GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
今回より物語は第四章へと突入。もうそろそろ終わりでしょうか。
支部長帰宅。その他諸々
第四章 偽りの幸せ
支部長帰宅。その他諸々
《おはよー。もう起きていいよ。》
「……」
《おーい。四日後の朝だよー。》
「……くう……」
《……ソーマに会えるよー。》
「ふえ?ソーマ?」
……いない。
《やっと起きた。まったく。》
「……?あ。」
聞こえているのがイザナミの声だと気が付き、意識を彼女へ話す方に向ける。
【おはよ。……ちゃんと話せてるんだ。】
《もちろん。》
よかった。またああいう事がないと会えなくなっちゃう、なんて絶対に嫌だもん。
《とりあえず、ご飯食べて。全部それからだからね。》
【……確かに。お腹空いてる。】
彼女の言う通りだ。今誰かが持ってきてくれたら泣いて喜びたいくらいの空腹感がずっしりとのしかかっている。
《……四日も寝ていてそうなってなかったら怖いって……》
【それもそうだね……】
イザナミの方が私の体のこと分かってたりして……
《よっし。じゃあナースコール。さっさと呼ぼう。》
【だから早いって!】
*
それと同じ頃、研究室では榊とリッカが俺に講義をしていた。
「これがヴァジュラが消えた理由か?」
「おそらく。まあ、検証もしていないから確証はないけどね。」
榊から渡されたのは分厚いレポート。俺たちとインドラの戦闘記録を解析した結果をまとめたのだという。……あの短時間の戦闘記録を四日かけないと作れなかった、ってことか。
「……オラクル細胞の結合率操作、か。本当にできるのか?」
「それはわからないけど、仮説としてはそれが最有力だ。そして実際の観測結果からも、あれとの戦闘中に数回、空気中のオラクル濃度が変化していたことが確認されている。」
「そうか……」
自身のオラクル結合率を操作、もともと平均値の何倍もの結合密度を持つ自分のオラクル細胞の一部を切り離し、ある地点に別種のアラガミを作る。超硬質のヴァジュラ一体なら、だいたい足一本か尾一本で生成可能。当然そうして生成したアラガミを再度自身の部位に戻すことも出来る。とはいえ、同種のアラガミを作るには自身のオラクル細胞の全てが必要になるため、それはさすがに不可能、と。
また、自身の結合率を限りなくゼロに近づけることで空中に目視不能な形で浮遊する事も可能。表現としては、細胞単位での浮遊状態、と表すことが出来る。この場合、雷雲の中を移動したり、そもそも自分の雷などによって自分の周りに雷雲を作ったりということができると推察。それによって、落雷を起こしつつその地点に出現するなどという離れ業を行える可能性は高く、実体を保持しながらの高速移動なども可能であるだろう……
「夢物語に近いが……まあ、説明は付くな。」
「初めはどれもこんなものさ。といって、検証可能な状態になってほしいとは思わないけどね。」
要は同型種の出現は危惧している、と。……いくらこいつとはいえ当たり前か。
榊の話が一区切りついたところでリッカが口を開いた。……というより、その機会を狙っていたようだ。
「それからインドラに埋め込まれていたコアから作った神機のサンプル……実は作動が不安定なんだ。たぶん、安定するためにはまた何か別のものが必要なんだと思うんだけど……」
「仕事が早いな。」
不安定……まあまだ分かっていない部分が多い以上、仕方ないのだろう。
「まあ、その辺は追々探っていくけどね。他に何か質問はある?」
「いや。俺からは何も。」
「そう?じゃあ私は戻るよ。まだまだ調べたいことがたくさんあるからね。」
そう言って小走りに出ていく。……いったいどこまでやるつもりなんだか。
「ああそれと。例の他のアラガミを吸収した、という話だけど、あれはどうも普通に攻撃してコアの活動を停止させてから、制御下を離れたオラクル細胞を取り込んだもののようだね。何の変哲もない、とまではいかないけど……まあこれに関しては不思議でも何ともない。」
