GOD EATER The another story. 作:笠間葉月
パーティー
さて。
「お疲れ。」
「お疲れ、じゃないよ!」
「コウタ……うるさいです。」
「ちょっ!?」
指示通りポセイドンを引きつけていたコウタ。……西の小部屋で逃げ場なし。ゼウスと交戦していたアリサ達と合流してからそっちに行ったら、ほとんど討伐完了っていう状況。強くなってるなあ。
「まあまあ。帰ったらみんなでご飯なんだから。」
「……丸く収めようとしてない?」
「何のこと?」
「なんのことー?」
シオも真似をする。二重の攻撃でうなだれるコウタはいるけど、そろそろ回収ポイントに向かわないと。
「じゃあ帰ろうか。」
「おー。」
何にしてもだ。早く帰って晩御飯の準備をしておこう。
*
それからしばらくして。
「……よくもまあ勝手気ままにやってくれたな。」
「お?えらいか?」
「何がだ!」
ヘラヘラ笑いながらばたばたと落ち着かねえ。……ったく……
「ふむ。じゃあシオは禁忌種三匹を丸ごと食べたのか。さすがは大喰らいだね。」
「……大喰い云々の話じゃねえだろ。」
神楽はサクヤと晩飯の準備、アリサはエントランスまで報告、コウタは神機の確認で保管庫。こいつは俺の担当か。
「あまりにも自由すぎだ。」
「まあそこは彼女もアラガミだから仕方がないさ。元が人間だったとは言っても、今は捕喰本能が強いことに変わりはない。」
こっちを見ながら首を傾げるシオのその目。初めに見たときよりもずいぶんと人間らしくなったような気もするが、その奥にはしっかりとアラガミの眼差しがある。
「……そろそろ聞かせろ。」
俺がいきなり質問したのに驚く様子もなく、シオを彼女の部屋に入れてから返してきた。
「何を、なんて聞く必要はないね。シオのことだろう?特に僕がなぜその子を保護したかについてかな?」
「察しが良くて助かる。」
……まあそれについてはだいたい分かっているんだが。
「さてと……君は、特異点については知っているよね?」
「支部長のやろうが探しているやつだろ。それが何の役に立つかは知らねえが。」
特務の最終目標にも設定されている特異点の回収。何らかのアラガミのコアである事は間違いないようだが……
「簡単に言えば、終末捕喰の鍵さ。」
「……鍵だと?」
超大型のアラガミによってこの星そのものが捕喰される。それを終末捕喰と言うらしいが、実際に発生するかどうかは不明。今のところ、考え得る最大のアラガミでもエイジス島は捕喰できないとされ、終末捕喰は起こらない確率が極めて高い、というのが定説だ。
「うん。特異点とは終末捕食を引き起こすアラガミ、ノヴァのコア足りうる唯一無二の存在を指す。それがどのようなものかは、ヨハン自身も分かっていないようだけどね。」
謎めいた、或いは満足そうな笑み。いつもの如く何を考えているのかわかりゃしねえ。
「分かっているのは、その特異点を保有するアラガミが持つ偏食場波形。そして……知能がある、ということだ。」
「……それがシオだ、と?」
ついさっきシオを入れた部屋の扉を見る。
「その通り。彼女こそが、特異点さ。僕はヨハンに彼女を渡したくないから彼女を保護したんだ。彼女が特異点となったのは、あくまで偶々だろうけどね。」
どことなく自慢げな表情だ。……あといくつか聞いておくか。
「何であいつはアナグラのレーダーにかからなかった。それだけ分かってんならあいつを見つけるのは容易だったはずだろ。」
一瞬驚いたような表情を見せ、すぐに薄ら笑いに変わる。
「……ちょっとばかりレーダーの情報に細工を、ね。」
……相変わらずとんでもねえ事をしやがる……
「最後に一つ聞かせろ。……支部長の奴はシオを……」
「それ以上は言わないように。君だけじゃない。第一部隊そのものが危険にさらされるからね。」
間髪入れずに榊が止める。……この件に関してはこれ以上聞かねえ方が良いか。
*
午後六時。
「えー、それでは!遅ればせながら神楽の隊長就任パーティーを始めたいと思います!」
「私の?そのためだっけ?」
「ちょっと違ったような気もするけど……良いんじゃないかしら?実際あなたの昇格はまだ祝ってなかったんだから。ね?」
「コウタが音頭をとるのはどうかと思いますけど……」
「ちょっ!?」
屋上に置かれたテーブルには料理がたくさん。私とソーマが並んで座り、アリサとサクヤさんが私たちの前、コウタはなぜか上座へ。
「うーん……そんな隊長らしいことできてないんだけどなあ……」
自分がこれまでやってきたのって新人の時からそんなに変わってないんだけど……
「そんなことないですよ。私のことだって助けてくれましたし、いつもすごく頑張ってるじゃないですか。」
「ええ。そんなに気にすることないわ。隊長の仕事は、みんなを生きて帰らせる事よ。」
