GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
↑前回の後書きからテンションが戻っていない奴。
ドレス
「さてと。」
とりあえずコーヒーを飲もうと思う二日後の任務終わりの午前十時である。
なんでもリッカさんが一肌脱いだらしく……というか博士にそうせざるを得ない指令を受けたらしく……シオの服が完成したのだという。アラガミ素材で作ったものだとか。……まあ、リッカさんが、というより……私の服を作った人でもあるあの桐生さんに手伝ってもらったリッカさんが、ということらしいけど。アラガミ素材での縫製ができるのは、この極東支部には桐生さんくらいしかいないのだとか。
「どんなのに仕上がってるんだろう……」
なんかあの二人が作ったって……ものすごくとんでもないのになってる気がする。
*
とりあえず研究室へ。何せ暇なのだ。
「はーかーせー。シオにはもう着せたの?」
扉を開けつつ聞く。……いつも通り、コンソールをいじっている博士がいるだけだったけど。
「いや。今はまだ作った服に慣れてもらっているところさ。前みたいに嫌がって逃げ出されたらかなわないからね。」
「そういう状況ですか。」
時間が時間だからみんなまだ来ていない。……旧市街地でシユウ堕天種二体という、元は10分で終わるはずのミッション。それが乱入してきたサリエル、帰還途中に救援要請をキャッチしてハガンコンゴウも潰しに行って……結果、やばい任務を受けたときと変わらないほどの時間がかかってしまった。……アラガミに好かれても嬉しくないの!ってかんじで本気を出したものだから……一瞬で終わりましたとも。
「今回の服はずいぶん気に入っているみたいだから……このまま着てくれると嬉しいね。」
「へえ……」
彼女がいるであろう部屋を見る。防音だから中の声とかは聞こえないけど、その服をちょいちょい突っついている光景が目に浮かびそうだ。
「とりあえずみんなが来るまで待っているといい。まだしばらく出ては来なさそうだから……おや?」
モニターを見ていた博士がそんな風に言ったのとどちらが早かったか。プシュッという音を立ててシオの部屋の扉が開いた。シオのことを知らない人がいなければロックは解いてあるらしいから、きっとシオが自分で開けたのだろう。
「あ!」
「ほう。予想より1735秒も早い。気に入ってくれたかい?」
出てきたシオを見て私と榊博士はそれぞれに反応する。
白を基調とし、何ヶ所かに装飾をつけてあるシンプルなドレス。彼女の肌とほぼ同じ色であることも相まって、独特な美しさと可愛さを持っている。
「にあうかー?」
満足そうに聞いてくるシオ。
「似合う似合う!」
「うん。予想以上の仕上がりだ。後で二人にお礼をしないとね。」
そうやって褒めれば、どこかこそばゆいかのような仕草で……
「えへへ。」
なんて笑ってみせる。……っていうか私の笑い方が移ったの?
