GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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お待たせしました。…い、意外と推敲に時間がかかりましたね…
本日は六話投稿。一気にエピローグまで吹っ飛びます。


最期の戦い

最期の戦い

 

……極東支部から、北西へ約七十キロ。土砂降りのその地。

 

「……ただいま。」

 

これまで訪れようとすらしなかった、第一ハイヴ跡だ。

ゲートを壊したりジープを奪ったり。みんなには……悪いことしてる。分かっていても止まることが出来なかった。意識を取り戻した私が捉えたのは、ごく小さなソーマの気配。本当に……よくこんなにも離れた場所の気配を察知できたものだ。

 

「ぁ……」

 

ふらついて、近場の瓦礫を掴んで何とか姿勢を保って……こんな状態の私が行ったところで何が出来るのか。それを考えなかったわけではない。だけど……

アラガミに近付いているソーマに対抗できるとすれば、それは今、私以外の誰でもないだろう。

自分が今倒れそうだったという自覚も、怪我が残っているはずの部分からの痛みも……何一つまともに感じ取らずに、ある地点だけを目指して進んでいた。

 

   *

 

その少し前。

 

「ツバキさん!」

 

エントランスに突然に響いたリッカさんの声。たった今エレベーターから降りてきた彼女の顔は、困惑というか焦燥というか……それらをない交ぜにしたような表情を浮かべつつ、大丈夫なのかと思ってしまうくらいに蒼白だった。

 

「ヒバリ!ツバキさんは!?」

「お、落ち着いてください。いったい……それにツバキさんは、第一部隊のみなさんと前支部長のお迎えに行ってますからここにはいませんよ?」

 

ツバキさんがいないと見ると、真っ先に来たのはカウンターにいた私の目の前。……目の前と言うにふさわしく、鼻がくっつきそうなほどの距離だった。

 

「神楽がいないの!」

「神楽さんが?でもまだ意識もまともに戻ってなかったんじゃ……」

「今お見舞いに行ってきたんだよ!でも布団しかなくって……っ!」

 

リッカさんの言葉を遮るかのように流れ出した警報音と爆発音。同時に、神機保管庫とエントランスの間のゲートが崩れ、直後に隔壁が降りる。が、崩れたゲートの瓦礫によって降りきらず、かつそこへ二度目の衝撃が加わったのか機械によって開けるのが不可能ではないかと思うほどに変形した。

 

「ちょ……ヒバリ!全館に招集かけて!」

「は、はい!」

 

即座にアナウンス用のスイッチを入れる。

 

「アナグラ内にいる全職員に通達します。神機保管庫、エントランス間のゲート及び隔壁が何らかの影響で破損しました。手の空いている方は、速やかに復旧に当たってください。」

 

……まずい予感。それ以外を感じる余裕は欠片も残っていなかった。

 

   *

 

歩んでいた足を止める。……私の横には、見覚えのある扉が一枚横たわっていて……

 

「……」

 

それは、五年前まで私の家があった場所。唯一残った扉も、今ではこうして倒れてしまっているのか……

 

「……行こうか。怜。」

 

手に持った、なんだかやけに重たくて長いもの。怜のコアを使った神機だ。……手のひらから私を徐々に侵喰しながら稼働している。イザナミが動いていないから、適合が完全には出来ていないのだろう。

でもその侵喰の痛みすら、今は感じていなくて。

……私は……死んでいるのだろうか?

