GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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大型投稿二日目!…七話投稿はやりすぎな気がしますがお気になさらずに。
片手でキーボードな電車生活もやっと収束したわけですから、ゆるーくやっていきたいですね。
…大型投稿やってるやつの台詞じゃねえよ?
…お、お気になさらずに…


“アラガミ”

“アラガミ”

 

「状況の説明を求めます。」

「原因不明だ。」

「状況の、説明を求めます。」

「見ての通りだ。」

「……だけ?」

「あの変態が推論しか立ててねえ。」

 

彼の言葉を聞いて、乗り出していた体を戻す。

新種のあのアラガミとの戦闘から二日。私も回復したから、あれによる被害は片付いた……はずだがしかし。

 

「何なのこれ……」

「全く分からねえ。」

 

包帯を取った左上腕。つまるところは、前回の戦闘で私が一番深手を負ったところ。そこだけに謎の羽がびっしり。10センチ弱で真っ白な何の変哲もない羽が、私の左腕から……生えている。

 

「榊が言ってたことだけどな……」

「うんうん。」

「お前の体が限界近くまで消耗したことでお前のコアが反応し、負傷部位の修復に動いた結果だろう、だとさ。これまでそれがなかったのは、そもそもでコアが休眠状態にあったからかもしれねえらしい。まあたしかに、リンドウの時やらこの間倒れた時やら……なんだかんだでコアが活動し始める要素はあったな。」

 

……はあ……

 

「結局のところ正確には何も分からない、と。」

「ああ。」

 

っていうかこのままだといろいろ面倒……

 

「一過性の物だってのは分かってるから安心しろ。結合が弱い。」

「あ、じゃあ大丈夫だね。」

 

よかったあ……今ですらアラガミ隊長っていう変な二つ名が付きそうだったんだもん。これで本当にアラガミの部位が生えちゃったら……よし。考えないようにしよう。

 

「神機の補修も済んでるはずだ。行きたければ任務に出てもいいはずだが……どうする?」

「じゃあ軽めの行こう?」

 

本当に軽めだった試しがない、とヒバリさんに言われてしまっているのだが。

 

「残念ながら……榊から呼ばれてんだ。」

「え……」

 

……ごめんなさいヒバリさん。また無理しそうです。

 

   *

 

エントランスに電子音が響いた。カウンターの上、備え付けのコンソールへの無線受信音だ。

 

「アナグラです……あ、タツミ。終わったの?」

 

無線の向こう側から聞こえたのは彼の声。こうして、任務地から無線が入ったときに聞く彼の声は何だかいつもと違っていて……何だかかっこいい。

 

「あー……まあ俺の方の任務は終わったんだけどな。とりあえず先に報告だ。」

「報告?」

 

報告はレポートで、と相場が決まっているけど……

 

「例の新型がいる。ほら……第一部隊が戦ったやつ。」

「え?またあのアラガミが?」

 

上にいたサクヤさんが降りてくる足音を聞きつつ、急いで彼がいるはずの廃寺付近をサーチする。……反応は第二部隊の三人のみ。

 

「今一番上の寺の屋根から確認してるんだ。目測で廃寺南一キロくらいだと思う。」

「ちょっと待って。……うん。反応確認。」

 

距離は830。気付かれることはないだろうけど、このまま回収を出すわけにはいかない距離。

 

「ちょっとまずいわね……タツミ、絶対に見つかったらだめよ。あいつとむやみに戦ったら死にかねないわ。ヒバリちゃん、ナビゲートしてあげて。」

「分かってるさ。ヒバリ、頼むぞ。」

「もちろん。任せて。」

 

第一部隊が初接触してからというもの、だいたい三時間に一回のペースでアナグラ周辺であのアラガミが観測される。幸いにもコア反応が強いため、ここから接触せずに済むルートを指示できるのだが……

 

「そろそろ根本的な解決が必要だな。」

「え?あ、教官。」

 

いつの間にかカウンターの前に立っていたツバキさん。コンソールの画面を見続けていたせいで気が付かなかった。

 

「やつの呼称などが本部で決定した。対応策などはここに一任されているが……まだ考えられるような状況ではないだろう。」

「そうですね……まだ第一部隊の初交戦例しかありませんし……あ、タツミ。一時の方向に進んで。」

 

なんとなくアナグラを中心とした円を描くように行動することだけは分かっている。極東支部を狙っているのかは分からないけど……

 

「神楽達はどうした?」

「神楽ちゃんとソーマは博士からの任務で空母。コウタとアリサちゃんは偵察任務に出ています。戻ってくるにはまだ少しかかると思いますけど……」

「そうか。……神楽が戻ってきたら、暇なときにお前と私の部屋に来るよう伝えてくれ。」

 

ツバキさんが言った意外な言葉。自室に来るように、なんて初めてかもしれない。

 