「榊、入るぞ。」
インターホンからソーマの声がした。
「そーまだ!」
……同時にシオが駆けだしていったり。だがしかし。
「きゃあ!」
「え?のわあ!」
「あらら。」
「……はあ……」
呆れるソーマと何だか面白がっていそうなサクヤさん。理由は単純。部屋に入ったコウタとアリサがシオに吹っ飛ばされたからである。それも棚に向かって……コウタがアリサのクッションになり、そのアリサがシオのクッションになる形で……ごん!とかいうちょっと危険な音も響いた。痛そう……
「……どうやったらこう毎日毎日面白おかしく過ごしてられんだ?」
「いや今のは私じゃないですよ。」
「俺でもないぞ!前言撤回しろ!」
「しおもちがうよー。」
「お前だろ。」
ソーマに引き起こされるシオ。それに続いてアリサとコウタも起き上がる。……騒ぎながら。
「それにしても、似合ってるじゃないシオ。」
「本当。……私もこういう服、一枚くらい欲しいなあ……」
サクヤさんとアリサが感嘆の声を漏らし、とりあえず状況が収まる。アリサの場合は感嘆と言うより羨望かもしれないけど。
「ここまで来ると完全に女の子だよな。その内食べ物も同じになったりして。」
コウタはコウタで何かよくわからない感想を持ったようだ。
そしてソーマは……
「……桐生の奴……やっぱりお前のと似たような作りにしたか。縫製なんかほぼ同じだぞ。」
「そこって気にするとこ?」
「ってわけじゃねえけどな。」
そう言ってシオの頭を撫でている。
……その表情が一瞬にして固まった。というか全員が驚きで固まった。
「……歌?」
「シオちゃん?」
シオが鼻歌を始めたのだ。……っていうかどこで覚えたんだろう……
その歌が終わると、今さっき服に賞賛の意を示していたみんなが再度褒めたたえる。
「すごい……すごいじゃないですかシオちゃん!」
「えへへー。」
「本当……でも、歌なんてどこで覚えたの?」
図らずもサクヤさんが私の疑問を代弁してくれた。でもってそれに対するシオの爆弾発言。
「そーまといっしょにきいたんだよー。」
「「「「はい?」」」」
わっ……最近ハモること多いなあ……じゃなくって。
「何々?ソーマ、いつの間にそんなに仲良くなってたの?」
「……別にお前が寝てる間こいつが暇そうだったから……」
なにやら引こうとする体制のソーマ。……よし。
「アリサ!コウタ!退路塞いで!サクヤさんとシオでバックアップ!」
……ここから数10分にわたってソーマが遊ばれたのは言うまでもない。
*
そんなどたばたからしばらくして。私とサクヤさんはエントランスの二階で話していた。
「なかなかインドラの方は進みませんね……」
「そうね……まあ、この支部が攻撃されたことがないのが幸いだけど……そろそろ辛いわね。」
支部から離れた位置をただ周回する形で、進行上にいるヴァジュラ種を捕食しながら移動している。神機使いへの被害と民間人への被害は共に0。本来なら喜ぶべきことなんだけど……
「ヘリで追えるようなやつでもないのがちょっと面倒ですよ。追えるならすぐにでも出撃しちゃうのに……」
「こればっかりは、焦っても仕方なさそうね。」
インドラの移動速度は瞬間的には既存アラガミの十倍近くあり、持続的なものでも三倍にはなるそうだ。偵察班の話では、脚部から雷のようなものをブースターのように発射しながら走っているのだとか。おそらくはあのときに見た翼の出し口からのものだろう。あの出力で吹っ飛ばれたらたまったものではない。
「待つしかないんですかねえ……討伐のチャンスとか。」
「そうねえ……」
もどかしさが募る。目の前にあるのに、手を伸ばすと遠ざかってしまうかのような……
「ったあ……疲れた……」
保管庫とのゲートが開いた。出てきたのは第二部隊とエリックさん。
「お?どうかしたのか?」
「例のアラガミの件で話し合い中よ。なにも変わらないのが悔しいけど。」
タツミさんの質問にサクヤさんが答える。
「最近多いからな。あいつのせいで帰還ルートが変わること変わること。」
「今日も遠回りしてきたんですよ。おかげで別のアラガミの群と遭遇しちゃって……」
ブレンダンさんとカノンさんも口々に言う。やっぱり結構大変なことになってるんだ……が、そうとはとうてい思えない人が一人。
「まあ、この僕にかかってしまえばアラガミの群の追加など……」
「お前今日後ろから喰われかけただろ。」
「なっ!あれは華麗に油断させるための作戦であって……」
いつも通りだったんですか。
