GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
…こっから、完全なオリジナルストーリーです。
神の砲口
「さて。休憩もできたんだし……そろそろ行こう?」
それはアルダ・ノーヴァを倒してから三十分ほどたった頃。通路の制圧や、極東支部周辺の安全も確認できたそうだ。
「そうですね。……コウタ、お疲れさまです。」
「う、うん。……アリサも。」
それぞれに笑ったり……
「……帰ったら……きっちり!何もかも!教えてもらうわよ!」
「ま、まあまあ……その前に姉上がぶん殴りに……」
「じゃあその後ね。楽しみにしておいて?」
「……遺書でも書くか……」
えと、怒ったり。
あ、ちなみに榊博士と支部長。それにシオは一足先に向かえに来たツバキさんと共にアナグラへ。まあいろいろとあるだろうけど……なんだかいろいろなことが良い方向に向かいそうな予感がする。
よし。私も準備を……
「っ……」
と思ったけど、思いっきり立ち眩んだ。……その背を、ソーマが支えてくれる。
「大丈夫か?」
「……あぅぅ……」
「……何語だ……」
なんだかどうしようもないな。私って。そんなことを考えた矢先。
「その……悪かったな。」
こっちから言い出そうって思っていただけに、なんだか負けた気分だ。
「あ、ううん!……えっと、私の方こそ……ごめんね。」
このやり取り……後で子供の仲直りみたいだったってサクヤさんにからかわれることになる。
後はコアを回収して……それで帰り着けば、この件はほぼ終わり。久しぶりに有休でも取っちゃおうかなあ。それで外部居住区にお買い物とか……あ、ソーマと一日ゆっくり過ごすのも良いかな?そうやって、楽しみなことは次々に思いつく。
……そして……
それは突然だった。
「……?」
「音?」
なんだか変な、甲高いような……逆にとても低いような、そんな音が聞こえたのが始まり。
「……は?」
「……え?」
次は、ソーマの胴体が貫かれていった。
「……な……」
「ソーマ!」
……彼が、一気に後ろへ。何かに引っ張られて。
とてもゆっくり流れるかのような時間は僅か一秒にも満たない。みんなが気付いたのは、すでにソーマがノヴァの下の高台まで行った後。
「久しぶりだね。神楽君。」
横たわるソーマの横に立っている大車。……何か、バイザーのようなものをかぶっていた。
「くそっ!」
リンドウさんが走り出す。……その体が、元の位置よりずっと後ろまで吹き飛んだ。
「リンドウ!」
サクヤさんが回復に向かおうとして、リンドウさんのところへ行き着く前に全方向からの至近距離光弾に打ちのめされる。
「どこにいるんだよ!」
「見えない……そんな……!」
……そう。ソーマも、リンドウさんもサクヤさんも、一体何にやられたのか認識できなかった。それがアラガミなのか、人なのか。それすらも。
そして……
ヴン、と低い音が響き……アリサとコウタの後ろにそれが姿を現した。
人型のアラガミ。背には割れたステンドガラスのような羽を六枚持ち、黒い両腕にはアルダ・ノーヴァが持つものをさらに禍々しくしたかのような暗い赤のリングが一つずつ。
浮遊に特化したかのような、膝を上方向へ尖らせ、足首をまっすぐにし、膝からつま先までが一つの部位であるかのような黒金の足。それをささえる腰も、歩くには小さいように思える。逆三角形を描く、やはり黒の部位だった。
胴体のベースはアルダ・ノーヴァの女神のものと似たような形状。相違点はといえば、その背に五対の突起があり、その内一番上と真ん中、一番下から翼が生えていることと、全体が黒いこと。胸の少し前の位置から、それぞれ一対ずつの脇の下と肩を通る、そのアラガミの腕の長さほどのスパイクがあること。そもそも体型が男性型であることだ。
