回避されるのは大型からの攻撃が普通と比べて鋭いからだと言える。

 

「っ!くそ……踏み込み切んねえ……」

 

一撃の下にヴァジュラテイルを斬り伏せ、神機が完全に振り切られたところへクアトリガが遠距離攻撃を仕掛けてくる。無理矢理回避したところで、さらに別の小型に飛びかかられる、と。まあ……かなり辛い状況だ。第一部隊がいないのがやっぱきついな。

 

「タツミ!後続のアラガミが切れた!がんばって!」

「おう!」

 

それでもアラガミの数は確実に減っている。このペースなら、ここに関してはもうすぐ終わるだろう。……どうせ次の場所へ行くわけだが……

 

「最期の一踏ん張りだ!気ぃ抜くなよ!」

「了解だ!」

「はい!」

 

   *

 

黒い光が見えた辺りまで来た。

 

「ハッチを開けてくれ!一回下を確認する!」

 

パイロットへ機内無線を使って言う。ほんの数秒後にハッチが開き、外の空気が強風に乗って入り込んできた。……外は雨。望遠鏡で辺りを見回す。

 

「何か見える!?」

「ちょっと待ってくれ!」

 

機体を叩く雨音と強い風とにかき消されそうになりながらも答え、視界の悪い中で必死に目を凝らす。

雨の中で二つの点が動いているのがぎりぎり見える程度……それが何かまでは全く分からない。

 

「もうちょっと下がれないか!?」

「やってみます!」

 

パイロットの声と同時に少しずつではあるが地上が近付いていく。二つの点が徐々に人の形を取り始め、その服装や動きなどが鮮明になるにつれ……

 

「……あいつら……」

 

一秒足らずの間に刃が二度は重なる。時折離れ仕掛け直しはしているようだが、その離れている時間すら余りに短い。……この戦いの決着が、どちらが先にほんの数ミリのずれを持つかで決まるのが明白なほどの死闘だった。

……黒い翼を持つ神楽と、黒一色の服に身を包んだソーマ。神機を振るその一挙手一投足が、痛々しい。

 

「サクヤ!あいつらだ!」

 

神機を手に取って降下準備を始める。サクヤも俺に続いて準備を始めた。……が。

 

「だめ!」

 

渚が俺達を留めた。

 

「今行ったら最悪全員がソーマにやられる!」

「そうは言っても……」

「神楽だから今生きてるだけ!リンドウ達より、神楽の方がソーマの動きを知ってるのは分かってるでしょ!」

 

……ソーマとの付き合いが長いだけあって、あいつの動きはよく知っている。だが……俺がこの数ヶ月の間同じミッションに出ていなかったことを考えると……

 

「リンドウ。サクヤ。とにかく今は神楽に任せて。」

「……分かったわ。」

「……ああ。ハッチを閉じてくれ!機体下部のカメラで極東支部にリアルタイムで状況を伝えろ!」

「了解です!」

 

……今は見守ろう。それがあいつらの為だ。……無理矢理そう結論づけた。

 

   *

 

「……よくもまあ面倒かけてくれたよねえ……」

「お、おいタツミ!」

「やべえ!抑えるぞ!」

 

……周りに散らばるアラガミの内、半分以上に焼けただれた風穴が空き……カノンのぶちギレ具合を思わせる。

戦闘開始から三十分。アラガミという生きた防壁を失ったアーサソールは、その悲劇的なまでの戦闘力で虚しく数秒の応戦を行った後……カノンにぶっ飛ばされてご用となった。

 

「離せええ……え?あれ?みなさん……どうかしたんですか?」

「お前が暴走してたんだろうが!」

「えええ!?」

 

……まあ、悲劇的な、というのはアーサソールの戦闘力だけじゃないわけだが。うちの部隊の(味方)被弾率も相当のものだ。

 

「ヒバリ。聞こえるか?」

「うん。お疲れさま。あ、そろそろ第五部隊がそっちに着くよ。」

「おう。」

 

第五部隊にこいつを回収してもらったら……あとは外壁の損傷具合の確認か。

 

「全部終わったら久々に飯でも食うか?俺のおごりだ。」

「ほんとですか!?」

「さすが隊長だな。ありがたく頂くよ。」

 

……できれば、アナグラの全員で食いてえなあ……隊長達で割り勘ならいけるだろ。

 

   *

 

アーサソールの捕獲が済む直前。

 

「だめだってば!今行ったらリンドウまで死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「だからってあいつがやられるのを黙って見てらんねえだろ!」

 

神楽が、殺されかけていた。

窓から望遠鏡でそれを見ていたリンドウが飛び降りようとし、彼を何とか留めている状況。行動を起こしてこそいないが、サクヤも私を睨んでいる。

 

「神楽はまだ生きてる!私達が出ていいのは神楽が全く戦えなくなってから……」

「そんなことはどうでもいい!仲間が死にそうだってのに何で助けに行けねえんだ!」

 

……彼にはこの先を見ることはできない。私だけが、神楽を生かすための方法を知っているんだ。

 

「あなたのすることはまだここにはないの!今あの場所に誰かが行ったらソーマは間違いなくアラガミになる!だからまだ待って!」

 