「たしか……喰わないでくれっ!って叫んでたよな。」
「そうですね……その後の記憶はないんですけど。」
カノンさんがぼそりと呟く。……人格変わって記憶がないってけっこうホラーだよ……あ、ついこの間サクヤさんも同じような状況になってたっけ。
「エリックを喰おうとしたヴァジュラテイルを切ろうとした俺を吹っ飛ばしながらヴァジュラテイルを消し炭にしていたんだが……」
ブレンダンさんが何とはなしと言った様子で言う。こういうときにそうされると、当人としては逆に恐ろしいことを知らないんだろうけど。
「えっ!ご、ごめんなさい!」
「いや別に……」
もう慣れてる。そんな言葉が聞こえた気がしたが……まあいいや。
「昨日は第三部隊がそうなったらしいです。他の部隊も遠回りを余儀なくされているらしくって……」
「まあ仕方ないって言っちまえばそこまでだな。やっぱりあれもアラガミなんだし、俺らがどうにかできるとすれば、それは討伐以外は何にもないだろ。あ、今日は解散していいぞ。お疲れさま。」
最後に他のメンバーへ声をかけるタツミさん。同じ隊長として、このリーダーシップには憧れる。
「とりあえず報告済ませてくるな。この件に関してはツバキさん達上の人らも動いてるはずだ。焦っても何もない。」
……もっと前から動いてます。とは言えないよねえ……
「そうね。とにかく、お疲れさま。」
「お疲れさまでした。」
後ろ手に手を振りつつ降りていくタツミさん。すぐ後にヒバリさんとの談笑が聞こえ始める。
「私たちはこの間以降何もないけど……やっぱりまずいわね。」
「第六部隊なんかは遭遇寸前までいったそうです。このままじゃ本当に人的被害が出ちゃいますよ。」
この間の戦闘を思い出す。……あそこまで第一部隊がやられたのは初めてだ。
その後は特に何も話さず、流れで別れた。どこか重たい空気のまま……
*
いつものごとく密談の交わされる夜のエイジス。……今回は中央部か。
「……あと少し。あとは特異点さえ手に入れば……」
「本体の方はもう完成。私の計算では、これ以上の捕食は通常のアラガミ素材で十分だ。下手にコアを食べさせたりしたら逆に狂う。」
「ガーランド。お前の協力に感謝するよ。お前がいなければこれほど早くノヴァを完成させることはできなかった。」
「自分の理論を実証するのに最適な場所を用意してもらったんだ。私の方こそ感謝します。ヨハネス支部長。」
自分の真下で交わされる不穏な会話。っていうか、この足場大丈夫だよな?いきなり崩れるなんざごめんだぜ?
「そういえば……あなたの方の研究は順調なんですか?なんでも既存のアラガミを強化したとか……」
ついさっき支部長にガーランドと呼ばれた男がもじゃ毛の科学者へと問いかける。……たしか大車とかいうやつだったな。
「まあまあだな。黒いヴァジュラを見つけたんでそいつを強化したさ。」
……黒いヴァジュラって……まさか俺がディスクを隠した奴のことか?あれは個体数っから少ないんだよな……だから選んだんだが……裏目に出ちまったか?
「出力を強化。思考を強化。その他諸々、思いつく限りの強化を施した。そしたらどうだい。化け物の完成だ。」
下品な笑い声を響かせながら四つ折りの紙を取り出す。……写真があるが……何だありゃ?完全に虎だな。尻尾が二股なのが笑えるだけの。
「こいつの制御には成功。前回のように、喰わずに戻ることはないでしょう。……支部長。あなたからもらった例のものを使わせてもらいましたよ。」
……例のもの?
「桜鹿博士の息子のコア……か。好きに使え。あれは協力の対価だ。」
「このノヴァには彼の嫁さんのコアを使ったはず……どうなるか楽しみで仕方がない。」
ってことは……複合コアか?なんか本部から資料が来てたよな……何年も前に極東支部のコア・リポジット(コアの保管庫)から盗難されたって話……ありゃ支部長が流したダミー情報だったのか?
「人が操ることのできるアラガミ……私とは違う視点からのものなのだろう?期待している。」
「これはこれは。ご期待に添えるように働きましょう。……まずは……」
大車が言葉を切る。徐々に薄ら笑いが顔を覆いはじめ……
「第一部隊から消し去るとしましょう。彼らが出てこられる十分な理由を渡して……」
ガーランドって結構使えますよね。実際にアーク計画で動いていたかは分かりませんけど。
某宣伝部長…えっと、シックザールの白髪支部長がムービー中に捕食管理をしていたって言ってますから、強制進化云々でいたんじゃないかなあ、という想像です。