「……あの愚弟のこともあるからな。あいつ個人に言う方が良いだろう。」

「リンドウの……ですか。」

 

サクヤさんがピクッと一瞬だけ体を震わせる。リンドウさんの話題になると最近はいつもこんな感じだ。

 

「未だに行方も分からないが……いくつか伝えるべき事があるだろうからな。」

「……何か、知っているんですか?」

「ここでは言えん。……知っているとは言っても、ほんの少ししかないのだが。」

 

複雑な表情を浮かべるサクヤさん。そうこう話している内にタツミ達が安全圏に出る。

 

「タツミ、もうアナグラに直進しても大丈夫。少し進んだところに回収ポイントを設定するから。気を付けてね。」

 

……本当に。せめて帰投時の対策だけでも、いい加減何とかしないと。

 

   *

 

「やっと終わったあ……」

「疲れさせやがる……」

 

任された任務はボルグ・カムラン一体の討伐。相当軽い任務と言えるだろう。

 

「イタダキマス!」

 

……シオがいなければ、だけど。

 

「……いつもの倍は疲れたよ……」

「榊の野郎……こういう時に限ってこいつのお守りを任せやがって……」

 

口々に文句を言う私たち。シオはのんびりご飯中。

 

「お?」

 

そんなところに無線が入る。ヒバリさんだ。

 

「はいはい。もう任務は終わってるよ。」

「いえ。その話ではなく……例のアラガミなんですが、今アナグラのレーダーで反応を捉えているんです。」

「え?そうなの?」

「はい。とりあえずはち合わせないようにルートを指示するので、移動してもらえますか?」

 

いつもと声の様子は変わらないから問題は起きていないみたいだ。

 

「分かった。ちょっと待ってて。」

 

無線をいったん切ってソーマの方を向く。同時に彼から怪訝そうな声が発せられた。

 

「何かあったのか?」

「あのアラガミがアナグラの近くにいるんだって。」

「またか……」

 

顔をしかめてため息をついて。彼も何度かこういうことがあったって言ってるし、いい加減うんざりしているのかな。

 

「かぐらー。そーまー。」

「あ?」

「ん?」

 

そんな話をしていたところにシオから声がかかる。何かと思って振り返って……

 

「いっしょにたべよー?」

 

固まった。

 

「いや一応だけど人なわけだから……」

「さすがに喰わねえな……」

 

まあ確かに私たちは半分以上アラガミだし、シオがこんな風にいうのも間違いじゃないと思うけど……

 

「でもふたりのなかのあらがみは、たべたいーっていってるよ?」

「……」

「……」

 

顔を見合わせる。自分では全く感知できない感情。自分がそう感じているかどうかすら分からない。

どれだけ自分がアラガミであることを受け入れていてもこうストレートに言われたら……なんとなく居心地が悪い。

 

「シオ。早く喰べて帰ろう?私たちは大丈夫だから。」

「そうかー。じゃあ、イタダキマス!」

 

おいしそうに食べ始めるシオと、どんどん減っていくボルグ・カムランの死体。

……彼女からは、私やソーマも、こうしてアラガミを食べる一個体に見えているのだろうか。

 

   *

 

「やっぱり同じなのかなあ……」

「何がだ?」

 

帰り着いて、結局私の部屋で二人で過ごしていた。

 

「私たちとシオのこと。はいコーヒー。」

「悪いな。」

 

テーブルの横に立っているソーマへコーヒーを渡してから座る。なんだかこうしてこの部屋で話すのも久しぶりだ。最近はエントランスとか病室とかが主だったし。

 

「……人間に産まれて、途中でアラガミになってんだ。アラガミの割合はあいつの方が強いみてえだが……それだけにアラガミの性質が強く出てる。個体差は認識し始めたようだがな。」

「個体差?」

「俺はお前より肌が黒い。お前は俺よりも線が細い。そういう個人個人の差だ。アラガミの割合がどこまでいっているか、もな。」

「なるほど。」

 

意外と博士と話しているようだ。もしかして私が病室で寝ている間に聞いてたのかな。

 

「……受け入れたつもりでも、なんだかんだ直接言われると気分はよくねえんだな……」

「そりゃそうでしょ。……まあ……今日初めて知ったけど……」

 

認めていないとかではない。単純に慣れていないのだと自分では思う。いつも周りから人として扱われているのはやっぱり大きいのが起因するのだろうが、いきなりアラガミとして見られたら困惑するようだ。

 

「まあ、この話は終わりだ。考えてもこればっかりはな。」

「およ?結構早く割り切ったね。」

「すぐに自分で何とか出来るもんじゃねえからな。」

 

そう言って笑う。柔らかくって、暖かな表情。サクヤさんがいたずらっ子みたいって言ったり、コウタが取っつきやすそうな顔って言ったり、アリサが一緒にいてほしくなるって言ったりする、私が大好きな表情。

