GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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…えっと…た、大変長らくお待たせいたしました。
とにかく最終話までしっかり書いて、あちこちの辻褄合わせて云々。結果ここまでかかったという…
…はい。私がへたれなだけです。
まあそんなこんなで、あれやこれやからの続きです。


ただ流れる日々

ただ流れる日々

 

翌日。

完膚なきまでに破壊されてしまった病室の修復と片付け。そんな……任務が第一部隊に発行されていた。

 

「ったく派手にやっちまったなあ……」

「そんなこと言っても始まらないわよ。」

 

サクヤに諭されつつ、主に大きめの瓦礫を片付ける。今日も大型アラガミは出現してない。

 

「あ、これ持って行きますね。」

「無理すんなよ。」

「大丈夫ですよ。片手でもこのくらいなら持てますから。」

 

病室の中から埃や砂の詰まったゴミ袋を持ったアリサがコウタの言葉に答えつつ出てくる。昨日のあれで左腕にヒビが入ってしまったらしく、首から吊られている。数日で治る、との話だ。自分もそうだが、神機使いの治癒力の高さには感服するな。

 

「そういや、シオはどうしてんだ?」

 

昨日、神楽が気を失った直後……シオの体には劇的な変化が起こった。というより、完全に人と同じ体になった、と言うべきだろうか。……暗い中だっただけにはっきりとは分からなかったが。

 

「今は榊博士と話してるわ。アラガミになる前の記憶もある程度取り戻したそうよ。」

「ほう……」

 

珍しいこともあるもんだ……と思った直後、研究室の扉が開く。

 

「手伝おうか?」

 

出て来たのは後ろに榊博士を従えたシオだった。

出て来て大丈夫なのかと一瞬心配になるが……エイジスから戻った時に、アナグラにいる奴ら全員に見られてたんだったっけか。保護観察目的もあって研究室外にはほとんど出さないが、もう隠す必要はなくなっているらしい。シオについてのアナグラの意見も、概ね肯定的な方向へ傾いていると言う。

 

「お。んじゃあシオは……」

 

コウタが言葉をかける。……のだが……

 

「シオじゃなくて渚だって昨日……あ、四人には言ってないか。」

 

明るい中でしっかりと見て、改めて彼女の変化に驚く。

シオの面影のある端整な顔立ちと、元と何ら変わらない青い目。そして、ちゃんと一本ずつに分かれて背中へ流されている、首筋を覆う程度に伸びた茶髪とが、アリサと同じほどの白さになった肌に映える。表情も自然なものだし、線の細さも健康的な少女の範囲に入るだろう。

年齢的には……十二か十三歳。あどけなさを残しつつも、どこか大人びた雰囲気を漂わせてもいる。

 

「……初めましては変だし……改めまして、かな。渚です。……まあ……シオでも良いけど……」

「調べてみたんだが、どうやら昨日の神楽君の偏食場が影響を及ぼしたらしくてね。特異点としての働きが弱まったことも関係があるんだろう。」

 

最後の方になるに連れて小さくなった渚の声に博士の声が続く。若干恥ずかしそうにしている彼女との差が笑えてしまうが……彼女の名誉のためにも言わない方が良いだろう。

 

「神楽ちゃん、どうですか?」

 

昨日のあの騒ぎの後、博士の判断で神楽を観察室に移した。シオの部屋……今は渚の部屋となった、中に入って右側にある観察室と対称の位置にある実験室の奥にベッドを運んだだけではあるのだが……まあ観察室と言っても問題はないはずだ。

 

「どうとも言えないね。コアの方は渚君のおかげで修復できたようなんだけど、神楽君自身の体はまだまだ……というより、コアの活動は再開されていなくてね……暴走したり、ということはないだろうけど、回復にはまだ掛かるだろう。」

「そうですか……」

 

二人の会話の間に渚は病室の中に入って行き、すぐにゴミ袋を持ってエレベーターに向かった。コウタも同じようにゴミを運びつつ付き添う。

 

「ただ、彼女のコアが活動していない理由が全く分からないんだ。コアは完全に修復されているし、偏食場も昨日の暴走波形から正常波形に戻っている。……彼女自身の怪我を治すために動き出さないのがなぜなのか、が分からないと、治療も施せないからね。はっきり言って八方塞がりだ。」

 

ため息をつきながら語る。……八方塞がりだ、と言えば……

 

「支部長の方はどうなんだ?とっとと戻ってくるさ、とか言ってたよな?」

「まだ審議が終わっていないようだよ。話が彼に有利な方へ動いているとは言っても、ヨハンの処分をどうするかに関しては査問会側も慎重にならざるを得ないらしい。終わったら向こうから連絡が来るはずだから、気長に待つしかないね。」

 

こっちには気長に待つ余裕はあんまないんだけどな……大車の件を考えると、支部長の帰りが早いに越したことはないだろうし……

そんなことを話している内にエレベーターがまた開く。アリサに加え、さっき降りていった二人も戻ってきた。

 

「えっと……あといくつありましたっけ?」

「ゴミ?たぶん俺と渚が持ってたので全部だと思うけど……」

「新しく出てなければ最後だよ。」

 

そう話す三人へサクヤが声をかける。

 

「そろそろご飯にしない?時間もちょうどいいし。」

「あ、そうですね。」

「んじゃあ何か適当に買って……あれ?渚は何食うんだ?」

 

