GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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始めまして。終幕ノ余興です。読みは…できたら Start of the End であると覚えてほしいなあ…
実はこれが初投稿です。GE仲間でのんびり書き合っていたのですが、GE2の体験版や発売日発表もあったことだしネット上にも上げてみようということになり、投稿したという次第です。
…しばし主人公のダークっぷりにお付き合いください。


第一章 孤独な二人
初陣


初陣

 

低い機械音を立たせながらエレベーターが止まる。着いたのは人の話し声の多いエントランス。アナグラと呼ばれる、この世界において最も重要な施設の最も人が集まる場所。

降りてきたのは、人目で新人と知れる真新しい制服に身を包んだ一人の女性。

色白な肌に映える、背中の中程まである長い黒髪をポニーテールにし、形の整った鼻と口、それらに呼応するかのようにぴったりな場所に付いた若干大きめの黒い眼を持っている。だが、その眼差しはどこかここではないところを見る……というより、視るようだった。

 

   *

 

「……」

 

黙って右手に付けられた腕輪を見つめる。神機使いとなった証。公認されている人ではないものの証明。複雑な気分、とでも言えばよいのだろうか。

そうして突っ立っていた私を呼ぶ人もいた。

 

「もしかして君なの?俺と同期で入ったって子。」

 

ちょっと変わった服を着た赤毛の男の子。多分私よりも年下だけど、この世界ではそんなもの関係ない。強いもののみが生き残る、ただ弱肉強食へと堕ちた世界…それは、きっと誰もが知っていること。

 

「そうだと思います。神崎神楽です。よろしくお願いします。」

 

人と話せるように修得した作り笑いを浮かべつつ。

自己紹介が遅れた。私は神崎神楽。17歳。血液型はA。身長168cm。体重は……教えない。

 

「敬語なんていいよ。俺はコウタ。こっちこそよろしくな。」

 

当たりのよい感じだ。彼の差し出した手を握る。人の手を握り慣れているような感触を受ける。

一瞬とはいえ俺の方が先輩、なんて言う彼をおもしろく思う。この殺伐とした時代に、彼のような人がいるなんて全く知らなかった。

そんな感じで会話が続く。話すのは専ら彼の方だったのだが。

少し話題も尽きてきた頃、後ろからハイヒールの靴音が聞こえてきた。……聞き覚えがある。極東支部に入って一番最初に耳にした靴音だ。

なんとなく、何か言われる前に立ち上がった。私につられたのか、遅れてコウタも立ち上がる。

一種の威圧感。それだけでも、目の前の人物が相当な修羅場を潜ってきたことがわかる。

 

「教練担当の雨宮ツバキだ。死にたくなければ私の命令には全てはいかyesで答えろ。」

 

命令……たった今あったな。

 

「はい。」

 

コウタは答えない。今命令と言えるものがあったことにまるで気が付いていない。

 

「頭の回転は神崎の方が上か?藤木コウタ。」

「え?あ、はい。」

 

言われて初めて気が付いている。…これでは相当怒られていくことだろう。

 

「新人はラボラトリの榊博士の研究室でメディカルチェックを受けること。話は以上だ。」

 

来たとき同様、ハイヒールの靴音を高らかに響かせながら去ってゆく。

これ以上ここにいる理由は特にないのだから、早くチェックとやらを済ませよう。

 

   *

 

「ふむ。予想よりも726秒も早い。よく来たね、新型君……いや、新型さんだね。ペイラー・榊だ、よろしく。」

 

研究室に入った私を出迎えたのは、切れ長の目をしたいかにも……変人。失敬。いかにも研究者って感じの人だった。

そしてもう一人。

 

「さて、まずは適合おめでとうと言ったところかな。私はこの支部の支部長を務めている……」

 

横から割って入る声があった。もちろん榊博士である。

 

「ヨハネス・フォン・シックザール。僕の古くからの友人さ。……堅物だけどね。」

「ペイラー。少しは場を弁えろと何度言ったらわかるのかね?」

「ふふ。失礼。」

 

