GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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三話目…なんか更新話数が増えている気がするけど気にしない。


最後に訪れた平穏

最後に訪れた平穏

 

「みんな聞こえた!?」

「聞こえてる!頼めるか!?」

「了解!」

 

ソーマからの言葉。それを受けて通路に走り込もうとするが……すでに遅かった。

エレベーターを大げさなほど吹き飛ばしながら入ってきたのは、スサノオを先頭とするアラガミの大群。後ろを見やるが……どうもこれらは全て一人でやるしかないらしい。

 

【イザナミ。翼の準備お願い。もしかしたら使うかも。】

 

最終手段に、と思って使わずにいたが……そうも言っていられないだろう。

 

《でもここで翼なんて使ったら……》

 

彼女の作戦ではあの翼を使う。でも、もしここで翼を使用した場合には私の体に限界……というか、付加がかからないリミットを越える可能性がある。と言っても……それを躊躇して全員倒れたりなんかしたら目も当てられないわけで。

 

【もちろん最後の手段だよ。でも、使わなきゃだめなときには使うから。】

《……OK。いつでも使えるようにしておくね。》

【ありがと。】

 

アルダ・ノーヴァとの戦闘音を背中に受けつつ、床を蹴った。

始めに狙いを定めたのはスサノオのすぐ後ろにいたグボロ・グボロ寒冷地適応型。低い姿勢を保ち、一気に接近して横薙に切り裂く。勢いそのままスサノオの左後ろ足に三分の一ほど食い込ませ、インパルスエッジを乱射する。……ここで、二体沈黙。

 

「次……っ!」

 

その死体となったグボロ・グボロの体を貫く形でレーザーが照射される。間一髪で避け、相手を確認。……アイテールが一体、ゼウスが二体。

ひとまずスサノオを壁にするようにぐるっと回って近くまで行く。……そこからはもう無茶するしかない。

 

「せーのっ!」

 

神機の刃を上に向けつつ跳び、一体目のゼウスを縦に裂く。それが落ちる前に足場にしてまた上へと跳んだ。

少し遅れてもう一体のゼウスとアイテールが同じ高度へ来ようとする。神機を逆手に持ち替え、まずはアイテールの頭へ。スカート状の部位に着地するようになりながら刃を突き立て、それを引き抜くと同時に真横に来たゼウスの胴体を切断。……この時点で五体。が、その倍異常の数のアラガミがエレベーター付近にたむろしていた。

その内の一体であるディアウス・ピターが跳び掛かりの準備を見せる。それへのガードのために身構え……同時にアリサの声を聞いた。

 

「リーダー!ガードして!」

 

急いで下を見、アルダ・ノーヴァが何かしようとしているのを確認する。……体力は少ない。どちらか一方だけでもまともにくらったら、今は生きていられる自身がない。

 

【イザナミ!】

《うー……もう!分かった!》

 

こんちくしょう、と言いたそうな声。でも背中には確かな重量が加算される。

 

「この……!」

 

両手を広げ、右をピター、左をアルダ・ノーヴァに向ける。その手のひらの少し先に青い羽根が集まり、渦を巻き始める。

 

「くっ……」

 

ほぼ同時に来た二つの衝撃。右の衝撃は、初めの一回からものの数秒で消し飛んだ。……アルダ・ノーヴァが掲げる天輪から発せられた、とてつもない大きさのレーザーに焼き払われる形で。

右からの衝撃が消えたと同時に、空いた右手を左手と合わせる。片手じゃあ耐えられそうにない。

約十秒ほどの照射が終了したときにはすでにエレベーターの前にいたアラガミの姿はなく、アルダ・ノーヴァ本体は……みんなにかかりっきりになっていた。

 

《神楽!時間的にももう行くしかないよ!》

【……うん!】

 

高高度から突進する。神機をいつでも最速で振れるように構え、女神本体へ突っ込んでいく。

それを見た男神が女神と共に下がりつつ拳を振り抜いた。

 

「っ……そんなくらいで!」

 

ぼろぼろになった服から露出した腹部をかすめる男神の腕。少し切ったようだが、考える時間すら惜しいとばかりに神機を回して腕を跳ねる。

 

