GOD EATER The another story.   作:笠間葉月

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大型投稿一日目最後の投稿。
ひとまず戦闘から離れ、アナグラの中での話に戻ります。


不穏の刻

不穏の刻

 

……どこだろうここ……真っ暗だ。

 

「……要は完全に理論値か。」

「そりゃあ現物がないわけだしな。対人適合可能なやつは、これまでの試作品と合わせて考えるとこうなりそうってこと。まあそっちはいいんだ。用があるのはさっき見せたやつでさ。」

 

聞き覚えのある声。楠さんとお父さんだ。……ん?じゃあこれは夢だったりするの?

 

「……あれをどうしろと。人との適合がないタイプなんだろ?」

「どうしろって言うんじゃなくって、どうしてみたいって聞きたいんだ。極東最高の整備士さんに。」

「言い過ぎだっての。」

 

声だけでも照れているのが分かる。

 

「そうだなあ……あれだけ良い数値が出てるなら、今までになかった神機を作ってみたい、ってのはあるねえ。」

 

興味津々、と言ったところだろうか。声が弾んでいる。神機の整備士としてはどうしても楽しくなるんだ、といった感じだ。

 

「……やってみるか?」

 

お父さんの悪巧みをしているときの声。いたずらっ子みたいだっていつも考えていた。

 

「……マジで?」

「さっきのタイプの完成品とデータをくれてやろうではないか。」

「ありがとうございます!」

 

……だめだこの二人。

 

「んで?今日は泊まってくのか?」

「いやいや……そんな良い物を貰えるんだったら速攻で帰って……」

「だと思ったよ。ま、リッカちゃんによろしくな。」

 

しかし相変わらず仲良いなあ。ちょっと笑っちゃうほどに。

 

   *

 

「……?」

「起きたか?」

 

声がする。寝起きでぼんやりする頭を回すと、何カ所かに包帯を巻いて立つソーマを見つけた。

 

「ん?あ、ソーマ。おはよ……?」

 

病室か。……って、病室!?

 

「あのアラガミは!?……っう……」

 

飛び起きかけた瞬間、ベッドからほとんど浮いていない時点でとてつもない目眩に襲われる。

 

「起き上がるな。今の今まで気絶してたんだぞ。」

「う……ん……」

 

ぐわんぐわんと揺さぶられているかのような気持ち悪さ。彼は私を寝かせてから口を開いた。

 

「あのアラガミだったら俺らを喰わずに行きやがった。捕喰対象から外れてんだろ。」

 

何とも言えない表情で語る。実際、人を捕食対象にしないアラガミは珍しいのだ。

 

「お前があの雷球を止めたのはいいが、さすがに防ぎきれなかったからな……全員で麻痺してる間に、ピターの死体を喰いつくして逃げた。」

「喰った?」

「ああ。きれいさっぱりな。」

 

意外だ。明らかに同種だと思ったのに……

アラガミの偏食傾向は、いかなる場合でも同種の捕食を避けるように働く性質がある。それゆえに同種に近いピターをあのアラガミが補食するのはそうそうあり得る話ではないのだ。

 

「……まあ、とりあえずはいいや。みんなは?」

「サクヤは部屋だ。あとの二人は研究室にいる。」

 

コウタとアリサが研究室に、っていうのはいいとして。サクヤさんは部屋かあ……大丈夫かな?

