GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
あの大型投稿から早一ヶ月。電車の中とか寝る間を削った空き時間とか…
そんなこんなでやっと次話投稿です。
…一話だけですが。
特異点の発動
サクヤさんにディスクの中身について説明してもらってから数日。特に変わったこともないままに今日に至る。
そして今日は久しぶりにシオのご飯調達。というかお目付け役だ。メンバーは私以下第一部隊女性陣。ダイニングは空母跡。
「いたわ。クアトリガだけみたいね。」
大型の数も少し増え始め、アナグラを相当数の神機使いが出払うこともあるようになってきている。今日もシユウ堕天種とクアトリガを同時に討伐しなければならないほどだ。
そのクアトリガをたった今見つけたわけで。
「ごは……」
「まだですよ。シオちゃんはもうちょっと落ち着いてください……」
呆れ気味のアリサに抑えられるシオ。その様子を眺めつつ私とサクヤさんは忍び笑いを漏らす。
「よっし。行くよ!」
*
「メンテ終わった?」
「バッチリだと思うよ?要望のあった重心位置も変えてみたし。また何かあったら言ってよ。」
神楽達が出撃してから二時間弱。もうそろそろ終わる頃だろう。
「けっこう大幅に動かしたから今日はテストくらいにした方がいいかも。」
コウタの神機を見つつ語るリッカ。その横には俺の神機も並んでいる。
「で、ソーマのなんだけど……こっちも要望通り、重心を前にずらしておいたよ。その分刀身を伸ばしたから、リーチに気を付けてね。」
「ああ。素材はどうする?」
「もうリストは送ったから暇なときに持ってきて。あ、コウタもね。」
「……あんま残ってないんだよな……」
相変わらず仕事が速い……そう感心したのとほぼ同時に、開いていたゲートからヒバリの声が入ってくる。
「エイジス内部にアラガミが侵入しました!ソーマさん、コウタさん、出撃を!」
「エイジス!?」
「リッカ!」
ロックを解除しろ。その言葉は神機のロックが解かれる音にかき消される。
「無理はしないでよ!」
彼女の言葉を背中に受けつつ、神機を掴んで輸送ヘリへ向かおうと格納庫奥のゲートへ走り出す。
「ヒバリさん!種別は?」
後ろを走るコウタが携帯端末で連絡を取る。
その直後。
「ソーマ!待った!」
「何だ!」
突然制止したコウタに罵声を浴びせつつ止まり……
「……探知機の誤作動っぽいって……」
肩を落とした。
*
出撃から二時間経ったくらいだろうか。討伐もシオのご飯も完了し、少しみんなで話していた。見ているのは、エイジス島。
「大きいよね。」
感嘆とも皮肉とも取れる声で呟くサクヤさん。
「エイジス島……ですか?」
「ええ。」
もとは希望だと信じていた。あれの建造が完了すれば、私の家族みたいにアラガミに殺されてしまう人も、それによって悲しむ人もきっといなくなる。そう信じていた。
信じて……いたのに……
「……そろそろ帰ろっか。」
なんだかいたたまれなくなってみんなに声をかける。シオをあまり長く外に出しておくわけにもいかないだろうし……
《大丈夫?》
イザナミから心配そうな声で聞かれる。
【……正直、ちょっと辛いよ。】
《……そっか……》
私と同じような思いがあるのだろうか?彼女の声も沈んでいる。
そして、私がイザナミと話を終えたのとほぼ同時にそれらは起こった。
まず爆発音。音はエイジス島から響いてきた。そちらを確認すれば、黒煙の立ち上るこちら側の外壁が目に入る。それを詳しく見ようと双眼鏡をのぞき込む私へサクヤさんが叫ぶ。
「アラガミなの!?」
が、そこにアラガミは見えず、その黒煙が立ち上る外壁部分のすぐ横にある足場から駆け下りる作業員がいるのみ。工事中の事故なのだろうか?