アラガミであるからこそ、ほんの少しだけ“今”から目を離せる。……それを説明しても分かってもらえるはずはない。

 

「……でも神楽ちゃんは、今ソーマにやられそうなのよ?」

「ソーマはまだアラガミじゃない!まだ神楽を殺せない!」

「そんな保証がどこにある!」

「っ!」

 

……分かってもらえない。元から予想はしていたけど、どうしても悲しくなる。

 

「……お願いだよ……今行くのは絶対だめなの……」

 

久しく忘れていた悲しいという感情に押された涙腺がもろくなって、少しだけ涙が流れた。

 

「……?ねえリンドウ。あの二人……離れてない?」

「は?」

 

サクヤの言葉を聞いて、リンドウが再度望遠鏡を覗く。

 

「……あいつら……何やってんだ……?」

 

彼が何を見ているのかは分からないけど……ひとまず二人が止まってくれたのは事実であるようだ。

それが分かると同時に、もう一つの予感に気付く。

 

「掴まって!」

「え?」

「お、おい。どうしたんだ?」

「いいから!何でもいいから掴まって!」

 

その直後。衝撃がヘリを襲った。

 

「……来た……」

 

ヘリの斜め下。オルタナティヴがこちらを見上げるようにして浮かんでいた。

 

「あれが俺のすることか?」

 

リンドウが苦笑いを浮かべつつ聞いてきた。……ものの見事に、あいつかよ……って感じの表情で。

 

「そう。あいつを、神楽のところへ行かせないこと。」

「……まじかよ……」

 

大きなため息を一つだけついて、号令をかけた。

 

「行くぞ!」

 

   *

 

「……神楽のやつ……」

「ちゃんとこの前のとんでもない出費のこと覚えてるんでしょうか……」

 

神楽がジープを持ってっちゃったせいで……アナグラはまたも輸送手段を減らした。とにかく俺とアリサが残ったもう一台のジープで先行することにはなったものの……

 

「ヘリの準備ってどのくらいかかるんだ?」

「燃料その他であと三時間はかかるって言ってました。それ以前にヘリポートが……」

「……何かあったの?」

「私達が着陸したポートなんですけど、かなり大きいヒビが入ってたそうです。離陸して持つかどうか分からないって、リッカさんが。」

 

神楽の攻撃の余波がそんなところにまで届いている、ってのが怖い。あいつ……アラガミの方の力とか上がってるのかな?

 

「リンドウさん達はもう戦ってるんだっけ?」

「交戦開始する、って言った直後から腕輪反応が消えたそうです。あの辺り一帯に電波障害が出たみたいで……あ、通信は繋がるって言ってました。」

 

三人ともゴーグルは持っているし……いくら何でも保ってるよな……

 

「……速度上げるぞ。」

 

アクセルを踏む足が痺れるほど、強く踏んづけた。

 

   *

 

普通の風景に緑の線を加えたような映像が目に映り込む。着け心地も良いし、このゴーグルならそんなに邪魔にはならないだろう。

そんな映像の中に、一つだけ赤の線で表示されるものがあった。……オルタナティヴの輪郭。微妙と言えば微妙なそのオルタナティヴが、今は三時間の生命線だ。

 

「くっ!」

「リンドウ!下がって!ひとまず抑えるから!」

「悪い!頼む!」

 

姉上が言っていた表示までのラグ。……かなり苦しいと言えるだろう。コンマ数秒での行動に対して、それよりコンマ0数秒だけ早い表示ってのもまた……乙なものだ。

俺とサクヤがそれに苦しむ中、渚だけは少し違っていた。

 

「っ!」

 

神機を振った渚に一瞬遅れてオルタナティヴの腕が弾かれた。……この短時間の戦闘……それを経ただけで、次の行動を僅かな予備動作から見極められるようにまでなったのだろう。俺達よりもしっかりとした反応が出来ている。

とはいえ……

 

「あつっ!」

 

……まだその速度に完全に対応できてはいないらしく、だいたい十回ほど刀が打ち合うと一発は叩き込まれてしまっている。あいつに任せ続けるわけにはいかない。

 

「使って!」

「おう!」

 

一旦下がった渚からバレットを受け渡されながら前に出る。……さて。ここからどこまで抑えられるか……後ろからはサクヤがレーザーを撃ち続けているものの、あまり期待はしない方がいいだろう。

斜めに振り上げた神機が若干遅れた映像と共に止められ、その手から輪が抜け出る。咄嗟に後ろに引き、地面を焼いたレーザーに冷や汗を流しつつ神機を横に構え……回転しながらレーザーを発し出したのを見て攻撃を踏みとどまった。ガードするもその衝撃を殺せず、何メートルかずり下がらせられてしまい、直後にバーストが切れる。……一進一退、だったらまだ良いんだけどな。

 

「アリサから連絡!もうちょっとでこっちに来られるって!」

 

サクヤからの朗報。それを聞いて俺も渚も若干安堵の表情を浮かべる。

 

「多少は楽になってくれっと嬉しいんだがなあ……」

「同感。」

 

戦闘開始から僅か十分。すでに疲労が溜まりつつあった。




次は再度神楽達の方へ。…本編はあと二話です。

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