GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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と、まあそんな感じで本日二話目です。


揺れ動く人

揺れ動く人

 

支部長がアナグラの全員をそれぞれ呼んでから五日が過ぎた。最近はアーク計画の話題ばかり……賛成派と、反対派。アナグラの中がそれで二分されてるかのような状況だ。私みたいなまだ中立の立場にいる人はどんどん少なくなっている。全員が箱舟……つまりは宇宙船に乗る権利を与えられているからこうなっているんだろう。まあ、もうある程度の賛成派はエイジスに行っているけど。

そして今は……

 

「……謝らねえと、とは思うんだがな……」

「そりゃそうだよ。なんだかんだ言って、今もちゃんと生きている家族がいるのっていいことなんだから。」

 

実際、私もちょっと羨ましいなあって思うしね。

神機のメンテナンスを頼みに来たソーマ。そのついで、と言っては何だけど、神楽とのことを聞いてみた。……私がどうこうしていいような問題ではないような気もするけど……まあ、昔から知っている仲だけに気になってしまうのだ。

 

「……どうもその辺が掴みにくくてな……お袋のことなんざ全く覚えてねえのと、物心ついた頃にはあの支部長を血縁とは思ってなかった事の二つのせいだろうが……」

「あー……なるほどねえ。」

 

今回は何か言うつもりはない。二人とも、会話はちゃんとしてるし無茶してる様子もないし、ちゃんと自分が悪いところがあったって自覚もしている。きっと時間が解決してくれるだろう。ただ……

 

「君達がギクシャクしてると、なんか調子狂うっていうか……」

 

ベタベタしてる、ということはないけど……それでもそれぞれのことを愛してるんだなあと感じられるそんな二人。今は……なんかぎこちなくってどうしても違和感がある。それによってアナグラの雰囲気が変わってしまったとすら思うほどだ。……実際変わってはいるのだが。

 

「適当にタイミング見つけて謝っておきなよ。あるいは神楽が謝ってきたら君も謝る。いい?」

「分かってるさ。悪かったな。時間使わせて。」

 

ちょっと照れたように頭を掻くソーマ。

 

「ならよし!神機の方は今日中に終わらせとくね。」

「頼む。」

 

自嘲するような笑みを浮かべつつ言って、彼は保管庫を後にした。

……その五分後。

 

「ただいまー。」

 

件の彼女が任務から帰ってきた。

 

「お帰り。……おお……また派手にやってきたね?」

 

平原での任務だったからか泥だらけだ。擦り傷や切り傷もいつもより多いように見える。神機にもちょっと無理をさせた形跡があるところを見ると、予定外のアラガミが現れたのかもしれない。

 

「あはは……ちょっと増援がいらっしゃいまして。」

「やっぱりねえ……とりあえず神機セットしちゃって。すぐメンテ始めるから。」

「あ、うん。」

 

カシャンと耳慣れた音が響く。手元のコンソールには彼女の神機の状態が表示され……あーあ……刃もライフリングもすごいねこれは。

それを確認しつつ、彼女に問いかける。

 

「それで、ソーマとはちゃんと仲直りできそう?」

「……えと……」

 

少し目線を下げる。手も少し握っている……っていうか、別に責めてるわけじゃないんだけど……

 

「別に仲が悪くなったって事じゃないんだけど……なんかギクシャクしちゃっててさ……早く謝んないととは思うんだけど……」

「タイミング逃した、って?」

「うん……」

 

そんな風に答えながら自分の神機が入ったケースに触れる。どうしたもんかなあ……って、そんな言葉が聞こえてきそうな表情だ。

 

「すぐに謝ればよかったんだけど……直後に支部長に呼ばれちゃったんだ。ソーマも私の後で呼ばれてたし。」

「アーク計画、だっけ。」

「うん。で、結局すぐには会えなくってさあ……ご飯にでも誘えれば楽なんだけど、そうできるような状況でもないしね。今のところは、タイミングを探ってる。」

 

……恋人って、こんなもんかなあって思う二人だ。ここまで同じように考えてるなんて。

 

「ソーマも同じように言ってたよ。謝らなきゃとは思ってるけど、タイミングが見つからないって。……見事に同じ事言ってるねえ。」

 

言われて顔を赤らめる神楽。あいかわらずこういう言い方に耐性無いなあ。

 

「……そ、そうなんだ……よかったあ……」

 

小声ではあったけど、ものすごい勢いで安堵した声だった。……ほんと。不器用な二人だよ。

そして……さらに会話を続けようと口を開こうとしたときだった。

 

「わっ!」

「な、何!」

 

突然の爆音と振動。下の階からだ。

 

「ちょっと見てくる!」

「分かった!」

 

私も神機をチェックしないと……

……この揺れがここからの全ての始まりだとは、この時の私には知る由もない。

 

