GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
でもってですね、
【】
なんてのが出てきたら、それは神楽の心の中での声です。心理描写等はこれからも一人称本文で行いますので、とりあえず謎の【】は神楽の言葉だとだけ、まずは理解してください。
《》もある人物…今回正体が判明する人物特有の発言として使用しますので、そちらも合わせてご理解ください。
それから
「むう……」
《どうかした?》
「どうかしたも何も……えっと……そろそろ起きたいなー……って。」
《まだ起きるとつらいよ?私もけっこう疲れちゃったから……たぶんいつもみたいに支えていられないと思う。神楽の自然治癒力も落ちてるんだもん。》
「う……」
あれから二日。みんなはどうしているんだろう……
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「……何がどうしたからこうなってるんですか?」
「私に聞かれても……」
「俺もわかんない。」
「知るか。」
ディアウス・ピターの姿となったインドラだったアラガミ。それはすでに、あまりの高所から落ちたダメージで事切れていた。
「とりあえずディスクがあったからいいかもしれないけど……」
「そうですね……何にしても、それに関しては最高ですよ。」
ちなみに、私は全自動降下中だ。自分の意志で体を動かせないから放置。
「……だ、誰……っていうか、人間?」
私に最初に気付いて狼狽するコウタ。まあ……そりゃあそうだよね……私の服を着て、私の神機を持って、あろうことか翼を生やしてパタパタ降りてきてるのを見ているわけだし。この謎の話し相手曰く、体型や顔形は微妙に変わっており、目や髪の色に至っては全くの別物になっているそうだが。
【……っていうかそろそろ戻してよ……】
《だーめ。はっきり言っておくけど、普通の人間だったら始めにインドラの刃を受け止めた時点で、その形すら保てなくなってるんだよ?それこそZ指定クラスのグロテスクな光景がたった今この場にあってもおかしくないほどのダメージを……》
【……いやもういいから。そこまで聞くと怖いって。】
どうやら言っても無駄なようだ。……というか、相手が誰なのかすらわかっていないんだから。
と、私の口が勝手に動いた。
「じゃあソーマ。この子の事、後はよろしく。」
「……は?」
「えっと……?」
「あの……誰なの?」
「……やべえ……なんか現実なのか夢なのか分かんなくなってきた。」
それぞれに困惑。……はっきり言っていいだろうか?私が一番わかんない。
で、その私の体はソーマの耳元へ囁く格好になる。
「あなたなら分かるだろうけど、私は神楽の腕に生えていた白い羽の持ち主だよ?」
……混乱している上にろくに脳味噌が動かない私には何がなんだか分からないのだが……どうやらソーマは何か理解したようだ。
「了解だ。こっちは俺らで何とかする。」
「どもども。じゃ、お休みー……」
その言葉を最後に視界が真っ暗になった。
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というのが、今私の前でふわふわ漂っている彼女に動かされていた間のこと。まあふわふわ漂っているのは私もなんだけど。
《まあつまるところはさ、これまで神楽が無理をしても倒れなかったのは、神楽の中に入っちゃった複合コアに形成された私が治癒力を高めたりダメージをある程度請け負ったりしたからであって。私が疲れている今起きちゃうと、人一人が亡くなるレベルのダメージと疲労が一度に押し寄せる危険性すらあるって事なの。ここまでわかってくれた?》
「まあそれは分かったんだけど……」
《じゃあ寝よう。》
「展開早いって!」
この少女の名前は伊邪那美(いざなみ)。年は私と同じだという。……が、彼女曰く、こんな面倒な書き方する名前はいやなんだ、ということらしく……とりあえずイザナミで落ち着いた。片仮名にしただけじゃん、とは彼女のために言わないことにする。
っていうか、彼女の容姿が羨ましいんだよね……
腰まで届くような、白髪の中に金色に輝く髪が左右に一房ずつ揺れるさらさらの髪。
肌の色はアリサと同じかそれより白い。光沢ときめの細やかさで言ったら、間違いなくイザナミが上だろう。
大きくも小さくもない胸やすっきりと括れた腰回り。細くしなやかな手足と首……全体的にはスレンダーな体型と言うのが近いだろう。
鼻筋もきれいだし、口の形も整ってるし、目の位置も大きさもちょうどよすぎて困るくらいだし、耳は少し尖っていてなんだか神話の世界の人みたいだし、顎もシュッとしていて……とどめは金色の目と純白の翼ですか。
……負け。完敗。I'm loser.
