GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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…この回、全て戦闘となります。


神と人と

神と人と

 

戦闘開始から五分。まだまともなダメージを与えられていない。

 

「ヒバリさん!増援来られそう!?」

「無理です!例の機械が無数に設置されていて、アナグラの防衛すら厳しくって!」

 

……このままじゃ埒があかない。なんてことも言ってられないか。

ゴオン、という低く太い音と風圧を発生させながら、繰り出された男性型の右腕をソーマが止める。

 

「リンドウ!神楽!」

「おう!サクヤ!バックアップ頼む!」

「ええ!」

「わかった!」

 

サクヤさんが引きつける中仕掛ける。男性型には攻撃が通らないのは確認済み……まずは女性型に突っ込んでみるしかない。

当然、それを黙って見ているような相手ではない。男性型が女性型を守護するかのように左腕をリンドウさんへ振り抜く。

 

「させるか!」

 

その腕をコウタの弾丸が弾き飛ばす。それに怒ったのか、女性型がオラクルのフィールドを形成。ソーマが下がり、自由になった男性型がコウタへと光弾を発射する。

 

「コウタ!下がって!」

 

その光弾をアリサがガードする。……すばらしく息の合っていることだ。

攻撃の終了と同時にシオが空中から捕喰を試みる。狙いは女性型の頭の上に浮かんだ輪っかだ。

 

「イタダキマス!」

 

が、男性型に両腕で防がれる。すさまじく硬質の腕は、シオの捕喰形態でも僅かに削られる程度。だが……

 

「ソーマ!」

「ああ!」

 

リンドウさんからの号令。今、女性型はがら空きだ。

 

「うおらあ!」

「フン!」

 

左右からの同時攻撃。どちらも足と頭髪とを切り裂ける角度で振られた、最高の一撃。でも……

女性型の両腕が伸び、しなやかに振り回されて吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……!」

「なっ……」

 

二人ともざっと十メートルは飛ばされ、脇腹を押さえつつ立ち上がる。

 

「ったく……どうしろってんだ……」

 

と、ヒバリさんから通信が入った。全員へバラバラに飛ばされている光弾を避けつつそれを聞く。

 

「支部長の極秘ファイル内にそのアラガミのデータがありました!名称はアルダ・ノーヴァ。女性型を女神、男性型を男神と呼び、男神への攻撃はアルダ・ノーヴァ攻撃中にのみ有効。女神への攻撃は常にある程度の効果を持ちますが、こちらも攻撃中の方が有効です。さらに女神への攻撃は男神が防ぐようになっているため、男神を先に潰すか引き離すかしてください!」

 

潰す……なんてことしたら支部長がどうなるかわからないし……引き離すって言われても……

 

「どうやって!?」

「方法はお任せします!データには何もないんです!せめて動けないように!」

「……わかった!みんな聞いたね!」

 

全員、ほんの一瞬だけこっちを見た。大丈夫そうだ。

 

「まずは男神を止めるよ!」

 

   *

 

その頃。エイジスへの連絡通路。

 

「ブレンダン!左の頼む!」

「了解だ!」

 

天井が破られ、大量のアラガミがなだれ込んでいた。どうやらここの上に洞窟か何かがあるらしい。……破られたのが地面のある場所でよかったと言うべきなのだろう。海中から抜かれたら全員溺れちまう。

第六部隊はここへ来るまでの間に禁忌種と接触。現在はそれと戦闘中で、こっちに来られそうもない。

 

「た、タツミさん!Oアンプルありませんか!」

 

カノンが叫ぶ。すでに彼女の足下にはむすうにプラスチックの破片が散っており、手持ちを使い切ったのであろうことが窺える。一人が携行できる量では、これ以上の戦闘は不可能であることは明白だ。

ジープの中には大量にあるけどな……

 

「自分で取りに行ってくれ!それまでお前の分は俺が押さえる!」

「はい!」

 