 

「お前はもう少し寝てろ。怪我は浅いっつっても無理しすぎだ。」

 

ちょっと厳しい口調。心配をかけてしまったんだろう。

 

「う……ごめんなさい……」

 

彼から目を離した私。その頭に向かって彼の手が動き、少しびくっとした私を優しく撫でる。顔を上げれば微笑んでいる彼と目が合った。

 

「何かあれば起こしてやるから。」

 

まったく。こういう時に急にかっこよくなるんだもんなあ……

 

「うん。ありがと。」

 

今の状況では不謹慎かもしれないけど、幸せだなあ、って思うよ。

 

   *

 

目の前でシオちゃんが遊んでいる。こうして見ていると、本当に人間の子供に思えるからすごい。

 

「ふうむ。じゃあ、そのアラガミは雷を自分で集めて使ってきたのかい?」

「集めて、なのかは分かりませんけど……最低でも何らかの用途に使っていたことは確かです。」

「やばかったよなあ。いきなり跳んだと思ったらさ、そこからあのとんでもない攻撃してきたしさあ……つーか速かった。ガチで。」

 

未だ興奮冷めやらぬ、といった様子のコウタ。呆れることは呆れるけど確かに彼の言うとおりだ。

 

「中遠距離で撃ってたんですけど……目で追うのが精一杯でした。」

「アリサのとこまで一足だったもんな。十メートルは軽く離れてたのに。」

 

……それだけじゃない。最初、あのアラガミは前足の付け根にあった刃で攻撃してきたのだ。その攻撃を避けた方向から足が吹き飛んできた。……動きを完全に読まれていた、ということなんだろう。

 

「僕はそのアラガミの強さよりも、君達を捕喰しなかったことの方が興味があるね。」

 

博士が言ったのはそんな言葉。

 

「基本的にアラガミは人を補食対象として捉えている。そうでないのはシオだけだと思っていたんだけどね……」

「んー?なんだー?」

 

シオちゃんはいつもの調子でごろごろと転がっている。その頭を撫でつつ博士にさらに聞いていった。

 

「まさかあのアラガミが人からなったものだって言うんですか?」

「そうは言わないさ。ただ、いったい人以外の何に偏食傾向が向いているのか気になるんだ。……同種すら捕食するという点でも特殊だからね。」

 

いつものように怪しげな笑みで語る。確かにあれは驚いた……それにしてもこの博士は相変わらず変なところを気にする。

 

「これは僕の興味だし、探ってくれとは言わないけど……もし分かったら教えてほしい。」

 

ぼーっと聞いていたコウタが口を開き答える。

 

「はあ……でもそういうのは神楽に言う方が……」

「……まさか今リーダーに余計なこと考えさせようって言うんですか?怪我してるんですよ?」

「あ、そっか。」

「……どん引きです……」

 

ほんとにどうしようもない……コウタがまともになる日って来るんだろうか……

 

   *

 

切れ目への報告が済んだんだろう。神楽が寝付いてからしばらく経った頃、アリサとコウタが病室に来た。

 

「おーっす……って、神楽寝てんのか。」

「当たり前です。っていうかもう少し静かにしようとか考えないんですか?」

 

小声で喚きながらバカの口を押さえるアリサ。……はっきり言わせてもらえれば……てめえら帰れ、に集約できる。

 

「リーダー、大丈夫ですか?」

「怪我は浅い。疲れただけだろ。」

 

口を押さえられてじたばたしている方は放っておくことにする。

 

「それで?榊の野郎がなんか言ってたのか?」

「特に何も。分かったことがあれば是非教えてほしいとは言っていましたが。偏食傾向に興味があるみたいですけど、探ってみてくれとも言われませんでしたし。」

 

そう聞いてほっとする。何かやってくれとか言われていたとしたら神楽は休みなどしなくなるだろう。

……頑張り過ぎなんだ。こいつは。

 

「とりあえず私たちは部屋に戻りますね。あ、何か飲み物とか買ってきますか?」

「もう買ってある。お前らもさっさと休め。」

 

コウタがアリサの手を外した。

 

「同じことお前にも言っとグフア!」

 

……アリサ、鳩尾はやめておけ。神機使いがやるとしゃれにならねえぞ。

 

「それじゃあ、失礼しました。」

「ああ。悪かったな。」

 

悶絶しているコウタを引きずって出ていく。……気を使わせたか。

 

「……」

 