ちなみに服は白に近い水色の半袖のワンピース。同じ色のサンダル履き。
さ、気を取り直してと。
「まだ聞きたいことがあるんだよ。……とりあえず……」
《怜君のコアのこと?》
「そうそれ。」
インドラから取り出したあの球体。……記憶が正しければ、お父さんに見せてもらった怜の複合コアだった。……それがなぜ。ただその思考だけが脳内を駆け巡っている。
《あれは間違いなく、神楽と私が一つになっちゃったときに回収された怜君のコアだよ。その後どういうルートを辿ったか詳しいところは分からないけど、少なくともあのディアウス・ピターを人為的に改造した人間の手によって、全く傷付けられることなくインドラにするために組み込まれたのは確か。その改造した人間っていうのが誰かは分かんないけど。ただまあ……ちょっと傷付くね。》
「え?」
彼女からの説明以上に、彼女自身が傷付くと言ったことに驚いた。
《あのコアは、神楽の弟のコアであると同時に私の弟だから。それがあんな使い方されるなんて腹立つと思わない?》
「……とっくに煮えくり返ってる。」
《でしょー?》
……結構気が合うかな。
《あと何かある?》
「うーん……とりあえず、今回みたいな事があった影響が知りたいかなあ。ほら、次がないとは限らないから。」
なんか無責任な気もするけど、アラガミを体内に持つ以上は知っておいた方がいいだろう。
《ぜひとも次を起こさないようにしてほしいけど……その辺は気にしなくっていいよ。そういうフィードバックは、これまで通り私がカバーする。》
「いいの?」
それじゃあイザナミに悪くないかな。そんな風に思ったり。
《うまく言えないかもなんだけど……ほら、さっき言ったように、神楽のことを私は何度も救ってきたわけでしょ?でもそんなふうに神楽を助けられるのも神楽が私と一つになってくれたからで……うー……だーめだ。なんか言葉にはできないや。以外と難しいんだね、話すのって。すっごく楽しいけどさ。》
……聞いてもどうしようもないのかな。自分の中で軽く結論づけて、ついさっきの彼女の言葉に話題を切り替える。
「話すのが……楽しい?」
《だって……私ってこれまでずーっと一人でぼーっと過ごしてただけみたいなものなんだよ?そりゃあ、神楽が危ないときは助けたりもしたけどさ。そんなのしかできないなんてつまんないし。だから、神楽限定でもこうして話せるのが楽しくって仕方ないんだ。》
「なるほど。……けっこう深いね……」
《人にとってはそうかも。》
二人で笑い合う。……でも、それが楽しいから不安が頭をよぎった。
「ねえ……私が起きても……こうして話せる?」
自分でも驚くほどに不安げな声でそんな風に聞くと、イザナミは一瞬驚いたような表情をしてからクスリと笑った。
《大丈夫。私の方も神楽との線を繋げられたし、これからはいつでも話せるよ?》
「ほんと!?」
《うそつく理由なんてありませーん。あ、こうやって顔を合わせられるのは神楽が寝ているときだけだけど。それも神楽から呼んでくれたとき限定になるかなあ……でも、さ……いっぱい、おしゃべりしよう?プライベートは守ってあげるから。》
……へ?プライベートって……
《どうもベッドの上では背骨を撫でられるのが弱いようですねえ。あ、それと首筋……特にうなじなんかも?》
「わあああ!なんてとこ観察して……!」
《いやあ。あの頃は接続を切る方法すら見つけてなかったもので。》
「ひーん……」
一番恥ずかしいところをばっちり見られてたなんて……
《にしてもソーマって優しいんだねー。私も惚れちゃいそう。》
「だめ!ソーマは私の彼氏なの!」
《冗談だよー。ほらほら、早く寝ないとソーマに会うのが先になっちゃうよ?》
「……丸め込んでない?」
《えっへへー。》
……丸め込まれた。
*
「コウタ、そこの柱支えててください。」
「わかった。にしても派手に壊れてるなあ……」
倒壊した家屋の建て直し。インドラとの先頭からすでに三日。未だにリーダーは起きていないけど、外部居住区の被害はある程度回復している。
「あの出力じゃあこうなりますよ。翼だけで通常の落雷に近い電力があったそうですから。」
「マジか……」
極東支部の神機使いたちも、暇なときにこっちを手伝っている。……主に私たちが、だけど。
