GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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二日目の二つ目です。
今回…おそらくプレイヤーの皆さんはこのシーンで笑ったはず。


博士の依頼……その幾つ目か

博士の依頼……その幾つ目か

 

翌朝。

 

「ん……」

 

なんかすっごくよく寝たなあ……あれ?いつも起きたときと景色が違う?

 

「とうとう起きなかったな。」

 

ほぼ真上から声がした……?

 

「ふえ?」

 

目をこすりつつ起き上がり、なにやら座るのにちょうどいい形のベッドの上に腰掛けて……へ?ソーマ?

 

「ふええええ!?」

「……騒ぐな。」

 

え、え、えっと!?記憶が……記憶がっ!

 

「まあずいぶんよく寝てたな。ったく……そんだけ寝れんだったら普段から寝てろ。コウタにまで言われてたぞ。無理すんなってな。」

 

ソーマは落ち着いてるけど私はそれどころではない。必死に記憶をたぐり寄せてこうなった経緯を……あ、寝落ちしたのか。それも彼を枕にして。

 

「……ごめん。」

「寝顔を拝ませてもらったからな。チャラだ。」

「そこ!?」

 

……遊ばれてる気がする。実際笑ってるし。

 

「ああそれと……腕、見てみろ。」

「ん?あ、消えてる。」

 

昨日まで残っていたあの白い羽が消えていた。生えていたところには傷一つなくなっている。

 

「とりあえずこの話はおいておいていいだろ。榊から呼ばれてる。」

「……また?」

「ああ。まただ。」

 

彼が発した是非とも無視したい不吉な言……訂正。なるべくあってほしくない状況を示す言葉に反応して身構える。まあここで身構えてもどうしようもないのだけれど。

 

「行くか?用事はさっさと済ませるに限るからな。」

「気は進まないけどねえ……」

「仕方ねえさ。あいつ曰く、俺たちは共犯者だ。」

「うう……」

 

半ば強引なあの契約がまさかこんな時にまで効力を持つとは……そんな重たい考えを引きずりつつ博士の研究室へ向かうのだった。

 

   *

 

「おーっす。」

「おっす!」

「何ですかその下品な挨拶……そんなの覚えさせないでください。生物学的にどん引きです。」

「そこから!?」

 

シオのはしゃぐような挨拶とアリサの罵倒と騒ぐコウタ。いつも通りの研究室である。

 

「さてと。これで全員だね。」

 

最後に到着したコウタを見ながらそう切り出す博士。こちらもいつも通り何を考えているかが読めない微笑を浮かべている。

 

「いきなり呼びつけてすまなかったね。……僕にはどうしようもない問題が発生してしまって……」

「……すっごく嫌な予感しかしないんですが。」

「そうね……またとんでもないことをさせられそう。」

「……僕には信用って物が全くなかったんだね……」

 

アリサとサクヤさんの毒でぼろぼろになる。でも実際二人の言う通りだから何もフォローできない。

その博士が気を取り直し……

 

「……彼女に服を着せてやってくれないか?」

 

沈黙。

 

「「「「「は?」」」」」

 

そしてソーマまでハモった疑問文……というか一文字。

 

「様々なアプローチを試みたんだけど、全て失敗してしまった。僕たちが着ている服は肌に合わないみたいで……」

 

博士の言葉を遮りつつシオが自己主張。

 

「きちきちちくちくやだー!」

「……なんだかんだ言ってアラガミなところも残ってるんだね。もう人と完全に同じところまで来てたのかと思ってたよ。」

「そもそも人工繊維がうざってえんだろ。その旗は偏食因子だからな。」

「なるほど。」

 

……っていうか……まさか問題ってこのこと?意外とまともだった。

 

「まあそんなわけさ。とりあえずここは女性陣の力を借りようと思ってね。」

 

女性陣のねえ……

 

「じゃあ何で俺まで呼んだんだ……」

「ソーマは私の付き添いって形で良いんじゃない?」

「……」

 

首の後ろを掻くソーマであった。

 

「うーん……俺は役に立てそうにないし、今ちょうどバガラリーがいいところだったんだ。頼んだよ!」

 

てくてくと去っていくコウタ。その後ろから怒りをはらんだ声が飛ぶ。

 

「……逃げたわね。」

「……逃げましたね。」

「……逃げたね。」

「……逃げやがったな。」

 

四人がそれぞれの言い方で聞こえよがしに言う……が、コウタは聞こえないフリで足を速めていったのだった。

 

「とりあえずやってみましょう。コウタは放っておいて。」

 

サクヤさんが切り替えるとアリサも考え始める。

 