再度エレベーターに向かおうとした足を止めつつコウタが問いかける。たしかに、昨日の一件があるまではアラガミのコアのストックを食べていた彼女だ。いくら今ほぼ人に戻ったとはいえ、そのまま食べられるかどうかは微妙と言わざるを得ないだろう。

……直後に渚本人が答えた。

 

「パンとコーヒー。できたらリンゴジャムも。」

「あ、もう食べられるんだ……って、なんでそんな明確に……」

「神楽が前に食べてた。」

 

……女性陣を中心に笑いを巻き起こしたのは言うまでもない。

 

   *

 

「シュン!カノン!一旦下がれ!」

「つってもそっちに行っちまうだろうが!」

「いいから下がれ!回復しろ!」

「は、はい!」

 

第二部隊と第三部隊の合同任務。……工場跡にて、接触禁忌種を含め大型種六体の同時討伐。工場から漏れ出るガスと荷電性アラガミによる電磁波の影響で霧と電波障害が発生し、アナグラとの通信は繋がらないと言うとんでもない状況。本来ならこんな任務はアサインされるはずもないんだが……

あれからまだ一週間ちょっと。第一部隊を動かすわけにはいかないというツバキさんの判断により、アナグラの全員で大型が出現していないことにしている。その分俺たちにかなりとんでもない任務が来ちまうわけだが……あいつらに伝えているほどではないにしろ、アラガミが少なくなっているのは事実だ。ぎりぎり何とかなる。……っつーより、何とかする。

 

「ブレンダン!そっちは!」

 

無線機に向かって叫ぶ。西側にいる向こうからの答えがあると同時に、耳に入る戦闘音が二倍に増える。

 

「タツミか!?はっきり言ってかなり苦しいが……何とかする!っ!ジーナ!回復しろ!そいつは俺が抑える!」

「お願いするわ!……早く散らないかしら……」

 

援護は期待できそうもない。向こうもこっちも三体だ。とにかくどっちかが速攻で終わらせるしかないだろう。

……どうしても、第一部隊の手が借りたくなるな……

 

「タツミ!お前も回復しろよ!」

 

シュンが俺の前に出つつ叫ぶ。

 

「悪い!サンキュー……!」

 

そして後ろに下がったとき、視界の右端に何かが映った。ここは東の端。その先は海だ。

急いで確認し……人型の浮遊するものを見て取る。一週間前、エイジス島での戦闘映像記録で見たやつだった。

 

「シュン!早く物陰に入れ!」

「は!?いきなり何……」

 

一瞬こちらを降り向いた彼の背を掠めつつ極太のレーザーが通り抜ける。その熱さを感じてか、吹っ飛ぶかのように俺の方へ回避した。

 

「……は?」

 

後に残ったのは、消し炭になったアラガミと撃ち抜かれた工場のみ。無線から響く声が三人分あるのが妙に安心感を持たせてくれた。

 

「総員撤退!臨時の回収地点まで戻る!」

 

……オルタナティヴとの、第一部隊以外の初接触だった。

 

   *

 

「第二部隊と第三部隊がオルタナティヴと接触ねえ……」

 

リンドウと共にツバキさんに呼ばれ、約三十分。話されたのは、これまで私達が出撃しなくてもいいようにアナグラのみんなが頑張っていてくれたこと。そして、私達以外で初のオルタナティヴとの接触があったことの二つだ。

 

「これまでにも接触寸前になったことはあったんだが、今回は状況がな。電波障害のせいでこちらから連絡がつかなかった。全員無事で済んだのが不幸中の幸いだな。」

 

……第一部隊の全員がものの十数秒で戦闘不能に追い込まれるような相手だったことを考えると……不幸中の幸い、と言うよりも、もはや奇跡に近いのかもしれない。

 

「こうなっては、もうお前達を休ませておくなどとは考えていられん。明日からは全ての任務を通常通りにアサインさせる。良いな?」

「はい。……それで……オルタナティヴに動きは?」

「今は工場跡でアラガミを捕喰している。その内また別の場所へ移動するだろうな。この間から二時間以上同じ場所にいたことがないのは知っているだろう?」

 

二時間、というのもかなり控えめな言い方だ。ヒバリちゃんの話では、一時間いれば長い方……場合によっては捕喰しつつ移動しているらしい。

そして、動きが止まったのを確認してからヘリでその場へ向かうのに……工場なら一時間半は最低でもかかる。全ての準備が整っているところから換算してそれであることを考えると、実際には二時間から三時間を要するだろう。

 

「八方塞がり……ですか。」

「ああ。」

 

たばこを吹かし始めたリンドウも口を開く。

 

「っつーかタツミのやつ。どうやってあれを見つけたんだ?偵察班が進行ルート上に何回か張ったときも、ずっと目には見えないままだったんだろ?」

 

彼の言葉に私もツバキさんも疑問を抱く。たしかに、これまであれを捉えられた映像は……あの時エイジスにあった監視カメラに写ったもののみのはずだ。

 

「リンドウ。今日の工場跡付近の気象状態、電波状態、偏食場状態、とにかく分かることは何でも調べて博士に伝えろ。サクヤは至急偵察に向かえ。やつの予想進行ルート上に張り込んで、もう一度確認しろ。」

「おう。」

「わかりました。」

 

……希望論を言うつもりはないけれど……もしかしたら、オルタナティヴに対抗できるかもしれない。ここにいる全員が、その可能性を確信した。




シオを完全に人にしていいのかって聞かれると…うーん…どうなんでしょう…

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