禁忌種などのアラガミが出現することが少なくなり、それによって捕喰される率が下がった小型種の群が頻繁に発生している。それらは基本的に防衛班が討伐しているため、第一部隊はなんだかんだ言って時間が空くわけだ。
ただ、サクヤさんは例のディスクについて調べるので手いっぱい。ソーマはリーダーが回収していたコアを調べたりするのを手伝っているみたいで……結果的に私とコウタで手伝いに出ることになる。
「おーい。次こっち頼めるか?」
「あ、はい。ここが一区切りついたら行きますね。」
おかげで居住区の人とも仲良くなれたからいいけど。
「よっし。これでいいかな。」
「そうですね。さ、次行きますよ。」
「分かってるって。」
……というより……コウタと二人でいることが何となく嬉しいのだけれど。
*
「何か見つかったかい?」
「こいつにも何もねえな……データベースは?」
分厚いファイルを机に上に放る。
「私の方にもないね。おそらく、リッカ君のお父さんのファイル以外にはデータは残されていなかったんだろう。前にも言った通り、桜鹿博士は一匹狼だったからね。」
神楽が回収していたコアを解析。それをリッカが照合したところ、あいつの親父のファイル内に全く同じ数値を示すデータがあったらしい。照合と同時にロックが解かれたそのファイル名はU-RK0707。神崎怜……神楽の弟のDNAが用いられた複合コアだと、明記されていたという。
他にも情報がないかと過去のデータをチェックしているのだが……数百枚もの紙の束の中には、全く関係のない事柄しかなかった。
「とりあえず神楽君が起きるのを待つ他なさそうだね。」
「そうか……で、リッカは何かやってんのか?最近見ねえが。」
いつもなら一日の半分以上を保管庫で過ごすはずのリッカがこの三日間ほとんど見かけない。といって複合コアのデータをさらに探しているという風でもない。
「リッカ君は彼女のお父さんが残していたものを作っている最中だ。……複合コアを使った神機、だそうだよ。もっとも、コアの使用に関しては神楽君が起きてから許可を取るつもりみたいだけどね。それまでは仮接続に留めるそうだ。まあ、何にしてもおもしろい物が出来上がりそうだね。」
「それでか。……まあいい。他に未整理のやつはねえのか?」
「とりあえずはないかな。神楽君のお見舞いにでも行ってきたらどうだい?」
「そうさせてもらう。」
広げた資料を整理しつつ、リッカがやっているという神機制作に思考を向ける。……あいつがやりそうなことだ。誰が使えるのかが気になるところだが。
*
「お疲れさま、といったところだな。」
「それこの間戻ったときにも言ってましたよ?」
「別にいいだろう?さて……」
飲みに来ている。
「あのバカが残していったディスク……どうなんだ?」
「はっきり言いますと、もっと分かりやすく書いておきなさい。って感じです。」
ディスクを見つけたはいいものの……内容がわかりにくくて仕方ない。こっちが予備知識なしで読むことを明らかに想定していない書き方だ。
「それで私のところへ来た、ということか。」
「ツバキさんなら分かることがあるだろう、っていう算段です。」
「素直なやつだ……よし。見てみるか。」
コンソールの電源を入れるツバキさん。何か分かるといいんだけど……
*
エイジスの廊下がにわかに慌ただしくなった。アラガミによる襲撃があったのだろう。外では戦闘音も響いている。
「……またか。」
「アラガミの活性化か。小型限定らしいけど……なんだろうな。」
「さあ?」
自室へ戻っていく工員達。その真上をもぞもぞと動いていく。いい加減、配管の中を動き回るのも面倒なんだよなあ……
「活性化ねえ……」
一昨日だったか。うちの支部長殿とあの髭もじゃがギャイギャイ騒いでたのは。
「人工のアラガミ……ま、あのサイズがあるんだから作れんのか。……っつーかソーマも似たようなもんだっけ……」
口論の内容は髭もじゃの作ったアラガミが第一部隊に討伐されたことへの叱責。……この計画を悟られたくねえってのが見え見えだな。複合コアを回収したのが自分だってのが知れたら、いまやってる計画も悟られかねないって危惧してんだろうが……
「ま、これであいつらの手に渡ってくれたかな。」
さあ、いつでも来い。あとは計画を潰すだけだ。
……たぶん。
リンドウさんが頼りない…元からか。
まあそれは放置として、これで本日の投稿、そして第三章が終わりとなります。
…あと何話で終われるのか見当もつきませんが。