四本のスパイクの内の肩の上を通るものからは、肩から上腕にかけてをカバーするような装甲がある。漆黒に発光する赤のラインが入っていた。
頭部は目から鼻のあたりに赤いクリスタルの仮面のようなものがあるのみ。無表情な口には何も付いておらず、あとは耳があるような位置から斜め後方へ二本ずつのスパイクがあるくらいのシンプルなもの。色はまたも黒だ。
「なっ!?」
「うそっ……どこから!?」
その両腕が、二人にそれぞれ向けられた。同時にリングが少し前に出て、手の前に掲げられるようになって……
前触れなく、レーザーが発せられた。
その閃光に一瞬目を背け、再びそこを見たときには倒れ伏した二人がいるのみ。アラガミは大車の隣にいた。
「オラクル細胞による光学迷彩の持続時間はこんなものか。機械式よりは短いが……十分だな。」
手に持ったコンソールに何かを打ち込んでいく。何かのデータでもあるのだろうか……
「ソーマを返しなさい!いったい何のつもり!?」
それに彼は答えることなく、アラガミのみが動いた。……手からリングを離し、それぞれアルダ・ノーヴァとノヴァへ向け、手そのものは私に向けて。
「やれ。オルタナティヴ。」
三方向に、レーザーが放たれた。
……その後は……何も、覚えていない。
*
「気が付いたか?」
……ここ……どこ……?……目が……ぜんぜん見えない……
「気分はどう……なんて、聞いていいような状態じゃないわね……」
……頭が痛い……気持ち悪い……
「コウタとリンドウさん、呼んできますか?」
「やめておきなさい。あんなうるさいの呼んでどうするの。」
「……そうですね……」
……なんか口元が暑い……横はへんにピッピッってうるさい……
【……イザ……ナミ……?】
あれ……?返事しないな……
【ねえ……イザナミ……】
……っていうか……この気持ち悪さ……どこかで……
ああ、そっか……いつだかにコアがダメージ受けたって……そのときと似てるんだ……
……じゃあ……え?まさか……
【イザナミ……?イザナミ?ねえ……返事して!】
そうだ。ソーマは?ソーマはどこにいるの!?
「……そ……ま……どこ……」
あるのは重たい布と体を包む包帯の感触と、酸素マスクを付けられた口の暑さ。そして細い針が入った腕からのほんの少しだけ感じる痛み。彼の手の温かさはどこにもなく……横で鳴っていた機械音が、ピピピ、なんていう危険を感じさせるようなものへと変わる。
「まずい!博士を呼べ!」
「はい!」
「リーダー!しっかりしてください!返事して!」
……そっか……
「そー……ま……そおま……やだ……いっちゃ……やだ……」
もう私、一人なんだ。
*
三日前。ぼろぼろで帰ってきた第一部隊のみんな。……神楽の以外は、修復できたけど……
「これは……もう無理かな……」
神楽の神機はコアまでやられていた。……アーティフィシャルCNSの完全な破壊……すでに原形を留めていないから、持ってこられた破片の内どこがどこなのかすら分からない。
「……お疲れさま。よく頑張った。」
もう、破棄するしかないだろう。
神楽には複合コアを使った例の神機を渡すことになるけど……彼女のコアが活動を停止している今、適合が可能かどうかは不明だ。それどころか数値が安定しなければ使用許可は出せない。
リンドウさんによれば、大車が連れて来たと思わしき新種のアラガミに神楽以外の全員が戦闘不能に追い込まれた状況下、神機も自分もぼろぼろだった神楽が戦い続けてくれていたそうだ。……結果は大敗。本調子の三分の一も出せなかったため、神機を破壊され、彼女も大怪我を負い……ソーマを、連れ去られた、と……
最終的にはアナグラからの救出部隊がぎりぎりで到着し、なんとかアラガミと大車を撤退に追い込むことには成功。アラガミそのものへも攻撃は出来たと言うが、大車が操っていた、というのを考えれば……次はもっと強くなっているだろう。……アーク計画が片付いたと思ったらこれかあ……