あのアラガミの話題になったからか、ふと思い出す。

以前戦った黒いヴァジュラと新型のあのアラガミ……思い返せる範囲内であれば気配が完全に同じだった。おそらくは神楽も気付いているだろう。

 

「今はいいか。」

 

神楽の頭を撫でる。いい夢でも見ているのか、少し笑って気持ちよさそうに寝息を立てている彼女。

 

「ったく……無理はさせられねえな。」

 

彼女の怪我……まだ伝えていない大事。……起きたら伝えるか。今は寝させる方がいい。

 

   *

 

「面倒な事するわねえ……」

 

手に持った写真へ愚痴る。写っているのは私とリンドウとツバキさん。

 

「慣れないことするものじゃないって知ってるくせに。」

 

私の初任務。それは、彼が隊長になって間もない頃、初めて迎えた新人の付き添い任務だった。慣れない指導を、勝手の分からない遠距離型にしようとして。ツバキさんに先に聞いておいたことと真逆のことを言って慌てて訂正して……

でも、私をずっと助けてくれた。

 

「帰ってきたら……思いっきり愚痴ってやるから覚悟しなさいよ?」

 

写真を置く。そろそろ夕飯の準備をしないと。そう思って冷蔵庫を見る。

 

「……あ……ビールが期限切れちゃうわね。」

 

リンドウがいないとこうも減りが遅いものなのか。驚き以上に彼の飲みっぷりに感服する。

 

「たまには飲もうかしら?」

 

久しぶりにツバキさんを誘って、リンドウの愚痴でも言い合うとしよう。

 

   *

 

「へっくし!」

 

……サクヤのやつ……俺の噂でも言ってんのか?それともただの風邪か?……いや……まさか姉上が……

 

「ぶえっくし!」

 

……確定だ。二人で噂してやがる。

エイジスの外壁にへばりついて外を見ていると、意外といろいろと起こるもんだと気がつく。

 

「あーあー……そこでそっちに避けるなって。」

 

今なんかはエイジス施設外で第三部隊がコンゴウと戦闘中だ。二体同時だから少し厄介なようだが。

でもって何でこんなとこにいるかと言ったらだ……

 

「この部分か。っあー……こりゃあ完全にあのデカブツの部位だな。」

 

エイジスの外壁で爆発があったから調べとけ、なんていう指令が届いたからだ。

腕輪信号のジャミング装置をもらい、エイジスに潜入しろと言われ……しかもここでも指令が来るんかい……面倒なおっさん達だなまったく。

それにしても……そろそろ増援をよこしてほしいねえ。まともに潜入してきてくれる増援を。本部っから来る奴らは支部長が押さえるし、隠れて来ようって奴らも結局ここまで辿り着けずに見つかった。第一部隊にあのプログラムを渡してあるっつっても、あいつらもどこまでやるか分かんねえからな。最悪支部長へ受け渡されて俺も見つかってThe endか。

 

「……報告……するほど情報ねえんだよなあ……」

 

支部長に見つからないために報告は最小限にすることにしている。この程度のことが分かったくらいで報告を飛ばしていたら、即刻見つかるだろう。エイジスの回線をジャックしてっから、以上に増加させたりしたら一発で怪しまれる。

 

「さて……戻るか。」

 

また明日、明るい時間帯に来てみっか。もうちょい何か分かるかもしれない……ま、あんま期待してもどうしようもないけどなあ……

 

「ぶわっくしょい!」




ふー…一種の充足感&疲労。
いやほんとに…この十日間夜の睡眠時間を返上して編集してたもので…やっとそれが実る日が!っていう感じですね。
まあそんなこんなで、本日の投稿は終了です。
で、ですね…
話の都合上明日の投稿数がとんでもないことに(七話)なります。
そして大型投稿での投稿話数を間違えてました。十四話です。十四話。いやあ…我ながら無理するなあ。
それでは、また明日お会いしましょう。

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