「そうですね。……天然繊維とかなら大丈夫でしょうか?」

 

ちなみに話には加わる気のないソーマと会話を興味津々で聞いているシオと会話内容に興味津々な博士も半分放置である。

 

「天然繊維かあ……二三着持ってるけど、着せてみる?嫌がらなかったら、後でシオ専用のを買ってくるとしてさ。」

「あ、じゃあお願いします。」

 

アリサの言葉を受けてとりあえず服を取りに行くことにする。さて……着てくれるといいんだけど。

 

   *

 

五分後。

 

「シオー。ちょっとおいでー。」

「なーにー?」

 

サクヤさんに呼ばれて私たちと一緒に観察室、通称シオの部屋へ入るシオ。

 

「ねえねえシオ。これ着てみない?」

 

彼女に服を広げてみせる。目の前に下げるような形。

天然繊維は今ではすごく貴重だ。私が持っているのはお母さんのお下がり。シャツとスカートだ。よっぽどでないと着ない……というかよっぽどでも着ないレベルである。まあ私の肌に合わないものだったこともあるけど。……偏食因子を組み込んだ今の服がとても着心地が良いことは気にしないことにする。

 

「……んー……」

 

手だけ伸ばして触る。……その直後。

 

「ちくちく!やだ!」

「え!これも!?」

 

予想外の反応。天然繊維も無理って……

 

「……子供は素直じゃないといけないのよーん?」

「あの……サクヤさん?」

 

何か企んでいるような口調になったサクヤさんをいぶかしむアリサ。次の瞬間のサクヤさんの行動は予想もつかず……

 

「慣れるまで我慢しなさーい!」

「え?」

「さ、サクヤさん?」

「やだー!」

 

がしっと後ろから抱きしめて動けないようにするなんて……肉食系なのかな?

 

「ささ、神楽ちゃん。着せちゃって着せちゃって。」

「えーっと……無理矢理はさすがに……」

 

躊躇う私とは裏腹のアリサもいたりして……

 

「でもありかもしれないですね……」

「あれ?実はアリサってS?」

「ちょっとリーダー!何でそうなるんですか!」

 

……そんなふうに騒いでいたのが間違いだったのかもしれない。

 

「いーやーだー!」

 

右手を神機にしたシオ。その先端から弾丸が飛び出し……

 

「わわわ!」

「きゃあ!」

「うそ!」

 

   *

 

シオが部屋に入っていった後。

 

「それにしても……君たちには本当に驚かされるよ。」

「あ?」

 

榊が突然脈絡なしに話し出した。

 

「とつぜんアラガミと共同生活を送ることになったというのにこの短期間で順応している。その柔軟性が、予測できない未来を生むのかもしれないね。」

「……てめえの方が予測できねえな。シオに何をするつもりで捕まえたんだ。」

 

一瞬だけ驚いたような表情をし、すぐに元のように話し出す。

 

「前にも言ったじゃないか。単純な興味だよ。僕は、彼女に何もしないし、僕は、君たちとシオが一緒にいてくれればそれで十分なのさ。」

「……僕は、か。」

 

それもそうだろうな。そう自己完結させる。

……部屋に轟音が響いたのはその直後だった。

 

「……何だ?」

「さあ……」

 

すこししてから土煙と共にせき込みながら三人が出てくる。

 

「シオちゃんが……けほ。」

「扉を壊して外に……」

「っていうかサクヤさんがあ……けほ。」

 

順番に言っていく。……何があったかはだいたい予想できるが。

 

「……本当に……予測できない……」

「そんなこと言ってる場合か。連れ戻すぞ。」

「分かってるよお……ひゃあ!目に砂があ!」

 

……自分で目をこすって自分で目に砂を入れちまってんじゃねえのか?

 

「厄日だな。」

「言わないでよお!うう……目が……」

 

……厄日だな。

 

   *

 

「ったく。どこまで行ったんだか。」

 

研究室を片付けている神楽とサクヤを除いた三人で手分けして廃寺内を捜索。……エリアとしては旧工場、旧市街地に続いて三つ目となるここに着いてすでに20分近くが経過したというのに全く見つかっていない。

そうして再奥の本殿に入る。

 

「……おい。いるんだろ。」

 

探していないのはここだけだ。

 

「……いないよー……」

 

少し笑ってしまう。奥の壊れた仏像の裏だろう。

 

「かくれんぼは終わりだ。帰るぞ。」

「きちきちちくちくやだー!」

 

白い腕が仏像の裏に見え隠れした。どことなく間の抜けた回答ばかりが帰ってきているがまあそんなものだろう。

 

「……結局はアラガミか。」

 

