GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
雷神ノ堕ツル刻
「足が!?」
「うわっ!やっと壊したのに!」
流れていったオラクル細胞が後ろ足と前足に集中し、結合崩壊部分を修復した。……きりがない。そう考えるべきなのだろうか。
「……コアの破壊を最優先!」
「!」
「神楽ちゃん!?」
苦渋の決断だ。ディスクがあることは覚えているし、コアを回収すべきだというのも理解しているけど……そんな悠長なことを言っていられるとはもう思えない。
「ここでインドラを討伐する!」
はっきりそう叫ぶ。動きながらでも、みんなの表情が変わったのが見て取れた。
「みんな!さっきと同じようにいくよ!サクヤさんはグレネードの準備!コウタは私と別方向から銃撃!アリサとソーマは右前足と後ろ足に再度狙いを集中!」
回復直後に後ろへ跳んだとき、一瞬だけど右に傾いた。きっと左前足の方がまだ強く動かせるんだ。
「アリサ!後ろから頼む!」
「はい!」
ソーマがインドラの後ろ足を狙って切り上げる。前から私が弾丸を撃っているため前へは避けられない。かといって横は家屋が建ち並んでいてあまり動けない。
インドラがとったのは、その場から動かずに前から飛んでくるバレットを前足からの翼で叩き落とすことだった。当然ながら、ソーマの神機はインドラの後ろ足を捉える結果となる。
「コウタ!左から撃って!アリサは右前足を!」
「いきます!」
「任せろ!」
叩き落とされたバレットが爆発を起こし、インドラの頭が仰け反る。頭が上がったことで重心が後ろにより、ソーマの攻撃でのダメージでバランスが崩れる。伸びきった右前足へのアリサの攻撃が裂傷が刻み、体全体が右側へと傾いたところでコウタのバレットが左側から吹き飛ばし、ダウンさせた。
「いけるわね!」
未だに残る爆炎の中をサクヤさんが突っ切って……閃光と甲高い音が鳴り響いた。
と同時に……
「きゃあ!」
「サクヤさん!?」
たった今グレネードを炸裂させたはずのサクヤさんが逆にこちらへ飛ばされてきた。その体を受け止めつつアリサの声を聞く。
「リーダー!伏せて!」
理解する間もなく私まで飛ばされた。が、痛みはない。どうやら風圧のようだ。
急いでインドラがいたはずの場所を確認するが、そこにその姿はすでになく……空が不自然な青に染まりつつ稲妻を走らせた。……あの時と同じ、超広範囲攻撃だろう。
「こっちを見てない!?」
コウタが叫ぶ。……グレネードの効果が残っているのか、または別の理由からか。雷を翼に受けるインドラの頭はこちらを向いておらず、雷球を放つと思われる方向にあるのは極東支部の中央施設。……つまりはアナグラだ。
「嘘……あんなのがまともに当たったら!」
……いかに極東支部と言えど、あの威力では無事では済まない……というより、全壊する危険性すらある。
「っ!」
「おい!神楽!」
「待って!」
「リーダー!?」
「ちょっ……今は!」
制止する声。……私ならまだ防いでも生きていられる。だったら私が行くしかない。そんな考えに支配された体は独りでに動き、視界を赤く染めていった。
……その真っ赤な目に映ったのは、あの時のように頭を回すインドラの……
勝ち誇ったかのような笑み。
「やらせる、わけ……」
蹴り出した地面が吹き飛ぶのがわかる。自分の体がとうに人の速度を超えているのがわかる。
それがアラガミの力で、使い続けるのが危険なことは私が一番よく知っている。感情に任せていたら、自分が何をしているのかすらわからなくなることも知っている。それがみんなを危険に晒すようなことであっても、私は最後まで止まれないことだって知っている。
それでも。それでも私は……
「あんたなんかに!やらせない!」
もし私にアナグラを守る力があるのなら……力を貸しなさい。私の中のアラガミ。たった一つの、お父さんの形見。
たとえ私という存在がなくなるとしても……それでも私は、みんなの、彼の居場所を守りたい。
