GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
…いやあ…月日が経つのは遅いものですね。これで春になった頃には月日が経つのは早いものですね、とか言ってそうですが。
まあ今回も一話投稿ですのでどうぞごゆっくりお楽しみください。
物語に追いつけぬ者達
翌日の朝である。
「……」
《……え、えっとお……》
いつも通りに。でも、昨日のイザナミの話によって何となく沈んだ気持ちで起きた私を待っていたのは二通のメール。
サクヤさんとアリサから届いたそれぞれのメールを前に、私はターミナルの前で仁王立ちする以外なかった。……まあ呆気に取られたって言うか呆れてものも言えないっていうか……
「……あの二人は……(怒)」
《ま、まあまあ。まずは落ち着いて……》
【落ち着けるかあ!】
《……ですよね。》
そんな漫才じみたことをしつつ、自室のドアが開く時間すらもどかしくなりながらツバキさんの部屋へ行く私であった。
*
「……さすがに警備が厳重ね……」
ここまでの通路ですら数え切れないほどの警備システムが配置され、それに発見されたのも一度や二度ではない。その度に警備員を気絶させたり果てはシステム自体を破壊したり……懲罰房行きは確実だと自分でも思う。
「そろそろ中心地のはず……?」
今いるのはかなり大きな空間の真ん中あたり。その真上に、半球体の何かがあった。
「これは……」
「侵入者……まさかとは、思っていたのだがね。やはり君か。」
それの正体を確かめる暇もなく、聞き覚えのある声とレーザーが飛んでくる。
「くっ!」
一発目を何とか避け、声の主を確かめようとするが……
「っ!」
さらにレーザーが向かってくる。
当たる。そう思って身構えたときだった。
「伏せてください!」
後ろから声が聞こえたと思ったら、真っ赤な神機を持って飛び込んでくるアリサが目の前に立っていた。装甲を展開し、レーザーを防いでからその出所へと弾丸を放つ。遅れて爆発音が鳴り響いた。
「ふう……危なかったですね。」
息を切らしながらも落ち着いた様子で言う彼女。が、私の方はそう落ち着いてなどいられない。
アリサちゃんと神楽ちゃんにプロジェクトファイルについては何も伝えず、二人に被害の無いように一人でここへ来たのだ。……だというのに……
「アリサちゃん!?どうしてここに……」
「話は後ですよ。今は……」
そう言って前を向く。遅れて聞こえてくる、先ほどの声。今度はリフトに乗った本人も出てくる。
「エイジス島……思っていた場所と違って落胆したかね?」
「支部長……」
乗っていたのは支部長一人。あざ笑うかのような表情で私達を見下ろしていた。
「人類最後の希望?終末捕喰にも耐えうる最後の砦?ばかばかしい……こんな島は私の計画の隠れ蓑でしかない。」
「このっ……!」
神機を構え駆け出すアリサ。
「待ってアリサ!」
「でも!」
「ここで怒ってもどうにもならないわ!」
「っ……はい……」
暗い表情でさっきいた場所より少し前まで下がる。支部長の方は、それに目を向けることもなかった。
「ノヴァを人工的に作り出し、優れた人間たちを大気圏外まで逃がしておくことでこの地球を、アラガミのいない世界に戻す。……宇宙船を手に入れるために、かなりの数の金の亡者を乗せる話にしていたが……まあ、勝手に喜んでいればいい。」
「……彼が手に入れていたリストは嘘の物だってわけね……」
呟くように言った私の言葉には気付かずに支部長は話し続ける。
「さて……非常に残念なことだが、君達はこれでそのリストから外れてしまった……」
「こっちから願い下げよ!」
「当たり前です!そんな計画、認めません!」
二人同時に否定の意を示す。……それに対し……
「安心したまえ。君達をアナグラに戻すわけにはいかないのだからね。大車!」
「?」
「え……?」
聞き覚えのない名前に困惑する私と、どうやら私とは別の理由から戸惑っている様子のアリサ。どちらの目線もリフトの横の台の上へ向けられた。
「やあ、アリサ。久しぶりだね。」
「大車……先生?」
「知ってるの?」
「私の主治医です。……最近は見かけなかったんですけど……」
なるほど。だからさっき……
「そんなに殺し足りないなら、また手伝ってあげようねえ。」
「……は?」