怒りまではいかずとも明らかに機嫌を悪くした。腹の底では憤怒しているようにすら思えるが。

この後は単なる説明。その途中の博士の言葉には肝を冷やしたけど。

 

「……ん?……な、何だこれは!」

 

そう叫んだのだ。こうして慌てられると、驚く以上に不安になる。

……ばれたのでは、と。

 

「ペイラー。説明の邪魔だ。」

「いやヨハン、しかし……」

「邪魔だと言っている。そもそもこういう場でそう呼ぶなといつも言っているはずだ。」

 

こんなやりとりで、そのまま博士の言葉はなかったも同然となった。ありがたいことに。

三十分と経たずにメディカルチェックが開始される。……どうか、何もなく済みますように……

 

   *

 

自室で目が覚める。……いつもと同じ夢を見た。思い出したくなくとも覚えていなければいけないあの日の記憶。

そうだ。落ち着いたら任務に行ってこいって言われていたはずだ。

落ちかけた意識を再度揺り起こし、配属時に受け取った服に身を包む。兵種は強襲兵。……露出が多いのが気になるがまあそんなことも言っていられないか。

貰った制御ユニットはベルセルクという肉を切らせて骨を断つ、とでも言うようなもの。回避よりもガード、離脱よりも連撃。ロングブレードという種類の刀身でそういう戦い方を訓練でやっていたら、一撃を重くしろ、と言われ、結果そのベルセルクを受け取った。上級者用の装備らしい。

 

「……ちょうどいい……」

 

ターミナルで自分の神機にそれを付け終わる。さて、初陣だ。

 

   *

 

エントランスに降りたところで声をかけられた。受付にいる人からだ。

 

「神崎神楽さん……ですよね。初めまして、竹田ヒバリです。みなさんの任務のオペレーターをつとめています。ミッションの受注などは私にしてください。あ、何か困ったことがあったときも遠慮なくどうぞ。」

 

こちらも自己紹介で返す。

 

「あ、初めまして。どう考えても迷惑かけると思いますけど、よろしくお願いします。」

 

今日の初任務について説明を受けてからガールズトークへ突入。なんだか気が合う。と言うよりも、彼女が私が話す言葉を選んでいる間しっかりと待ってくれているのが大きい。……人と話さなくなって、久しいから。

同時にここでの簡単な規則なども説明してもらった。いくつかは支部長にも説明してもらったことだったが、彼のような威圧感がないぶん話を聞きやすい。そもそも同じ性別ゆえに少し深いところまで教えてくれるのだ。……何を、とは言わないが。

 

「あ、いらっしゃいましたよ。」

 

エレベーターから降りてきた人を見つつ告げてくる。さっき話の中に出てきたリンドウさんって人だろうか。

 

「お?今度の新入りはずいぶんかわいいんだな。」

 

……反応に困る。とりあえず飄々としていることだけはわかった。

今の言葉を受けて何か言おうとしたヒバリさんより先に口を開く。

 

「初めまして。ご存じのこととは思いますが、神崎神楽です。本日付けで第一部隊に配属されました。以後、よろしくお願いいたします。」

 

あくまでにこやかに、しかし人を寄せ付けないような雰囲気を前面に押し出しつつ。あの日からそういう話し方だけはずっと練習してきた。一人になりたいときのために。それはどうやらこの人にも効果はあるようで。

 

「うっ、お、おう。えっとだな、第一部隊の隊長の雨宮リンドウだ。形式上はお前の上官に当たるわけだが……そんなに構えるな。頼むから。こっちが参っちまう。」

 

辿々しくなったリンドウさんを見てヒバリさんから声がかかる。

 

「すごいですね……」

「いえ、こういう受け答えは練習してきましたから。ざっと五年ほど。」

 

さっきと同じようにあくまでにこやかに。今度は目を笑わせず、後ろから私はキレていますって空気を醸し出しつつ。

 