だから……
《はいはい。ほんと。いつも無茶ばっかりだね。》
唐突に聞こえた、女の子の声。初めは気付くのが精一杯だった。
《終わったら、お話でもしようよ。》
どこから聞こえてくるのか……その声は、自分の足音さえ聞こえない豪雨の中で妙にはっきりと響いてきた。
《大丈夫。片付けくらい、任せちゃおう?》
視界に、色が戻った。
*
「っ!」
「おい!神楽!」
突然走り出した神楽を止めようと叫ぶ。……聞く様子はない。
「待って!」
「リーダー!?」
「ちょっ……今は!」
他の奴らからも同様だ。
「くそっ……お前等!なんとかしてあの野郎をこっちに気づかせろ!」
遠距離型の二人へ命令を出す。
「わかった!ソーマは!?」
「神楽を追う!アリサ!奴の真下まで走れ!着地と同時に攻撃しろ!」
「了解!」
神楽がいないときは俺かサクヤが指示を出す。もともと決めていたからこそ、これほど迅速に動けている。……神楽の発案だ。
「この!気付け!」
「このままじゃ……」
俺とは逆方向に走っていくアリサの声はもう聞こえず、コウタとサクヤの声だけがかすかに耳に入って消えた。後に聞こえるのは雨音のみ。
「待て!神楽!」
ほんの十数メートル。だがその距離は、この雨の中では音を届けるには遠すぎる。
「……た……かに……ない!」
その中でかすかに聞こえた彼女の声。……次の瞬間に、全てが蒼い閃光の中に包まれる。
「なっ……」
閃光から一拍遅れて聞こえる轟音。そこからさらに遅れて、凄まじい風圧が襲ってくる。
「くっ……何だ!」
空中で体制を立て直し、両足に加えて神機を持っていない左手まで使って半分伏せるようにしつつ止まる。
……光で焼き付いていた目が元に戻り、始めに見たのは……
「……神楽……なのか?」
アナグラとインドラの間に浮かぶ、蒼く発光する白い翼を持った人影。神楽の神機を右手に持ち、その神機の切っ先をインドラに向ける“存在”。白髪に二房の金髪と、金色の目を持つ、女性の形をした発光体。
その神機の先端から螺旋を描くように翼と同じ色の羽が浮かび、その羽が作る円の部分の空間が歪んでいる。
「っ!またか!」
インドラが再度雷球を形作る。今度はさらに大きく。それも短時間で。
それが撃ち出され、羽の円へと衝突する。
「……?」
が、その雷球は円に当たると同時に再度閃光を放ちつつただの雷光として散った。
そして、口が開かれる。相当な距離があるはずだというのに、その言葉は膨大な質量を持って耳に響く。
《堕ちなさい。》
ズン、という重苦しい音と共に一瞬だけ重力が増す。崩折れないように神機を地面に突き立てる。……宙に浮かぶもの達に起こったのは、インドラの胸から出た球体を布でくるむ様に掴むだけのこと。たったそれだけで、インドラはその姿を変えながら地へ落ちた。
「……半ブロック先か。」
神楽のことも気になるが、まずあいつから何とかしないとどうしようもない。未だ宙に浮かんだままのそれから目を離し、墜落点へと走った。
*
「そんな……ばかな……こんなことが……こんなことがっ!」
エイジスの一室。大車の部屋として備えられた増築部分。その部屋の主はさっきからよくわからん映像を見てああだこうだと騒いでいる。……ターミナルの画面だから俺のところからはよく見えないんだが……戦闘か?
「くそっ……回復用にアラガミまで集めたんだぞ!出力もあれだけ強化したんだぞ!素早さも!耐久性も!何もかも!全て!」
……うるさい奴だな。どこまでいこうが完璧なものなんか作れないだろうに。
「こんなものが人であるはずがない……もうただのアラガミ……いや……」
久しぶりに声が小さくなる。かすかに聞こえたのは……
「化け物め……」
それだけ言い残して去っていく大車。ドアを開け、早足で歩いていく。
さて。俺はどうするか……とりあえずガーランドの部屋でものぞいてくかなあ……
ふう…やっとここまで来た。
えっと、今回が六個目なので、本日の投稿は次回で終わりです。