GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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神楽の過去談の裏側、といったところでしょうか。
なんだか前話に引き続き裏側の話が続きますが…気にせずお読みください。


全ての始まり

全ての始まり

 

「……起きた……?」

「あ、はい……おかげでゆっくり寝られました。」

 

火でもついたかのように真っ赤になっている自分の顔が彼女の目に映り込む。若干寝ぼけているのか半開きになったその目と、少しだけ赤らめた顔とが……男として……何というか……

 

「……何か変なこと考えてませんか?」

「い、いやいや!そんなわけが!」

「あるんですね。」

 

見事に言い当てられて何も言い返せなくなる。まあ、元々言い返して良いような状況でもないんだけどなあ……

 

「どん引きですけど……まあいいです。」

「それ良いって言ってなくない?」

「……疑り深いですね……本当にいいですって。許してあげます」

 

くすくすと笑いながら話すアリサ。……なんだろう。なんか無茶苦茶かわいい。

 

「えっと……あ、そうだ。疲れ取れた?」

 

どうしようもなくなって当たり障りのなさそうな事を聞いてみる。さっきよりもずいぶんすっきりとした表情をしているようにも思えるけど、実際どうなのかは聞かないと分からないし……そんな理由付けをしている自分に笑わざるを得ない。

 

「そうですね。……なんか、すみません。」

「え?」

 

唐突に発せられた謝罪。

 

「ちゃんと休まなきゃ、とは思うんですけど……リンドウさんと神楽さんを閉じ込めたり、復帰のときにあなたにずっと手伝ってもらったり……支部長から逃げていたときも、サクヤさんにはずっと迷惑かけっぱなしだったんです。だからどうしても、頑張らなきゃって……そんな風に思っちゃうんですよ。」

 

……何と言うのだろう。やつれた笑み……自嘲……今の彼女に合っていそうで、だけどそれだけだと表し切れていない。そんな表情でこちらを見ていた。

 

「よし!じゃあそういうときはアリサを休ませて俺も休む!」

「……あの……」

 

自分でも何言ってるのかわかんないけど、いつの間にかそんな言葉が口をついて出ていた。後で考え直してみたけど……たぶんアリサのそんな表情を見ていたくなかったんだと思う。

 

「……相変わらず、どうしようもないですね。」

「ちょっ!?な、なんかひど……」

「ひどくないです。」

 

まあ、普通に笑ってくれたからいいや。勝手ながらそう結論づける。

……その直後、神楽が声を出した。

 

「……ぅ……」

「神楽?おーい?」

 

が、その声は徐々に苦しげなものへと変わっていった。

 

「神楽さん?神楽さん!?」

「大丈夫か!?おい!……うわっ!」

 

ベッドの横の機械が何か危険を知らせるような音を発すると同時に、神楽が吐血する。布団の中だから何がどうしているのか分からないけど、心臓の辺りを抑えつつ悶えているくらいは見て取れた。

 

「は、博士呼んでくる!」

「はい!」

 

……神楽がこうなったのはこれで三回目。博士の話では、本格的に死の危険が出る回数だった。

 

   *

 

その少し前。

 

「……さて。じゃあリンドウ君も来たことだし、ヨハンが残したデータを見ていこうか。」

 

サクヤから俺が呼ばれた理由を軽く説明してもらい終わったのを見ると、博士はすぐに話を始めた。ちなみに彼の横ではシオが壁に凭れて立っている。サクヤ達の話では、この一週間で彼女にかなりの変化があったらしい。特異点としての彼女が消えたせいだろう、とか何とか。

 

「彼が残したデータは、五年前の七月七日のある事件。そして、そこから発生した実験の記録などだね。」

「ってーと……第一ハイヴか?」

「その通り。」

 

五年前……つまりは2066年の七月七日にあった事件なんざ第一ハイヴの壊滅以外にない。神楽の家族の死亡理由でもあるそれは、あの頃のフェンリルや神機使いの対応速度の遅さを象徴するものとして、フェンリル関係者の中では重要視する者も多い事件だ。

 