「この支部……いろいろ大変だったよね……本当に、お疲れさま。」
今のところ緊急の出動は少ない。……せめて、神楽が治るまではこのままで……
*
「大車がアーサソールを従えている可能性が高い、か。」
「そうだね。僕の研究室を襲ったのも彼らだ。ご丁寧に名乗って行ってくれたから間違いないと見ていいだろう。」
「支部長が帰ってくれば、もっとはっきりするさ。まあ、ひとまずはこんなもんだな。」
博士と姉上にエイジスに潜入していた間に知ったことを説明。本当なら姉上にいろいろ叱責を受けた後ですぐに言うつもりだったんだけどなあ。なんせ帰った直後から大騒ぎだ。俺もこの二人も、初めて気を緩めることができている。
支部長は本部へ招聘された。今回の事態についての説明が主なものだそうだが……まあアナグラの支部長はよくできているもんで……本部の奴らの大半を元より味方に引き込んでいたらしい。バラされちゃ困るってんで、事実は向こうがすでに歪めている。警備不足によって発生したアラガミの襲撃。それに伴うエイジス島の崩壊とエイジス計画の頓挫。その責任を云々……どうせすぐ戻ってくるだろう。それなりの処分はあるだろうが。
「……まあ、一応ご苦労だったと言っておこうか。今になって叱ってもどうしようもなさそうだ。」
「おお?いつにもまして寛大な姉上……」
「ここでそう呼ぶな!何度言えば分かる!」
……変わんねえか。
「さてと。じゃあ神楽君のことでも話そうか。」
博士からの言葉に俺も姉上も止まった。……また、あいつに守られたな……
「……とりあえず現状だけど……かなりまずい。」
「先ほど一瞬目を覚まし、直後にバイタルが急変していてな。何をどうすればいいかも分からん。」
「……そうか……」
アルダ・ノーヴァとの戦闘ですでに疲れ果てていた。そこから一時間以上、その状態でのトップスピード……それもアラガミの能力を無理矢理使いながら戦い続けたんだ。無理もない。
「神楽君のあの異常なまでの強さや回復力は、全てアラガミとしての部分が働いていることによるものだ。だからこれまで、多少の無茶や怪我なら一瞬で前線復帰した。ただ……今回に関しては話は別だ。」
「別?」
あいつがコアを破壊されるほどの深手を負ったようには見えなかったんだが……
「彼女のコアが活動を停止している。おそらくは、別の複合コアが破壊されたことによる偏食場共振が原因だろう。」
偏食場共振……っつーと……何だ?
「偏食場共振……まあ、僕が便宜上層呼んでいるんだ。神楽君のコアと類似するコア。つまり、彼女の家族のDNAを元にして作られた複合コアが損傷した場合、彼女のコアそのものもダメージを受けることを呼んでいる。原因は偏食場の酷似だ。原理はよく分からないけどね。」
そう言って博士が取り出したのは、監視カメラ映像の切り抜きの写真。場所や写っているものからして、あの日のエイジスだろう。
「この写真からも分かるとおり、敵はアルダ・ノーヴァとノヴァの両方を完全に消滅させている。で、この瞬間から数秒間観測された非常に強力な偏食場があってね。それが神楽君の持つコアの偏食場と酷似していたんだ。」
「……なるほどな……」
「ではあれらに用いられていたのも複合コアであると?」
「推測の域は、出ないけどね。神楽君が目を覚ましたら聞いてみようとは思うんだけど……いったいどれだけかかるか分からない今、考えていられる事柄ではないだろう。」
……よく分からねえことだらけ……だな。分からないなりに、そう感じた。
四章完結。
え?内容が重い?
…気にしないでください。
次回からは、終章、という形で進めます。まあなんだか話数が少なくなる予感しかしませんが…
いやあ…なんだかなあ…
あ、四章完結の記念に、それぞれの章にタイトルを付けます。
…相変わらず面倒なタイトルだなあ、とでも考えつつ、ご覧ください。