GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
とりあえず、今回と次回は完全に続き物です。
そんなわけで今回の後書きと次回の前書きはありません。
嵐の中
翌朝午前三時半。いつもの目覚ましではなく、極東支部の揺れで目が覚めた。それがアラガミの襲撃だと気が付くのにさほど時間はかからず、三分後には簡易食料をおなかに入れながら着替えを済ませていた。
「神楽、起きてるか?」
程なくしてソーマが訪ねてくる。彼も同じように起きたのだろう。
「準備もできてるよ。」
言いつつドアから走り出て、エレベーターのボタンをやや乱暴に押す。
「……あいつだと思う?」
「捨て切れねえな。」
エレベーターが到着する。乗り込むと同時にサクヤさんが部屋から出てきた。
「ごめん。お待たせ。」
「早く乗れ。……いい予感はしねえ。」
ぴりぴりとした雰囲気を醸し出しつつソーマが言う。
エレベーターは一旦新人区画で止まった。乗ってきたのはアリサとコウタ。
「お。みんないるじゃん。」
「コウタが起きたのが一番奇跡です。」
「……ヒデエ……」
二人ともある程度は眠れているようだ。時間が時間だけに不安だったけど、これなら何とかなるだろう。
エントランスに着く。ドアが開くと同時に、ツバキさんが声をかけた。
「悪いがブリーフィングを行っている暇はない。手短に話すぞ。」
各々が頷くのを確認するやいつもより速いペースで話し始める。
「たった今、東西南北全てのゲート付近をヴァジュラが破壊。侵入した。現在東西、及び北地区の防衛を当直の第二から第四部隊で行っているが、残り二部隊が偵察任務で留守にしている。よって、第一部隊は南地区の防衛に当たれ。また……」
ツバキさんがほんの一瞬だけ躊躇った。が、すぐに取り直して話を続ける。
「お前達が抗戦した例のアラガミ。インドラと誇称されたアラガミの反応を検知している。本アラガミは高度な知性を有していると見られるため、遭遇した場合は……」
そこでどこか自嘲するかのような表情を浮かべ、すぐに次の言葉を発する。
「ふっ……お前達に言ってもどうしようもないな。何としても潰せ。以上だ。行け!」
「了解!」
……これが、千載一遇のチャンスだ。たぶんサクヤさんも、そう思っているのだろう。
*
豪雨の降り注ぐ外部居住区を走る。極東支部中央施設からは約三百メートル。
「残り百メートル。その先の路地を右に折れた位置で会敵します。」
ヒバリさんからの通信を頼りにヴァジュラを発見する。
「各個攻撃!三分で終わらせるよ!」
威嚇しているヴァジュラの顔面へとソーマ、マントが持ち上がって無防備になっている腹部へアリサ、前足へは私がそれぞれ仕掛ける。サクヤさんとコウタは尻尾を狙ってバレットを放った。
……が。
「なっ……」
「切れない!?」
「こっちもだ!弾が弾かれた!」
「レーザーも……」
「胴体も無理です!」
誤認とも攻撃が弾かれ、状況を飲み込めずに困惑する。どう考えてもヴァジュラの堅さではない。
……そして、そのヴァジュラが霧散した。
「えっ……?」
「……何が起こりやがった……」
文字通り、霧と化したのだ。これでは討伐も何もない。
「全アラガミの反応消失!?こんなことって!」
ヒバリさんの声がインカムから聞こえる。
「ヒバリさん!どうなってるの!?」
「わかりません……こんなことこれまで一度も……」
ヒバリさんとの会話が、極東支部に落ちた雷によって中断される。
「聞こえる!?ヒバリさん!?……電波障害かな……」
雷が落ちたんじゃあ仕方ないか。そんな風に思った矢先だった。
「リーダー!あれ!」
アリサが叫んだ。彼女が指さしているのはアナグラの施設の屋上。つまり今さっき雷が落ちた場所。
そこにいる、インドラだった。
「……ずいぶん派手なお出ましね……」
確実にこちらを見据えている。日が出ていないから前回のようにシルエットになってはいない。
「戦闘体型を維持しつつ展開!屋根の上でも何でも使いなさい!」
そういえばここまでの命令形を使うのは初めてだ。五秒もしない内に無理になるであろう関係のない思考を巡らせる。
インドラが、屈んだ。
「くっ……うう……」
目視不能な速度で突撃してきたインドラの刃を受け止めた。今度は腕を抉られないように体を微妙に捻る。
「止ま……れっ!」
盾と刃の接触点を支点に、上向きだった神機の刃を無理矢理下に向けて地面に突き刺す。ガリガリとけたたましい音を立て、後ろにあったトタン置き場を吹き飛ばしつつ止まった。
間を置かず広がっていたみんなが上からかかる。それぞれが別の場所を狙っているんだ。一発くらいは当たるはず。
……それすら、甘かった。
足の装甲が帯電し、火花が散り始めた。四人はまだ空中。
「防いで!」
聞こえたかどうか……それすらわからないほどの速度で、四肢から稲妻が走り出た。それら全てがみんなを捉えて。
轟音が響く中、吹き飛ばされる四人。それを確認した頃には、目の前のアラガミは口に雷球を作っていた。
「……やば……」
動けば切られる。動かなければ吹き飛ばされる。どちらを取るか考える間もなく雷球が撃ち出された。あの時と比べればはるかに小さいはずのそれを盾で受け止めた私は、家屋を貫通しつつ一ブロック以上飛ばされる。
「ちっ……おい!無事か!」
……怪我は……ない。打ち身は数えないけど。
「……小細工しても無駄かなあ……」