……ボルグ・カムランにアイテールか……とんでもないことになってるよなあ。

強制解放剤を使用し、むりやりバースト状態へ。無理な移行で削られた体力を回復錠で戻しつつ攻める。

 

「おらあ!」

 

空中へ跳び上がり、アイテールを剣の腹で叩き落とす。その位置から斜めに滑空し、ボルグ・カムランを貫いてから元の位置へ。床にへたり込んでいるアイテールの頭を切り飛ばして活動を停止させる。

 

「はあっ!」

 

ブレンダンのチャージクラッシュで吹き飛ばされてくる、半分だけになったコンゴウ堕天種。一撃で潰したのだろう。……それだけの速さでやっていても、天井に開いた穴からは次々にアラガミが飛び込んできている。……休む間などない。

それでも、ここが第一部隊にとって最後の砦みたいなもんだ。言い過ぎかもしれないが実際ここが崩されたらエイジスに大量のアラガミが入ることになる。ただでさえ辛い状況にそれはどうあっても防ぐしかない。

 

「お待たせしました!」

「おう!……さて。ブレ公!まだ行けるよな?」

「お前こそ大丈夫だろうな?」

 

今日に限ってはカノンも誤射が少ない……というか、今のところ一度に入ってくるのが一人一体分のペースだから誤射の確率がそもそも少ない。いつもならそれだけで全員被弾は少なくなるはずだが、すでにぼろぼろだ。

さっさと増援が来てくれるといいんだが……そう思わないではいられないな。

 

   *

 

「くっ……うう……!」

 

横薙に振るわれた男神の右腕を鍔迫り合いになりながら止める。……というより、床に刃を突き刺して無理矢理止めたようなものだ。

横からはソーマとシオが飛び込もうとするが、光弾に阻まれている。その隙を狙ってのサクヤさんをはじめとした三人の集中砲火も女神に届く前に男神の左腕に弾かれて……あれ?リンドウさんどこ行ったんだろう?

 

「喰い千切れ!」

 

真上から聞こえた声。見上げる間もなく何かが降ってきて……男神の右腕が消える。

 

「……どっから降って来てるんですか……」

 

何かってもちろん……床まで抉るほどの捕喰を遂げたリンドウさんだ。

 

「へっ……どんだけここにいたと思ってんだよ……」

「……お疲れさまです……」

 

……涙目に近いリンドウさん。当然距離を取りながら話しているわけだけど……そういえばここに何ヶ月かいたんだっけ。上から降ってきたとしても不思議じゃない。……かもしれない。

 

「リーダー!交代お願いします!」

「わかった!リンドウさん。とにかく女神を。」

「おう。……さあて。次はどっから行くかねえ。」

「普通に行ってください!」

 

後ろ手に親指を立てながら横へ行くリンドウさん。私は私で神機を銃に切り替え……られなかった。

 

「神楽!行ったぞ!」

 

女神だけが這うように突進してきたから……っていうか、単体で動けるわけ!?

 

「ああもう!」

 

斜め上に向かって跳んで避ける。……失敗だったけど。

 

「神楽ちゃん!前!」

 

女神を見ていた私にサクヤさんが叫んだ。前を見れば、すでに目の前に男神の左腕があり……

 

「かっ……はっ……」

 

見事に腹部を直撃し、為すすべもなく吹き飛ばされてエレベーター側にある高台へ打ち付けられる。

 

「……っつう……自由度高すぎない……?」

 

回復錠を奥歯で噛み潰しつつ立ち上がるが……次の攻撃方法がぜんぜん思いつかない。スタングレネードは男神も女神も目を手で隠して防ぐし、トラップは見て回避してるし……

 

《考えてもどうしようもないでしょ?》

【うん……それもそうだね。】

 

片腕がなくなった。それだけで、ここからはずいぶんやりやすくなるはずだ。

 

《で、さあ……ちょっと提案が……》

【え?どうしたの?】

 