「そうか……」
満足げに話す榊に少し意識が飛びながら返事をする。
「僕の話も終わりだ。シオは寝ているから、とりあえず神楽君のところにでも行ってあげたらどうだい?」
……まだ六時か。シオが起きるのはいつも九時頃だからな。
「そうさせてもらう。……お疲れ。どうせ推論立てで寝てねえんだろ?」
目の下に隈を作っている時点でまるわかりだ。
「その通り。少し寝るさ。」
肩を叩きながら言う榊。まあ、好きにさせておくか。
「ただ、ソーマ君。」
「あ?」
奥の部屋へ行きかけた榊が唐突に言葉を発した。
「君も、ちゃんと寝ることをおすすめするよ?神楽君の分まで任務をこなそうとしているようだけど、無理は禁物だからね。」
「……ああ。分かってはいるさ。」
君も、の部分を強調する発言。自分でも無理をしているのは理解している。
それでも……これ以上あいつをまずい状態にはできない。直感でそう感じていた。
*
看護婦さんにご飯(お粥。……しっかり食べたいよお……)を持ってきてもらい、もぐもぐと食べること10分。聞き慣れてしまった病室のドアが開く音と共にソーマが入ってきた。
「ん。おはほ。」
言い切ってから口の中に入っていたお粥を飲み込む。……完食。これならあと三杯はいける。
「起きてたのか。……大丈夫そうだな。」
《おー。ソーマじゃん。実はこの四日間毎日来てた唯一の人。》
イザナミが面白がるように言った。
「……他の人は毎日じゃなかったんだ……って、あ。間違えた。」
《こんな時に間違えてどうするの。》
【ごめんごめん。まだ慣れなくって。】
イザナミと話すときはこっちじゃなかったんだった。……今更思い出しても遅いけど。
「誰と話してんだ?」
……やはり怪訝そうなソーマに聞かれる。ま、確かソーマはこの間何となく察してたっぽいし……
「私のコア。」
特に何でもないことのように伝えると、なぜか彼は頭を押さえた。
「どしたの?」
「いや……なんでもない。……こっちでも夢物語か……」
……何がなんだかわからないけどとりあえず問題なさそうなので放置。
「ねえねえ。みんな今どうしてるの?」
「サクヤはツバキとディスクを調べてる。他の二人は外部居住区の家屋やらを直してるみてえだな。」
「?」
家屋を直すって……
「お前がぶち抜いたりインドラが破壊したり跳弾で風穴が空いたり……そういうのを修復中だ。被害がでかいから少しでも人手がいるらしい。」
「あ、そういうこと。」
《結構大変だったんだね。》
ひょこひょこ会話に出てくるイザナミ。……彼女もソーマと話せれば楽なんだけど……
「何にしても……四日前のあれは何だったのか聞かせてもらいたいんだが。」
ソーマが話題を変える。……四日前、というと?
《ほらほら、インドラと戦った日だよ。聞いてるのはたぶん私が出てた間のこと。》
【あー……それか。】
説明を受けて初めて理解する。そういえば四日間寝てたんだ。
「んと……なんか私のコアに人格が出来てて……まあイザナミって言うんだけど。その子がやったことだからよくわかんない。」
「……あいつか。」
なんだか納得した様子だけど……ま、いっか。私も説明するの大変だし。
「辿々しいなあもう。要は神楽を媒介に私がやったこと!終わり!」
勝手に私の口が動き出した。……犯人は当然、イザナミである。
「ちょっ!いきなり何するの!」
《だってー。まどろっこしいんだもん。あ、それとまた間違ってるよ?》
とぼけるかのように笑う彼女。が、私はそうも言っていられない。
【予告くらいしなさい!っていうか勝手に使うな!】
《いやいや。私が使ったのはあくまでも、神楽の体に散らばった私の偏食因子だから。》
……反論不能である事を悟る私。そしてソーマは……
「……苦労するな。」
「人事みたいに言わないで……って、人事か。」
なんだか、結局いつもの調子だ。そう思えることが楽しい。
「ああそれと……」
「ん?」
話を変えようとする口調で口を開くソーマ。まあ、四日間も寝ていたんだから話さないといけない事も多いんだろう。