「アラガミはいないみたいですけど……アリサ、ヒバリさんに繋いで。サクヤさんはシオを連れて来てください。残った小型を食べに行ったみたいなので。」
「はい。」
「分かったわ。」
桟橋へ走っていくサクヤさんと急いでアナグラへ通信を繋ぐアリサ。その間私はエイジスの確認を続ける。
「……特にアラガミが来たというわけではないそうです。一瞬装置が誤作動を起こしたりはあったそうですけど。」
「誤作動?」
「いきなりエイジスの内部からアラガミの反応が出たらしいです。コウタ達が出撃しようとした直後に消えたって……単純な誤作動らしいですよ?」
エイジス島に設置しておくセンサーてこの間置き換えなかったっけ……そんな疑問はサクヤさんの声でかき消される。
「シオがいないわ!」
「えっ?でもさっき桟橋に残りを食べに……」
ひょこひょこと嬉しそうに歩いていったはずだ。いつもならそこで待っているか戻ってくるかなんだけど……
「あ、シオちゃんいましたよ!」
と、アリサが声を上げる。同時に指さす先には空母の海側の端に向かって歩くシオ。桟橋とは逆の方向だ。
「シオー!戻っておいでー!」
サクヤさんがまず呼びかけた。……が、全く気が付く気配がない。それどころか、エイジスを見つめたまま歩き続けている。
その口から漏れる言葉。
「……ヨンデル……」
《神楽!まずい!絶対に止めるよ!》
焦った口調で突然叫ぶイザナミ。その言葉と同時に私の足は地を蹴った。
【え?え、え、え?】
《あの子を抱き止めて!》
ふわっと体が浮き上がる。その刹那速度が飛躍的にあがり、地面すれすれを飛ぶようにシオの元へ向かっていく。イザナミが翼を生やしたようだ。
【……なんか分かんないけど、了解!】
シオを抱き止め、その直後にイザナミが急制動をかけた。
「神楽ちゃん!大丈夫!?」
「リーダー!シオちゃん!」
後ろから聞こえる二人の声に一旦振り返る。
「大丈夫!ちょっと待ってて!」
答えた後、抱き止めたときに気を失ったシオを見つつイザナミに言う。
【……後で説明してよ?】
《分かってる。》
見えはしないが、真剣な面もちをしているであろう彼女を感じ取れた。
*
その三十分後。博士の研究室へシオを運んだ私は自室のソファーに横になって目を閉じていた。イザナミと面と向かって話すためだ。
「……で、どういうことなの?いきなり体動かすわいきなり飛ばすわ……」
《ごめん……》
「いや怒ってるとかじゃないけど……」
あの時シオに何かが起こっていた。そしてそれがまずい方向のものであることは容易に想像できる。でなければイザナミがあんな風に動くはずはないだろう。
《サクヤさん達も驚かせちゃったよね……》
「そりゃそうでしょ。あれじゃあ私が自由にやってるみたいだもん。」
実際のところ疲労とかはイザナミが受けてくれているし、私自身についてはほぼノーリスクだ。別に侵食が進むこともなく(というよりすでに100パーセント侵食されているし)、そもそも一人で出たときはイザナミに言って生やしてもらったこともある。……ウロヴォロス種の団体様御一行と戦うためだった。
と言っても長く続くようなものではなく、彼女が私の体を完全に動かしているのでなければせいぜい十秒……長くもって三十秒が限界だ。
「その辺は後できっちり説明するとして……私が聞きたいのはなんであんなに慌てて止めたのかだよ。」
少しだけ黙ってからイザナミは言葉を紡いでいった。
《シオが……終末捕喰の発生原因の一つになる、って、そう言ったら信じてくれる?》
「……?」
信じられる云々の前にその言い方がよく分からなかった。終末捕喰って、ノヴァって言うアラガミが起こすんじゃなかったっけ?
《終末捕喰がノヴァによって引き起こされる。これは誰でも知っていることだけど、そのコアについてはほとんど知られていない。それは、ノヴァとは別の所を発生点としたものであって、ノヴァとは元々別のものなの。》
「え、えと……うん。」
《そのコアは俗に特異点って呼ばれてる。支部長が探しているのはそれね。》
「……うん……」
《ノヴァが終末捕喰を起こすにはノヴァ本体に元々あったコアに特異点が吸収される必要がある。だから、ノヴァはある時期になると特異点を呼び寄せ始める。その一発目が、さっき。》
「……」
《……分かる?》
「半分くらい。」
苦笑いを浮かべるイザナミ。そんな表情をされても、分からないものは分からないわけで……
《うーんと、簡単に言えば終末捕喰にはシオが必要なの。シオのコアがないとノヴァが動かない。っていうか、終末捕喰を起こせない状態のままになるって言った方が正しいかな。》
「ふーん……なんか面倒なアラガミだね。」
《まあ、世界最大のアラガミだし。》
腕を頭の後ろで組んで足をぶらぶらさせながら浮いている。ほんと面倒な奴だなあ、とでも言いたさそうな顔で。
そして私には一つの疑問が浮かぶ。
「あれ?でも何でそんなに詳しいの?いくら同じアラガミだからって異様に詳しくない?」