そんな訳の分からない問いを自分へ投げかけて。

そうしていると、またふらついた。後ろの地面には点々と血がついている。傷口が開いているのかもしれない。……眠いなあ……

 

「……もうちょっとだけ……動かなきゃ……もうちょっと……」

 

せめて、彼をこの手で。

 

   *

 

「おいおい……ヒバリ、どうなってんだ?」

「それが私にも……と、とにかくそっちから瓦礫をどかせられない?こっちからじゃ取れないのがあるみたいなの。」

 

任務を終えて帰ってきた俺たちを待っていたのは……まあ、天井の抜けた神機保管庫と、その天井の残骸によって破壊されたゲートっつった感じのものだった。……そのままだが。

その瓦礫を挟み、無線で会話しているわけだ。

 

「……それよか……なあ、そっちにいるやつら全員エントランスの一階に降りてくれないか?」

 

こっちにいるのは俺とブレンダンとカノン。いつも通りのメンツだ。

 

「あ、うん。……って……壊すの!?」

「瓦礫が飛ばないようにはするさ。……どうもゆっくりしていられる状況でもなさそうだからな。あー、その瓦礫もっと奥にやってくれ。」

「こいつか?分かった。」

 

言いながら俺とブレンダンで瓦礫をどかしにかかる。吹き飛びそうな瓦礫を取っ払えば……たぶん、カノンは上手くやれるはずだ。

 

「それはそうだけど……大丈夫?」

「……たぶん。」

「……」

 

向こうの沈黙がちょっとばかり苦しいが、ヒバリの話では神楽がいなくなっているってのまで重なっているらしい。悠長に構えていられるとは思えない。

 

「……怪我しちゃだめだからね?」

 

沈黙を破った心配そうな声。怪我をする予定なんて全くないというのに。

 

「大丈夫だって。なんとかしてやるさ。」

 

そうこうしている内に瓦礫が片付く。あとは……

 

「うっし。カノン、とりあえず放射系で焼き切る感じで頼む。……爆発系使うなよ?」

「……き、緊張します……」

 

がちがちのカノンが仕事するだけだ。

 

   *

 

もう一度、足を止めた。

 

「久しぶり。ソーマ。」

 

こちらに背を向けるソーマ。真っ黒になった神機を持って、真っ黒な靴を履いて。まるでローブのような黒のロングコートと、全く同じ色のスリムなスラックスを身につけて。それらと対照的であるべきだった彼の白髪は、背中までの長さを持つと共に黒へと変色していた。

私の声にゆっくりと振り向いた彼。その目には、記憶にあるような優しさも何もなく……ふと寂しさに襲われた。

 

「……ごめんね。私、待たせちゃったよね。」

 

ぼろぼろになった彼からのプレゼント。俯いた目線に映り込んだ、涙の理由の一つ。

それを見ても、今は目元が熱くなることすらない。

チャリ、っと彼の神機が鳴る。私を敵として……いや。もうそれすら考えていないのかもしれない。

 

「大丈夫だよ?あなたに、絶対に人は殺させない。あなたを悪者になんてさせないから。」

 

……たとえ差し違える結果になってでも、私は……私があなたを“アラガミ”になんてさせない。

足を一歩引いてすぐに動ける体制を取ったソーマ。迷いのない動きだった。……そっか。もうあなたは、私を私だって認識できないんだね。

 

『生きろ……!』

 

お父さんの言葉が頭に蘇る。続けざまに、お母さんや怜の顔も思い浮かんだ。

……思い浮かんでは、消えていった。

 

「……あとで、また会えるよね!」

 

もう、決めたんだ。

接続を無理矢理上げた神機からの侵喰。その神機の刃が纏う、無数の黒い雷のようなオーラ。

背中に重量が追加される感触。無理矢理過ぎたそれに、体が悲鳴を上げる感触。全て感じているはずなのに、それはどこか遠いところにある物語のようで。

ぽろぽろとこぼれる感情を閉め出し……

……黒い羽が、舞った。

 

   *

 

「?なんだありゃあ……おーい、姉上ー。」

 

前支部長を乗せたヘリの中。極東支部の北北西を飛ぶその中から、妙なものが見えた。

 

「リンドウ……何度そう呼ぶなと言えば……何だあれは?」

 

俺の指す窓から外を見た姉上も俺と同じ反応を示した。それを不思議に思ったのか、他に乗っていた全員が窓の外を見るようにする。

 

「……黒い……光の柱?なのかしら。」

「コウタ。見覚え……あるわけないですよね。すみません。」

「うん。いくらなんでもあんな天候はないし。……でも何なんだあれ。」

 