……どこかお父さんの面影を重ねてしまうのは……私がまだ、ちょっと甘えていたいからなのだろうか。

 

「……」

「?どうかしたのか?」

 

見つめている私に気が付いて問いかけ、ソファーに座る。

 

「何でもないよー。」

 

ゆっくりとソーマに抱きついた。

 

「……ったく。何甘えてんだよ。」

 

一瞬驚いたようにして、すぐ後にはコーヒーを持っていない方の手で頭を撫でてくれる。

 

「いいの。」

 

やっぱり、安心する。

 

   *

 

部屋の扉がノックされる。

 

「おーっす。博士っから届け物……あれ?」

「リーダー?入りますよ?」

 

返事がないのを不思議に思ったのか、扉の開閉ボタンをボタンを押してみたようだ。鍵はかかっていない。

 

「神楽ー……ってそういうことか。」

「あ……寝ちゃってたんですか。」

「悪い。できたら静かにしてやってくれ。」

 

小さな寝息をたてつつずいぶんと嬉しそうな顔をしながら眠っている神楽。病み上がりでシオの付き添いなんてものを任されたんだ。こいつでなくても疲れはてるに決まっている。

……ソファーの上で抱きついたまま離れねえのには参ったが。

 

「いやあ。相変わらずお熱いことで。」

「コウタ。明日俺とお前だけで任務にでも行くか?禁忌種を十頭ほど任せてやる。」

「……冗談だって……」

 

いつもいつもしょうもねえことを……そう思いつつも、こいつの明るさには時に救われる。

 

「とりあえず、リーダーが起きたら渡しておいてください。この間の戦闘で分かった事をまとめた物だそうです。」

「分かった。にしても榊のやろう……興味のあることだけは早えな……」

 

ついこの間の戦闘データをもうまとめたか。他の仕事も、そのくらいの早さでやってほしいんだがな。

 

「それと、そろそろ支部長が帰ってくるらしいんですけど……シオちゃんの服を何とかしよう、とか言ってました。」

「あいつの服?」

 

そういえばただの布切れしかねえんだったか……

 

「っていうかあれでよく保ってたよな。ただのぼろ切れじゃん。」

「だから調達するんですよ。……っていうか普通の服を着てもらうらしいですけど。」

 

神楽は神楽でこれだけ話していても起きる気配がない。それに気が付いたのか、アリサが部屋を出る動きを見せる。

 

「じゃあ、そろそろ戻りますね。」

「ああ。お前等もさっさと休めよ。」

 

そう言葉をかけると、コウタが彼にしては意外なことを言った。

 

「それ、神楽にも言っとけよ。俺からも言ってたってさ。」

 

珍しく真面目なことを言い残して出ていく。……アリサが面食らっていたのも当然なほどに。

 

「……ったく。」

 

気が付けば俺も笑っていた。

 

   *

 

「ちょっと意外でした。」

「へ?何が?」

 

リーダーの部屋を出てから、私とコウタは新人区画のエレベーター前で話していた。

 

「コウタがあんなに気の利いたことを言った事がです。いつもは……どうしようもないほどバカなことしか言わないのに。」

 

がっくりと肩を落とす。そういうことを言いたい訳じゃないんだけど。

 

「悲しまないでくださいよ。これでも褒めてるんですから。」

「……バカなこと言ってる、って褒め言葉かな?」

「そうですね……世間一般では貶し言葉です。」

「ちょっ……フォローしといてそれ!?」

 

いつも通りの反応だ。

 

「嘘ですよ。」

「?」

 

訳が分からないと言いたいんだろう。実際、私もさっきみたいに言われてすぐ理解できる自信は欠片もない。

 

「まあ、いっか。」

 

でも、彼は突然そんな風に切り替えた。

 

「前にも言ったかもしんないけど、神楽って俺の同期なんだよ。それに今は大事な仲間だろ?……うまく言えないけどさ……やっぱ、無理はしてほしくないし……なんつーか……」

 

言葉がうまくまとまらない、と言った様子で思案顔になる。しばらくしてから再度口を開いた。

 

「うん。ソーマほど出来るかって聞かれたら無理だろうけど……俺たちが支えられるところは何が何でも支えたいって、あいつが無理してるの見るといつもそう思うんだ。大変だけどさ。」

 

とくんと、心臓が大きく鼓動を打ったのが自分でもわかった。

……かっこいいな。なんて、そんな風に考えている私。遊んでいるように見えて、本当はしっかりしていて……自分を自分で持っている彼。

 

「……もう。反則ですよ?」

「?」

 

そういう彼の前にいる素直じゃない私は、いつも頬が赤くなっているのを悟られないようにしてしまうけれど。




…いちゃこらいちゃこら…ほんとに仲のよろしいこと…おっとソーマにぶっ飛ばされてしまう。
えっと、次はシオの服を何とかしようの回ですね。

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