その言葉に、彼女は一瞬身を強ばらせた。
《……じゃあ、もう一つ信じてほしい。》
「え?うん……」
特に否定する理由もない。そのまま続きを促した。
……その、続きを聞いたことを、私はしばらく後悔することになる。
《ノヴァは……特異点を吸収するまでは普通のアラガミと変わらない、コアを持った一体のアラガミで……そのノヴァの今のコアは……》
また何秒か口を閉ざし、意を決したかのようにおもむろに最後の言葉を口に出した。
《S-HK0707……神楽の、お母さんのコア……》
……いったいどれほどの時間がその後の沈黙に費やされたか。私には知る術もなかった。
*
「それで、海に……と言うよりエイジスに向かおうとしたシオを、神楽君が止めたんだね?」
「はい。リーダーがあの時みたいに飛んで……シオちゃん、どうしちゃったんでしょうか……」
リーダーは自室。サクヤさんはシオの食料を追加で取りに行き、私はひとまず今日のことを報告するために博士の部屋に来た。事の次第を説明していくのと呼応するかのように博士の表情も難しいものへと変わっていく。
「今の時点では何とも言えないね。まあ何にしても、君達が無事で何よりだよ。下手をすれば四人揃ってどこかへ、なんて事にもなりかねなかったわけだからね。」
「はい……」
そこまで聞くと、博士は端末を操作して一つのデータを開いた。見る限りでは探査装置のログのようだ。
「シオに異変が起こる直前にエイジスで爆発らしきものが起こったって言ってたね?」
「あ、私達が見たのは煙が上っていたところだったので本当に爆発があったかは……でも爆発音がしたのは確かです。」
「うん。で、時間的にはちょうどその頃だと思うんだけど……ああ、これだ。」
そんな風に言いながらある時間のログを拡大する。
「エイジスでのアラガミ反応。これ自体はすぐに消えていて、普通に考えたら誤作動としか思えない。ただ、ね……」
「何かあるんですか?」
またその中からごく短い時間を選んで拡大。そこからは、それまでは全て0より上に出ていたログの波形がほんの一瞬だけ負の方向へ飛び出ているのが確認できた。
「……これはリンドウ君の腕輪信号を隠すのに使用されているECM(妨害電波)とかなり似た波形なんだ。が、当然彼の腕輪の発信器の内蔵電源はとっくに切れているだろうし、例え彼が充電していたとしてもそれは例の機械の上から可能なように作られている。この電波は使用開始の瞬間にしか計測できないようにされているから、この波形の発生源が彼であるとは到底思えないんだ。」
長く、かつややこしい話に若干オーバーヒート気味の頭で必死に追いついている私を構うことなく博士は話し続ける。
「で、腕輪信号は元はと言えば偏食因子からの偏食場を増幅したものを指している言葉なのは知っているだろう?それの固有波形で人物を特定するわけだけど……つまり、この波形はアラガミの反応を隠すために用いられるものと考えても差し支えはなくて、って……大丈夫かい?」
「……もう分からないです……」
ギブアップだ。
「……まあ簡単に言うと、ヨハンがエイジスの中で何してるか分かったものじゃない、ってことさ。こういうものが出てきた以上、あの中で終末捕喰の準備が進められていたとしてもおかしい話じゃないね。」
……あれ?何で博士が……
「ああ、僕は彼自身からアーク計画への協力を何度も……というか今も持ちかけられていてね。それを君達三人が探っていることも知っているし、そもそも雨宮姉弟が調べていることも知っているよ。彼らについては僕も共犯さ。」
「あ、だから腕輪の……」
「うん。あれは僕が改造したものさ。だからこの波形にも気が付けたんだけど……」
言葉を切り、いつもとは打って変わって真剣な表情をする博士。
「そろそろ気を付ける方がいいよ。ヨハンが動こうとしている。特異点であるシオに異変があったのもそれと関連しているはずだ。」
……この後、シオが特異点という言葉に驚いた私が博士を質問責めにしたり私の頭がパンクしたりしたのは言うまでもない。相変わらず話し始めると止まらない人だ……
その博士が、最後にこう言った。
「ああそれから……サクヤ君の動きにも気を付けた方がいい。こちらに害は……さほど、ないだろうけどね。」
*
「……リンドウ……」
神楽ちゃんとアリサちゃんには、なんだかとても悪いことをしているような気がするけど……
「あなたの、頼みみたいなものよね。」
これは、彼の恋人として、私がやらないといけないことだ。低い唸りをあげるターミナルの、彼が残したプロジェクトファイルの画面を見ながら決意した。
…マッドサイエンティストをとうとうこのポジションにしてしまった…
どうも公式小説でのある行動が頭を駆け巡り…あれ?もしかして博士も調査に加わってるとかにしたら楽しいことに以下略。
えっと、ひとまず次の投稿は半月以内に行います。やっぱり編集を一つずつ集中的に出来るのはいいですね。
それでは、また次の回でお会いしましょう。