《そのまま男神のコアを……!》

 

行ける、とはまだ思わせてくれないらしく……今度は女神が伸ばした腕を光弾と共に振り回す。

……近寄る隙がない。そう諦めかけたときにみんなが活路を開いてくれた。

 

「受け取ってください!」

 

アリサがアラガミバレットを受け渡してくれる。

 

「何とかしろよ!リーダーさん!」

 

リンドウさんが女神の片腕を止めてくれる。

 

「使って!」

 

サクヤさんが回復弾を撃ってくれる。

 

「シオもやるぞー!」

 

シオが動きの止まった女神を吹き飛ばしてくれる。

 

「後頼んだぜ!」

 

コウタが逃げる男神の後ろへ弾丸を撃って退路を縮めてくれる。

そして……

 

「やれ!神楽!」

 

ソーマが、男神を完全に止めてくれた。

 

「了解!」

 

あとは、私が最後の仕上げをするだけ。全員が、生きて明日を迎えるために。

……だけ、と思っていた。

 

「えっ……?」

 

翼が、消えた。

 

《神楽、ごめん!でもこれ以上は……!》

 

私が限界だ。そう言いたいんだろう。終わりを目前にして、後少しで全部元通りになって……その状況で、私が限界だって。

 

「……いやだ……」

 

すごくゆっくりと降りていく。心とは裏腹に、体は妙に素直に着陸態勢を取っていた。

 

「やだよ……何もできないなんてやだ……」

 

五年前の記憶が蘇る。無力で何もできない私から、世界は何もかも奪っていった。

腹部を貫かれ、手を伸ばす間もなく倒れた怜。何とかして私を逃がそうと、私の盾になって亡くなったお母さん。私の目の前で、最期まで私のために生きてくれたお父さん。全員の顔が、思い浮かんでは消えた。

 

〔何もできない訳ないだろ?〕

 

そんな私の頭に、唐突に響いた声。懐かしい、お父さんの声。

 

〔お前はもう、一人じゃない。俺や冬香や怜は確かにいないけどな。でも、仲間がいるんだろ?〕

《……これって……あのコアから?》

 

イザナミが呟く言葉も耳には入らなかった。

 

【でも……このままじゃみんなを助けられない!】

 

私自身の限界。そこから起こる悲しみは、水を吸って重くなった敷き布のようにのし掛かる。

 

〔じゃあ何かすればいいの。何もできななら、何もできないことをまずしちゃうのよ。〕

【……お母さん?】

 

幻聴でも聞こえているのかは知らないが、記憶にはない二人の声が頭を駆け巡る。……相変わらず、地面はなかなか近づかない。

 

〔何もできないのが過ぎれば、後に残るのは何かできる自分なんだから。〕

 

……何もできないをやる。それって、今なのかな?

 

〔大丈夫。あなたが本当に何もできなくなるなんてあるわけないわ。〕

【何でそう言いきれるの!?私にはもう何も思いつかない!このあとどうすればいいかも分からない!自分が生きる方法すら分からない!それなのにどうしてそう言いきれるの!】

 

何もできない自分がこれほど辛いことだなんて思ってもみなかった。そんな私へ、二人はただこう言ってくれた。

 

〔お前は……俺と冬香の、たった一人の最高の娘だろう?〕

 

速度が、戻った。

足が床を捉える。その確かな感触を一瞬だけ楽しんで……

 

「行ってきます!」

 

蹴った。

翼がもう一度出現。それに加えてブースターのようなものも同じ場所から発生する。

甲高い音の直後にブースターが火をはきだした。蒼い炎に押されて加速する。

避けようのない数の光弾を飛ばす男神へ、その光弾に皮膚を裂かれながらも止まらずに。まっすぐ。ただただ一直線に。

 

「負けてられるかああああ!」

 

伸ばした手が、コアに触れた。

 

   *

 

それから、ほんの五分ばかり後。

 

【……つ、疲れたああぁぁぁ……】

《当たり前でしょ!》

 

うつ伏せでぶっ倒れている私と、仰向けに寝ている支部長とが向きも何も揃わない形で介抱されていた。まあ、支部長の方は気を失っているだけだけど。

 