   *

 

「そして!俺の神機が大量の弾丸を放ったのだ!どうだ!」

「すごーい!さすがお兄ちゃん!」

「それにしても、ずいぶん頑張ってるのねえ……ちゃんと寝られてる?」

「大丈夫大丈夫。無茶はしないって。」

 

家族との団欒も五日目を迎え、今は俺の任務中の出来事を……ちょっと誇張を含めて話している。

でも……

 

『じゃあ、みんな助かるの!?ノゾミのお友達も、近所の人もみんな!?』

 

頭を埋め尽くす、チケットを見せたときのノゾミの言葉。……友達どころか、ただの知り合い程度の人も助かることを望んでいた。

 

「まあ、みんなも助けてくれるから。アリサの回復弾なんかはすっげえ助かるよ。」

 

アリサ。その名前を口に出すだけで、ごめんって言っている自分がいる。

 

「へえ……アリサさんにも会ってみたいなあ……」

「あ……うん……ま、まあ、いつか連れて……」

 

言い辛いその言葉は、突然の揺れと停電に遮られた。

 

「あれ?地震かな?」

 

とくに警報も鳴っていないし……アラガミじゃないよな。

停電はすぐに収まり、付けられていたテレビが消えていた映像を再度映し出す。……それは……

 

「フェンリル極東支部中央施設がアラガミによって襲撃されたとの情報が入りました。が、現在フェンリルからの発表等は出ていません。繰り返します……」

「っ!」

 

大急ぎで部屋を出て無線を博士へ繋ぐ。

 

「コウタく……すか?……オが、浚われ……た。……みも……こっちに…………」

「博士?博士!?……くっそ……切れた……」

 

再度かけようと、今度は別の周波数に変える。……でも聞こえてきたのは博士の声ではなく……

 

「サクヤさん!まだ右に!」

「くっ!どうしていきなり!」

 

……アリサ……?

 

「E地区から入るわよ!ゲートまで踏ん張って!」

「はい!」

 

E地区って……この辺じゃん。それに気付いた途端に、どうしようと自分に問いかけ始めていた。

 

「……行ってあげなさい?」

 

後ろからかかる声。いつの間にか、母さんが出てきていた。……どこから聞いていたのかは分からないけど……

 

「でも……俺が行ったら箱舟に……」

「これ。」

 

俺の言葉を遮って母さんが取り出したのは、支部長からのチケット。鈍い銀色の光沢を持ったそれを、母さんは二枚持っていた。

 

「お前が帰ってくる前に、私達にも届いたの。……コウタの気持ちはすごくうれしい。けどね……」

 

気まずくて、俯いた。

 

「私は、コウタやノゾミと一緒にいるときが、一番幸せなのよ。」

「っ……!」

 

やば……なんか、泣きそうだ。

その泣きそうな顔を見られないように靴を履いていると、ノゾミが出てきた。いつもと同じ、いろんな事が楽しそうな笑みを浮かべながら。

 

「あれ?お兄ちゃん、出かけるの?早く帰ってきてね?」

「あ、うん。分かってるって。」

 

……まあ、帰ってくるの、早くて明日だよなあ……

 

「ノゾミね、遊んでるときとかご飯食べてるときとかより、お兄ちゃんとお母さんと一緒にいるときが一番楽しいんだ。だから……すぐ帰って来なきゃ怒るからねえ?」

 

ずいっと体を乗り出して。にやにやとちょっと笑ってしまうような表情で言っていた。

 

「……ったくさあ……親子で同じ事言うなよな……」

 

……この二人のためにも、俺はアーク計画を止めてやる。

さあ、涙を拭え藤木コウタ15歳。

 

「うん……行ってくる!」

 

   *

 

アーク計画が箱舟への搭乗者に開示され、その大半がエイジスへ行った。それを知った私達はアナグラに帰っているのだが……そのゲートを目前にして、廃墟となった旧外部居住区跡で多数のアラガミに襲われていた。

禁忌種も多数含むその群に奇襲され、明らかな劣勢。そんな中私は……

 

「アリサ!後ろ!」

 

ごめんなさいコウタ。もう……アラガミに、喰われそうです。

 

「……まだ、いろいろ話したかったなあ……」

 

びっくりするほど、静かな気持ちで呟いた。

避ける隙間も、その体力も残っていない。神機もぼろぼろ……刀身なんて折れていないのが不思議なくらいだ。

前にいるポセイドンを見ながら、後ろから来るスサノオの喚起の叫びを聞いていた。

ああ……本当に……まだいっぱい、おしゃべりしたかったなあ……

 

「アリサ!今すぐ伏せろ!」

 

幻聴みたいですね……最期にあなたの声が聞けるなんて、私ってすごく幸せなのかな……

……って、伏せろ?