「こ、怖いです!怖いですって!」

「……冗談ですよ。」

 

何事もなかったかのように元に戻る。作り笑いを浮かべた顔に。

そうしてまた会話が始まりそうになったからか、リンドウさんから声がかかる。

 

「さあて、仕事にでも行こうか。準備は良いか?」

「はい。」

 

   *

 

極東支部からは最も近い位置にある旧市街地。通称贖罪の街。後で聞いたことだが、ここでは神に救いを求めていた人たちが全員アラガミに喰われるということがあったらしい。……神なき時代の反映とすら言われる事件だ、と。

 

「ここもずいぶん廃れちまったなあ……」

 

そんなことを呟くリンドウさん。その表情は一転する。

 

「いいか新入り。命令は三つだ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ不意をついてぶっ殺せ。」

 

そう言いきってから、これじゃ四つかなんて言いつつ頭を掻く。数え違いではないことを祈りたい。

と、彼の端末が鳴る。

 

「っと、わりい。ちょっと待ってくれ。」

 

それを取り出して届いたものを確認する。どことなく苦い表情をしたのはなぜなのか。この時はわからなかった。

さほどかからずにしまう。

 

「待たせたな。うっし、行くか。」

 

飄々とした感じは完全になりを潜め、真剣な表情に変わる。

 

「了解。」

 

初陣だというのに全く緊張していない。アラガミを目前にすることを恐れる気持ちが全くない。死ぬことへの不安も感じない。それ以上の恐怖を味わったから。

出撃位置から右に折れる。ちょうどその場所に目標がいた。

壁を背にしつつ角から様子を窺う。

 

「……ラッキーだな。奇襲がかけられる。」

 

こちらに背を向けているオウガテイル。新人が初めて戦う相手なのだという。

鬼のような面と尻尾がある二本足のアラガミだとは聞いていたが……なるほど。確かに鬼みたいな尻尾だ。

それを見届けてからリンドウさんから無茶な注文が入る。

 

「よし、まずは一人で行ってみろ。」

 

命令のようだ。

 

「はい。」

 

神機を持つ手に力を込める。クロガネと呼ばれるパーツをもったその神機。私にとって、おそらくは持たざるを得ないもの。

真後ろから走り寄る。……捕食の射程に入った。

 

「……」

 

無言で。感情を捨てて。ただただ一つの兵器として。もし私が自分に価値があるといえるものを持っているなら、たぶんこれだけだから。

捕食したのは尻尾。オウガテイルにとって最高の武器となるそこを喰いちぎる。

捕食形態から戻って肩へと神機を回す。振り返ったオウガテイルの頭を狙い……

 

「ん……」

 

切り裂く。返り血が大量にかかった。気持ち悪い……

 

「消えて。」

 

それでもまだ僅かに動く目標へと刀を返す。その時点で動かなくなったそれのコアを、無感情に摘出した。

大きく息を吐く。と同時に感じられる鼻をつく血の臭い。顔にまで付着した血糊を吹こうともせず、空を見上げる。その空はただ青くて……このなにもかも嫌気のさす世界で唯一好きになれたもの。見ているうちに心が落ち着く。

 

『つらくなったら空を見なさい。きっと落ち着くから。』

 

そんな言葉が思い出される。母に教えてもらったこと。

 

「大丈夫そうだな。しかしまあよくこんなに戦え……」

 

終わってからこちらへと歩いてきたリンドウさん。彼の言葉は途中で切られた。

 

「お前……泣いてるのか?」

「え……?」

 

言われるまで気が付かなかった。止めどなく溢れる涙。その涙はどこへ流れるとも知らず……自らが止めることもできなかった。




…どうだったでしょうか?
何せ初投稿なもので文章も拙く…こうしたほうがいいのでは?とかがあればもう何でも感想から言って下さい。
たぶんしばらくの間は一日複数投稿が主になると思います。書きだめが結構あるので。
それではまた次回。

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