「ったく……あんな無茶するからだ。」

「するからだー!」

「うう……ごめん……」

 

……まだ仲直りもしていないからなのかな?こんな風に笑いながら話していても、彼は私のことをいつもみたいに撫でてくれたりということはなかった。

 

「でも、本当にお疲れさま。コーヒー飲む?」

 

それでもソーマは、自分の水筒に自分では飲まないはずのコーヒーを入れてきてくれていて……まあこの時渡された水筒が彼のものだったと教えられたのはこれより後なんだけど。しかもジープから取って来て渡してくれたのサクヤさんだし。

 

「ありがとうございます……うー……もう動きたくなーい……」

「おいおい。家に帰るまでがミッションだぞ?」

「通路の制圧も何とかなりそうだって話です。もう少ししたら行けるみたいですよ?」

 

そっかあ……なんかずごく長かったけど、ひとまずはこれで終わったのかなあ……

 

「……くっ……」

「あっ!みんな!支部長起きたぞ!」

 

コウタの言葉に全員が反応する。彼のいる方向には頭を押さえつつ起き上がる支部長がいた。

 

「……失敗……か……」

「当たり前ね。あなたがやっていたことは人類への反逆でしかないわ。」

 

厳しく告げるサクヤさん。アリサも同意の意を示す。……ソーマは……立ったまま、自分には関係ないとばかりに目を瞑っていた。

 

「反逆か……確かだな。」

 

支部長自身、ばかばかしいと自嘲するかのように言っていた。

 

「ここで私を殺しても罪には問われない。……大勢に死を強いる形を取った私だ。生きる資格など、もうないだろうさ。」

《……自分でそう言っちゃうかあ……》

【でも状況が状況だから……】

 

なんとなく、そう思ってしまうのも無理はないと思う。それが正しいとは全く考えていないけど。

それはみんな同じようだ。特にリンドウさんは。

 

「……ちょっといいか?支部長。」

「支部長、と呼ばなくてもいい。……君の功績を讃えられないのが残念だがね。」

 

相当参ってるなあ……

 

「まあその辺はどうでもいいんだけどな……エイジスにあるあんたのデスクからちょいとばかり拝借してコピーさせてもらったもんだ。」

 

そう言って投げたのは……建造計画書?

 

「……」

「ノヴァに対する偏食因子。配ったんだろ?」

「えっ?」

《偏食因子を配った?》

 

つまりどういうことなのかがよく分からないんだけど……

 

「ああ、その計画書なんだが……中身は新型のシェルターの図面なんだ。対ノヴァ偏食因子を組み込むように設計されてるから、おそらくは終末捕喰にも耐えられる。」

「……じゃあここで止めたのって……」

 

もしかして意味がないんじゃないのか?そんな風に思いそうになった頭を支部長の言葉が止めた。

 

「全世界での建造数は僅かに三つ。収容数で考えた場合、極東支部の住民を全員入れられるかどうかも怪しい。」

 

目を閉じて、呆れたように笑っている。

 

「資源を最小限にしたつもりでも、救えない人間が圧倒的に多い。たとえ建造が済んでいたとしても、人という種がそこで生きていたという証拠が全て消え失せるのでは……結局、それはただの気休めだ。」

 

そう言って計画書を指さす。

と、ソーマがその計画書を手に取った。これまで全く動かなかった彼に支部長すらも目を向ける。

 

「……どうかしたの?」

「いや……」

 

彼の言葉を待って全員が固まる中、語った。

 

「……研究者としてなら、認めてやるよ。」

 

また言葉を切って、一回だけ大きく息をついて。ソーマらしくないそんな行動の後……

 

「クソ親父。」

 

……さて。ここで泣いたのが支部長じゃなくって私だったっていうのは、アナグラのみんなには秘密にしよう。

まったく……素直じゃないんだから。




…神楽じゃないけど、つ、疲れたああ…
ほんと戦闘シーンって書くのが大変で…そのくせ書き始めると止まらないこの性分。書きながらおちた事もしばしば…いやいや黒歴史を語ってる場合じゃない。
次回、第四章ラストの回です。あとはエピローグ…



に、するとでも?

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