「お前の服。背中が破れたから桐生に縫い直しを頼んでおいた。部屋に戻ったら着てみてくれ。少し形も変えさせたからな。」
「形?」
そんなに体型は変わってないと思うんだけど……そんな的外れなことを考えたり。
「……あの翼を出せるようにした。って言った方が分かりやすいか?」
《それ嬉しい。……でも……次いつ出なきゃいけなくなるんだろう?》
イザナミはイザナミで不安そうに呟く。今回みたいに、彼女に前に出てもらわないといけないような状況には確かになりたくない。
「わかった。ありがとね。」
「ああ。」
と、彼は少し首の後ろを掻き……私の頭に手をそっと乗せた。
「……おかえり。」
そっか。四日間寝ちゃってたんだもんね。
「んと……ただいま。」
《……また仲睦まじいことで。》
呆れるようなイザナミの声を聞きながら、束の間の暖かさに身を任せていた。
*
「護送ヘリの着陸を確認。お疲れさまでした。何か問題はありませんか?」
支部長がヨーロッパへの出張から帰ってきた。昨日タツミとジーナさんが護送ヘリで出たわけだから、アラガミとの接触もなく順調に帰ってこられたのだろう。
「俺らも支部長もパイロットも問題なしだ。とりあえずヘリの整備だけリッカ達に頼んでおいてくれ。」
「うん。じゃあ報告書の提出、お願いね。」
「分かってるって。じゃ、後でな。」
無線が切れた。どれだけこの仕事を続けていても、任務に出ていた人達が無事に帰ってきたときの帰還報告にはやっぱり安心させられる。
「タツミさん達、帰ってきたんですか?」
ちょうど任務を受けに来ていたカノンさんから聞かれる。
「あ、はい。帰投中も何もなかったそうです。」
そういえば博士が支部長が帰ってきたら教えてほしいって言ってたっけ。それを思い出して私は博士にメールで連絡したのだった。
*
それからほんの数時間後。
「やあ。向こうで収穫はあったのかい?」
「……それよりもペイラー。入るときは許可くらい取ったらどうだ?」
「まあまあ。次からは注意するさ。それで、結果は?」
「特異点反応は確かに確認されていたようだが、あいにく何も。……この極東地域にいることはほぼ確定した。」
彼の出張……本当にヨーロッパへ行ったのなら、それは特異点反応が確認されたとのデータの確認が目的だ。
まあそのデータは、僕が作ったものだけどね。
「すでに捜索も開始している。匿われている、または捕らわれている線も含めてな。」
「というと?」
……彼の様子からして僕がもう発見したことは気が付いていないみたいだけど……
「あのカルト集団……最近活動が活発化しているらしい。自分達を捕食しないアラガミを見つけたとしたら、その活発化にも説明が付くと思うのだが、どうだ?」
ははあ……そっちから推測したのか。
アラガミを神と崇めるカルト集団による被害はこの二週間余りの間で激増している。つい先日も、その集団とは無関係な一般人がアラガミに捕喰されかけた。
「何とも言えないね。推論を立てるとすれば……例えば人と同じような進化を遂げたなら、自分と同系統のものを捕食しない、というアラガミの偏食傾向によって人が捕食対象から外れることは……あり得るかもしれないね。アラガミを神として崇めている彼らだ。そんなアラガミが現れたとしたら、狂喜乱舞すること請け合いだろう。」
「そうか。……まあいい。私がいない間に何か変わったことは?」
「いつも通り……まではいかなかったかな。新種のアラガミが出てね。四日前に第一部隊長が負傷。ついさっきまで眠っていたよ。明日には退院すると思う。」
他にはシオのことがあったけどね。
「……彼女も病室に好かれているな。まるで新人の頃のソーマだ。」
「彼も病室によく入っていたね。雨宮姉弟をずいぶんドタバタさせて。」
他愛もない会話。ヨハン……それもそろそろ、終わりに近づいているのかい?
そういえば博士視点は初めてでしたっけ。やっぱり難しいですね。
本日投稿予定の残り二話ですが、この回の投稿が終わった後に章管理を行うので少し間が開くかと思います。