何を言っているんだろう。ただそれだけの考えしか浮かばない言葉だった。
……そして……
「アージン!」
「!」
アリサが身を強ばらせる。
「ドゥヴァ!」
「……アリサ?」
その体から一瞬力が抜け……
「トゥリー!」
私に、銃口を向けた。ぱっと見ではその目からは精気が感じられず、リンドウが閉じこめられたときと同じような様子だった。
「さあ撃て!アリサ!私の最高傑作!」
叫ぶ大車。再度びくりと身を震わせるアリサ。が、彼に操られているとは思えない彼女の動き。
「……アリサ……」
一瞬だけ口元をほころばせ、口を微妙に開けたり閉じたりしていた。間違いなく自分の意志で、だ。
大車や支部長からは彼女の背中しか見えないだろう。……あと少しで邪魔者を片付けられると思っているに違いない。
その二人が見ている彼女は私に向かって……しんじてください……一文字ずつそう言っていた。
小さく頷いてから彼女へ向かって駆け出す。少しだけ顔を綻ばせるアリサ。
「アリサー!」
その私の動きに続いて響く、げひた笑い。
「ははは!血迷ったかサクヤ!」
瞬間、彼女は撃った。
攻撃用ではない。ただ一発の回復弾を。
すれ違いざま聞いた彼女の言葉。
「後で、怒りますよ?」
……床へグレネードを投げながら思った。怒り始めたら長いだろうなあ。下手に隠さないでおけばよかったわ、と。
*
「っ!」
突然の閃光で目が眩む。真上で俺が見てるって事も予想……するわけねえか。
グレネードの効果が切れた頃にはすでに二人の姿はなく、俺より少し遅れて目が慣れてきた様子の二人が騒ぎ出した。
「くそっ……回復弾か!」
「……面倒を増やしてくれる……大車!アーサソールに追わせろ!」
「はっ!」
アーサソール?例の……本部で研究が続いている新型神機使い部隊だよな……新型神機の開発時にテストパイロットとして薬物や遺伝子操作で産み出したフェンリルの汚点の象徴だったはずだが……
……何かあるな。あの部隊に変な噂はつきもんだし。無感情で無機質で人間性がないだの……普通の新型と感応現象を起こしたときにその新型が発狂しただの……最初に作られた奴がすでにアラガミとの何らかの交信をやっていただの……つーか新型神機が出来る前からやばい奴だった。そんくらいは本部長に聞いたことがあるがねえ……そういや極東でも実験中の事故があったとか何とか……
そうこう考えを巡らせている内に、下ではもろもろの作業が済まされていた。大車はどこかへ連絡……おそらくはアーサソールに対してだろう。でもって支部長は島内の異常の確認か。端末片手に無線で話しまくってやがる。相変わらず手際のいいことで。
「……俺も、そろそろ動くか。」
昨日、大きく動いたノヴァ。外壁の一部を破壊し、一時大騒ぎを起こした。この間から餌やってる様子もねえし……
今の内に、どっか切っとくかねえ。
*
「ツバキさん!」
ちょうど飲み物を買っていたツバキさんを呼ぶ。いきなり呼ばれたからか、少しだけ慌てるようにこちらを振り向いた。
「……もう少し静かにしておけ。まだ五時だ。」
「あ、すみません……」
そういえば起きてすぐに来たんだっけ……たしかに大声を出していい時間ではない。
「よし。で、何があった?そこまで慌てて……まあお前に限っては珍しい話ではないが……」
「慌てなきゃいけないことが多いんです。」
「……ああ。」
がっくりと肩を落とす。ツバキさんも頭を抱えている辺り……
「あの愚弟に始まり……今はどうもサクヤたちが独断先行しているようだな。私の方にはメールが来ていたが、そのことか?」
「はい。サクヤさんは迷惑をかけたくないとか。アリサも私が何とかしますって……そういう問題じゃないのに……」
届いていたのは、サクヤさんからのビデオと文書ファイルが添付されたメールと、アリサからのサクヤさんを追うといった趣旨のメールの二つ。たぶんあの二人は、この問題がどこまでデリケートな問題なのか自覚していないのだろう。サクヤさんはリンドウさんからのメッセージで動いているんだろうし、アリサもサクヤさんが動いちゃったから、とかそのくらいな気がする。
と……
「あ!神楽!ツバキさんも!」
……なんということでしょう。この時間にコウタが動いているなんて。
「……今日は何が降るだろうな?」
「……月が降るかもしれませんね。」