ソーマもコウタも笑って私を見ている。……なんか恥ずかしい。指で掻く自分の頬が熱くなっているのが分かるくらいだ。
「ほら、そういう話はおいといてさ。それでは皆様!コップをお持ちください!」
「だからなんでてめえが……」
「あはは!まあまあ、いいじゃんいいじゃん。コウタが司会っていうのも面白いし。」
各がコップを持つ。アリサはアイスティー、サクヤさんはウーロン茶、コウタはコーラで、私とソーマはアイスコーヒー。なんと統一性のない……ま、いっか。
「かんぱーい!」
「「「乾杯!」」」
「乾杯。」
コウタに続いてコップを掲げる。さて、パーティーだパーティーだ。
メインはビーフストロガノフとご飯。そこにいろいろなサイドメニューを作っていった。……食べきれるかな?ちょっと作りすぎちゃった気もするんだよね……
なんてちょっと気にしつつソーマの方を見る。どうやらエビチリを食べているようだ。
「うまいな……なんて言うんだ?」
自分のお皿を指さして質問。私が見たのに気が付いたのだろう。
「エビチリって言うの。サクヤさんと一緒に作ったんだ。おいしいソース教えてもらっちゃった。」
「たまたま考えてみたことがあったのよ。……なんか納得いかなかったことがあったから。」
「なるほどな。」
そんな短い会話をしている間も彼は他の料理を少しずつ食べていく。ちなみにコウタは相変わらずうめえうめえとか言いながらがっつき、アリサは……
「何でこんな風においしく作れるんだろう……」
……触らないでおこう。
「……うまいのは良いんだが……」
「え?」
「……こっちが足らねえ。」
ソーマが私に見せたのはすでに空になったご飯用のお皿。
「あ、おかわりよそってくるね。」
「頼む。」
苦笑する彼からお皿を受け取って別のテーブルに置かれた炊飯器へと向かう。今更ながら夜風が気持ちいい。少し雲がある空には、きれいな月も浮かんでいる。
「……ふふ。」
やっぱり、好きな人においしく食べてもらえるのって嬉しいな。
*
その日の夜。片付けも済んでみんな自室へと入った頃。
「……ディアウス・ピターによる被害、ですか。」
私はツバキさんからエントランスに呼び出されていた。ここにいるのは私とツバキさんの他はヒバリさんのみだ。
「第三ハイヴの隔壁、及び内部施設が破壊されてしまったんです。避難は間に合ったので民間人への被害は全くありませんでしたが……」
「さすがに悠長に構えてはいられない、と。」
「そういうことだ。」
確かにこれまではこの地域でピターによる被害は報告されてこなかったわけだし、一大事であると言えるだろう。
「近日中に第一部隊に目標の討伐に出てもらう。現在目標は第三ハイヴ付近にいるが、やつはある地点に留まることが少ないため、ヘリで広範囲を移動する可能性があると思われる。」
厳しい表情。討伐のチャンスを窺っているのもそろそろ限界、と言うことなのだろう。
「目標への対処方法等、全てが不明。お前とソーマの戦闘報告以外の情報も無きに等しい。……準備を怠るな。」
「了解。あ、みんなへの通達は私が?」
「あいつらには明日の朝伝える。まだ第三ハイヴからの詳しい情報が届いていないからな。はっきりと状況が分かってからの方が良いだろう。」
私の方には先行通達って感じだったんだ。
「分かりました。じゃあ明日の朝集まるようにっていうのだけ伝えておきます。」
「よろしく頼む。」
そのままツバキさんはエレベーターに入っていった。……なんか緊張する……
「実際行動パターンもないんです。ほんの一時間前に旧市街地にいたと思ったらいつの間にか平原エリアまで移動していたり、廃寺での捕食行動が目撃されたと思ったら今度は地下鉄跡でマグマの上を闊歩しているのが確認されたり……もう予測すら立てられませんよ……」
ヒバリさんも困っている。確かにあれとはいろんなところで交戦した。気候も何もお構いなしとでも言いたいかのようだ。
「ヘリでも追いつけるかどうか分かんないんだよね……むちゃくちゃ速いし、何より燃料が持つかどうか。」
「そこはこちらでも方法を検討中なんです。今のところ二機体制で動かす予定ではあるんですが、それだと他の地域の防衛が疎かになってしまいますから……」
「行き詰まってるかあ……」
これ以上考えても堂々巡りかな……
「まあ、とりあえず今日はもう寝るよ。明日忙しくなりそうだしね。」
「そうですね。それでは、お疲れさまでした。」
時間を確認。あれ、十一時過ぎてる。
「ヒバリさんもお疲れさま。また明日ね。」
……戻ってもなかなか眠れなさそうだあ……
そういえば原作では結局就任祝いやってないんですよね…隊長になってもやること変わんないし…
次回は黒トラとの…え、えっと…黒t…