どこか自分を指すかのように思える自分の発言。

 

「そーま、もうおこってない?かぐらも?」

「あ?」

 

突然全く違う話題に変えるシオ。

 

「そーまもかぐらも、きのう……いやそうだった。」

「……昨日……か。」

 

三人で任務に行き、シオに完全なアラガミとして接してこられた。確かに居心地は悪かったが……

 

「もともと怒ってねえよ。安心しろ。」

「そっかー。」

 

二人がいるであろう南の方へ振り向く。俺が目を離したのを確認したからか、軽い足音が近づいてきた。

 

「おーい!シオー!」

「シオちゃーん!」

 

アリサとコウタの声が聞こえる。

 

「……考えてもみろ。」

 

彼女が真横に来たのと同時に話す。

 

「神楽はもとより……あいつらも、予防接種程度とはいえ偏食因子を埋め込んでんだ。俺以上に救われねえっつっても良い。」

 

特に何か言うでもなく聞いていたシオが口を開いた。

 

「うん。しお、わかるよ。みんなおなじだって、かんじるよ。」

 

珍しく……というより、初めて人間くさいことを言ってのけた。おもしろい奴だ、と……最近はいつもそう思う。

 

「……ったく……」

 

くしゃくしゃといつもより強めに頭を撫でる。

 

「?……???」

 

何がなんだか分からないとでも言うような様子だ。……まあ。

それでもいいか。

さっさと帰ろう。少なくとも、帰る場所ならあるんだ。

 

   *

 

「まったくもう……」

「つ、疲れたー……」

 

帰ってきたソーマ達。……というかソーマとシオと死体が二つ。

 

「そんなに疲れたの?」

「エリア三つはいくらなんでも疲れますよ……そ、それじゃあ私はもう寝ますね……」

「お、俺も……あとよろしくなあ……」

 

二人がそれぞれの自室へと帰っていく。

 

「と、ところでシオ?」

「……」

 

さて、シオはといえば……

 

「……さくや……おこってる……」

 

明らかに怒っているサクヤさんに怯えて私の足に後ろからしがみついて隠れようとしている。が……がしかし、だ。

 

「いや別にシオに怒っているんじゃないんだから大丈夫……」

「……こわい……」

「……はあ……」

 

何があったか。それは至って単純である。

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___

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「サクヤ君、とりあえずこれをそっちに運んでくれないか?神楽君はそこの箱を中に頼むよ。」

「はいはい。」

「あ、これですか?」

「うん。それだ。」

 

順調に片付けが進んでいく研究室。その中をサクヤさんの怒りを含んだ呟きが静かに、ただ静かに満たした。

 

「……博士。何ですかこれは?」

「どうかしたのかい?サクヤく……」

 

博士が唐突に固まる。サクヤさんが持っていたのは……何あれ?なんとなく腕輪に似た形だけど、それと比べると少し太めでかつ長い。あれなら二の腕が半分くらい埋まるだろう。

 

「一緒にあった冊子に腕輪信号云々と……ぜひ詳しい説明を聞きたいです。どうぞ講義を。それから実際の使用者を私が知っている人物の範囲内でお願いいたします。あ、当然現在使用中の方を。」

「いや……えっと……」

 

サクヤさんが今さっき持っていた箱の中を見る。底の方に冊子が一つあるだけだ。サクヤさんが持っている謎の機械Xとその説明書が入っていた、というあたりなのだろう。

 

「……えっと?……本機は神機使いの腕輪信号を増幅させる物の試作品である。確認のため、信号を隠す、通常、信号を増幅する、の三段階を選択できるように設計されており……ほうほう。博士。これはいったい何なのか私も気になりますね。ぜひさっきの条件に私にも分かる人、というのを追加する方向で。」

「あ……えっとだね……いやその……」

「「は、か、せ?」」

「……はい……」

 

二人で虐めたかいあってか陥落する榊博士。それから話したところによると……

 

「リンドウが支部長に対しての調査を行うように本部からの指令を受けていた、ですって?」

「でもってそれをツバキさんも知ってると?」

 

……サクヤさんと私が今日中にツバキさんのところへ行こうと決めたのはこれから間もなくであり……

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___

_

 

「サクヤさんは今も絶賛憤慨中なのでした。」

「……あのやろう……何やってんのかと思ったらエイジスでのんびりしてやがんのか……」

 

ちなみに今の話し中にシオは部屋に。サクヤさんは……

 

「さ、神楽ちゃん。行くわよ。」

「私にまで怒らないでください!こ、怖いです!」




原作ストーリーでは女性なのに手伝わない女主人公。…あれですね。女性として数えられていないフラグですね。

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