「君達も知っての通り、ヨハンが桜鹿博士のコアを手に入れる結果となったのは、この事件で桜鹿博士が亡くなられたからだ。エイジスから帰るジープの中で彼も言っていたよ。この日、桜鹿博士が死亡……いや。殺害されていなければ、このアーク計画を実行するなんて夢のまた夢だったってね。」

「あの……神楽ちゃんの話だと、家族はみんなアラガミに、って……」

 

サクヤが訝しげな様子で聞き返す。実際に神楽は、家族が誰かに殺された、とは全く言っていない。殺害という単語が適するのかと聞かれたら、迷いなくNOと答えるだろう。

 

「うん。見た目はそうだっただろうね。」

「?」

「見た目って……んなもん見た目も何もないんじゃないのか?」

「いいや。これが極めて重大な問題なんだ。シオ。そこのディスプレイをこっちにくれるかい?」

「うん。」

 

シオがコンソールの向こう側から取り出した大型のディスプレイの画面へ支部長のデータを映し出す。

 

「アーサソールがアラガミを操ることが出来る。リンドウ君は聞いたことがあるんじゃないかな?」

「まあその話なら聞き覚えは……って言っても、あれはただの噂話だろ?」

「と、されてはいるね。でもそれは、紛れもない事実さ。」

 

真面目な表情を顔に張り付けたまま語る博士。ひとまずはその言葉を待つ。

 

「アーサソール……新型神機の構想が練られた際に、フェンリル本部が遺伝子操作や薬品等の、それこそ人体改造とも言うべき方法で無理矢理に生み出した者達だ。その副作用で感情がなくなったとも言われているね。」

 

ディスプレイに表示されたデータよりも前に別のグラフが表示された。一般人、旧型神機使い、新型神機使い、アーサソール、アラガミの五種類の項目が見て取れる。どれも偏食場の波形だとあるが……

 

「これを見て分かる通り、一般人はもちろんのこと、旧型神機使いにも偏食場が存在しない。まあ実際には少しだけあるわけだけど、計測器で簡単に読みとれるほどじゃあないね。新型神機使いになると、アラガミとは波形が完全に違うけど、固有の偏食場が計測されている。これの共鳴のようなものが感応現象だというのは、君達も知っている話だね。……さて。問題はアーサソールの偏食場とアラガミの偏食場だ。」

 

ここでサクヤが口を開いた。そういやアーサソールに追いかけ回されたんだったか。

 

「……似てますね。」

「そう。この二つは極めてよく似ている。その偏食場の強さも、新型神機使いとは比べものにならない。……これらの間で感応現象を起こすことも可能だろうね。」

 

感応現象が偏食場同士の共鳴……だとすれば、それも不可能な話ではないのだろう。

 

「アラガミを呼び集めた複合コアの件もある。やり方や原理に関しては全くもって分からないけど、彼らがアラガミを操ることが出来ることは間違いない。でなければ、彼のデータにこんなことが書いてあるはずもないからね。」

 

先ほど開かれたデータが閉じられ、代わりに元々表示されていたものの一部分が拡大される。

 

『大車がアーサソールによってアラガミを第一ハイヴへ集結させ、その内神崎桜鹿氏を襲撃するアラガミのみ操作させて彼と彼の妻、息子を殺害したらしく、同氏が所持していた完成版複合コアを回収してきた。四種類あり、その内赤と青は一つずつ、後の二種は二つずつ。赤はアラガミに捕喰され、青は桜鹿氏の娘が振れた際に消失したらしい。アラガミ化の兆候が見られたという話だ。……ひとまずは二つあるものから実験に用いることにする。……大車のやり方には賛同しかねる。第一ハイヴの住民へ、冥福を。』

 

「これは……その頃からだってのか……」

 

日記形式とおぼしきその文章を読み終わり、博士へ目で続きを促す。

 

「このしばらく後に、二つずつあったコアは実験などでどちらも一つ消費したと書いてあったよ。その後、ノヴァやインドラ、アルダ・ノーヴァのコアとして残ったものも使われたんだろう。例のアラガミを呼び寄せていた複合コアなんかは、その実験中に発見された副産物、なんてところなのかもしれないね。大車自身もあちらこちらに研究施設を持っていた形跡もあるみたいだし……まあ何にしても、彼らがアラガミを操れることは認めるしかない。」

