GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
終章に入るに当たって全体に読み直しをかけたら…
あれ?なんでこここんなことに?
って箇所がいっぱいあったのが原因です。はい私の計画性のなさのせいです。…元はちゃんと繋がるはずだったんだけどなあ…
まあそんな自虐与太話はおいておくといたしまして…
本日は二話投稿。アルダ・ノーヴァ戦以後のお話の入り口ですね。お楽しみください。
沈黙
終章 今、此の刻を生きる
沈黙
「今日は……今日も特に大きなアラガミの反応はありませんね。」
「またか……例のアラガミは?」
更に四日。アラガミの反応が異常なまでに減り、俺達の仕事はかなり少なくなっていた。偵察班が偶然捉えた映像には、あの時大車が連れていたアラガミが数十に及ぶかと思われる大型アラガミを一瞬で焼き払うという光景が映っていた。……直後に偵察班は重傷を負っている。
奴の名称は大車の発言からオルタナティヴに決定された。どういう意図でのこの名前かは全くもって分からないわけだが……何にしろ、厄介なやつが現れたもんだ。
「一応反応は捉えています。目には見えなくなるそうですけど、偏食場までは隠していないみたいですね。」
「討伐には行けそうか?」
今現在第一部隊は四人しかいないようなものだ。俺とサクヤ。それにアリサとコウタ。……と言っても、この一週間の間は一度も出撃していない。まあ、怪我の治療に専念できるのはそれはそれで有り難いことではある。
が、主戦力の二人が現在前線より離脱中ってのはやはり辛い。今接触禁忌種の大群なんかが来たらここは一瞬で壊滅するだろう。
神楽は相変わらず目を覚まさず……というより、目を覚ましても譫言でソーマを呼んで、すぐに気を失うことの繰り返しだ。そのソーマに至っては生死すら不明。すでにMIA(任務中行方不明)からKIA(任務中死亡)へ変えた方がいいのではないか、と言う話すら出ている。
「討伐はたぶん無理だと思います。巡行速度がインドラの1,2倍に近くって……レーダーでの反応も飛び飛びにしか映らないんです。」
今日までのヒバリの話では、オルタナティヴは極東支部周辺でアラガミを捕喰しつつ徐々に離れているらしい。餌を求めて、なのか、何か別の目的のため、なのか……それすら分からないものの、彼女は常にオルタナティヴの動きを監視してくれている。
「だろうなあ……」
カウンターに腰掛けてタバコを吸おうとし……最後の一本であることに気付く。そういや……エイジスに忍び込んでからずっと買ってなかったんだっけか。
……吸う本数はセーブしてたっつーのに……これが三十箱目だったんだな。
「……嫌な雰囲気だよなあ……」
釈然としない感情。今すぐに叫ぶのを堪えるのが、すでに苦しかった。
*
病室の扉が開いた。この一週間、ここに入っているのは神楽さんだけ……いつもならちょっとした怪我の治療でって人が二、三人はいるのに。アラガミの数が減っているからだろうか?
「よっ。飲み物買ってきたよ。紅茶がなかったからコーヒーにしたんだけど……」
「あ、はい。ありがとうございます。」
入ってきたのはコウタ一人。たしかリンドウさんは残った雑務をやっていて……サクヤさんはその手伝いをしながらオルタナティヴへの対応策を探っているんだっけ。
缶コーヒーを渡しつつ、彼が話し始めた。
「看病しすぎて倒れるなよ?最近あんま寝てなさそうだし。」
「大丈夫ですよ。全く寝てない訳じゃありませんから。」
そう言って、神楽さんに向き直りつつ笑ってみせる。……が、彼は軽く笑みを浮かべるのすら止めて端末を取り出し、自撮り用のカメラを起動しつつ私に画面を向けた。
「そんなに見事な顔してたら、嫌でも気にするっての。」
当然、皮肉だ。画面に映し出されたのは、病気にでもかかっているかのようにひどい顔をした私だった。
「……そう……ですよね。すみません。」
なんだかいろいろと申し訳ない。この間からコウタには迷惑をかけっぱなしだ。
「神楽が心配なのも分かるけどさ。アリサが倒れちゃったら元も子もないだろ?」
「はい……」
……ちゃんと寝ろ、と言いつつコーヒーを買ってくるのもどうかと思うんだけど……
「……じゃあ……」
「?」
彼の袖を引っ張って横の椅子に座ってもらう。……なんか気恥ずかしいけど……
「ちょっ……」
「静かにしてください。寝るんですから。」
