GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
…っていうのはおいておいて…
大型投稿三日目三つ目。ラスト行きます!
交錯
リッカさんにオーブンを直してもらい、素材を渡して早二十分。すでに時刻は午後三時。
《わー……すっからかん。327fcって……どうやったらこうなるの?》
【う……】
神機の装甲の強化。リッカさんによる好意……なんだとは思うんだけど、せめてこっちが準備するまで待ってほしかったと思うお財布事情である。
まあいろいろと素材はあるからそれを売ればいい。だからこうしてターミナルをいじっているんだけど……
《いざという時に限って何だかどれもいつか必要になる気がして捨てられない神楽ちゃんであった。》
【うう……】
一応普段から倉庫の中は整理している方なのだ。いらない素材があってもどうしようもないから、なんて思いつつ売り払い、そのお金をいつもの食費に回して少し贅沢をする。そんな感じなんだけど……
《でもって昨日本当にいらない素材は売っちゃってた神楽ちゃんであった。》
【うぐ……】
……と、いうわけで……
【……諦めよう。そしてサクヤさんのところへ行こう。】
ここで失礼なことを言うイザナミがいるのはいつものことである。
《え?まさか先輩にたかる気じゃ……》
【するか!】
……まあ、晩御飯くらいは一緒に食べようかな。なんて思ったりはしているのだけど。とりあえず一緒に作って食べると……あ。
「そういえばアリサ……教えてほしいって言ってたっけ。」
結構経ってるけど、ちょうどいい。三人でわいわい作るとしよう。
*
サクヤさんの部屋に着いたときには、すでに二人は紅茶を飲みながら談笑していた。
「あ、リーダー。待ってましたよ?」
「ごめんごめん。」
「紅茶淹れるわね。」
「あ、ありがとうございます。」
そんな会話を交わしつつソファーに腰掛ける。席は壁側のアリサの隣だ。
「はい。神楽ちゃんの。」
「ありがとうございます。……あ、おいしい。」
サクヤさんは紅茶にはこだわりがあるのだとか。茶葉をいろいろ買ってきているのを見たことがある、とヒバリさんが言っていた。……でもコーヒーもこだわっていたような……もしかして飲み物全般?
「そういえば今日はソーマもコウタも帰ってこないのよね。……ありがたいことに。」
蔭をおびたサクヤさんの言葉。その手には一枚のディスク。
「あのディスクですか。」
「ええ。中身もなかなかすごかったわ。ツバキさんに手伝ってもらって、やっと意味を理解するくらいにね。」
……朝届いていたメールの受信時間の謎がここで解けた。よく見ると、サクヤさんの顔にうっすらと隈ができている。
「まったくもって面倒な事してくれたものね。帰ったら文句言ってやらないと。」
「あはは。……なんかすごそうな気がするのって気のせいですか?」
「大丈夫よ。半日言い続けるだけだから。」
えっと……
「そ、それはそうと。それの中ってどんな事が書いてあったんですか?」
アリサが話を元に戻す。なんともすばらしいタイミングであると言わざるを得ない。
「そうね。そろそろ見せましょうか。」
そう言って立ち上がるサクヤさん。私とアリサもそれに続き、ターミナルの前まで来る。
無言でディスクをセットし、パスワードを入力していく。
「パスワード……かかってたんですか?」
「あ、ううん。これは私がかけたの。こんな重要な物にパスもかけないなんて……リンドウも用心深いのか何も考えてないのかわからないわね。」
……サクヤさんが文句ばっかりになるのも分かるなあ。
そうこうしている内にファイルが開かれた。……アーク計画の見出し。全容、詳細等があるその中に……搭乗者名簿?それにプロジェクトファイル?