アルダ・ノーヴァの周囲を回りつつ銃で牽制しながら会話する。サクヤさんとコウタも同じように動きながら攻撃中だ。近接で動いている四人は残りの左腕や女神を切ろうと奮闘。

その最中にのんびり話しているのもどうかとは思うのだが、彼女の話が無意味に終わったことはない。

 

《えっと、さっき気付いたんだけど……どうもあのアルダ・ノーヴァの男神のコアが、神楽のお父さんのコアみたいなんだよ。》

 

イザナミが放った余りに衝撃的な一言。それに頭が追いつく前に、神機を持つ手に力がこもっていた。

怜のコアを使ったインドラ。お母さんのコアを使ったノヴァ。それに続いてお父さんのコアまでもがこんな事に使われているなんて……聞くのすら敬遠したいような事実だ。

 

【……どこまで私の家族を愚弄しているわけ?】

 

ふつふつとこみ上げる怒り。それを諭しつつイザナミは続ける。

 

《落ち着いて?怒るのは後でもできるから。》

【うん……それで、提案って?】

《まあ、つまるところは……支部長を引きずり出しちゃおうってことなんだけどね。結論は簡単でしょ?》

 

さらっとものすごいことを言ってのけるなあ……けど……

 

【勝算は?】

《未知数、かな。》

【……言い方変える。100%無理な確率は?】

《それは0だね。》

 

突拍子もなくて、わけ分からなくて、そもそもどういう方法ならそれができるかも不明。でも、できるかもしれないと聞いただけで決定だ。このじり貧の状態を続けるよりよっぽど有意義だろう。

 

《インドラにやったのと同じようにいけると思うんだ。偏食場は似ているわけだし、いざとなったら感応現象で取り出すことも出来ると思う。インドラの時は両方やってたけど……》

 

感応現象で、というのがちょっと面白いけど、ソーマとも起こった現象なんだ。アラガミに対してもいくらかは可能なんだろう。

 

《やる?》

【もちろん。】

 

そこからはイザナミの説明を受けつつ攻撃を繰り返す。……アイテムをここまで使ったのは久しぶりだ。

そしてその説明が終わった頃……

 

「エイジスへの最終防衛ライン、突破されました!」

 

……一番まずい状態を告げるヒバリさんからの通信が、インカムからの音を支配した。

 

   *

 

その少し前。

 

「……けっこう片付いてきたな。」

「そろそろアラガミの数も底が見えてきましたね。」

「おいおい……油断するなよ?まだどっから来るか分からないんだぞ?」

 

通路へ入ってくるアラガミの数も減り、やっと戦闘のペースが落ち着いてきたため、短い時間ではあるがこまめに休憩が取れるようになってきた。これも上で頑張っている奴らのおかげだろう。第六部隊も、もうそろそろ来られそうだと通信があった。

まあ、まだ全て倒したわけではないのだが。

 

「っとお。お出ましだな。ブレ公。種類は?」

「双眼鏡で見えるのは……大型はサリエル一体だな。小型も二、三体しかいない。」

 

本当によく頑張ってくれているものだ。後で飯でもおごるとしようか。

 

「うっし。カノンは小型を頼む。サリエルは俺が叩き落とすから、ブレンダンはそこをついてくれ。」

「はい!」

「了解。」

 

簡単に取り決め、前へ出る。そんなときに通信が入った。

 

「タツミ!後ろに大型アラガミ多数接近!」

「後ろ?つっても今ここにいるのは……」

 

振り向くのとどちらが早かっただろうか。後方20メートルほど先。……とうてい追いつけない位置の天井が落ち、禁忌種を含むアラガミの大群がなだれ込んだ。

 

「ヒバリ!第一部隊に警告!俺らは防衛線を下げる!」

「わ、わかった!」

 

……まずもって、とんでもない状態になったとしか考えられなかった。




あと一話。とりあえずアルさんとの戦闘はそこで終わりとなります。…長かったなあ…
とか言ってみたり。

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