こうやって神楽さんが昏睡状態にある目の前でこうしているのは不謹慎だと思うけど、彼に寄りかかって寝ていることに安心感を得ている自分がいる。……神楽さんはよくソーマの肩を枕にしてたっけ。……なんだか分かる気がする。
「……寝るなら部屋の方がいいと思うんだけど……」
「ここでいいんです。」
あとはコウタが野暮なことを言わなければ、完璧なんだろう。
……神楽さんが目を覚まさないのは……ソーマがここにいないことも原因の一つではあるのだろうか。
*
「ああ、これだね。サクヤ君。ちょっと来てくれるかい?」
博士が納得したような声を上げた。研究室の中にあった資料を確かめる手を止める。
「支部長が言っていたデータですか?」
「うん。その中でも、複合コアに関する部分さ。」
本部に招聘される前に支部長が伝えていったパスワード。彼の持つ極秘データファイルのパスワードだったのが分かったのが一昨日。大っぴらにどれのパスワードだ、と言うと本部での査問会で問題にでもなるのか、支部長のファイルのパスワードなのか他のものなのかも分からなかったのが時間がかかった主な理由だと言える。
そしてこの二日間、多くのダミーを持ったそのファイルの中から今回の件に関係するものを探していたのだ。
「……そもそもあの日第一ハイヴがアラガミに襲われたのすら、人為的なものだったようだね。」
そのデータを見ることができる位置へ移動しつつ博士の言葉に耳を傾ける。
「桜鹿博士はずっと一人で研究していた。その進捗や結果を知っていたのは、彼の家族と、ただ一人彼が協力してもらうように頼んでいた楠博士のみだ。当然その内容をヨハンも知りたいと思っていたし、結果等を一定期間ごとに提供するように要請もしていたよ。……全く、取り合ってもらえなかったそうだけどね。」
「取り合わなかった?」
フェンリルの科学者である以上、支部長からの要請とあってはほぼ命令のようなもののはずなのだが……
「……過去に、大きな実験事故があったんだ。神機使いを生み出すためにある二人の科学者が奔走したものでね。」
いつも細く開いている目が更に細くなった。声の調子も懐かしむようになった印象がある。
「あの頃はそもそも研究者が少なくてね。彼自身はその実験に反対していたから参加はしていなかったんだけど、彼の知り合いも……たしか彼の恩師なんかもいたはずだ。ああ、ちなみに途中までは僕も参加していたんだよ。奔走していた二人、というのと……そう、親友関係にあった、と言うのかな。」
特に何かこちらから聞くこともないので相槌を打ちつつ聞く。それにしても、いったいどういう関係があるのだろうか?
「その実験の結果は、実験参加者の内たった二人を残して全員死亡するという悲惨なものだった。現在はその内容を少しでも知るものには戒厳令が出ているよ。フェンリルの汚点の一つだからね。」
「はあ……でもそれと本当に関係があるんですか?」
さすがにしびれを切らして問いかける。が、博士はいつも通りの不適な笑みを浮かべるのみ。
「まあ焦らないで聞いてくれたまえ。えっと……ああそうそう。その実験が行われている間、桜鹿博士は複合コア理論を早くも提唱していたんだ。アラガミにコアがあること自体は分かっていたし、神機の理論も楠博士がすでに組み上げていたからね。ただ、そのころの彼の複合コアは神機のアーティフィシャルCNSのみを作るというものだったんだよ。人との適合係数なんて全く分かっていなかったし、それ以上に楠博士も神機は誰でも使えるものを目指して考察を進めていた。……さて、問題はここからさ。」
「はい……」
……正直長い……
「桜鹿博士は実験を進める内にあることに気が付いた。ちょうど一番最初の複合コアが完成した頃かな。神機を動かす事なんて夢のまた夢、とも言えるそれが完成したところで、彼はコア自体がすでに一つの生物であることを知ったのさ。これは、さっき言ったある二人の実験でも判明していなかったことだよ。」
コンソールを操作して、博士から見て左上にある画面にグラフや表などを映す。
「これ……たしかオペレーター研修の時に見せられたものですよね?」
「そう。今では誰もが知っている、アラガミと人の違いを説明するために用いられるデータさ。」
オペレーター時代の研修期間。かなりハードなものだったが、その手始めに見せられた記憶がある。