 

「……えっ……?」

 

背に受けた爆発音と強い風圧。振り向くとそこにアラガミの姿はなく、右の方へ吹き飛んだスサノオの死体があるのみ。直後にポセイドンも同様となる。

 

「最期とか!……ごめんとか!」

 

そして……へたっ、と座り込んだままの私に叫ぶコウタが、屋根の上にいた。

 

「一人で……勝手に言っといて!……そんなんで済むと思うなよ!」

「で、でも……」

 

近寄ってきたアラガミを撃ち飛ばしながらコウタは叫ぶ。

 

「好きなやつに!……死んでいいなんて!……考えるわけねえだろ!……いい加減!目覚ませよ!このバカアリサ!」

 

……なっ!?

 

「バカとはなんですか!あなたの方がよっぽどバカです!このオタクコウタ!」

「ぬぐ!な、何がオタクだ!関係ないじゃんか!」

「大ありです!大ありでいいんです!」

 

かっこいいって思ったけど……前言、いや、全言撤回!やっぱり最悪!

 

「二人とも何してるの!走るわよ!」

 

……でも、その最悪な人のおかげで道は開けていた。……もう……

 

「おっしゃ!……アリサ、行くぞ。」

「……はい!」

 

全くもって面倒なことに……最悪のくせに、最高なんだよなあ。

 

   *

 

榊博士の研究室。一番始めに確認に来たその部屋の前にはすでにソーマがいた。

 

「くそ……シオどころか榊の野郎までいねえ……」

「まさか博士まで浚われたなんて事……ないよね?」

「わからねえ……」

 

はっきり言って、八方塞がりだ。……無意識に彼の腕に触れて……その手がぴくりと動いた瞬間、私は離してしまった。

 

「あ……ご、ごめん……」

「いや……別に……」

 

……うーん……どうすれば謝れるか……って、そんなこと考えてる場合じゃないんだけど。

 

「シオが浚われたのね?」

 

そんな私たちの背にかかる、ちょっとだけ懐かしい声。

 

「サクヤさん!」

「……ったく……勝手に縁を切ったんじゃなかったのかよ?」

 

厳しいことを言いつつもソーマは笑っている。

 

「二人で悲鳴上げてるんじゃないかって思って、戻ってきたんですよ。感謝してください。」

「……なんか違わない?」

 

くすくす笑ってしまう。アリサもサクヤさんも元気そうで良かった。

 

「アリサ!エイジスになら行けそうだ!」

 

そのアリサとサクヤさんの後ろからツバキさんと共に現れたのはコウタ。……なんで合流してるんだか。

 

「みんな……お帰り。」

「それは全部終わってからね。今はまだ、安心なんてできないわよ?」

「あ、そうですね。すみません。」

 

苦笑してしまうほどいつものみんなだ。それに安堵する。

そしてまたエレベーターが開いた。……出てきたのはツバキさん。

 

「……よくもまあぬけぬけと帰ってきたな……」

 

その顔を怒りに染めながら、だ。

 

「あ……お、おひさしぶりでしゅねきょうきゃん!」

「え、ええ!ほんとうひ!」

「おいおいおまへら!ろえつまわってねえおろえつ!」

 

……何も言わなくていいと思うんだ。ここで何か突っ込みを入れたら、絶対負けだから。

 

「……ふっ……まだ、いいさ。」

 

ツバキさんが言ったこの言葉は三人を震え上がらせるに十分な破壊力を持っていた、というのは言うまでもないだろう。ついでに私とソーマに忍び笑いをもたらすのにもやはり十分だった。

 

「エイジスに行くのか?」

「あ、まだ輸送路が残ってたんで。」

 

答えたのはコウタ。……輸送路?

 

「榊博士が言ってたんだ。エイジス建設の初期段階ではアナグラから資材を運ぶことが多かったって。それが残ってないかなって……まだちゃんとあったから良かったよ。」

 

……意外と講義聞いてたんだ。

 

「……あそこの鍵なら私が持っている。準備くらいはしてから向かえ。」

 

ツバキさんからの言葉を全員が噛み締め、一人ずつエレベーターに乗り込んでいった。

その扉が閉まる直前、私達へたった一つだけ命令が下された。

 

「死ぬな!必ず、生きて帰れ!」




…あれ?ツバキさんとコウタがなんか妙にかっこよくなってるような…
まあいっか!
えっと、今日の投稿はこれで最後です。前回の後書きでも言った通り、この投稿頻度はあまり持たないことが予想されていまして。
ええ。次話がいつまで、とかも分かりません。
最低でも一月以内には出せるようがんばります。
…とか言って、またすぐ出しちゃうような気もしますけどねえ…(大きなフラグ)

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