「私を浚いに来たときも、たぶん私を操ったんだって思う。えっと……自分の体じゃない?みたいだったことは覚えてる。」

「そうなの?」

「うん。……何となくだけど。」

 

辿々しいながらも、以前よりもかなり複雑な意志疎通をしているらしい。……それが本当なら、あと何週間かすればほぼ完璧に人と同じような存在となるだろう。

 

「ヨハンの残したデータで分かったことは、今はこれだけだね。新しいデータが見つかれば変わるだろうけど……彼が伝えてくれたのはパスワード一つだけだ。もう何か分かるとは考えない方が良さそうだね。」

「そうか……まあ、これで大っぴらに大車を追跡できそうだな。本部へは?」

「僕が伝えるよ。向こうに顔は効くからね。」

 

そんな会話を交わし、そろそろ自室へ戻ろうかと考えた時だ。

 

「博士!神楽が!」

 

……顔面蒼白のコウタが駆け込んで来、そのすぐ後ろで病室の扉が吹き飛んだ。同時にアリサが壁に叩きつけられ、廊下の証明が落ちる。

 

「アリサ!?」

 

コウタが駆け寄り、一瞬病室の中を見た後で向こう側へとアリサを抱えたまま転がっていく。

……二人が病室の前から離れた直後、今さっき彼女が叩きつけられた壁を……黒い翼を生やした神楽が拳で打ち抜いた。

 

「博士!これは!?」

「おそらく……彼女のコアの暴走……アラガミ化の一種と見るのが妥当だろう。」

 

言葉を交わす二人の前に立ち、一メートルほどの範囲に黒い衝撃波を発し続ける神楽を見やる。

黒の翼を背から生やしつつ、同じ色の羽を体の周囲で渦巻かせつつ拳を壁から引き抜いた彼女。その目は鈍く光る真紅に染まり、解けた髪は白と左右一房ずつの金髪へと変色していた。

 

「みん……な……逃げ……」

 

その口が開き、衝撃波の風圧にかき消されそうな弱々しい声が漏れ出る。

 

「大きすぎる負荷のせいで、コアそのものがオーバーロードした……或いは神楽君を生き長らえさせるために無理矢理起動しようとした結果……どちらにしても……」

「そんなこと言ってると本当に手遅れになる。」

 

榊博士の言葉がシオによって唐突に遮られる。そのまま前に出てこようとする彼女。だが、今目の前にいる神楽は俺の手にも余ることが明白な存在だ。彼女に何とか出来るとは思えない。

 

「シオ!下がれ!お前が何とか出来る相手じゃ……」

 

コウタから檄が飛んだ。……ついさっき眼前を拳が通り抜けただけあって状況をもっともよく理解しているのかもしれない。

 

「私よりあなた達の方が危ない。」

 

そのコウタへ淡々と答え、俺の制止もどこ吹く風と前に出る。一種の畏敬の念すら感じさせるような雰囲気を纏っていた。

……神楽がそれへ狙いを定めたのはほぼ同時だった。

言葉を発する暇もなく振り抜かれた彼女の拳を身をほんの少しだけ捻って避けつつ、その胸へ手を触れた。

 

「大丈夫。まだ眠って。」

 

黒い翼が消え、目の色が戻っていく。……髪の色が戻らないのが気になるが……

 

「……シ……オ……?」

「ううん。今は渚(なぎさ)。でも、気にしないで?今は眠っていいの。神楽のすることは、まだ先だから。」

 

片言ながらも何か意味深な言葉を言ったシオと気を失っていく神楽とを見つつ、その疑問を押し込めた。




…さて…次話投稿がいつになるやら…
いろいろと話を組むには…やっぱりまだかかりそうですね。
ラストバトルなんかは一つの時間軸を何回か往復しないとまずそうですし…っと…これ以上は言わないでおきます。
それでは、また次回お会いしましょう。

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