GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
なので久々に機能させましょうそうしましょう。
…あ、今回は告知メインです。詳しくは後書きで。
珍種のアラガミ
*神楽の場合*
私がそのアラガミを目撃したのは、いつも通りに任務をこなし、帰還用のヘリを待っている時のことだった。
曲がりなりにも研究者を父とし、夫にも持つ身。それなりにアラガミについて詳しい自信はあるし、新種が出てきてもその場で分析できる程度には戦い慣れてもいる。
うん。新種なら。珍種は対象外。
「……んー……」
何というか、その、うん。何て言うんだろうこれ。
強いて言うなら神機の捕喰顎に似たそのアラガミは、食べるでも襲ってくるでもなく、ふよーんと浮かんでいるだけ。青白い体表は僅かに発光し、ちっちゃいくせに隠れる気がない。
いや、うん。本当に何だろうこれ。ちっちゃいアラガミの目撃情報は前から挙がっていたけど、単純に成長途中のオラクル細胞塊だとばかり思っていた。
……いたんだけど、どう見てもアラガミとして一個体になっているわけで。判断に困る。
そのくせ危険性は全く感じられない。勘ではなく偏食場の分析からしてそう思える。放っといても何もしてこないだろうなあ、と。
「ちょっと可愛い……かなあ?」
これがアラガミである以上は討伐対象なんだけど……ここで少し考えてみよう。
アラガミは倒したところで個々の細胞となって霧散し、別所で集合した上で新たなアラガミとして再生する。アラガミの根絶が事実上不可能なのはこのためだ。
このアラガミも、コアを摘出すれば同じ流れを辿るだろう。霧散したオラクルには元々取っていた形状や性質が記憶されるものの、再集合した際にどんな形になるかは分からない。集まったオラクル細胞のどれが形質を決定付けるかはランダムなのだ。
だとしたら、だ。
このアラガミを倒さない。他のアラガミを倒し続ける。霧散したオラクルがこのアラガミを形成したら倒さず残す……って繰り返したら、なかなか上手いことにならないだろうか。
「そこのとこどう思う?」
ほらほら。撫でると気持ちよさそうにしているし。まあ普通の人が触ったらどう考えてもアウトだけど。
とは言え、人を積極的に襲ったりせず、そもそも捕喰欲求がきわめて弱いことを考えれば、このアラガミが席巻するアラガミ社会はなかなか良いものに……
「あ、神楽さん。そのアラガミからは貴重なコアが入手できる可能性があります。討伐をお願いできますか?」
……させてくれないんですね。はい。
*渚の場合*
なるほど。ちっこい。
「神楽が言ってたのってこいつかな。」
確かに彼女の言うとおり、このアラガミが席巻すればずいぶんと平和にはなりそうだ。人を襲わないと言うだけでメリットがある。
……ただ、何も喰っていないと言うことはないだろう。
「何喰ってるの。いったい。」
つんつん突っついてみると、遊んでもらえると思ったのか、つつつと足にすり寄ってくる。なるほど。あれで案外可愛い物好きのとこはあるし、この愛くるしさというか何というかにやられたわけだ。
普通の神機使いは気付かれた瞬間に逃げられているって話だし、単純に仲間意識でもあるんだろうか。私も神楽も人よりアラガミって言う方が正しいし。
そう考えると何となく複雑だが、まあ、別にいいだろう。
「うわっ。ちょっ。乗るなってば。」
なんか器用に登られた。しかもこいつ意外と重い。
振り落とすのもなんだから、としばらく放置していると、背中や肩をうろちょろした後、結局頭の上で落ち着いた。自分が重いことを全く自覚していないらしい。
と言うか女の子の髪の上に平然と乗るな。もてないぞ。
……ああいや、もてないのは別に良いか。アラガミに傾倒したり惚れ込んだり素手でタイマン張ったりするバカには毎度毎度困らされてるし。
むしろちょっと可愛いのが問題。このちっこいのが見たいから、とかいうバカな理由で外に出る奴が現れたら……それは殴って連れ帰ればいっか。
で、当座の問題は今からどうするかであって。
「倒すのも忍びないんだよね……って言うかいい加減降りてくれない?」
頭の上のちっこいのを突っつくも、全く降りる気配がない。引っ剥がせばいい話だけど、なんかなあ。可愛いしなあ。
けどこいつのコア、他の素材に転用出来るらしいし……可能な限り回収、だっけ?もうしばらく遊ばせてやって、その後は素材になってもらおう。
なんて考えつつ、ふと横に目をやる。そこには光の加減でちょうど鏡のようになったステンドグラス。
「……あ、こいつ帽子に出来そう。」
この時の発想が、後にアモルを求めて壁外へ、な阿呆を量産することを、私はまだ知らなかった。