こちらを見据えながらも周りで立ち上がったみんなの動きを察知している。……別の方向から狙うだの何だの考えている場合じゃない。
「総員攻撃!」
……それでも、まずは一発。一発からでも当てなかったら、勝機なんて見えるはずもない。
私が正面から気を引き、アリサとソーマが横から切りかかり、コウタとサクヤさんが後ろから狙う。
ソーマの上段からの剣劇を左に跳びすさることで回避し、その方向にいたアリサの横薙を無理矢理上に跳び直して避ける。後ろから狙っていた二人の弾丸を足から翼を作り出して弾き飛ばし、元の地点へ戻って着地の瞬間を狙った私の神機の切っ先を前足の刃で受け止めいなす。
「くそっ……埒が開かねえぞ!」
「アリサ!後ろから!サクヤさん!グレネード試して!」
「はい!コウタ!援護お願いします!」
「任せろ!」
「了解!こっち向かせて!」
短い会話を交わしつつ動き回り、また連続での攻撃を行っていく。
右からと後ろから。それぞれで切りかかる私とアリサ。その両方を足の装甲で止め、コウタが放った弾丸を口からの雷球で叩き落とし、顔の真下から切り上げたソーマの神機を伸びた犬歯で受け……その頭が止まった。
「グレネード!」
サクヤさんの使ったスタングレネードにかかる。
「効いた!」
……元の種族が影響しているのか、倒れはしないけどふらつかせるところまではいけた。
「行きます!」
「おっしゃあ!」
まず攻撃したのはアリサとコウタだった。インパルスエッジを織り交ぜつつ連撃を加えるアリサと、その連射力をフルに活用したコウタとの攻撃がすべてインドラへと注ぎ込まれていく。
「ソーマ!私達も!」
「わかってる!」
「頭から潰すわ!」
ソーマが上段から頭を切り潰す。バスターの重量でそのまま地面へと叩きつけ、その叩きつけられた頭へとサクヤさんの神機からレーザーが発射される。
そうして更にふらつかせたところに、前足の装甲板の隙間を私が。後ろ足をアリサが切り裂いていく。それぞれが十回ほど入ったろうか。
「壊れた!」
「後ろ足もいけました!」
前足の結合崩壊。機動力を潰すには十分かつ、相当なダメージを与えられている証だ。アリサの声も後に続く。
「神楽さん!聞こえますか!」
そうこうしている内に通信が回復した。ヒバリさんの声が豪雨の中をかい潜るように耳に入る。
「聞こえてる!通信回復したよ!」
雨の音に負けないように叫びつつ少し距離をとる。いくらダウンに近い状態と言っても、このインドラを前にしながらいつも通りに通信を交わせる自信は欠片もない。
「今その地点に向かって、別種のアラガミが進行中です!数え切れません!」
「……え……?」
唐突なヒバリさんの言葉に動揺した。別種の数え切れないほどのアラガミが進行中……そんなのに今来られたら……
「他の部隊は!?こっちは絶対無理!」
「第五、第六部隊がすでに交戦中です!第二から第四部隊も出現したアラガミの方へ向かっていますが到底押さえ切れません!」
「何とかして数を減らして!」
どうにかしないと。ただそう考えていて……それに気を取られすぎていた。
「神楽!」
「っ!」
ソーマの声で我に返り、ほんの数メートル前から突進してきているインドラを見た。
「くあっ……」
刃をかわすことは出来たものの、脇腹に頭突きを食らう。吹き飛ばされた体が次に感じたのは背中に打ち当たる二本の刃の腹。……吹き飛ばないように押さえられたようだ。
気を失いそうになり、何が何だかわからないままに雷球を浴びせられた。それが直撃した右肩にすさまじい暑さを感じながら他のアラガミの声を耳にする。その声が終わらないほどの時間で家屋に突っ込んだ。
「うあ……っつう……」
右肩を火傷している。神機をちゃんと振れるかどうか……
向こうでは戦闘音が続いている。早く行かないと。その考えだけが頭をかけ巡り、左手を支えにしながら立ち上がろうとし……何かを手に取る形になった。
「……うそ……まさか……」
転がっていたのは複合コア。この間榊博士に渡したものとは違うが、間違いなく誰かが作ったコアだった。
周りを見ればありとあらゆる機材が並んでいる。それらは全て、タツミさんを助けに行ったときに見たものと同じだった。
「……」
泣き出しそうで、でも涙が出なくて。そんな私の目に見えるのは、吹き飛ばしてしまった家屋の壁の穴の向こうの、多数のアラガミ。
「……もういいよ。こんなの……もういい……」
コアを神機で喰らった。悲しくなりそうなほどに体中が活性化していく。
床を蹴って外へ飛び出す。途端に大型から小型まで多数のアラガミを目の前にする形になった。
でも狙いはそっちじゃない。
後ろの屋根の上にいたオウガテイルが私が向けた背中へと突っ込んできたのをそちらを見ずに片手で切り裂き、浮かび上がった上半身を捕喰させる。
「インドラは……」
ソーマとアリサがそれぞれ左右の前足を狙い、遠距離からは胴体へと弾丸が降り注いでいる状態。それらの攻撃のいくつかは、インドラをしっかりと痛めつけていた。足を壊したのは意味があったようだ。
「ソーマ!アリサ!」
たった今捕食したばかりのオウガテイルのアラガミバレットを二人へ受け渡す。
「助かる!」
「よし!これで!」
近距離から三人で本気で攻めていける。ここからは、もう逃がさない。
……そんな風に勝ち気になったのがいけなかったのかもしれない。
「……えっ?」
走り出し、後ろのアラガミから距離が少し離れたとき……
その場所に雷が落ち、同時に黒く光る霧のようなオラクル細胞がインドラへと流れていった。