「コアが生物である、と分かったところで、神機が生体兵器である、ということの推測も出来たんだろう。彼が残したレポートの中に人が神機を使うための考察なんかもあった。……簡単に言えば、神機を使うには人が半分アラガミになる必要がある、だそうだよ。そして、人とアラガミが一つの個体で半々になる事なんて不可能に近い、とも書いてあったね。……その人とアラガミを半々にする、と言うのをやろうとしていたのが、初めに言った実験だった。」
「……失敗を予期したんですか?」
「それどころじゃない。桜鹿博士は実験関係者……そのリーダーにまで警告していたよ。その実験は失敗する、とね。警告は、予想される結果も共に送られていた。……実際の結果と寸分変わらなかった。僕がそれに対して起こしたことと言えば、親友を救いたい一心で偏食因子の初期型を入れたお守りを送ることだけだったよ。」
自分をあざ笑う。そんな苦笑を浮かべながら話を続ける。
「……彼らは桜鹿博士の警告を全く取り合わなかった。自分たちが失敗する事なんて、予想してすらいなかったんだろうね。……その実験のリーダーは、ヨハネス・フォン・シックザールだ。」
「支部長が?」
「そう。その一件で、ヨハンと桜鹿博士との間になかなか複雑な関係が出来上がってしまってね。ヨハンは桜鹿博士に強く言えなくなったし、桜鹿博士もヨハンを信用しなくなった。それが、桜鹿博士が複合コアに関するデータを開示しなかった理由さ。ヨハンの実験に共に反対していた楠博士と僕には、多少教えてくれていたけどね。」
若干誇らしげな表情をしながらも、その声のトーンはいつもと比べ落ち気味だ。やはり、思うところは多いのだろう。
「さて……とりあえずここからがヨハンが持っていたデータの内容になるんだけど……これはリンドウ君にも来てもらった方が良いだろうね。現状彼が第一部隊長なわけだから……おや?」
博士の言葉を遮るようにシオちゃんの部屋の扉が開いた。中からはどこか眠そうな表情をしたシオちゃんが出てくる。
「おはよー。」
この一週間……というか、アーク計画を止めてからほんの三日程度の間に彼女には大きな変化があった。今も少しずつ続いているその変化の理由は、榊博士曰く……
『ノヴァが消滅したことで特異点としての、さらにはアラガミとしての部分が薄れていったんだろう。別の言い方をするなら……そうだね。人間に戻りつつある。そんな感じかな。一体それがどこまでいくのかは分からないけどね。』
とのことだが……
「サクヤ、どうかした?」
何というか……とても人間らしくなった、と言うのだろうか。これまで真っ白だった肌には徐々に色味が増し、今では肌色と言ってもいいくらいにはなっている。ほとんど固まっていた髪の毛も、徐々に一本ずつに分かれてきているし……それどころか今は首と背中の境目まで伸びてきた。博士の話ではメラニン色素に近いものの形成も見受けられるらしい。その内色も付いていくのだろうか。
……まあ、一番の変化はその性格にあるようにも思えるわけだが……
「ちょっと神楽ちゃんのことでね……」
「……まだ起きない?」
「ええ……傷の治りも驚くほど遅いのよ。たぶん、普通の人よりも。」
シオちゃんを初めて紹介されたとして、今の彼女を十二歳くらいの女の子だと信じる人は……いや。たぶん、信じない人の方が少ないだろう。
「神楽君の傷の治りが遅いのは……おそらく、彼女自身の自然治癒力がすでに存在しないからだろう。」
「存在しない?」
「うん。彼女の体の細胞は、もうオラクル細胞以外では構成されていないんだよ。それだけに本来人に備わっているべき免疫機能や治癒作用も彼女のコアが動いていないと働かないようでね。今はコアが自己修復を続けているわけだから……たぶん、その修復が終わらないと彼女自身は回復の兆しすら見せないだろう。」
「神楽……前ちょっと違ったけど、今は私と同じ。コアが安定してて私みたいにならないだけ。……だと思う。」
シオちゃんがちょっと抽象的な説明を挟む。……それにしても今の言葉……少しずつ、昔のことを思い出しているのだろうか。
「……まあとりあえず、リンドウ君を呼んできてくれるかい?話は全て、それからにしよう。」
私の疑問は、口にする前に言えない雰囲気へと追いやられたのだった。
マーナガルム計画の裏の自己解釈と、GE2へ繋げるための準備なども兼ねています。
…というのは今は関係ありませんし、ひとまず先に進みます。