第一部隊……その中の、今まともに動いているメンバーだ。神楽が失踪しているとさっき連絡があったところを考えれば、アナグラにいる第一部隊全員と言って差し支えないだろう。

 

「何か見覚えないっすかね。前支部長。」

 

もっとも食い入るように見ていた彼へと問いかける。……まあ、答えは予想通りだったが。

 

「……さすがにない。研究中に見たものならまだ推測も出来たんだが……」

 

口を右手で覆うようにしつつ考える。……っていうか、それって誰も分からねえのと同じ意味じゃないのか?

そうとってかどうかは分からないが、姉上が指示を出した。

 

「リンドウ。二号機に飛び移って状況を見てきてくれ。サクヤと渚も頼む。」

「了解です。」

「うん。」

「おっし。おーいパイロット。聞こえてたなー?」

 

返事の代わりに親指を立てた右手が座席の隙間へ一瞬出される。

 

「……そう。早かったね。」

 

横に立った渚の言葉が、異常なほどに不安をかき立てた。

 

   *

 

「あ、切れました!」

「よし!どいてろ!」

 

カノンさんが合図すると、ブレンダンさんの声と共にゲートが吹き飛ぶ。続いてタツミの声もエントランスに響いた。

 

「ヒバリ!みんな!大丈夫か!」

 

私だけ名前で呼んでもらえたことを嬉しく思いそうになりつつ、そんな場合ではないと頭を切り替える。……今はまだ何かに喜んでいられるときではない。

 

「こっちはみんな大丈夫なんだけど……途中に神楽さんいなかった?」

「神楽?……いや、見なかったな。何かあったのか?」

 

上で吹き飛んだゲートなどを片付けている間にこれまでの簡単な説明をする。話していく内に彼の表情が変わっていった。

 

「……神楽がいなくなったって……いったいどこ行ったんだ?」

「それが分からなくて……あっちこっちのカメラを確認したんだけど、ジープも一台なくなってるの。もしかしたら神楽さんが取ってったのかも……」

「マジかよ……探しに行く……にしても目星が付かないか。」

 

八方塞がり、とはこういうことを言うのだろう。彼と二人でどうしようかと考え込んでしまう。

 

「第一部隊は?」

「今こっちに向かってる。リンドウさんとサクヤさんは後になるって、さっき連絡があったの。」

「後?」

 

怪訝そうな彼にまた説明を始める。

 

「途中で黒い光の柱を見た、とか……その確認に行ったんだって。もう少ししたら映像が来ると思うんだけど……」

「なるほどな。」

 

どうしたらいいのか全く分からないし、今はツバキさんたちが帰ってくるのを待つ方がいいだろう。……警報が鳴ったのはそう思った矢先だった。

 

「どこだ?」

「えっと……北に一体と南西に二体……あれ?」

「どうかしたのか?」

 

警報の鳴り続けるアナグラ。……が、その警報が明らかに長かった。いつもだったら五秒ほどで止まるはず……

嫌な予感がしてレーダーの表示範囲を広域に切り替える。

 

「……うそ……」

 

表示されたのは増え続けるアラガミ反応。その全てがアナグラへ向かって動いていた。

同時に神機使いの反応も捉えるが、名前がなかなか表示されない。極東支部所属の人ではないようだ。

 

「くそっ!俺達は出る!どこに行けばいい!?」

 

コンソールをのぞき込んでいたタツミが語気も荒く言った。急いで出撃中の部隊が交戦できない中で一番近い位置を探す。

 

「南南西五キロ地点!」

 

もう上へ行った彼へ伝えると、神機のロックが解かれる音がした。第二部隊なら南側のある程度を任せられるだろう。

残りの部隊へ指示を出すために再度コンソールを見る。ちょうど未確認の神機使いの名前や部隊名も表示されていた。

 

「……アーサソール……」




戦闘直前までです。次回から本格的に戦闘に入ります。

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