まあ、そんな馬鹿話はおいておくとして……
「何がどうしたの?この時間に起きてるなんて……」
「いや……アリサが……」
彼の話は、昨日の夜に移る。
*
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バガラリーも見たし、そろそろ寝ようかと思った頃。
「あの……コウタ?起きてますか?」
珍しい……というより初めて、アリサが俺の部屋に訪れた。
「え?アリサ?」
鍵を開け、彼女を中に招き入れる。これから任務なのだろうか?荷物などもしっかりと準備していた。
「すみません。ちょっと、いいですか?」
「あ、うん。……なんもないけど。」
あるものといったらコーラくらいだ。アリサがいつも飲んでいるような紅茶なんてものはない。
アリサにはソファーに座ってもらったのだが……それにしても、自分の部屋に同い年の女の子がいるのがこれほど気恥ずかしいことだとは思わなかった。神楽が来たときは何とも思わなかったのに、今はなぜか心臓が破裂しそうなほど速く打っている。
ひとまずそれを悟られないようにコーラをコップに注いで持ってきたけど……落ち着かないのが自分でも笑えてしまうほどだ。
「これから任務?」
それを渡しつつ聞くと、彼女は少し俯きながら答えた。
「ええ。……そんな感じです。」
いつもはっきりと答えるからか若干の違和感を感じる。どうかしたのかと聞く前に、アリサが口を開いた。
「……これからエイジスに行くんです。」
「偵察任務か。あそこって夜はアラガミ見えにくいから……」
「いえ。任務じゃないんです。」
「……え?」
申し訳なさそうな顔でこちらを見る。
「信じられないかもしれないんですけど……エイジス島の中でエイジス計画じゃない計画が進んでて、それを止めに行くんです。」
あまりに突飛な話に頭がショートする。……つまり……どういうことなんだ?
「……最期かも、しれないから。」
「え?お、おい、アリサ?」
物騒なことを言って、彼女は立ち上がった。まだ座ってもいなかった俺を少しだけ上目遣いに見るような格好で。
その腕が、首に回されてきた。微かに甘い香りが漂う。
「……え……っと……」
その格好のままほんの数秒。すごく長く思えたその時間が過ぎたとき、彼女は不意に動いた。遅れて気付く、重なった唇の感触。それから……首に針が刺さったかのような、微弱な痛み。
「……ごめんなさい……大好きです……」
「アリ……サ……何を……」
薄れていく意識の中最後に感じていたのは、自分の体を支える腕の感触と、彼女から香るシャンプーの香りと……
目に映る、涙に塗れたアリサの顔だった。
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「……いい夢、見れてよかったね。」
「夢じゃないって!」
ぬう……アリサがコウタのことを気にしているのは知ってたけど……ずいぶんすごいなあ……
「……すでに向こうでは何か起こっている頃だろうな。……二人だけで行くには、相手が悪すぎる。」
「最悪の場合、も考えないといけないって事……」
「やめろ!」
壁を叩く音と共にコウタが叫ぶ。……何も、言えなかった。
「落ち着け。まだそうなったと決まったわけではない。神楽、ひとまずソーマを連れてこい。サクヤからの情報を全員で共有する。」
「はい。」
……どうか、無事でいて。
…書いてるこっちが気恥ずかしくなる!
はあ…とうとう第一部隊を全員くっつけちゃいました。しかも部隊内で。
さて皆様、
God eater 「past you and Now I」
という小説をご存知でしょうか?
突然何を。と思っているかもしれませんが、実はこの小説、私の知り合いが書き始めたものなんです。
私の小説とは違い、おそらくコメディより戦闘シーンが多くなるんじゃないかと。けっこう荒々しい性格なので…
今日初投稿を迎えたのですが、何分全てが手探りでの投稿となっているようでして…
やれR-18設定入れちゃったりだのやれジャンルを新しく作っちゃったりだの…
いやいやそんなこと言ってる場合じゃない。
まあ…ぜひそちらのほうも読んで頂けたら、と思います。
えっと、次回投稿もそう遠くないと思います。一話ずつですしね。
それでは、また次回お会いしましょう。