「とりあえず全容からね。」
「あ、はい。」
ちょっと気になる見出しだったけど、まずは全体を把握しないとわからなさそうだし……
画面いっぱいに表示された文書を読み進めていく。……内容は突飛なことばかり。
人工的に作り出した、終末捕食の現況たるアラガミであるノヴァ……世界を喰らうと言われるそれを用いて人工的に終末捕食を発生させ、地球をリセットする。
その際、支部長によって選抜された人間たちは改修された宇宙船によって大気圏外へ避難。終末捕食が終わり、全てがリセットされた地球で再度人の文明を構築する……
「……またわけの分からないこと言ってますね……」
「っていうより、こんなこと可能なんですか?」
私達からの質問を受けたサクヤさんはこう答えた。
「榊博士が、もうずっと前から提唱している説よ。ノヴァと終末捕食はね。科学者としては最高峰の榊博士が言っていたことなら、あり得るわ。」
「なるほど。」
確かに科学者としてはすばらしい。なんだかんだと博士の論文は目にするし。
「で、これが本当として……」
そう言ってさっきのファイルの中から名簿を選択するサクヤさん。
「おそらく、これが宇宙船の搭乗者名簿……と、ツバキさんが言ってたわ。」
ツバキさんが、というところにアリサが反応する。
「……さりげなく責任転嫁しました?」
「だって私には全く分からなかったんだから……それはともかくとして、二人とも……これを見て何か気が付くことはない?」
名簿は横書きで、左から人名、身分等の補足事項の順で書かれている。共通点があるのは補足事項のところだった。
「ほとんど……フェンリルの支部の支部長とか、本部の重役とか……あとは科学者とかですね。みんなフェンリル関係みたいですけど……」
「あ、ほんとですね。」
それを発見した私とアリサを見てサクヤさんが口を開く。
「そう。利権がらみか何かは分からないけどね。」
支部長がやっているのはとてつもなく大きな計画だ。資金、物資、その他いろいろな面で、こうしてフェンリルの重役に餌を与えることは私達が考える以上に意味を持っているのだろう。そうだとすれば、このメンバーも当然のものなのだろう。
「さてと。とりあえず関係が深いのはこのくらいね。」
それだけ言って、プロジェクトファイルについては何も言わないままターミナルの電源を落とした。
「え?サクヤさん、さっきのプロジェクトファイルって……」
アリサが問う。それに対し、サクヤさんはただこう告げた。
「あれに関しては、扱いが決まってから教えるわ。」
首を傾げる私とアリサを余所に、サクヤさんは空の紅茶のカップを持ってキッチンへと消えた。
*
「ごめんなー。ノゾミのやつ、お前に会ってみたいってずっと言っててさあ……ちゃんと休ませてやりたかったんだけど……」
「気にするな。アラガミが来るかもしれねえってアナグラで考えているより、こっちでお前の妹の相手をしてた方がずっと休まる。」
少しだけ笑いつつコウタを見る。結局、こいつの妹の相手をするような形になった。
「今は神楽といると……逆に気い張ってるみてえだからな。あいつには悪いと思うんだが……」
「まあまあ。それもあいつのこと心配してるだけなんだろ?」
「……ああ。」
それが行き過ぎなのは自分でも分かっている。……分かっているだけに、なかなか改善方法が見つからない。
神楽が自分からやられにいくようなことはないと確信している。が、誰かを守ろうと思っているときのあいつは全く後のことを考えない。それが彼女の生い立ちに原因があり、俺からどうするという問題だとは言えない。それが、俺がどうしても不安になる原因だ。
「……あいつは……無理をし過ぎだ。それがどうも危なっかしい。」
「まあなー。一応神楽も分かってはいるみたいだけど……やっぱ、この間のインドラの時みたいになるとヒヤヒヤするよなあ。」
……アナグラを守りたい。その一心で、危うく命を落としかけた。それを間近で見た後では心配せずにはなかなかいられない。
「でもさあ。」
コウタが話を切り替えるように言い出した。
「ソーマは、神楽が死ぬと思ってるのか?」
目の前のアホ面が発したのは、俺を上から押しつぶしてくるかのような言葉。
「別にそう言う訳じゃないんだろ?んじゃあ良いんじゃねえの?」
「……どういう意味だ?」
「そりゃまあ、あいつも危なっかしいけどさ。でもそれにいちいち神経質に反応してたら身が持たないぜ?だいたいあいつちょっとやそっとじゃ怪我もしないんだし。」
なんとなく言いたいことだけは伝わってくる発言。……実際、いちいちそうやって反応する気はないが……
「ほら、これまでもちゃんと帰ってきてるしとりあえず生きてるじゃん。……それに、あいつが一番無理してたのはお前とほとんど話していなかったときだったし。」
……少し話が逸れたような気がする。これは止める方がいいだろう。
「そうだな……適当なときに話して見るさ。もっとも、聞くかどうかは分からねえけどな。」
「……あ、そうか。……まあそんなら良いんだけど……」
話を途中で止めることになったからか少し話し足りないような表情のコウタ。
「また相談に乗ってくれないか?」
……そのコウタに、これからも意外と助けられそうだ。今はそう思う。
*
……翌日。アナグラに帰った俺を迎えたのが腹を下した瀕死の神楽であったことは気にしないでおく。
…アリサですね。間違いなくアリサですね。
と、いうわけで、ついに大型投稿終了となりました。なんか面倒なこと始めやがったなこの野郎と思ったかもしれませんが、ぜひこれからもお付き合いください。