*結意の場合*
これは所謂、大ピンチなのかもしれない。と言うか大ピンチだ。
総数十七体のアラガミに一人囲まれている。互いに牽制し合っているのか襲ってこないのが救いだけど、それがいつまでも続くわけはない。
というかそもそもこのアラガミはいったい何だろう。黒地に赤の口と目。ドレッドパイクより小さいし、ザイゴートみたいに浮いてるし、オウガテイルよりすばしっこいし、何だかもうよく分からない。
「……んと……」
先制攻撃?ちょっと厳しい。攻撃範囲を考えれば一度に倒せるのは三体程度。ジュリウスさんみたいに血の力とかが使えるなら話は変わるのかもしれないけど、あんなのまだ出来ない。
となれば、一撃入れた後の隙を突かれ、残りの十四体から波状攻撃をもらうのが関の山。いくら小さいと言ったってこの数相手じゃ適わない。
「んと……えと……」
防御はもっと無理がある。私の神機の盾はバックラーだから、長時間続けようものならじわじわ削られてしまう。じり貧にすらならない。
逃げる……のが得策?だと思うんだけど、通り抜けられる穴はない上、ジャンプで越えられるほど狭い範囲に密集しているわけでもない。飛んで、ステップして、降りたら目の前に。願い下げ。
……あれ?手詰まり?どうしよう。
「結意さん。そのアラガミからは貴重なコアが回収出来ることが分かっています。あちらから攻撃してくることはないようなので、安心して対処に当たって下さい。」
「え?あ、ええ?」
攻撃してこない?それはアラガミとしてどうなんだろう。
いや、襲ってきてほしいわけじゃないけど、それはそれでここまで悩んでいた自分が虚しい。
「……」
意を決してそーっと手を伸ばしてみる。逃げるどころか近寄ってきて、何とも手触りの良い毛並みに出迎えられた。
……可愛い。どうしよう。とっても可愛い。倒したくない。アラガミ全部この子達だけならいいのに。
気が付くと他の十六体も近くに来ていた。すりすりして来てなんとも気持ちがいい……?
「え?あれ?の、乗らないで……」
のし。のし。
……どさっ。のし。
「じゅ、ジュリウスさん!誰かあ!助けてくださあい!」
その後しばらく、超巨大アバドンに押しつぶされる悪夢に魘されました。
*ソーマの場合*
アモル、アバドン。それぞれ色に違いはあるものの、あらゆるアラガミの素材に転用可能な特殊なコアを持つアラガミだ。
神機のアップデートに不可欠なオラクル素材を自由に精製出来るとあって、その需要は大きい。量さえあれば防壁への利用も可能と、神機使いだけでなく技術部からの回収要請もある。
が、これだけ必要性の高いアラガミでありながら、その数はごく僅か。出現位置も不明瞭。何を喰らっているアラガミであり、かつ何を喰らった結果現在に至ったのか全く解明がなされていない。
……いや、いなかった。
「……なるほどな。」
榊のおっさんが立てた一つの仮説を実証するため、討伐後のウロヴォロスを放置。その後をしばらく観察した。
相性の問題やその他例外は多くあるものの、アラガミの強弱は大小から大まかに判別出来る。巨大アラガミの筆頭たるウロヴォロスは、その論でいけばかなり上位に位置付けされるわけだ。
もしこいつを喰らうアラガミがいるのなら、そいつはかなりの確率でほとんどのアラガミを捕喰出来ることになる。
例えば、このアモルとアバドンのように。
「ったく。どっから沸いて出やがった。」
ウロヴォロスの死骸に群がる多数の当該アラガミ。コアを目指して捕喰しているわけでないらしく、各々が思い思いの位置を喰らっている。
アラガミの死骸へ偏食傾向が向き、あまりにも多種の形質を取り込み、袋小路に入り込んだ結果。それがこいつらというわけか。自分で狩りをすることもない、完全なスカベンジャー。ある意味で非常に合理的だ。
神楽はアラガミがこいつらだけになったら、と語っていたが、この様子でそれはない。そうなれば食料がなくなり、突き詰めれば貪食なオラクル細胞でしかないこいつらは、別の物に偏食傾向が向くだけだろう。その後はまた別の進化を遂げるに違いない。
ところで、だ。
「……おい。乗るな。」
……俺の肩を止まり木にするな。
さてさて。では告知です。
明日、3月15日12時に、GOD EATERコラボ企画「【GE作者合同投稿企画】MMOだよ、神喰さん!」が投稿されます。
私のページから…だと飛べないのかな?どうなのかな…匿名設定使ったの初めてだからよく分かりませんが、予約投稿ですし予定時間にはしっかり出ると思います。
原作はGOD EATERで設定していますので、そっから潜るのが確実かもしれません。
さて。それではでは。